上野2
「うーん。剛君は、何処に居るのだ?」
ルーカスはアメ横からマルイ方面へと道を進む。
母親に貰った写真を見ながら、剛を探すが
中々道が多くて見つかりそうにない。
「人に聞いてみます?」
美穂が提案する。確かに人に尋ねるというのは良い手かもしれない。
「そうだな。近くに居る人に、子供を見なかったか。聞いてみよう」
ルーカスは近くにいた男に声をかける事にした。
男は昼間から居酒屋の店先のテーブルで酒を飲んでいる。
四十代位の男で、飲み友達とかも居なさそうだ。
「済まない。ちょっと良いか?」
「あぁん? なんだ?」
男の少し高圧的な態度に思わずたじろぐルーカス。
しかし、怯んではいられない。剛を探さないと。
「子供を探しているんだ。この写真に写っている子供に見覚えないか?」
「こっちは飲んでんだ。話しかけるな」
男は、ウザったそうに片手を振る。
む〜、話しかける人を間違えたかもしれない。
「そうか。それは済まない事をした」
ルーカスは男をスルーして他の人に話を聞こうとする。
「もぉ~、道夫さん。折角、男の子が質問してるんだから、何か答えてあげなさいよ」
店の奥から女性店員が出て来た。
この人なら話を聞いてくれそうだ。
「で、なんの用かしら?」
「済まない。子供を探しているんだ?。五歳位の男の子なんだが見てはいないか?」
ルーカスは女性店員に写真を見せる。
「うーん。私は見てないね。道夫さん。あんた見てないのかい?」
「見てねーってんだろ。うるせーな!」
道夫と呼ばれた男は大分ヤサグレている様子だ。
「済まないね〜。これでも昔は筋の通った男だったんだけどね」
「そ、そうなのか……」
「お父さん。しっかりしてよ!」
店先から、店員とは別の女性の声が聞こえて来た。
視線を移すと、そこには女子小学生がたっている。
「お父さん。昼間から酒なんか飲んでないで、ちゃんと働いてよ」
女子小学生は明らかに道夫に話しかけている。
恐らく道夫の娘だろう。
「うるせー、お前は黙ってろ!」
女子小学生を無視して、道夫は酒を飲み続けている。
なんというか。これは不味いんじゃないのか?
「こ、これは不味いんじゃないのか?」
養うべき女子小学生がいるのに昼間から酒を飲み続けている道夫。
これは看過すべきではないのだろうか。
「そこの君。娘が困っているのだろう? ちゃんと働いたらどうだ?」
ルーカスは思わず道夫に苦言を呈する。
すると道夫は鼻で笑って。
「ふっ、まさか男子高校生に正論を言われるとはな。俺も落ちたぜ」
「この人はね。昔は、ちゃんと働いてたのよ」
女性店員が割って入る。
「そ、そうなのか?」
「辞めろ! 言うな」
「貴方、工場で、ちゃんと働いてたじゃない! その頃の貴方はどこへ行ってしまったの?」
何やら、女性店員も熱くなっている様子。
「うるせー、潰れちまったんだよ。倒産だ。倒産」
どうやら道夫が働いていた工場は倒産してしまったらしい。
「俺はな小さなビニール袋にスプーンを入れる工場で働いてたんだ」
なに? その工場。
「ただな、資本主義って奴は残酷でな。工場は潰れ会社は倒産しちまった」
「ならば別の工場で働けば良いではないか?」
「俺はな、あの工場を世界一の工場にするって夢があったんだ。夢破れた俺は、どうすれば良い?」
「いや。ビニール袋にスプーンを入れるだけで世界一は、取れないと思うぞ……」
「あの工場じゃないと駄目なんだ。駄目なんだ……」
どうやら道夫は潰れた工場に未練があるみたいだ。
「道夫君。君の想い聞かせて貰ったよ」
道夫に一人の六十代位の老紳士が声をかけて来た。
「は! 貴方は……」
「儂は潰れた工場の社長だった。富永だ」
なんと道夫に声をかけて来たのは潰れた工場の社長だった富永だ。
「富永さん……」
「儂はな、今度小さなビニール袋に割り箸を入れる工場を再建するつもりじゃ。どうじゃ一緒に来てはくれないか?」
「え、そんな。良いんですか?」
「道夫君。君は儂の工場で一番の働き者じゃった。また儂の工場で働いてくれ」
「ううう。有り難うございます……」
どうやら道夫の再就職先が決まったらしい。
小さなビニール袋に割り箸を入れる工場なんて大丈夫だろうか?
「精一杯、やらせて貰います!」
しかし道夫はやる気に満ち溢れている。
「おめでとう。道夫さん」
「おめでとう。パパ」
女性店員や女子小学生も道夫の再就職を祝福している。
「いや、小さなビニール袋に割り箸を入れる工場なんて大丈夫なのか?」
「ルーカスさん。それを言うのは野暮ですよ」
えぇ、野暮なのか?
ちょっと工場の先行きは不安だが、道夫の再就職が決まったのなら、まぁ良いか。
ルーカスは取り敢えず居酒屋を後にする事にした。




