攫われた彼女
トーマスが運転する車の中で。
ルーカスはビッシュ達に、美穂と今まで何があったのかを全て話した。
浅草、上野、秋葉原、原宿、全て起きた事を話し、それを聞いたビッシュ。
「なるほど、そんな事があったんですね。王子」
「あぁ、美穂は私にとって大切な女性だ。必ず助ける」
ルーカスは決意していた。美穂に何かあれば耐えられない。
何があっても必ず彼女を助ける。
「王子、やはり美穂という女性を、さらったのは王子を殺そうとしている男達の可能性があります」
ビッシュは言う。
確かに朝、殺し屋が来たように、今回も自分を殺そうとしている男の犯行の可能性は高い。
「恐らく、その美穂という女性を囮にして、王子を、おびき出して、殺すつもりでしょう」
「うむ。そうだろうな。でも私に美穂を助けないという道はない。頼む協力して欲しい」
ルーカスはビッシュに頼み込む。
ここで美穂を見捨てるわけには行かない。
なんとしてもビッシュ達の協力を勝ち取らないと。
「……分かりました。王子はこうなってしまったら、何を言っても聞きませんからね」
「本当か! 有り難うビッシュ」
「ただし、条件がございます」
「む? なんだ?」
「どのように助けるかは、最終決定は、こちらで行います。あくまで王子の安全が最優先。理解して頂けますね」
それは、ルーカスの独断では何も決められないという意味。
しかし、これを断ればビッシュ達の協力を勝ち取るのは不可能。
ここは言う事を聞くしかないか。
「……分かった。言う事には従う。だが美穂を助けてくれ」
「それは理解しています。では、こちらをお持ち下さい」
そう言ってビッシュが取り出したのは、一丁の拳銃だった。
「む、これは拳銃ではないか」
「許可は取ってあります。これは護身用の為でもあります。お持ち下さい。王子」
ビッシュはルーカスに拳銃を渡した。
「その拳銃、王子が撃っても罪にはなりません。好きなようにお使い下さい」
「……」
廃校になった校舎の体育館。
そこに侵入する術を高橋清隆〈たかはし・きよたか〉は知っていた。
六月とあって体育館の中は少々蒸し暑いが耐えられない程ではない。
その体育館には清隆と、二人の仲間。
そして彼らがさらった美穂がパイプ椅子に縄で縛られていた。
「ははは! これで大金持ちだぜ。もう働かなくて良いんだ!」
仲間の一人が下品な声を上げている。
その声は苛立っている清隆の怒りを更にヒートア
ップさせた。
「うるさいぞ。譲二。まだ、ルーカス王子を殺してはいない。気を緩めるな」
「でもよ。清隆。本当に良いのか? 誘拐は重罪だぞ」
もう一人の仲間が清隆に言う。全く、この男も自分をイライラさせると、清隆は思う。
「うるさいぞ。真司! だったら他に手はあったのかよ!」
全く、どいつもこいつも日和るか能天気かのどちらかだ。
丁度良い奴は居ないのか。
「怒るなよ。清隆」
「イライラさせてるのは、どいつだ。たくっ」
誘拐された美穂は黙っている。恐らく恐怖で何も言えないのだろう。
早く、こんな仕事、終えてしまいたい。
しかし、清隆には、この仕事を絶対にやり遂げたい理由があった。
彼はメルベール人に深い憎しみを抱いている。
それが彼の、この仕事の原動力になっていた。
「もう直ぐ時間だぞ! まだ来ねーのか!」
清隆の苛立ちも頂点に達しようとしていた。 しかしルーカスは、まだ来ない。
「落ち着け。清隆、この場所は、ちゃんと言ったんだ。もう直ぐ来る」
本当にルーカスは来るのか。
清隆は、それが気がかりで、しょうがなかった。




