空港
銃声が聞こえた。
拳銃から不快な煙が舞っている。
しかしルーカスは清隆を撃った訳ではない。
拳銃の弾は、彼を反れ、床に命中していた。
「はっ、はっ、はっ」
清隆は驚いている様子だ。
「君のような人間を撃つ真似はしない。だが覚悟はしておけ。人の事を撃とうとする人間は必ず撃たれる」
ルーカスは拳銃を、しまいながら言った。
「……」
清隆は黙っている。もう何も言う事も無いのだろう。
さて、それよりも大事なのは美穂の身体だ。 心身共に無事だろうか?
「美穂」
ルーカスは美穂に、駆け寄ろうとした、その時。
「誘拐犯、確保! 王子、ご無事ですか?」
外の扉から、大量の警察が体育館に入って来た。
ルーカスは戸惑い足を止める。
「ビッシュ、これは、どういう事だ?」
警察の背後にいたビッシュが答える。
「王子、儂らは王子の無事が最優先。これは、仕方の無い事なのですぞ」
警察は直ぐ様、清隆達を逮捕。そのままパトカーに連れて行く。
「美穂!」
「ルーカスさん!」
警察は美穂の安全を確保。そのまま強引にパトカーに連れて行こうとする。
「王子、我慢してくだされ。これも王子の安全を確保する為でございます」
警察はルーカスを連れて行こうとした。
「頼む。美穂と話をさせてくれ!」
ルーカスの願いは却下され、そのまま強引に車に押し込められてしまった。
ルーカスと美穂、二人は、別れてしまった。
それから一週間。ルーカスが美穂と再会する事は無かった。
ルーカスは二日間、空いた仕事を無理矢理やらされ逃げる術は無い。
安全は確保されてはいるが、どこか窮屈。
そんな一週間を迎えた。
そして帰国の日が、やって来た。
「王子、空港には完璧な警備をしきました。ネズミ一匹、王子の手に触れる事さえ許されない。だから安心ですぞ!」
ホテルの部屋にてビッシュはルーカスに言う。
一方のルーカスはベッドに座ったまま、それを黙って聞いているだけだった。
「いや〜、ようやく、メルベールに帰れますな。こんな国、とっとと去るに限りますぞ」
「……」
「いや〜、本当に良かった。王子が、ご無事に帰国出来そうで何よりです」
「……」
ルーカスはベッドに座ったまま黙っている。
流石に気になったのだろうか。
ビッシュは優しく声をかけた。
「王子、そんなに、あの娘の事が気がかりなのですか?」
美穂は大切な女性だ。迷っていた自分を助け、色々な手助けをしてくれた。
それなのに、このまま帰っても良いのだろうか?
「ビッシュ、ほんの少しで良いから美穂と会う時間をくれないか?」
「それはなりません。王子。あの娘には二度と会ってはなりません」
ビッシュは冷たく告げる。
しかし美穂に会いたい。それがルーカスの本心であった。
「ほんの少しで良いんだ。会って話しをさせてくれ」
「なりません」
ビッシュは、かたくなだ。
そうこうしている間に出立の時間になってしまった。
「む、王子、出立の時間ですぞ」
流石に帰らないという訳には行かない。
ルーカスは車に乗り、空港へと向かう。
羽田空港第三ターミナル。一般車乗降場にルーカスは降り立つ。
ここからメルベールの搭乗口まで行って、そのまま飛行機に乗り、ルーカスは帰国する。
空港には、ルーカスを一目見たいと沢山の日本人で溢れていた。
しかし警備は万全。決してルーカスには触れないようロープをしき、何百人もの警備員がルーカスを守っていた。
これでは幾らルーカスでも抜け出す事は不可能だった。
「きゃー、ルーカス王子ー!」
「こっち向いて〜!」
ちょっとしたスターのような扱いを受けているルーカス王子。
彼は軽い会釈をして車から降りる。
そのまま搭乗口に向かって真っ直ぐ歩いていた。
このまま自分はメルベールに帰国をするのだろうか?
日本という国は良い国だったと思う。
食べ物は美味しかったし、漫画は面白かったし、楽しかった。
しかし、日本に来る前、父上が言っていた事も事実。
日本には多種多様な人が居て、メルベール人の事を嫌っている人達もいた。
メルベール人が居るから日本が悪くなるという言いがかりをつける人達も居る。
ルーカスには国境を無くすという夢があった。
しかし、その夢、本当に叶える事が出来るのだろうか?
国境をなくそうにも日本の人達は、それを心の底から拒否するだろう。
治安が悪くなるとか、色々な理由をつけて、外国人を嫌ってしまうだろう。
しかし、生まれた国で、その人間の人生が決まってしまうのは、とても残酷な事ではないだろうか?
どんな人間にだって幸せになろうとする事くらいは許されるはずだ。
だが、国境があっては、生まれた国で、その人間の人生が決まってしまう。貧乏な国に生まれれば、一生貧乏なままだ。
私は、その格差を少しでも無くしたい。
例え、どんな場所に生まれたとしても、人間は生きる事が出来る。どんな場所にも行く事が出来る。
そんな世界になったら、どんなに良いだろうか。
しかし、日本人は自分達の事しか考えていない。
本当に、こんな状態で上手くやっていけるのだろうか。
ピタッ。
メルベールへの搭乗口の少し前でルーカスは歩みを止めた。
「どうされましたか? 王子」
この搭乗口をくぐれば、もう飛行機に乗るしかない。
でも、このまま、モヤモヤを抱えたまま帰国する訳には行かない。
美穂に、もう一度会いたい。自分の夢を唯一肯定してくれた美穂に会えば、何か答えが出る気がする。
「王子、早く搭乗口を通って下さい」
警備員の一人がルーカスに早く搭乗口を通るよう促す。
だが、まだ、ここを通る訳にはいかない。
「済まない」
ルーカスは振り返り、そして歩き出す。
「王子、どうされました?」
直ぐに複数人の警備員が彼を囲んだ。
「直ぐに帰る。だから、そこを退いてくれないか?」
このままメルベールに帰る訳には行かないんだ。
「王子、駄目です! 搭乗口を、お通り下さい」
ひいてあるロープを出ようとするルーカスを警備員が止める。
「頼む。美穂に会わせてくれ!」
ルーカスは叫ぶが、警備員達は彼がロープを出ないように阻むばかり。
やはり誰も助けてはくれないのか。
ルーカスが諦めかけた、その時だった。




