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21.遭遇戦 村人とゴブリンと・・・①


 カエルさんにリリを託し、カズキは再び館を後にした。

 まだ日は高い。4・5時間は活動できるだろう。


 午後の目的は一つ。

 ゴブリン退治で左手のレベル上げをする。


 推測だが、【アークドラゴン紋】もレベル1になれば、スキルが発現するだろう。

 希望としては【ドラゴンの癒し】スキルが手に入ればと願うばかりだ。

 アークドラゴンの癒しがあれば、リリの呪いも浄化できるかもしれない。


 その為には、左手を使って魔物を殺しレベル上げする必要がある。

 カズキの知識では、それが正解のハズだった。


 召喚され右手に勇者紋を授けられ、レベル上げが彼の日常になった。

 来る日も来る日も魔物と戦った。

 右手に勇者の剣を握り戦った。

 虚しく、そして吐き気と戦う日々だったが、これからは自分の意思だ。

 そして、レベル上げの基本はゴブリン退治だ。


 勇者紋レベルを10まで上げるため、何匹のゴブリンを殺してきただろう。

 はらわたの生々しい臭いに、ゴブリンの糞尿にまみれた最低の戦いを思い出すと、気持ちが萎えそうになる。

 正直、もう二度とあんな戦いは御免だと思っていた。それが、リリという存在が出来たことで彼の意識は劇的に変わっていた。




 町の中心を通り、ギルドで渡された地図を頼りに魔境へ向かう。

 昼を過ぎた町は賑《にぎ》わっていた。露店も沢山出て活気ある街だと分かる。

 そこで【竜眼】が反応した。


 !!!!

 

・・・うーん、仕事熱心だな・・・


 20メートル程の距離を保ち、ラスタが追ってくる。

 フラグ表示が『追跡者 ラスタ』になっている。

 人混みに隠れているつもりらしいが、【竜眼】からは逃れられないようだ。


 背後のラスタに気を取られていると、再びアラートが竜眼に流れた。


『前方より悪意のヒューマン接近中』


 何やら見覚えのある中年男が歩いてくる。

 目を合わせてくるので、カズキに用事があるみたいだが。


「やぁ、あんた」

「・・・」


 声を掛けられ、カズキは少し嫌な顔をして見せた。

 午前中、ギルドで絡んできたオヤジ3人組の1人だ。


「今朝は悪かったな。あんた凄い薬草ハンターらしいじゃないか」

「・・・・・」

 この手の人間と関わる暇はない。

 無視しようとしたが、オジサンはペラペラ話し続ける。


「いや、今朝の件だが、受付嬢に叱られてなぁ。俺たちも反省してるんだ」

「・・・・・・」

 無視し続けるが、オジサンはしつこくしゃべる。

 空気が読めないのか? 


 オジサンは、自分たちがいかに良い奴で、今朝の件は単なる誤解というか半分ジョークだと喋り続けた。


「それでだ。お詫びとして薬草採取の穴場を教えるよ」

 お前の情報など不要だと言いたいが、口下手で人見知りなので出された地図に見入ってしまう。


「片道1時間の距離だが、ここら一帯は薬草の群生地なんだ」

 いやいや、そんなに都合良く群生地なんて・・・

「ただ、あまり森の奥には入らない方がいい。小さいがゴブリンの巣があるからな」

「ああ・・・ありがとう」

 思わず礼を口にしてしまった。

 ゴブリンを狩りに行くのだ。その情報が本当なら有益だ。



 オジサンと別れ再び歩きだす。

 門をくぐり、教えられた薬草群生地方向に行く。

 薬草はどうでもいい。ゴブリン目当てだ。


 それでも道沿いの森には、薬草がポツポツと生えている。

 聞き覚えの無い希少な薬草も見つかった。

 武器屋の爺さんと約束した【女神の雫】も2株見つけ、1時間弱歩いたところで薬草採取用に持ってきた袋はいっぱいになっていた。

 一般的な薬草は、誰にでも発見可能で取り尽くされているが、希少種に関しては希少であるほど、その存在を知る者が少ないので採取されないのだろう。

【竜眼】だと、多少距離があっても簡単に発見できた。

 やっぱ【竜眼】スゲーと改めて感心していると、左目にアラートが出た。


『追跡者を捕捉』

 ん? またラスタかと振り向くと、50メートルほど離れた雑木林にフラグが3つ立っていた。

『追跡者 その2』

【豪腕紋レベル8】【マジック紋レベル9】【剣士紋レベル10】のフラグが表示された。ギルドで難癖を付けてきたオジサン3人組だ。

 穴場を教えておいて後を付けてきたということだ。


・・・あいつら・・・


 ため息が出た。

 面倒くさい。鬱になりそうだ。

 何を目的に後をつけているのだろう?

