決戦
殺し屋、鮫。彼は今、デニーズでチーズケーキを食べている。
「ふむ。そろそろ時間か」
もう五分は過ぎた。ルーカスは国境を無くすという戯言を諦めてくれるだろうか。
まぁ、諦めなければ殺すまで、そう思い彼は席を立つ。
「あ、さっきの人のお釣りって貰えたりしますか?」
「いえ、それは、ちょっと……」
残念な事に、ルーカスのお釣りは貰えないらしい。
まぁ、仕方ないと鮫は店を出る。
「さて、王子はどこだ? ミッチー」
鮫の足元に彼が飼っているハムスターのミッチーが摺り寄ってくる。
彼は何時もハムスターに自分のターゲットの追跡をやらせていた。
ハムスター、ミッチーは、こっちだよと言わんばかりに鮫を誘導する。
それに着いて行く鮫。
店の裏手にルーカスは居た。
「では、頼んだぞ。美穂!」
「分かりました」
ルーカスは美穂と別れ、一人になる。
「さて、王子、答えは決まったか?」
鮫はルーカスに問いかける。
ルーカスは無言で走り出した。
「追いかけっこか。負けはしない」
鮫はルーカスを追いかける。
ルーカスは、どんどん人が居ない方へと走って行く。
これは自分にとって好都合。鮫はそうおもった。
人の居ない方、居ない方へと走れば、ルーカスを殺すのも楽になる。
そのままだ。そのまま行け。
ルーカスはどんどん人の居ない方へと走り、とうとう、建物と建物の間の一方道へと入った。
その一本道は人が一人通れるかどうかの狭い一本道。
ルーカスと鮫以外人はいなく、周囲にも人はいない。
そこでルーカスは立ち止まった。
この道ならルーカスの事を追い詰めたも同然だ。
鮫は、そう思った。
「どうした? 追いかけっこは終わりか?」
ルーカスに鮫は問いかける。
ルーカスは、ここなら十分だろうと思った。「あぁ、ここなら、君を倒すのに十分だ」
「ふん。はったりか? 王子」
いや、そうではない。ルーカスは、そう思い臨戦態勢に入る。
「ここは日本だ。君から来てくれないか」
「ははは。面白い。やれるなら、やってみろ」
鮫はパンチを繰り出した。それを瞬時に避けるルーカス。
ルーカスの反撃の一撃。
鮫はそれを避ける。
ルーカスは続けざまに、もう一発。
鮫は、それを再び避けた。
「ははは。その程度か。王子! その程度で俺を倒せると思ったのか?」
ルーカスの素早い蹴り。鮫の頬を、その蹴りが掠めた。
「これでも私は王宮で護衛術を一通り習っている。油断はしない事だな」
「ふん。やるね〜」
ルーカスと鮫の一心一体の攻防が続く。 しかし、やはり相手はプロ。ルーカスは段々と追い詰められてしまっていた。
「どうした? 王子。もう終わりか?」
「くっ、まだだ」
ルーカスも渾身のパンチを繰り出す。しかし、それを避ける鮫。
鮫のパンチ。ルーカスはもろにくらい、地面に膝を着いた。
「かはっ」
「残念だったな、王子。これで終わりだ」
鮫は、王子の首に両手を伸ばした。そして思い切り絞めあげる。
「かっ」
息が出来ず苦しい。このままでは本当に死んでしまう。
「両手を使えば、お前を殺せる。さて、どうする? 王子」
「私を殺せば、け、警察が来るぞ」
「ははは。残念だが、王子。日本の警察は事件が起こらなければ動かないんだ。お前を殺した後で死体を始末すれば、どうにでもなるんだよ」
相手はプロの殺し屋。死体を隠す方法は熟知している。
万事休すのルーカス。
「さて、王子、最後の質問だ」
「な、なんだ?」
「国境を無くすという、愚かな夢を諦めるか? 辞めるなら助けてやっても良い」
鮫はルーカスに問いかける。
国境を無くすという夢を諦める?
それは母の大事な夢でルーカスの夢だ。
しかし、このままでは自分は死んでしまう。
周囲に人が居ない以上、助けは来ない。
このまま、この男に助けをこうか。
「勿論、答えは……」
ルーカスは鮫に答えた。
「Noだ。私は国境を無くしてみせる。それが私の願いだ」
答えはNoだ。こんな男に屈する訳には行かない。
ルーカスは自分の首を絞められながらも、そう答える。
「そうか。残念だ。王子。ならば、ここで死ね」
鮫はルーカスの首を絞める力を強くする。
このままでは自分は死ぬだろう。しかし次の瞬間。
「そこの君、何をやってんの!」
鮫の動きが止まる。そして彼は後ろを振り向いた。
ルーカスも視線を向ける。そこには警察と美穂が立っていた。
「な、何故だ? 周りに交番なんて無いはず。何故、この場所に警察が来る?」
「み、美穂に頼んでいたんだ」
「何?」
「君は私と美穂が別れたと思っただろう。だが違う。美穂は警察に襲われている人がいるから助けてくれって、頼みにいっていたのさ」
鮫は苦虫を噛み潰した表情になる。
両手が緩んだ。その隙を狙いルーカスは鮫の両手を振りほどいた。
「おまわりさん。そいつは私の事を殺そうとしました。後は頼みましたよ!」
警察に捕まると、この後の観光が出来なくなる恐れがある。
ルーカスは全力疾走で鮫から逃げた。




