約束
ふう。良かった何とか気まずい沈黙を切り抜けたぞ。
ルーカスは安堵のため息をつく。
美穂は良い奴である。
今日も一日自分のわがままに付き合ってくれた。
こんなに良い女性は私は出会った事が無い。
これは恋? なのだろうか?
「おや、本当にいらっしゃるとは」
美穂が去った後、小屋の扉が開いた。
「おわぁあああ! な、何者だ」
考え事をしていたルーカスは思わず声を張り上げる。
「始めまして、ルーカス王子、この屋敷の主人の高橋徹です」
小屋に入って来たのは、この屋敷の主人徹だった。
「む、高橋さん。この屋敷の主人か。わ、私の事を追い出しに来たのか?」
「いえいえ、こんな小屋で良ければ、存分に使って下さい。私はただ様子を見に来ただけですよ」
どうやら、この屋敷の主人、徹にはルーカスが、この小屋に住み着いている事は、すっかりバレてしまっていたらしい。
その上でOKを出してくれた。良い人だ。
「ふむ。それは済まない。この小屋に泊まらせてくれて、どうも有り難う」
「本当に小屋で大丈夫ですか? 部屋ならありますが」
「あぁ、それなら心配は無用だ。この小屋には愛着が湧いて来た所だ」
「そうですか。それなら良かった」
徹は柔和な笑顔を浮かべる。柔らかい感じの人だなとルーカスは思った。
「ルーカス王子、美穂さんと大分親しくなったみたいですね」
「む? 見ていたのか?」
「いえいえ、只、小屋から出る時に彼女が鼻歌を歌っているのを聞いただけですよ」
鼻歌を歌っていた? では、私と手を繋いだ事は、そんなに嫌では無かったのか?
ならば良かったとルーカスは安堵する。
「そうか。なら良かった」
「ルーカス王子、彼女と何かあったのです?」
「いや、何もないぞ。断じて無いなら安心してくれ」
「そうですか」
徹は小屋の中に入って来た。
「ルーカス王子、美穂さんは本当に良い娘です」
「そうだな。私も、そう思う」
「彼女がうちで働いている理由、ご存知ですか?」
「いや、そういえば聞いてはいないな」
「あの娘が中学の時、彼女は両親を病気と交通事故で亡くしました。以来、彼女の父親の友人であった私が引き取っています」
「ほう」
「彼女は私達に恩返しがしたいと言って聞かなくてね。うちのメイドとして働いてもらっているんですよ」
「学校へは行ってないのか?」
「いえいえ、彼女は、きちんと学校へ行ってますよ。学校が終わってから、偶に土日、働いてもらっているだけです」
「そうなのか」
「彼女は良く働いてくれています。本当は恩返しをしたいのは、こちらの方なんですけどね」
徹は困ったような笑みを浮かべて言った。 美穂は本当に良い娘なのだろう。
「ルーカス王子、久しぶりに私は、あんなに楽しそうな、あの娘を見ました」
徹は感慨深そうに言う。
「私にとって、あの娘は娘みたいなものです。ですからルーカス王子」
「なんだ?」
「あの娘が悲しむような真似だけはしないで下さいね」
美穂が悲しむような真似? そんな事は勿論しないししたくはない。
「うむ。当然だ」
ルーカスは、そう返した。
「ぜひぃ、はぁ、ぜひぃ、はぁ、ど、どこにいらっしゃるのですか。王子〜」
ヘトヘトになり杖で体を支えるビッシュ。
彼はトーマスと共に、一旦ホテルへと引き返していた。
「び、ビッシュさん。だ、大丈夫ですか?」
彼の事が心配で声をかける護衛達。
「儂の事は良い。そんな事より王子はどこに、おられるのじゃ!」
SNSを使い、それっぽい場所に言っても全然見つからない。
一体、ルーカスはどこに行ってしまったのだろう。
「ビッシュさん。ルーカス王子っぽい人物が秋葉原に出現したとの情報が入りました」
「なに!?本当か?」
その情報が確かなら秋葉原に今直ぐ向かわなければならない。
「待ってくだされ。王子〜、今、行きますぞー!」
「いや、ビッシュさん。今十二時ですよ。流石に居ませんって!」
「なに。儂には車がある。行くぞ。トーマス」
「御意」
ビッシュはトーマスを連れて、ホテルを出ようとした。
「ま、待って下さい。ビッシュさん。無駄足ですって」
「明日にしましょう。明日に」
それを必死に止めようとする護衛達。
「待って下され。王子〜、今、行きますぞー!」
それでも反抗し秋葉原に向かおうとするビッシュ。
「ビ、ビッシュさんを、一旦、取り押さえろ。この人、倒れてしまう!」
護衛達は総動員でビッシュを取り押さえた。
「な、何をする。儂には王子を見つけるという使命が〜」
こうして夜は更けていったのであった。




