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まだ名もなき怪物達 第3部ー断翼の誓ー  作者: HANA


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第14話 迎えに来た


地下開発区域へ到着した時には、既に周囲は赤色灯で埋まっていた。


警察車両、消防、救急。

そして規制線の向こうには、崩れかけた地下搬入口。

重たい空気が現場には流れている。


「地下熱源、不安定です!」

「二次崩落の危険あり!」

無線が飛び交う中、蒼真は現場を見上げた。


古いコンクリート。

剥き出しの鉄骨。

地下へ続く暗闇。

嫌な現場だった。


「神代隊長」

警察特殊部隊の隊長が近付いてくる。

「地上制圧はほぼ完了しています。ただ地下側にまだ数名残っている可能性が——」

その時、地面が小さく揺れた。


低い軋み音。

地下からだった。

周囲の空気が一瞬で張る。


「……急ぐぞ」

蒼真が短く落とす。

「白石、医療班とのライン維持」

「了解」

「雨宮、先行」

「了解」

「奏、律、後ろ見失うな」

「はい!」

「了解です!」

第一特務遊撃隊が地下へ突入する。


崩れかけた通路をライトが照らした。

粉塵。

熱気。

コンクリートの匂い。

そして——血の臭い。


「……っ」

奥で誰かが呻いた声が聞こえ、蒼真が即座に走る。

瓦礫の隙間に作業服姿の男性が脚を挟まれていた。

「た、助け——」

「大丈夫です」

蒼真は即座に膝をつく。


「黎明の第一特務遊撃隊です」

「全員、帰します」

短いその言葉だけで、男性の表情が少し崩れた。

「奏、支点」

「はいっ!」

「律、止血補助」

「了解!」

連携は早く、迷いが無い。

瓦礫が持ち上がり男性を引き抜いた瞬間。


再び地下が軋んだ。

ゴゴ……ッ


律が即座に顔を上げた。

「隊長、上が——」

その瞬間、天井の一部が崩落した。

「伏せろ!!」


轟音。

粉塵。

視界が白く潰れる。


蒼真は反射的に作業員を庇い、そのまま地面へ叩き付けられた。

数秒、いや、十数秒だったのかもしれない。

耳鳴りだけが響く。

「……っ」

咳き込みながら蒼真は身体を起こした。


「全員無事か!!」

「っ……俺は大丈夫!」

「こちらも!」

「作業員無事です!」

声を確認し、蒼真は短く息を吐く。


だが崩れた通路が、後方を完全に塞いでいた。

奏が顔を引き攣らせる。


「……マジかよ」

律が静かに呟く。

「退路、潰れました」

地下通路に、不気味な沈黙が落ちた。


「隊長」

律の声が少し低くなる。

「通信、生きてます」

「繋げ」

蒼真は崩落した通路へ視線を向けたまま返した。

律がすぐに無線を開く。

『こちら第一! 地下通路一部崩落!』

砂嵐混じりのノイズの、その向こうから蓮の声が返ってくる。

『……状況は』

「退路が一つ潰れた」

『負傷は』

蒼真は周囲を見る。

奏、律、雨宮。

そして救助した作業員、全員動ける。


「今んとこ無し」

『……そうか』

短い返答だったが蓮の声は僅かに硬かった。

蒼真は崩れた通路へ近付き、ライトで奥を照らす。


完全閉塞。

しかもまだ天井が軋んでいる。


「白石」

『聞こえてる』

「このまま地下継続する」

その瞬間。

無線の向こうが静かになった。

数秒遅れて、蓮が低く返す。


『……本気か』

「まだ取り残されてる」

『二次崩落来るぞ』

「分かってる」

奏が思わず蒼真を見る。

だが蒼真の視線は一切揺れない。


『蒼真』

蓮の声だけが少し変わった。


