08.漠然とした決意と方針
リリのベッドは、地下空間の中心にある。
デコボコしたむき出しの地面に置かれたベッド。そこがリリの居場所だ。
どう考えても、人が生きて行ける空間ではない。
監禁されていると考えて間違いないだろう。
いったい誰に?
それは、リリに呪いを掛けた奴なのだろう。おそらく。
ベッドに横たわったリリが、ようやく寝息をたてはじめた。
地下空間を調べたいが、困った事に左手をリリの小さな両手が握りしめている。
寝付いたリリを起こさないため地下空間の探査をあきらめ、自分に発現した能力について考えてみた。
左手の【A・ドラゴン紋 レベル0.00】
これは、カエルさんの話しを信じていいだろう。
単純に考えれば、勇者紋より凄い紋を手に入れたのかもしれない。
ただし、勇者紋と同じで、経験値を獲得しレベルを上げていかなければ、スキルは発動しないと考えた方が良さそうだ。
左目の【竜眼レベル1】
これは、今でも十分役に立っている。
おそらく【A・ドラゴン紋】に附属したスキルと思われ、ドラゴン紋のレベルが上がれば、こちらもレベルが上がるだろう。
このドラゴン紋のレベルを上げれば、リリの呪いも解呪できるかもしれない。
僕は、そう漠然と思った。
ただ、僕は呪いの基本的な仕組みはおろか、紋の基本さえ理解していなかった。
僕はこの異世界の事を知らな過ぎるのだ。
僕を召喚したペイ王女たちは、勇者紋や勇者の剣についてさえ詳しく教えてくれることはなかった。
そして、僕も、それらの事を知りたいと強く思わなかった。
正義とか平和とか愛とか、そんな綺麗事ばかり聞かされた僕は、大した疑問を感じることもなく、ただ魔物を倒す日々を3年も過ごしてきたのだ。
僕は自分の右手を見た。レベル120、ただそれだけの表示が浮かんでいる。
・・・この右手、使えるのか?・・・
仮に、僕の右手に勇者の力が残っていれば、このレベル120の力で今すぐにでも、ここからリリを連れて脱出するなど簡単なことだ。
しかし、何の紋も無い右手にレベル120というのは、完全に意味不明だった。
そもそも、勇者紋を外すことができるなんて僕は知らなかった。
右手を見ていると、王女マリエラの顔が思い浮かび怒りが込み上げてくる。
レベル120表示の右手を握りしめ、地面を無造作に殴ってみた。
ゴチッ!
「痛てっ・・・」
マジで痛い。普通に無茶苦茶痛い。鬼痛い。
下手をすると骨折しているかもしれない。
最悪だ・・・
後悔し凹んでいると、寝ていたリリが顔を上げた。
僕が声を上げたので起きてしまったようだ。
リリは小さな手を伸ばし、僕の右手に触れようとしている。
「お兄ちゃんっ、どうしたの?」
・・・この子は・・・人の怪我が分かるのか?・・・
僕が痛めた右手を差し出すと、リリは小さな手で優しくさすってくれた。
「ありがとう・・・」
さすがは聖女レベル18、さすってもらっただけで痛みが消えていく。
聖女の能力って、こんな感じだったかな? 違うよな?
僕の知る聖女紋持ちとは、かなり違っていた。
普通の聖女様は、聖女紋を授かった手に魔法の杖を持ち、すまし顔で回復の呪文を唱えるものだ。
そもそも、紋も魔具も使わず治癒できるって、そんなのアリなのだろうか?
そんな事を考えつつリリをマジマジ見つめていると、左目に浮かび上がっていた呪いの表示が点滅し、新たな文章が追加された。
【聖処女の呪い レベル65】妊娠を阻止する呪い。性交しようとする相手を爆炎魔法で吹き飛ばす。爆炎レベル65
【永遠の悪夢 呪いレベル58】呪いを固定し解除を難しくする呪い。呪いレベルの倍する解呪レベルに対抗できる。
【鮮血の雫 呪いレベル50】呪いを掛けられた場所は切り裂かれ、激痛と鮮血を流し続ける。対象相手を生涯苦しめるための呪い。切り裂かれた傷は高位治癒魔法で完治するが、呪いが解けない限り呪われた場所は再び裂けていく。
悪意に満ちあふれた呪いの内容に、僕は息を飲んだ。
爆炎レベル65というのは、かなり凄い。
【勇者レベル80】だつた僕でも、レベル65の爆炎魔法で不意を突かれれば、タダではすまないだろう。
そして僕はやっと気づいた。リリの呪いが、ただ事ではない事に。
リリは何者なんだ?
これだけ極悪な呪いを何重にも符すというのは、術者側にそれだけ重い意志があるのだろう。
まだまだ、分からない事が多すぎた。
リリの手が数十秒触れただけで、僕の右手はすっかり回復した。
「もう、おやすみ」
寝るようにうながすと、リリは僕の右手を抱いたまま寝息を立て始めた。
何て健気で可愛いんだ。
今の僕には本物の女神様だった。
僕はリリの寝顔を見ながら、今後の事を思案した。
まず問題なのは、僕の右手も左手も今のところ使えないということだ。単なる素手と同じだ。現状、役に立つのは左目の【竜眼】だけだろう。
そうなると、力ずくでココから脱出するというのは難しい。それも、リリを連れてとなるとなおさらだ。
そして、僕はリリをココに置いて行く気はなかった。
僕たちを監禁している者の正体を見極める必要があった。
こんな場所に監禁している理由を知り、悪意ある相手なら戦うだけだ。
そもそもリリに呪いを掛けた張本人という可能性が高いのだ。
僕は慎重に対応する必要があった。
そこで、僕は視線をカエルさんに向けた。
・・・最強の魔物スカイドレイクのクセに、人間に捕らえられたのか?・・・
その僕の疑問に、カエルさんの目が赤く光り始めた。
どうやら怒っているようだ。
彼の話が聞けそうだ。