 採取した薬草を奪うとか、今朝のゴタゴタを蒸し返し僕を痛い目に遭わせたいのだろうか?

 薬草の前金として受け取った金貨狙いかもしれない。

 僕はF級というザコキャラ設定だ。連中からすると強盗恐喝をやるには手頃な相手ということだろうか。

 

 ということは、オジサンたちにハメられてる最中ということになる。

 薬草の群生地というのが、そもそも怪しい。

 ゴブリンの話も、こうなると何処まで本当か分からない。

 普通に考えると、僕のレベル3はゴブリンと同程度の力だ。

 はたから見れば、複数のゴブリンと僕が出くわせば、それは死を意味する。

 オジサンたちからすると、大金を持った僕がゴブリンに殺されれば、労せずして金貨が手に入ると考えているのかもしれない。


 ゴブリンの巣もしくは、ゴブリンの狩り場に僕を誘導する。

 そういう嫌がらせというか作戦なのだろうか。

 色んな思考が頭をよぎっていく。


・・・ひまなオジサンたちだ・・・


 ゴブリン目当てのカズキとしては、何の不都合もなかった。

 それでも、オジサンにラスタも入れ4人に後を付けられ、いい気はしない。


 さらに歩くと、足が棒という言葉がピッタリなほど疲れてしまった。

 考えてもみれば、ドラゴンの呪いで何日も生死の境を彷徨っていたのだ。

 体力が回復してないのだ。


 一休みしたいと考えていると、【竜眼】が前方に数名の人間を発見した。

 だいぶ狭くなった道沿いの、森の中に彼らはいた。

 大人の男女に子供が一人。家族だろうか?

 子連れ親子が居る場所に、ゴブリンが出るとも思えなかった。

 何より、竜眼がゴブリンを発見してない事実が、気持ちを落ち込ませる。

 だが、この程度のことで凹んでもいられない。

 情報収集のため、カズキは森へ踏み込んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そこ、テセト村は魔境の樹海【ヴォードウォール】の端に位置している。腕自慢の元冒険者たちが金を稼ぐため移り住む魔物と戦う村であった。


