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秋葉原へ行こう5

ソフマップ八階、アミューズメント館。そこでは、つまようじ一本で異世界無双の作者、西村健吾によるサイン会兼握手会が開かれていた。

「あの、つまようじでドラゴンを倒すシーン、感動しました」

「ありがとう」

「あの、つまようじでゾンビを倒すシーン、感動しました」

「ありがとう」

 西村はサイン会に来た様々なファンと握手を交わしながら、漫画にサインを書いていた。


「全く、どいつもこいつも、分かっていないな」

 ファンが帰った後、何故か不満気な様子の西村。

 気になった書店員が彼に声をかける。

「どうしたんですか? 西村さん」

「いや、どいつもこいつも、つまようじで敵を倒すシーンしか語ってくれない。本当に私の漫画を読んでくれているのか?」

「いや、良いんじゃないですか? 何が不満なんです?」

「あの作品には、もっと深いテーマが含まれているんだ。それを読み取ってくれる読者が一人も居ない事を私は嘆いているんだよ」

 西村は不満だった。本当は、このつまようじ一本で異世界無双には深いテーマが含まれている。

 なのに、誰も、そのテーマを読み取ってくれはしない。

 誰か。誰か。この漫画の本当のテーマを読み取ってくれ。  

 その願いは虚しく、誰もが漫画のアクションシーンだけを褒め称え去って行ってしまう。

「はぁ、他にサインを求めて来る人はいないかね?」

「居ないみたいですね」

 サイン会に来たファンは全て握手を終えて去ってしまった。 

 もう、新しいファンが来る事は無いだろう。

 そろそろサイン会も終了の時間だ。

 西村は諦めて帰ろうとした、その時。

「ちょ、ちょっと待ってくれ〜」

 西村の前に狐のお面をしてメイド服を着た男、佐久間が姿を現した。

「うわ! 変態だ。変態がいるぞー!」

「はぁ、はぁ、西村さん。貴方にサインを貰いに来ました」

「な、何!? 君も私にサインを貰いに来たのか?」

「はい」

 なんだ、この男もサインを貰いに来たのか。

 しかし、どうせ、この男も他の奴と同じで漫画のアクションシーンばかりを褒め称えるのだろうな。

「はぁ、はぁ、この、つまようじ一本で異世界無双には、愛と戦争。悲しみと平和、人間の業など、深い哲学が刻まれて僕は大変感動したんです」

 な、分かってくれる人が現れた。 

 そう、このつまようじ一本で異世界無双には確かに深い哲学が多分に含まれている。

 ようやく、ようやく、分かってくれる人が現れたのか。

 西村は、佐久間の漫画に対する深いテーマへの理解に感動し涙を流した。

「ううう。ようやく、ようやく、私の漫画のテーマが分かってくれる人が現れたのか」

「はい、僕は、この漫画が生涯で一番好きです。サインを下さい」

「あぁ、勿論。勿論だとも!」

 相手が、どんな服装を着ているかなんて関係無い。

 私の作品を理解してくれる人がようやく現れた。

 西村は、その事に感動し、佐久間と握手を交わす。

「ありがとうございます! 西村先生」

「こちらこそ、ありがとうだ。メイド服の男」

 二人は固い握手を交わした。

 こうして、サイン会は無事に終わったのであった。


「いや〜、有り難う。ルーカスさん。吉井さん。お陰で西村先生のサインを無事にゲットする事が出来たよ〜」

 元の服装に戻った佐久間はルーカスと美穂にお礼を言っていた。

「ふむ、無事にサインをゲット出来て良かったな。佐久間さん」

「あぁ、このご恩は一生忘れない。何か困った事があれば、僕が必ず駆けつけるよ」   

 ルーカスと佐久間は固い握手を交わした。

「あれ、佐久間聡じゃね?」

 佐久間はマスクとサングラスをかけているが、そのスター性は隠しきれない。

 早くも周りの人が感づき始めている。

「む、これは不味いね」

 丁度良い事にタクシーがルーカス達の前に、やって来た。

「では、僕は失礼するよ。機会があれば、また会おう! 二人共」

「あぁ」

「さようならです。佐久間さん」

 そのまま佐久間はタクシーに乗って秋葉原を去って行った。



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