『お前が残る必要は無い』


その言葉で、空気が止まった。

律も奏も何も言えない。

本来なら隊長である蒼真は後方指揮へ回るべきだった。

蓮が復帰した今なら尚更。


「……蓮」

蒼真は静かに返す。

「お前まだ完全じゃねぇだろ」

今度は無線の向こうが沈黙した。


骨盤骨折からの長期リハビリ。

復帰してまだ間もない事を誰より蒼真が知っている。


「地下は俺が行く」

「お前は上で全体見ろ」


短いその言葉は命令だった。

蓮は何も返さない。

代わりに、別の声が割り込む。


『神代隊長』

警察側だ。

『地下熱源反応、さらに不安定化しており、長時間滞在は危険です』


蒼真は小さく舌打ちした。

時間が無い。

その時。

奥の暗闇から微かな声が聞こえた。


「……たす、け……」

全員の視線が動く。


まだ居る。


蒼真は即座に立ち上がった。

「行くぞ」

「奏、律、雨宮」

「絶対離れんな」

「「了解!!」」

第一特務遊撃隊は再び暗闇へ踏み込んだ。

その背中を、蓮は無線越しに黙って聞いていた。


地下通路の奥は、崩落の影響で完全に空気が変わっていた。

熱い。

粉塵で息が詰まる。

天井は今にも落ちそうに軋み続けている。


「……クソ環境」

奏が顔をしかめた。

「文句言う暇あるなら前見ろ」

蒼真はライトを向けながら進む。


その時。

「……っ!!」

瓦礫の奥から子供の泣き声が響いた。

全員の動きが止まる。

「子供……!」

律が即座に駆け出そうとする。

「待て」

蒼真が腕を掴んだ次の瞬間。

ゴキ……ッ

天井が嫌な音を立てた。

「上見るな」

蒼真は周囲を確認する。


崩落寸前、下手に動けば終わる。

だがら泣き声は止まらない。


「……隊長」

奏の声が低い。

蒼真は短く息を吐いた。

「雨宮」

「了解」

雨宮が即座に索敵へ動く。

その間、蒼真は周囲の瓦礫を確認していた。


荷重。

支点。

崩れ方。

全部頭に叩き込む。


数秒後、雨宮が戻る。

「奥に子供二人と作業員一名」

「作業員の脚が完全に挟まってる」

「通路幅、ギリ一人分」


最悪の状況だった。

しかし蒼真は迷わず、即座に決めた。


「俺が行く」

「隊長!」

律が反射的に声を上げたが蒼真は既に装備を外していた。

邪魔になる物を減らす。


「奏、ロープ固定」

「律、崩落監視」

「雨宮、後方警戒」

「白石へ搬送準備回せ」

「了解!」

動きに迷いは無かった。


蒼真は狭い瓦礫の隙間へ身体を滑り込ませた。

コンクリート片が肩を擦る、呼吸すら苦しい狭い空間。

その奥に泣いている小さな子供が見えた。

「……っ」

恐怖で震えている子供は蒼真を見つめていた。

蒼真は子供の前でゆっくり膝をつく。


「大丈夫だよ」

低く、静かな声。

「迎えに来た」

その瞬間、子供が泣きながら蒼真へしがみついた。

「ママが……っ」

視線を奥へ向ける。

そこには作業員の女性が居た。

脚を瓦礫に潰され、動けない。

それでも子供達を庇うように抱いていた。


「……遅くなりました」

蒼真は静かにそう言うと女性は涙を浮かべながら笑う。

「たす……かった……」

その時だった。

地下全体が、大きく揺れた。

轟音と共に天井の一部が崩れ落ちる。


「隊長!!」

無線越しに奏の叫びが飛ぶ。

蒼真は即座に子供を抱き込み、女性へ覆い被さった。


落下したコンクリート片が背中へ直撃する。


鈍い衝撃で息が止まる。


だが蒼真は歯を食いしばった。


「っ……まだ、だ……!」


その目はまだ死んでいなかった。



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