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20/23

20.報告


 結局、薬草鑑定は1時間で終わらなかった。

 まだ時間が掛かると言われ、前金の金貨10枚を受取り館へ戻ることにした。


 買ったパンを土産に、館地下室のドアを開けた。

「ただいま。リリ」

「あっ! お兄ちゃんっ」


 昨夜と違い、リリは泣いた様子も見られず元気に出迎えてくれた。

 ただ、相変わらずの方向音痴で、声とは違う方向に両手を広げ突き進む。


 おーい。僕はこっちだよ。


 リリを追いかけ後ろから抱き上げると、「うきゃっ!」と嬉しそうに声を上げ抱きついてきた。

 そして、ぺたぺたと小さな手で僕の顔に触れてくる。

 うーん、マジ可愛い。実の姪っ子の100倍可愛い。


 ほんのり暖かなパンとミルクで昼食を済ませる。

 リリはパン二切れでお腹いっぱいと言い出した。やはり食が細い。


 食後、膝に抱いたリリに外での出来事を話して聞かせた。

 ギルドに加入しFランク冒険者になったこと、薬草採りに行ったこと、パン屋と雑貨屋で買い物したことを話して聴かせた。

 お腹いっぱいになったためか、リリはウトウトし始めた。

 包帯グルグル巻の頭が揺れている。

 子供は寝るのも仕事だ。

 リリが熟睡できるなら、昼からの外出は中止してもいいだろう。

 そう考えていると、カエルさんのジットリとした視線に僕は気づいた。


・・・パン足りなかった?・・・

 そう念じると、カエルさんの1つ目がギロリと大きく開かれた。

 魔物のクセに、リリと同じ物をコイツは食べる。

 昨夜持ち帰ったケーキもお昼のパンも、リリは自分の半分をカエルさんに分けるのだ。そして、この馬鹿ガエルは遠慮という言葉を知らないようだ。


・・・呪いについて何か分かったのか? ニ・ン・ゲ・ン・・・

 カエルさんの念には、明らかな苛立ちが含まれている。


・・・いや、まだ初日だしね。これからだよ・・・

 余裕の表情を見せると、カエルさんがにじり寄ってきた。

 近くで見るとキモさ倍増なんだが。


・・・愚かなるニンゲンよ。我が幼生に時間は残されておらぬぞっ!・・・

・・・あと、どれくらいなんだ? それくらい教えろよ・・・

 情報の出し惜しみをするくせに、カエルさんは短気だ。


・・・そなたたちの時間で1ヶ月ほどだ・・・

・・・ちょっ、ちょっと待て、3つの呪いを1ヶ月で解呪しろって!・・・


・・・完全解呪は不要。だが、何らかの手当てをせねば生涯悔やむぞ!・・・


 カエルさんの一つ目が赤く光ってる。僕の左目が真っ赤になって『警告! 警告!』と騒ぎだした。

 僕だって何とかしたいと強く願ってる。だが、願うだけでは駄目なのだ。


・・・どうすればいいんだ?・・・

 昨日から、ずっと同じ会話をしている気がする。


・・・ニンゲンの成した災いだ。ニンゲンから情報を得るしかない。もしくは、魔法に詳しいエルフに聴くのもよかろう・・・


 確かにエルフ族は魔法に秀《ひい》でた種族と言われているが、今のところ使えそうなエルフの知り合いは、ギルド受付嬢ハーフエルフのシモーヌくらいだ。

 自身の左手が石化している者に、呪いのことを尋ねてもと思う。

 睨み合っていると、リリが両手を突きだし小さな手で顔に触れてきた。


「おにいちゃんっ・・・カエルさんとケンカしちゃ、らめっ・・・」

 叱られた僕は、リリの手に自分の顔をグリグリと押し当てた。

 するとリリは、思惑通りキャッキャと喜んでくれた。

 包帯を外して笑う顔を早く見たい。

 そう思っただけで、やる気が湧いてくる。


 リリを抱き微笑みを浮かべながら、僕は邪悪な思考を巡らせる。

 ゴブリンを殺しまくってレベル上げをしようと・・・


 殺されるゴブリンはいい迷惑だが、それしか方法を思いつかない。

 左手【アークドラゴン紋】のレベルを上げれば、何らかの妙案が見つかるはずだ。連動する【竜眼】のレベルも上がってくれれば、呪いの解析ができる可能性は高いし、発現スキルによっては呪いを直接解呪できるかもしれない。