 この村の特筆すべき点は、村の住人は腕に覚えがある元冒険者いうことだ。

 魔境の樹海【ヴォードウォール】に接した村は、常に魔物の驚異にさらされている。それゆえ、特殊な薬草の採取や魔物を狩ることも容易であった。

 魔物から自分の身を守る自信のある者が集まり、まとまった金を稼ぐと村を離れ平和な場所で新たな暮らしを始める。それが、ここに住む者たちの生活設計だ。


 人口は約200人弱。50家族程からなる村人の半分は子供だ。住んでいる大人の平均年齢が20代後半で全員にパートナーがいた。

 ラムスの館があるギメルの街から馬で30分ほどの距離にあった。 

 村はラムスの領地であり、村人は領民という身分でもある。



 このテセト村に住む大人の大半は、手練の元冒険者夫婦である。

 ミガエラとミサエも、そんな夫婦であった。

 冒険者を辞め移り住んできたのは2年前。息子が3歳になった頃だ。

 子供連れで、この村に移住することに多少の抵抗はあった。

 しかし、安定した生活を送るには、まとまった金を手にする必要があった。

 そのためには、冒険者として大きなクエストをクリアするか、この村で金を稼ぐというのが現実的だった。

 大金を稼ぐクエストに挑むほどの実力がなかったミガエラたちは、テセト村に移住するという選択をしたのだ。


 二年間大変な思いをしながら、それでも息子を育て金も貯まりつつあった。

 ゴブリン襲来など日常茶飯事の村であったが、村人の助け合いもあり生活は安定していたのだが、突如として村は不穏な空気に包まれていた。


 数日前の、あの忌《い》まわしい事件から村の雰囲気は一変した。

 ミガエラ夫婦の先輩移住者であり、移住してきた彼らの面倒を見てくれたエミール一家が、魔界探索に出て戻らなかったのである。


 魔界探索と言っても、それはエミール一家の仕事であり日常であった。

 10匹程度のゴブリンと遭遇しても、元Bランク冒険者で剣士であったエミールの実力があれば、簡単に駆除できたはずだ。それこそが彼らの稼ぎなのだから。


 そんな夫婦と一人息子の三人が、夜になっても戻らなかったことに、村人たちは困惑したのである。

 夜明けを待ち、元レンジャー数名が魔界奧へと踏み行った結果、彼らは百を超えるゴブリンの集団に遭遇したのである。


 1度に百を超える集団というのは、近年聞いたことのない数だった。

 村長は非常事態を宣言し、村の防衛を優先するよう村人たちに指示を出した。

 そして、ギルドに要請していた応援パーティーと、レンジャー数名が昼前になり村に到着したところだった。



 ミガエラ夫婦は一人息子を連れ、隠し薬草畑に来ていた。

 戦いに備え、薬草を少しでも多く収穫してくるよう村長に頼まれたのだ。


 夫婦はポーションの材料になる薬草畑を森の中に造っていた。手癖の悪い冒険者に荒らされないよう隠遁の魔法を附した隠し菜園だ。


「カズンから目を離すなよ」

 幼い息子の手を引く妻に、ミガエラは真剣な顔で言った。

「ええ、分かってるわよ。でも、大丈夫かしら?」

「まあ、Bランクパーティーもギルドから来たからな」

「何言ってるのよ。エミールの実力はBランク以上だったわ・・・」

「まあ、数に押されたんだろう・・・」

「あんな死に方・・・酷すぎるわ・・・」

「あ、ああ、早く薬草を収穫して戻らないとな」

 この隠し菜園は村から見ると、魔境の反対側に位置している。

 魔境から離れているので多少安全だが、幼子を連れていると慎重にならざるを得ない。人の子はゴブリンの大好物なのだ。



 ガサガサ

 !!!


 ポーション材料の薬草が籠一杯になった頃、藪が動く音にミガエラは身構えた。

 魔法で結界を張っている。獣か魔物が迷い込んだのだと思った。

 だが、彼の予測は外れた。


・・・なにっ!?・・・


 藪を突き抜けてきたのは、見知らぬ若い男だった。

 その予想外の来訪者にミガエラは困惑した。

 慌てて視線をミサエへ向け、それから息子カズンへと振った。

 この非常時に隠し畑に侵入してくるなど、とても偶然とは思えない。

 そう感じたのはミサエも同じだった。彼女は男が現れると、手にしていた薬草の束を放り出し、慌てて息子を抱き寄せていた。

 


「や、やぁ・・・近所の村の人かな?」

「誰だお前? なぜ、ココが分かった」

 ゆるい雰囲気で話しかけてきた男に、ミガエラは妻と息子を背にし身構えた。


・・・Fランク冒険者だと?・・・


 首から無造作にぶら下げたギルドカードが読めた。装備も素人に見えるし、駆け出し冒険者ということだろうか?

 だが、そんな駆け出しが隠し菜園を発見することなど不可能なはずだ。

 Aランクレンジャーにさえ、ここは見つかったことはないのだ。


「いや、人影が見えたから・・・」

「嘘をつけっ! ここは結界で覆《おお》われた隠し菜園だ」

「えっ! そ、そうなんだ・・・悪いことしたかな? 道を尋ねたかっただけだが」

「・・・・・・」

 若いFランク冒険者には、妙な落ち着きがあった。

 そして、経験豊富な元冒険者のミガエラに余裕は無かった。

 冒険者に知られたからには、この隠し菜園はもう駄目だ。

 森を切り開き周囲の手入れをし、先月からやっと収穫出来るようになったというのに・・・

 怒りが込み上げてくる。

 このFランクさえ来なければ・・・

 ミガエラの頭に、痛い目を見せればという思考が過《よ》ぎった。


 だが、妻と息子も一緒にいるのだ。そんなクズ冒険者のような真似はできない。

 ミガエラが冒険者に見切りをつけたのは、そんなクズを沢山見てきたからだ。

 それなのに、そんなクズと同じ発想に至ったことを反省した。


「あんた、本当に道に迷った・・・の・・・」

 気持ちを落ち着かせ、ミガエラが大人の対応を見せようとしたとき、再び藪から男が現れた。ゾロゾロと3人も藪から出てきた。


・・・こ、こいつら!・・・


 現れた3人の中年男に、ミガエラの心は凍りついた。


 村でも有名なコソ泥系冒険者たちだ。

 典型的なクズ冒険者の登場に、心が折れそうになる。

 いい歳をして大した実力も無い冒険者だ。だが、そのいい歳で生き残ってきた中年男たちの汚い手口に、村人たちは手を焼いていたのである。


・・・もう、この隠し菜園は駄目だ・・・


 一瞬脱力したミガエラに、言い知れぬ怒りが湧き上がってきた。

 自分たち家族の努力の結晶が、簡単に消えてしまうのか?

