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原宿へ行こう2

その店は竹下通りの店の中でも周りの店より古く、行列もない。

 一体、何の店なのだろう?


「いらっしゃい」

 店の中から割烹着を着た、お爺さんが姿を現した。

「済まない。ここは何の店なのだ?」

「うちかい? うちは茶わん蒸し専門店だよ」


「茶わん蒸し専門店? 原宿のど真ん中でか?」

「あぁ、そうだとも。お客さん。一つ食べて行かないかい?」

 若者の町。原宿のど真ん中で茶わん蒸し専門店とは珍しいにも程がある。

 ルーカスと美穂は、茶わん蒸しを一つ食べてみる事にした。


「へい。お待ち」

 出された茶わん蒸しをルーカスは口へと運ぶ。

「む、美味い!」

 茶わん蒸しは口へ運んだ瞬間、卵のまろやかさと昆布だしの風味が口一杯に広がった。  

 こんな美味い茶わん蒸しは食べた事がないぞとルーカスは思う。


「美味い。美味いぞ。この茶わん蒸し!」

「本当。美味しい!」

 流石は原宿のど真ん中で茶わん蒸し専門店で勝負しているだけの事はある。

 確かな旨味がそこにはあった。


「有り難うね。そう言ってくれるのは、お客さんだけだよ」

「む? この茶わん蒸し、売れてないのか?」

「やはり若者への受けが悪くね。中々茶わん蒸しだけでは食っていけないんだよ」

 お爺さんは、残念そうに、そう呟いた。


「む〜、折角美味しにのにもったいないな」

「ですね」

「仕方ないんだ。でも儂は、ここで頑張って行くよ」  

 残念そうに喋っているお爺さんを見ていると、どうにかしてあげたくもなるがルーカスにお店をどうこうする才能はない。 

 ここは行くしかないだろう。


 ルーカスと美穂は店を立ち去ろうとした、その時。

「ほほほ。神田さん。店を譲る件。どうなさいましたか?」

 突然、スーツ姿の男が現れお爺さんに話しかけて来た。

 何やら雰囲気的に胡散臭い香りがする。


「あんたは、西村さんじゃないのかい」

 どうやらお爺さんとスーツ姿の男は見知った仲のようだ。

 気になったルーカスは、お爺さんに二人の仲を聞く事にした。


「お爺さん。どうしたんだ?」

「あの男は西村さんと言ってな。この店を奪おうとしているんじゃよ」

「何? そうなのか?」


「西村さん。何度、来たって同じだ。この店を譲るつもりはない」

 お爺さんはスーツ姿の男に、キッパリと告げる。

 しかしスーツ姿の男は引くつもりはないようで。


「ふふふ。まだ、こんな古臭い茶わん蒸し専門店を続けるつもりですか? とっとと私達に店を譲ったら、どうです?」

「若者にも茶わん蒸しの良さを知ってもらいたい。儂は、そういう気概でやっているんじゃ。邪魔はさせん」

 お爺さんの決意は固い。応援したくなる。


「神田さん。さっさと私達に店を譲りなさい。ここを女子高生受け抜群のスイーツ茶わん蒸し専門店にするのです!」

 え? 茶わん蒸しという方向性に変更は無いの?。


「チョコレート茶わん蒸しに、ストロベリー茶わん蒸し。女子高生受け間違い無しの抜群のラインナップ。どうです? そっちの方が良いでしょう?」

 いや、駄目だろ。絶対不味いぞ。


「西村さん。あんたは何も分かっていない。茶わん蒸しは、だしと卵だからこそ。あの旨味が出るんじゃ。そこにチョコレートなんか乗せたら旨味が台無しになる」

 凄い、正論しか言ってない。お爺さん。

「ふん。そんな古臭い価値観で女子高生達が、この店に来る事はないでしょう。現に今も店は閑古鳥が鳴いているでは無いですか」

 確かに、このスーツ姿の男が言う通り、店にはルーカス達以外客はおらず、繁盛しているとは、とても言い難い状況だ。


「くっ、それは……」

「この状況で、どうやって店を儲けさせるのです? 儲けがなければ、店は潰れるだけですよ」

 スーツ姿の男の言葉でお爺さんは黙ってしまった。

 がんばれ、お爺さん。負けるな。


「お爺さん。負けちゃだめだ。私はスイーツ茶わん蒸しより、こっちの茶わん蒸しの方が良いと思うぞ」

「私も、そう思います」


「有り難う。若いの。だが、西村さんの言葉の方が理がある。儂はどうしたら良い……」

 くそっ、どうしたら良い? どうしたらお爺んの茶わん蒸しの良さが分かってもらえる?