 そのためには、やはりゴブリンを殺しまくるしかない。

 これが、この世界の基本のようなモノだ。

 少なくとも、僕が得た知識ではそうだ。


 あと知識と情報が、もっと必要だ。

 呪いに関する知識や情報はもちろんだが、魔法に紋に一般的な常識も知る必要がある。そして、リリ個人の情報も集めなければならないだろう。

 考えれば考えるほど、やるべき事に知るべき事が次々と浮かんでくる。




◇ ◇ ◇




 彼、武器屋の老主人がギルドに顔を出したのは昼過ぎのことだ。

 カズキが薬草報酬の前金を受け取り、ラムスの屋敷に戻った直後である。

 この武器屋店主の名はギルバート。歳は60を越えている。

 武器屋を営む彼は、S級冒険者であると同時に冒険者ギルドの長としての務めを、この20年ほど担っていた。


 一番手前のカウンターで、ギルバートは受付嬢メルルに尋ねた。

「よう。今日、何か変わったことは?」

「あ、ギルド長。はい。それが・・・」

「何だ?」

「何か、ゲロ低レベルの鬼凄い人が、ギルメンになったんですよぉ!」

「何だ? そりゃ」

「そ、それがですねぇっ。すっごいレベル低いけど、すっごいんですっ!」

「あ!?」

 S級のジジイは、若い娘のテンションと会話についていけない。

 ギルバートは仕方なくシモーヌを呼んだ。


「こいつの言うことは何だか要領を得ぬ。何かあったのか?」

「はい。マスター」

 シモーヌは、午前中の出来事を簡単に説明した。


 彼女の説明によれば。

 ラムスの客人がギルドに登録したいと訪れたが、紋無しのうえ武器はビリビリ剣レベル3だったので、ギルドランクFで登録することになった。

 その若い男は、手っ取り早く金を稼ぐと言って薬草を採りに出かけ、一時間ほどで戻ってきた。そして、彼が採取してきたのが・・・


「【女神の雫】を持ち込んだのか?」

「聞いていたのですか?」

「ああ、本人が店に来てな。立ち話で、そう話しておった。話半分で聞いておったが、本当だったのか・・・」

「は、はい。それも、他に超レア薬草を二種類も一緒に・・・」

「ほう。それは?」

 【女神の雫】と同等の薬草など、簡単に採れるものではない。それを一度に3種類も探してくるなど、種類の違うS級の魔物3匹と同時に出くわすようなものだ。


「はい、今最終確認しているところですが、【カラスのクチバシ】と【竜ヶ草】に間違いないかと」

「なぁにいぃぃっ!!! 【カラスのクチバシ】だとおっ!!」


 フロアにギルバートの声が響き渡った。

 ギルド中の視線が一斉に向けられた。

 彼が驚くのも無理はなかった。

 ここ数年、ギゴの国大陸中央山脈地域で、鴉病と恐れられる風土病が流行していた。この病にかかると、身体表面が変色し、肉体が少しずつ壊死していく。

 この鴉病に治癒魔法は全く無力で、ポーションも効果が無かった。

 発病する者は希だが、1度かかってしまうと何年も苦しみ抜き、必ず死が訪れる恐ろしい病であった。

 しかし、唯一、鴉病を劇的に完治させることができるのが【カラスのクチバシ】と呼ばれる薬草であったが、この薬草の実物を目にした者は、この20年ほど現れてないという極めてレアな薬草だった。

 そして、その鴉病に、近隣領主の幼い世継ぎが罹患し、死が迫っていたのである。


「この後、メリッサ様に薬草の最終鑑定をお願いに伺います」

「ああ、頼む。間違いなく【カラスのクチバシ】なら、すぐにでも届けねばならぬ。その件は、ワシからもラムス様に報告しよう」

 鴉病にかかった子供の親とラムスとは、古くからの友人であった。


 【カラスのクチバシ】採取のクエストは、ギルドでも長年にわたり依頼され続けていたが、その採取に成功した者は1人としていなかった。

 世継ぎが罹患したと知った地方領主は、国中のギルドに【カラスのクチバシ】採取のクエストを出していたのだが・・・

 実のところ、実際に存在するかも微妙な薬草を探そうとする冒険者は、最近では見かけなくなったというのが実情だった。


 ラムスからも重ねて依頼が出されていたが、真剣に探す者はいなかった。

 Sランク冒険者であるギルバートも、探そうという気は一度も起きなかった。それは【カラスのクチバシ】の存在を、彼が信じてなかったということだ。

 そんな凄い薬草なのだ。それを簡単に見つけてきたというのは、ただの偶然なのか? それとも・・・何か裏があるのか?

