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まだ名もなき怪物達 第3部ー断翼の誓ー  作者: HANA


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第15話 それでも前へ


「隊長!!」


奏の声が地下へ響く。

粉塵で視界は最悪だった。

崩落音が止まらない。


『蒼真!!』

今度は蓮の声。


無線越しなのに、空気が変わる。

蒼真は咳き込みながら顔を上げた。


背中が熱い。瓦礫落下をまともに受けた。

だけど腕の中の子供は無事だ。


「……大丈夫か」

震える子供へ声を落とす。

小さく頷く気配。

それを確認して、ようやく息を吐いた。


「隊長!」

奏が瓦礫を乗り越えて来る。

その後ろから律と雨宮も続いた。

「っ……背中!」

「いい」

蒼真は即座に切る。

「それより先に子供出す」

背中から嫌な痛みが走っていたが蒼真は気にも留めなかった。


女性作業員は既に意識が薄く、脚の圧迫も長い。

時間が無かった。


「律、子供連れて戻れ」

「でも——」

「行け」

低い蒼真の声に律が息を飲んだその時。


ゴキ……ッ


再び天井から不気味な音が鳴った。

全員の顔色が変わる。

蒼真は即座に判断する。


「雨宮、支点補強」

「了解」

「奏、瓦礫上げるぞ」

「っす!」

二人が女性を押さえ込んでいる瓦礫へ手を掛けた。


重い。

崩れかけている。

少しズレれば終わる。


「……せーの!!」

蒼真の声で、一気に持ち上げる。

ミシ……ッ

嫌な音がする。

「抜ける!!」


奏が女性を引き抜いたその瞬間。

地下全体が大きく揺れた。


「隊長ッ!!」

律の叫びが響いた。

天井が崩れてくるのを見て蒼真は反射的に女性を突き飛ばした。


轟音と共に崩れ落ちてくるコンクリート。

瓦礫が蒼真の右肩へ叩き付けられる。


「っぁ……!!」


鈍い音が地下へ響いた。

右腕から感覚が消え、激しい痛みが走った。

肩が外れた。


だが蒼真は倒れない。

『蒼真!!』

蓮の声が無線越しに飛ぶ。

蒼真は荒い呼吸を押し殺した。


「……全員」


息を吸うと肺が痛い。

それでも。


「……無事か」

その言葉に、奏が歯を食いしばった。

「隊長……っ」


こんな状態でも。

この人は。

自分じゃなく、先に仲間を確認する。


雨宮が静かに返す。

「全員生存」

その瞬間。

蒼真はようやく小さく息を吐いた。


地下はまだ、終わっていなかった。

落ち続ける粉塵が止まらず視界が白い。

呼吸をする度に喉が焼けた。


「隊長、肩——」

「あとだ」

奏の言葉を蒼真は切った。

右腕はもうまともに上がらないがまだ動ける。

「律、子供連れて先行」

「でも!」

「行け」


低く落ちた声に、律が息を飲む。

逆らえない。

それが“神代蒼真”だった。


「……了解」

律は子供を抱き上げる。

泣きじゃくっていた子供は、蒼真の服を掴んだまま離さなかった。


「大丈夫だよ」

蒼真は左手だけで子供の頭を軽く撫でる。


「ちゃんと帰れるからね」


その言葉で、子供は小さく頷いた。

律がそのまま後方へ下がっていく。

残るのは。

蒼真。

奏。

雨宮。

そして負傷した女性作業員。


ゴゴ……ッ


また地下が嫌な音を鳴らす。

雨宮が舌打ちした。

「保たねぇぞ」

「分かってる」

蒼真は崩れた通路を見る。

完全閉塞。

元のルートは死んでいた。

「別ルート探す。雨宮、マップ」

「了解」


雨宮が即座に端末を開く。

だが表示は乱れていた。

崩落で地下構造が変わっていた。


「……クソ」

その時、無線がノイズ混じりに鳴る。

『蒼真』

蓮だった。

『生体反応確認できてる』

蓮の声に全員の動きが止まった。


『お前らの位置、さらに地下側へズレてる』


それはつまり…地盤ごと落ちているという事だ。


奏の顔色が変わった。

「おい待てよ……」

『地下空洞が連鎖崩落してる可能性がある』

蓮の声は冷静だった。

だが、その冷静さが逆に怖かった。


『蒼真』


無線の向こうで呼吸音だけが聞こえた。


『今ならまだ引き返せる』


蒼真は目を閉じた。


肺が痛む。

肩も終わってる。

多分、肋骨もやってる。

でも奥にはまだ熱源反応が残っている。

取り残されている人がいる。


「……無理だ」

短く返す。

『蒼真』

「見捨てられねぇ」


静かな声だった。

怒鳴りもしない。

ただ、当たり前みたいに言った。


それを聞いた瞬間、無線の向こうが沈黙する。

蓮は知っている。

こういう時の蒼真は、止まらない。

いや、止まれない。


『……生体反応、常時追う』

それだけ返ってきた。


蒼真は小さく笑う。

「頼む」

その瞬間。

地下奥から、また微かな声が聞こえた。


「……たす、けて……」

全員の視線が動く。


まだ居る。


蒼真はゆっくり立ち上がった。

右腕は力が入らない。

それでも前を見る。


「行くぞ」


第一特務遊撃隊は、再び崩れかけた地下へ踏み込んだ。



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