 その理不尽に歯を食いしばった。

 元々冒険者として名を上げようとしたのだ。それなりに自尊心も力も持っているつもりだった。


 心臓の鼓動が高鳴り血が沸き立ってくる。

 この怒りを誰にぶつけるべきか、ミガエラは畑に現れた男たちに鋭い視線を向けていた。



◇ ◇ ◇



【ヒューマン 男 20代 剣士紋レベル15】

【ヒューマン 女 20代 ハンター紋レベル12】

【ヒューマン 男 子供】


 カズキが得た竜眼の情報はそれだけだった。


 子供を連れているということは、親子ということだろうか?

 こんな魔界の端で、ゴブリンが出没するというのに・・・

 3人が居る空間に少し違和感を覚えたが、構わず森に入ってみた。


『微弱なマジックジャマーを突破』

 分厚い藪をかき分けていくと、竜眼が反応した。


・・・はぁ? 何だそれ?・・・


 カズキには何も感じられなかったが、何かの魔法が張り巡らされていたのだろう。


 藪を抜け畑のある空間に出ると、男女が驚愕の表情でカズキに視線を向けてきた。

 女性が慌てて子供に駆け寄り抱き上げる。

 男の方は驚き、慌てて剣を手に取った。


 まるでゴブリンと出くわしたような雰囲気に、カズキもフリーズしてしまった。

 男は身構えたまま女と子供を背にした。

 用心深いを通り過ぎているとも思ったが、何か話さなければと言葉を絞り出した。


「や、やぁ・・・近所の村の人かな?」

「誰だお前? なぜ、ココが分かった」

「いや、人影が見えたから・・・」

「嘘をつけっ! ここは結界で覆《おお》われた隠し菜園だ」


 えっ!・・・そういうことか・・・

 マジックジャマーの意味がやっと理解できた。


「そ、そうなんだ・・・悪いことしたかな? 道を尋ねたかっただけなんだ」

「・・・・・・」

 カズキは穏やかに話したが、男の表情は厳しいままだ。


 数秒睨み合ったところで、竜眼の警告が流れた。

『後方より悪意のヒューマン接近』


・・・えっ!・・・


 このタイミングで来るのかと驚いてしまった。

 振り向くと、あのオジサン3人組が藪をかき分け姿を現した。


・・・何しに来たんだ? コイツら・・・


 カズキと目が合ったオジサンたちは、醜い笑みを浮かべた。

 何が楽しいんだ?

 状況に少し困惑していると、オジサンたちが視線を村人に向けた。


「おい、どうした?」

「我らはギルドのクエストで来たのだ」

「何だ、そいつ? 薬草泥棒か?」

「俺たちは、薬草泥棒退治のクエストで来たのだぞ」

「コソ泥など、我らギルドは決して許さぬから安心せよ」

 オジサンたちはカズキと村人を交互に見つつ、好き勝手な事をまくしたてた。


・・・わぁ・・・そうきたのか・・・


 少し足が震えた。

 心臓が急にバクバクしてきた。

 泥棒の濡れ衣を着せるつもりなのだ。

 唐突で荒唐無稽な話だが、ここは異世界だ。カズキの常識は通用しない。

 そして、犯罪者への処罰が過酷を極めることを、カズキも承知していた。

 薬草泥棒の濡れ衣でも、奴隷にされるか斬首ということもあり得る世界だ。


「コソ泥、おとなしくしろよ。素直にすれば、コソ泥の代償は腕一本くらいで許してやらんでもないぞ」

 中年オヤジたちは横に広がり迫ってくる。

 剣を抜き杖に光がともったということは、本気で制圧しに掛かっているようだ。

 本当の目的は、カズキの金貨と途中で採取した薬草といったところだろう。


「腕・・・一本か・・・」

 カツアゲノの代金としては高額すぎる。

 万が一にも負けられない戦いだ。僕が戻らなければリリはどうなる。

 そうならないためには、本気で行くしかない。


 広域殲滅系雷撃魔法を使うのがベストだろう。


 数多くの魔物を退治してきたが、人を殺した経験は無い。

 昨日、人殺しもためらわないと決意したが、現実になると心が乱れた。


 そして、一つだけ問題があった。


 大きく息を吸い、村人と思われる男に視線を戻す。

「おいっ!」

 大きく声を張ると、男はビクリと反応した。

 