 超S級クエストである。国中の人間が何十年も探して発見されなかった薬草を、Fランク駆け出し冒険者が小一時間ほど近場を散策し採取してきたなど、どう考えてもあり得ない話しに思えた。


「ところで、あのFランクは何なのだ? 何か聞いておるか?」

「いえ、メリッサ様の紹介状をお持ちで、それにはラムス様の特別な客人なので粗相のないよう書かれていました」

「姫様の客人なら、【カラスのクチバシ】を見つけてきても不思議ではないか? 高位の探索者か何かかもしれぬな」

「そ、それは、どうでしょう? 紋無しですから・・・」

 シモーヌは眉間にシワを寄せ小首を傾げている。

 この世界で無紋というのは、役立たずという意味に等しかった。

 探索者であれば、探索に特化した【紋】を持ち、探索系魔具を装備しているものだ。だが、彼はそうではない。

 それなのに、あの無紋Fランクはわずか小一時間で、超希少薬草を3種類も採取してきたという。

 あの小僧が何者なのか確かめる必要があるだろう。

 それはギルドの長《おさ》としての責務でもあった。




◇ ◇ ◇ 




 シモーヌがラムスの館を訪れたのは、正午過ぎのことだった。

 ギルド長と共に訪れたが、ギルバートはラムスの元へと向かい、シモーヌはメリッサを尋ねた。



 メリッサの元に通され、シモーヌは早速【カラスのクチバシ】を取り出した。

「早急にお知らせすべき事がありまして」

「何事か?」

「はい。カズキ様が、これを・・・」

「彼が? 何だ見かけぬ草だな? 薬草のたぐいか?・・・ところで、彼は無事ギルドに加入できたのか?」

 薬草に視線を落としていたメリッサは、小首を傾げながら顔をあげた。

「はい。規定に多少抵触しましたが、私の一存でFランクで登録しました」

「そうか、そなたに頼んで正解だったな・・・」


 再び薬草に視線を落とし数秒すると、メリッサの顔が驚きの表情に変わった。

「まっ、まさか・・・こ、これはっ!?」

「お分かりになりますか?」

「こ、これは【カラスのクチバシ】なのか・・・?」

「はい。最終的な確認をメリッサ様にお願いしたく参りました」


「我が翡翠眼でも鑑定出来ぬが、間違いなかろう。資料で何度も見たからな。ちょっと待て、薬草全書を取ってくる・・・ところで、これは?」

「先ほど、カズキ様が採取したと持ち込まれました」

「どこで採取したのだ?」

「東門前の林か、そのあたりだと思われます。出かけて1時間で戻りましたので」

「も、門の前・・・」

 メリッサの顔に困惑が浮かぶ。

 誰しも、そんな場所に激レア薬草が生えているなど思いもしない。

 しかし、紹介状を書いた彼女ですら、彼の探査能力を知らなかったのか。


 持ち運びするのも大変な分厚い本を広げ、メリッサとシモーヌは、それが【カラスのクチバシ】であるか確認した。

 本に描かれた植物とそれは、全く同じ物に見えた。


 茎の一部を切り取り、本に記載された通りに確認の手順を踏んでみる。

 特殊ポーションを混ぜ、魔法を使い混ぜ合わせていくと、本に記載された通りの色合いに変化していった。


 2人は顔を見合わせ頷き合った。

 この薬草が【カラスのクチバシ】であることは間違いなさそうだ。



「すまぬが、コレはコチラで預かるぞ」

「はい、そのつもりでお持ちしました」

「こんな物を集める特殊スキルを持っているのか? 彼は」

「あ、あの、彼は何なのですか? 私の左手も一目で見抜きました。あれはメリッサ様が教えられたのですか?」

 シモーヌは鎧に包まれた石化した左手に視線を落とした。


「人の呪いを他者に教えるものか。私は、紹介状をシモーヌという受付に渡せば融通を利かせてくれると言っただけだ」

