救出
「ここが美穂がいる校舎か」
ルーカスとビッシュ達。三人は、廃校になった校舎へと、たどり着いていた。
あの誘拐犯曰く、この場所に、さらった美穂が居るらしい。
早く助け出さないと。
「それでは、王子手はずどおりに」
「あぁ、分かっている」
ルーカスは歩いて校舎近くにある体育館へと歩を進める。
そして扉の前に立った。
「トーマス準備は良いか?」
ルーカスはトーマスにスマホでラインを、うち確認。
トーマスから「大丈夫です」と返事が来た。
「では、開けるぞ」
ルーカスは体育館の扉を開ける。
視線の先に、美穂をさらった誘拐犯たちと美穂がいた。
「ルーカスさん!」
美穂が叫ぶ。
「美穂、大丈夫だ。今、助ける」
ルーカスは美穂に言う。
「おいおい。俺らを無視するなよ。小僧が」
清隆がルーカスに叫ぶ。耳障りな大声、実に不快だ。
「約束通り、私は一人で来たぞ。どうしたら美穂を解放してくれる?」
「先ずは、こっちに来い。話しは、それからだ」
清隆に言われた通り、ルーカスは歩を進め彼の前に立つ。
「で? どうする?」
「やっと、この時が来た。ルーカス王子、お前を殺す!」
清隆は拳銃を取り出し銃口をルーカス王子の目の前に突きつけた。
このまま引き金を引けば、ルーカスは殺されてしまう。
「ルーカスさん。逃げて!」
「美穂、心配するな。私は大丈夫だ」
銃口を目の前にしてもルーカスは冷静沈着。
その事が、かんに触ったのだろうか。
清隆がルーカスに問いかける。
「なんだ? お前。拳銃を目の前にして強がりか?」
「いや。銃口は怖いぞ」
それはルーカスの本心であった。
「ちっ、だったら、もっと怖がれよ!」
清隆の不快な大声が耳に響く。
「それより美穂を解放して欲しい」
ルーカスは淡々と告げた。
「ちっ、分かったよ。今、終わりにしてやる」
清隆は銃口をルーカスに向けたまま、引き金を引こうとする。
このままではルーカスは、殺されてしまう。その時。
「ぐわー」
美穂の事を見張っていた清隆の仲間が倒れる。
「な、なんだ? どうした?」
清隆は計画に無い事が起きた事で動揺しているようだ。
「ぐわーっ」
更に、もう一人の仲間が倒れた。
「な、なんだ? 何が起きている?」
音も無い、謎の存在に次々とやられていく仲間。
清隆は周りを見渡すが、人の姿は見えなかった。
「くそっ。死ね!」
清隆は銃口を再び、ルーカスに向け引き金を引こうとする。しかし次の瞬間。
「ぎゃあーー!」
清隆は突如として現れたトーマスに取り押さえられてしまった。
トーマスは体育館の別の扉から侵入。そして音もなく、清隆と、その仲間を一瞬で倒したのだった。
「王子、怪我はないですか?」
「あぁ、大丈夫だ。有り難う。トーマス」
トーマスに取り押さえられた清隆は、なんとか抜け出そうと、もがき苦しんでいる。
しかし、トーマスの取り押さえは厳しく、床に押さえつけられたまま、動けないでいた。
「クソッ、クソガッ! お前らメルベール人なんて死んで当然なんだ!」
取り押さえつけられたまま尚も清隆は暴言を吐いている。
何故、この男は、メルベール人を、こんなに憎んでいるのか?
「君に一つ聞きたい事がある」
ルーカスは清隆に問いかけた。
「何故、そこまでメルベール人を憎んでいる?」
ルーカスの当然の問いかけ。清隆は吐き捨てるように答えた。
「はっ!当然だろ。お前らメルベール人が来てから、俺は仕事をクビになった。治安も悪化する一方だ。物価だって高い、全部、お前らのせいだ。メルベール人!」
全て、メルベール人のせいでは無い。
この男は自分の不幸と人生が上手くいかない事をメルベール人のせいにして正気を保っている。
ルーカスには、そう見えた。
「全てメルベール人には関係無い事だ。日本の事は日本政府に、不満をぶつけたら、どうだ?」
「日本政府は関係ねー! お前らメルベール人が全て悪いんだ。お前らが居なくなれば、日本は元に戻るんだ! そうに決まっている」
この男は、元に戻るというのが、どういう意味かも分かっていなさそうだ。
少子高齢化が進む日本で外国人の労働者を受けなければ、日本は崩壊する。
そんな簡単な理屈も理解していない。
「クソメルベール人、とっとと死ね!」
こんな最低な男に美穂は誘拐された。
それだけでは無い日本人の外国人の扱いは酷かった。
駅前で平気でヘイトスピーチを垂れ流し、弱者いじめをし、犯罪まで犯している。
こんな日本人と、どうやって仲良くなれば良い?
「離せ! 俺はメルベール人を皆殺しにするんだ。退け!」
清隆の不快な声が耳に響く。
こいつを黙らせる方法は無いだろうか。
ルーカスの中に黒い感情が過った。
「クソッ、メルベール人、皆……」
「黙れ……」
ルーカスは冷たい口調で告げる。
「あぁん?」
「さっきから黙って聞いていれば好き勝手言いやがって、君達は、日本人以外を何だと思っているんだ?」
「は?」
「私達、メルベール人は、少しでも日本と友好関係を結ぼうと努力して来た。しかし君達は、そんな努力をせずに、自分達が優遇されて当たり前だと思っている」
「それの何が悪い?」
「何故、日本だけが優遇されるのだ? 日本人は、そんなに偉いのか?」
「は? お前達が、この国を悪くしたんだろ。恨まれて当然……」
カチャ。
ルーカスは銃口を清隆に向けた。
「黙れと言ってるだろ」
そして引き金に手をかける。
「本当にメルベール人を殺すつもりなら、こちらだって黙ってやられる訳には行かない。その意味、分からない訳ではないな?」
殺す事が出来るのは、殺される覚悟がある奴だけ。
差別するというのなら、差別される覚悟はあるのか?
「おいおい。本当に俺の事を殺すつもりか? 俺は日本人だぞ。メルベール人が殺したとなったら日本人が黙ってねーぞ!」
この男は理解していないみたいだ。
まだ自分が正義だと思っている。
その事がルーカスの怒りを更に増加させた。
「そうか。私には覚悟くらいあるぞ」
ルーカスは引き金を引こうとする。
「ルーカスさん、駄目!」
そして引き金を引いた。