「お前は、こいつらとグルなのか? 人を泥棒に仕立て、ただで済むと思うなよっ!」

 ビリビリ剣を抜き、オジサンたちに向ける。

 視線を女と子供に移動させた。女の表情は明らかに動揺が隠せないでいる。

 リリと同年代の幼子を殺すことが引っ掛かる。だが、広域雷撃魔法を使えば、おそらく助からないだろう。

 だが選択の余地は無い。

 敵対するなら、雷撃は村人にも舞い降りるはずだ。


 カズキの問いに男は口を開いた。

「ま、待ってくれ。わ、私たちは、ただ、畑仕事をしているだけの村人。その冒険者とは、何の関係もない・・・君を泥棒と思ってもいない・・・」

「そうか・・・ならばお前の家族を殺す必要はないか・・・」

 少しだけホッとした。殺さない理由が一応出来たのだ。


 ならば、この中年3人を倒せばいいだけだ。

 急に気が楽になった。


「おい、ガキぃぃっ!Fランクの分際で、やり合おうってのか? 」

「うへへへっ。逆らうなら殺しても仕方なかろうよ」

「ああ、ちがいねぇ。逆らうコソ泥に容赦はしねぇぜっ!」


 オジサンたちは自信満々で醜い笑みを浮かべている。

 Fランクに負けるなど想像もしてないようだ。


 手加減する余裕は無い。それに手加減の仕方も分からない。

 ビリビリ剣の切っ先をオジサンたちに向け、雷撃を念じる。


・・・雷撃とシールドオート起動。ターゲットロック・・・


 そう念じると、オジサン三人の頭に雷撃のフラグが次々と立った。


『雷撃発動準備完了。シールド展開中。レベル50の雷撃を実行しますか?』

 生身の人間にレベル50の雷撃を三発。巨石さえ粉々に吹き飛ぶ威力なのだ。確実に殲滅できるはずだ。

 異世界での初めての対人戦だ。やりすぎでもいいだろう。


 竜眼の問にイエスを出そうとした時だ。オジサンたちの背後の藪が揺れた。

 ターゲットロックされた4人目が姿を現した。


・・・こいつのこと、忘れてたよ・・・

 

 藪から現れたのはラスタだった。

 雷撃ターゲット4に設定されている。

 このまま攻撃を実行すれば、ラスタも吹き飛ぶところだ。

 

 カズキの驚き以上に、オジサンたちも酷《ひど》く動揺している。

「なっ! なんだっ!」

「ら、らぁ、ラスタぁっ!」

「なんでっ! お前っ・・・」


「あれー! みんなで何してるんっすかぁ!?」

 現れたラスタは、素っ頓狂な高い声をあげた。

 1キロ先の人間にも聞こえそうだ。


「あれぇ? 誰かと思えばラムス様のお客人カズキ様じゃないっすかぁ! こんな所で何してるっすかぁ? お困りでしたら、ラスタ点数稼ぎに助太刀するっすよぉ」

 ラムスの名前が出ただけで、オジサンたちが後ずさる。


「ら、ラムス様の客人だと・・・」

「チッ!」

「お、おい・・・どうするよ?」

「今更・・・」

「ラスタに逃げられたら終わりだぞ・・・」


 狼狽する中年冒険者たちに、ラスタが不敵な笑みを浮かべた。

「いやいや。逃げるのは、あんたらでしょ?」

「なっ・・・・」

 苦虫を噛み潰すように顔を歪め、オジサンたちは顔を見合わせた。


「お、俺たちも・・な、何か勘違いしてた、みたいだな・・・まあ、あれだ。疑われるような行動はひかえるんだな・・・」

「お、おい、引き上げようぜ」

 話の成り行きや状況などお構いなく、オジサンたちは後退し藪に消えてしまった。


・・・いやいや、この状況で逃げるのか?・・・


 人の腕を切り落とすとか言っておいて、それで尻尾を巻いて逃げるとは、カズキの思考では理解不能だ。

 後で街やギルドで顔を合わせたらどうするのだ?