「そ、そうなのですか・・・」

「そなたは有名人だからな。誰かに聞いたのかもしれん」

 小首を傾げた思案顔のメリッサには迷いが見える。切れ者千里眼と皆から一目置かれる彼女にしては珍しい。


「カズキ殿の詳しいことは、今のところ話せることはない。だが・・・」

 メリッサの口の重さが、あの男が只者でないことを告げている。

「何か?」

「アレは怒らせぬ方が良い。本気で来られると、我らでは太刀打ち出来ぬ」

「そ、そうなのですか? 高位の薬草採取師という訳では・・・」

「ああ、元は全然別物だ。元はバケモノクラスだったが、紋を失って無紋ザコになっているはずだが・・・」

「・・・・」

 シモーヌには、メリッサの言葉がピンとこなかった。

 彼女の言う我らには、彼女の主人ラムスや部下のS級剣士たちも含んでいるはずだ。地方領主ラムスで太刀打ち出来ぬ相手など、ギゴ中央軍本隊重装魔導騎士団くらいだろう。

 ならば彼は、ただ一人で一国の軍に匹敵するというのだろうか?


 メリッサ程の人物が、大袈裟な事を言うものだとシモーヌは思った。

 それ程、【カラスのクチバシ】採取は、メリッサや彼女の主人ラムスにとって重要な事だったのだとシモーヌは解釈した。




◇ ◇ ◇ ◇



 シモーヌがメリッサと面会している同時刻。

 ギルド長ギルバートは、館最上階ラムスの部屋を訪れていた。


「久しいな。元気にしておったか? 爺《じい》」

「ははーっ。姫様にはご機嫌麗しゅう」

 仰々しく挨拶したギルバートは、好々爺の面持ちを上げラムスに問いかけた。


「凄い藥師をお雇いになったのでございますな」

「ん? 言っておる意味が分からぬが」

 ラムスが本気で小首を傾げたので、ギルバートはギルドでの出来事を報告した。


 老人の報告にラムスは本気で驚き、そしてまるで少女のように歓喜した。

 鴉病で苦しむ子の親は、ラムスとは旧知の仲である。幼子とも遊んでやった思い出が沢山あった。

 

「そうか・・・そうか、ついに見つかったのか・・・それも、彼の者がな・・・」

 ギルバートの説明を聞き、ラムスは何度もうなずき喜びを噛み締めていた。

 それから彼女は少し悩んだが、ギルバートにカズキの正体を告げた。


「アレは、そなたらが城に運び込んだ呪われ人じゃ」

「はっ! はあぁぁぁっ!? す、すると、アーク・ドラゴンを滅した勇者・・・でございますかぁ!?」

「その通りじゃ。焼けただれた顔も完治していたので、分からなかっただろう」

「し、しかし、呪いが・・・」

「うむ。本人に言わせると、姫様の力で呪いは浄化されたらしい」

「せ、聖女の力でございましょうや?」

「うむ? その辺りは微妙なところじゃ・・な・・・」

 ラムスの歯切れは悪かった。

 そもそも、聖女としての能力が発現するには、まだ彼女は幼すぎた。

 幼き姫君の話になると、ラムスの表情は曇ってしまう。

 何も出来ぬ己に絶望し、どんどん暗くなってしまうのだ。


 ギルバートは、すぐに話しをカズキに向けた。

「な、なるほど。さすれば、勇者時代に薬草の目利きが出来るようになったということですかな?」

「うーん。それは、どうかのぉ?」

「違うのでございますか?」 

「アレは見た目とは違う力を持っておるようじゃ。色々とな・・・」

「なんと、勇者紋を失って能力を維持しておるのでございますか?」

「うむ、その可能性は高いが、よく分からぬ」

「なぜ、そう思われるのでございましょう?」

「昨夜見たのだ。この部屋で・・・」

「何を・・・」

「巨大なマナの集合体だ。鑑定眼を持たぬ妾にも見えた。巨大マナを・・・メリッサでも測定不能のマナを溜め込み、発動させようとした魔法は、スーパーフラッシュと言っておったそうじゃ」

