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浅草3

「む、あれはなんだ?」

 二人の目の前にすき焼き用の鍋と座布団が現れた。

 座布団の上には、一人の老人が座っている。

 座布団に座り、老人はすき焼きを楽しんでいる様子だ。

 しかし、ここは道の、ど真ん中。 

 こんな場所ですき焼きを楽しんで居て良いものだろうか?

「うおっ。日本では道の、ど真ん中ですき焼きをするのか?」

「いやいや、日本に、そんな風習ないですよ」

 美穂は否定するが老人は明らかに道の、ど真ん中ですき焼きを楽しんでいる。

 気になったルーカスは、老人に声をかける事にした。

「済まない。ご老人。こんな道の、ど真ん中ですき焼きを楽しんで良いのか?」

「ああん。なんだ、お前さんは?」

「私はルーカスという。観光客だ」

「観光客か。儂はなルーカス。すき焼きを楽しみたいんじゃよ」

「いや、店の中で楽しむという手があるぞ」

「ルーカス、儂は道の、ど真ん中ですき焼きを楽しみたい。只、それだけなんじゃよ」

「いや、それだと周りの人達に迷惑がかかるぞ……」

「ルーカス、例え周りの人達に迷惑が、かかろうと男には筋を通さなきゃ行けない時がある。そうではないか?」

「いや、すき焼きを、道のど真ん中でするのに、筋を通すも通さないもあるのか?」

「ルーカス、お前さんも男なら分かるじゃろ。男には譲れないものがあるのさ」

「何? そんなに大事な事なのか? すき焼きを道のど真ん中で食べる事が?」

「ルーカス、お前さんには、ちと早い。年を取ったら分かるさ。道の、ど真ん中ですき焼きを食う。これに勝る人生の贅沢はないぜ」

「そ、そんなに美味いのか?」

「なぁに、お前さんも食えば、分かるさ。一口食ってみろ」

 最早、それっぽい御託を並べているだけの気もするが。  

 これだけ色々言われると味が気になってくる。

「うむ。一口食べてみるか……」

「えぇ!? 食べるんですか?」

「あぁ、一口食べれば、何故、この老人が、ここまで道のど真ん中ですき焼きを食べているのか分かるかも知れない」

 ルーカスは箸を借り、すき焼きを一口自分の口へと運んでみる。

「む、美味い!」

 すき焼きは美味かった。

 甘辛い割り下が舌に先ず広がり、その後で牛肉の濃厚な脂のコクと旨味が後を追いかけてくる。

 こんなに美味いすき焼きは食べた事がない。

 ルーカスは、そう思った。

「美味い。美味いぞ。老人!」

「そうだ。そうだろう」

 老人は納得の表情を浮かべながら頷いている。

 なるほど、これは道のど真ん中ですき焼きを食べるのも頷け……。

「こら!そこの老人と観光客!道の、ど真ん中ですき焼きを食べるのは辞めなさい!」

 その後で見回りをしている警察官に滅法怒られた。

 やっぱり道の、ど真ん中ですき焼きを食べては駄目だ。


「ううう。怒られた。やっぱり道の、ど真ん中ですき焼きを食べるのは駄目だな」

「えぇ、それはそうだと思います……」

 警察官の、お叱りを何とか受け切ったルーカスは彼女と一緒に再び伝法院通りを歩いていた。

「む、あれはなんだ?」

 二人の目の前に長机が現れる。

 長机の上には酢飯の入った寿司桶。そして色々な海鮮の具材が乗っていた。

「また、道のど真ん中に、こんな長机が置いてあるぞ。美穂」

「なんなんでしょうね?」

 今度ばかりは食べたりしないぞ。また怒られたくないし。

「へい、らっしゃい!なんにしやしょう?」

 そこに割烹着を着た三十代らしき男が現れた。

「いや、なんで、こんな道の、ど真ん中に食材と酢飯が置いてあるのだ?」

 ルーカスは割烹着を着た男に尋ねる。

「実は、自分路上寿司屋やってます」

「路上寿司屋?」

「えぇ、路上アーティストや似顔絵師なんてのがいるでしょう。だから自分も路上で寿司屋始めたんです!」

「いやいや。店でやれよ。寿司屋なんて」

「お客さん。分かってないな〜。自分子どもの頃から路上で寿司屋やるのが夢だったんですよ」

「なんで路上? 雨とか降ったら大変だぞ?」

「えぇ、そのハンデはありますが自分はどんな場所でも寿司屋を開けるんです」

「どんな場所でも……」

「公園だろうと、家の近所だろうと、自分が今日、寿司屋を開くと決めた場所が寿司屋になる。こんなに楽しい事はありやせんぜ。お客さん」

「いや、それ衛生面的に大丈夫なのか?」

「自分は、そこんところ気を使ってます。お陰で食中毒者はゼロです!」

「なるほど……」

「お客さん。うちの寿司、是非食べて見て下さい!」

 寿司職人はマグロの寿司を握り、ルーカスの前に出す。

「うちの一番人気。中トロです! この一貫はタダなんで是非食べて下さい!」

「何? タダなのか?」

「ここで出会ったのも何かの縁。食べてみて下さい!」

「なるほど、タダなのか……」

「え? 食べるんですか?」

「まぁ、タダなら食べても良いだろう」

 正直言って日本の寿司には少し興味のあったルーカス。

 こんな機会は滅多に無いだろうと寿司を手に取り口へと運んだ。

「むっ、美味い!」 

 日本の寿司を初めて食べたルーカス。

 中トロは脂が舌で蕩け、口一杯に旨味が広がった。

「美味い。美味いぞ。この寿司! やはり日本の寿司は最高だ!」

「有り難うございます! 自分褒めてもらって嬉しいです!」

 寿司を食べてワイワイ盛り上がる寿司職人とルーカス。

「こらー、そこの寿司職人と観光客。何やってるの! 駄目でしょ。こんな所で寿司食べちゃ!」

 そして、また警察官に、こっぴどく怒られた。


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