「話は聞かせて貰いましたよ」

 その時、どこからともなく声が聞こえて来た。

 声がした方を全員が向くと、そこには和服姿の四十代位の男が立っていた。


「あ、貴方は、茶わん蒸し原竜山!」

 え? 何?

「お爺さん。茶わん蒸し原竜山って?」

「茶わん蒸し原竜山は、茶わん蒸しばかりを食べ続ける料理評論家、その評論で店一軒の売り上げが決まると言われている人だ。何故、ここに?」

「しかも、それだけでは無い」


 スーツ姿の男が話を引き取る。

「今、茶わん蒸し原竜山は、YouTubeチャンネルが若者にバズりにバズっている料理評論家、この男が美味いといえば若者は、こぞって、その店に行くと言われている程の人だぞ」

「そうなのか? 美穂」

「すいません。私、流行りに疎くて」

 

 美穂は良く知らないようだが、茶わん蒸し原竜山という人物は若者に人気があるらしい。

 日本の若者の感性は良く分からないな。

「今、茶わん蒸し原竜山は茶わん蒸しを食べにベトナムに行っているはず。何故? 日本に?」

 ベトナムに茶わん蒸しあるのか?


「ふん。たまたま日本に帰ってきているだけだ。それより、ご主人」

「はい。なんでしょう?」

「この店の茶わん蒸し、一つ頂けないか?」

「わ、分かりました」

 

 竜山に頼まれて、お爺さんは茶わん蒸しを作り始めた。

 うん? これで竜山という人がお爺さんの茶わん蒸しを評価してくれれば、全て解決ではないか?


「やったな。美穂。これでお爺さんの店、流行るぞ」

「若者よ。私は、そんなに甘くないぞ」

「え?」

「私は、この四十年、茶わん蒸しを食べる事だけに人生を費やして来た。良い茶わん蒸しは良いというが、駄目なものは駄目だと、はっきり言う」


「な、なるほど」

「私が駄目だと言った店は、そのまま潰れる運命にある。覚悟して茶わん蒸しを出すのだな」

 どうやら、この竜山という男、一筋縄では行かないオーラを出している。 

 しかし大丈夫だ。お爺さんの茶わん蒸しなら、きっと。


「お待たせ致しました」

 茶わん蒸しを作り終えたお爺さんが、竜山に茶わん蒸しを出す。

 それを受け取り、竜山がスプーンで一口茶わん蒸しをすくった。

 この男の評価で店の行く末が決まる。

 そう思うと関係のないルーカスでも、何故か緊張してしまっていた。


「では、頂く」

 竜山は茶わん蒸しを口へと運ぶ。

 さて、どうなる?

「む、これは美味い」

「な、本当か?」

「あぁ、出汁の素晴しい香りが鼻孔を突き抜け、一口食べるとエビや鶏肉の美味みが口一杯に広がる。火加減も丁度良く、卵の旨味が凝縮されている。こんに美味い茶わん蒸しは食べた事が無い」

 竜山の評価は上々。良かった。これで客が来るぞ。


「えー、竜山さんが美味しいって言うなら食べてみようかな〜」

「私も〜」

 竜山の食レポを聞いた女子高生が早速集まって来た。

 そしてあっという間に店の前には行列が出来る。


「そ、そんな。私が貰うはずの店が……チョコレート茶わん蒸しが……」 

 残念そうに項垂れる西村。これは勝負が決まったな。  

「有り難う。竜山さん。儂は、この店で、やって行けそうじゃよ」


「いえいえ、この店の茶わん蒸しが美味しいのは事実です。それを誇って下さい」

 竜山はお爺さんにペコリと一例をする。

 そして、そのまま去って行ってしまった。

「美穂、この店は大丈夫そうだな」

「ですね」

 

 いつまでも店の前に居る訳には行かない。

 ルーカス達も店を去る事にした。

「お爺さん。茶わん蒸し専門店、頑張って下さい!」

「あぁ、有り難う。若いの〜」

 こうして、原宿の一軒の茶わん蒸し専門店は救われた。

 


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