 ラムスの険しい表情を見れば、それが真実であろうことは察することが出来る。


「スーパーフラッシュなど、そんな魔法は実在するか怪しい術式ですぞ」

 好々爺の顔から笑顔が消えていた。

 何の根拠もなしに怯えるような女性でないことを、ギルバートは知っていた。


「そなた。館に登ってくる途中、何かに気づかなかったか?」

「おおっ! 中腹に鎮座しておりました【魔抗石】が消えておりましたが?」

「あれは今朝方、カズキ殿が出掛けに吹き飛ばしたらしい」

「な、何とっ!」

 ラムスの説明に、ギルバートは絶句した。

 あの巨大魔抗石は、この館が建てられた時から、あの場所に鎮座する巨岩だと伝わっていた。

 【魔抗石】とは、魔法の力を無効化できる不思議な石である。

 そもそも【魔抗石】に魔法攻撃は効果がないはずだ。



「あの巨大魔抗石を粉々にする雷撃攻撃。それを1000発同時に放とうとしたのだ。私は恐ろしいのだ」

「そのような怪しげな者、お手元に置いてよろしいので?」

「だがな、そのバケモノは我らが姫様の呪いを何とかしようとしておる」

「姫様のことを承知しているのでございますか?」

「いや、それは知らぬ。ただ、救われた恩は感じておるようじゃ・・・それにな、地底湖の魔物とも、意思疎通ができるようなのでな」

「あの化け物と・・・」

 ギルバートは息を飲んだ。


 彼も、部下のAランク冒険者を引き連れ、幼き姫君を奪還すべく、地下で化け物と戦ったのだ。

 戦ったと言えば聞こえはいいが、現実は何の手立ても打てず引き下がったというのが実情だった。

 姫君がいることもあり、攻撃魔法を使えなかったという言い訳もできたが、魔剣を持ったS級A級剣士十数人がかりで攻撃しても、あの化け物はビクともしなかった。

 それどころか、明らかに高位魔法を放つ気配を見せ、彼らを退かせたのである。

 あの大きな一つ目に光が灯っただけで、ギルバートは死を覚えた。



「そこでじゃ」

「ははっ」

「そなたも、カズキ殿の援助をして欲しい。そうすることで、我らが姫様の未来に光明が差すやもしれぬからな」


「あの若者に何が出来ましょう?・・・」

「見た目はな。だが、アークドラゴンを滅したほどの者なのだ。見方を変えれば、あ奴に出来ぬ事は無いやもしれぬ」

「それほど、あの若者を買われているのでございますか?」

「まあ、藁にもすがりたいということじゃ・・・だが、【カラスのクチバシ】を採取してきたということは、藁が大きな丸太に格上げしたように思えるぞ」

「そうであればよろしゅうございますが・・・」

 ギルバートは半信半疑でうなずいた。

 何にしても、【カラスのクチバシ】が見つかったことで、ラムスの悩みが一つ解決したのは間違いない。

 

 ギルバートは話を切り替えた。

「ところで話は変わりますが、不穏な動きも察知しましたので、ご報告を」

「何事だ?」

「はい。境界のゴブリン共に大きな動きがございます」

「あれか? 魔境支配者、主《ぬし》様の留守に乗じた動きか?」

「それもございますが、どうもペイの国絡みではないかと」

「なんと! どういうことだ?」

 ラムスの表情が険しくなった。

 アークドラゴン討伐事件以来、ペイの国に対する警戒心はギゴの国で急速に高まっていた。


「おそらくは、何らかの工作ではないかと」

「何か証拠はあるのか?」

「ペイの商人がゴブリンに武器を流している証拠を掴みました」

「ゴブリンに武器を売っておるのか?」

「いえ、無償で与えている様子でございます。また、苗床となる女までも送り込もうとしていた形跡がありました」

「将来的な侵略の前触れか?」

「詳しくは、まだ何とも」

「ペイの国の動向も気がかりでございますな」

「うむ。カズキ殿の話から察するに、アークドラゴン討伐は偶然の産物らしいがな・・・」

 ギルバートの報告に、ラムスは多少眉を潜めた程度の反応だった。

 


「分かった。ゴブリンの動きに目を離すでないぞ」

「はい。境界のテセト村に、Bランクパーティーとレンジャーを派遣しております」

「うむ。ぬかりはないということだな」

「しょせん、ゴブリンですので」

「うむ。主様のことも気がかりではあるな」

「もっとも、主様のお姿は、もう何年もまともに目撃されておりませんので」

「だが、あの威圧する闘気が空にないというのは、この地に住む者として少し物足りぬというか・・・不安でもある」

「さようでございますな」

「また、どこかの馬鹿共が魔界侵攻など企てておるようだしな」

「魔界の主《ヌシ》樣に、大陸守護者《アークドラゴン》まで失っては、これからどうなることか」

「新しい時代の幕開けでございますな」

「ああ、だが、新しき時代の主《あるじ》は、我が姫君であってもらわねばな」

「まことに・・・」



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