「あそこまでやって逃げるなんて、すごい神経っすね」

 ラスタも呆れ顔で肩をすくめた。

 カズキとオジサンたちのやり取りを観察していたのだ。コイツ。


・・・ある意味、危機回避能力が高いと言えるのか・・・


 何にしても、難局は乗り越えたらしい。

 ホッとしてしまう自分が少し情けなくもあるが、勇者などと呼ばれても人殺しはハードルが高いということだ。


 ラスタに視線を向けると、彼女はニッと無邪気で明るい笑みを作った。

 オジサンたちとのイザコザにも動揺してないところを見ると、それなりに対人戦の経験があるという事かもしれない。

「何のつもりだ?」

「いやいや、カズキさんにとって単なるザコってのは承知してるっす。でも、あんな馬鹿オヤジたちに魔法を使う必要もないかと」

「そうでもないさ。後々面倒だから消し飛ばしておいた方が簡単だった」

 そう心にもないことを言ったが、ラスタは笑顔のまま首をすくめただけだった。


「村に何かご用ですか?」

 村人と思われる男がカズキたちに話しかけてきた。

 緊張した面持ちに変わりないが、ラムスの客人という設定が効いているのか態度は一変していた。


 男の名はミガエラ女性はミサエ、二人は夫婦でこの隠し菜園を管理しているのだそうだ。そして、ゴブリン襲来事件で薬草の収穫に来ていたと説明してくれた。


「ゴブリンの襲撃が近いのか?・・・」

「あー、その依頼はギルドで聞いたっす。確かBランクパーティーと、レンジャー数名が村に派遣されたって」

 ラスタの説明にミガエラが大きくうなずいた。

「ですので、この先に進むのはおやめください」

「そうっすね。それが無難っす。薬草も、そこそこ取れたっすよね?」

 そのラスタの言葉に、ミサエとミガエラが顔を見合わせた。

「畑の薬草でよければ、いくらでもお譲りいたします」

 そうミサエが申し出てくれた時だった。竜眼が再び反応を示した。


『警告。驚異レベル2を確認。急速に接近中』 


・・・何だ? 驚異レベル2って・・・


 そもそも竜眼が示す驚異レベルの強度が不明だ。

 しかし、警告の仕方に余裕が感じられたので、大した脅威でもなさそうだ。

 周囲の森に視線を向けると、幾つもの赤いフラグが高速で迫ってきていた。


・・・マジか? 動き早いし多いな・・・


 フラグの数はパッと見ても十以上はあった。そして、移動速度を考えると、とても人間とは思えない。馬に乗った人間とも考えられたが、深い藪で馬の移動は困難だ。


「どうしたんすか?」

 カズキの様子にラスタが反応した。


「何かが来るぞ」

 そのカズキの言葉に即座に反応したのは、子供を抱いたミサエだった。

「ご、ゴブリンっ!」

 

 ミサエの顔が恐怖にゆがみ、子供をギュッと抱きしめる。母親の怯えは当然だ。

 だが、それはない。俊敏なゴブリン以上のスピードでフラグは迫ってくる。


『警告。ライダー20、会敵まで15秒』

「ら、ライダーだと・・・」

 カズキは竜眼の警告に思わず言葉をもらした。


・・・そいつは、ラッキーだ・・・


 ライダーということは、狼とゴブリンがセットで向かってきているということだ。

 魔物の血を引く狼のレベルはゴブリンの何倍にもなる。

 レベル上げには格好の相手だ。

 それが20も向こうから来てくれるのだ。探す手間がはぶけ、カズキは心から喜んだのである。


「らっ、ライダーってマジっすか?」

「こ、こっ、こんな場所にライダーなど・・・」

「あなたっ! 村に戻りましょうっ!」

 ラスタがカズキの腕を掴む。ニヤケ顔が真剣な表情に一変していた。

 ミガエラとミサエの動揺は激しい。青ざめた顔で周囲の森に視線を走らせている。


「ひっ!」

 周囲の藪が激しく音を立て始めた。

「逃げましょうっ! 駆ければ村まで十分の距離ですっ!」

 ミガエラが硬直した顔で言った。

 だが、もはや完全に手遅れだった。



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