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19.追跡者と武器屋のジジイ

 ギルドに戻ると、採取してきた薬草をカウンターに取り出した。

 メルルに「お願いね」と指示したシモーヌは、振り向き微笑みつつ言った。

「薬草鑑定を致しますので、あちらで少しお待ち願えますか」


 言われるままソファーの並ぶ待機場所に移動し腰を下ろす。顔を上げると、シモーヌは固い表情でメルルに何か指示していた。


・・・マジ、不安しかないんだが・・・


「ただの雑草でした」そうシモーヌが告げる場面が思い浮かぶ。

 しかし、ここで一番問題なのは【竜眼】の精度だ。

 採取してきた薬草が、本当にただの雑草だった場合、問題は深刻だ。

 ただ、使っている感じでは【竜眼】の性能に疑いの余地がないのも確かだ。


 ドキドキしながら結果を待つ。

 手持ちぶさたで、手に持った袋を覗き込む。

 そこには、ポツンと小さな薬草が残されていた。


・・・これ、渡さなくて正解だったな・・・


 薬草を見詰めるとデータが浮き上がる。

【バジリスクの尻尾】『効用・バジリスクの呪いによる石化作用の緩和 (最大92%)』『石化解術効果無し』

 シモーヌにあげたら喜ぶと思ったが、これの効用も怪しいのかと思うと凹む。安易に渡してただの雑草だったら、トラウマ物の失態だろう。


 それから少しして、シモーヌが早足で歩いてきた。固かった顔が、微妙に違う表情に変わっている。少し困ってるような、そんな感じだ。

 そして、歩き方が何だか少し女子だ。

 僕の前まで来たシモーヌは丁寧にお辞儀をした。

「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、鑑定終わりました?」

 僕の問に、シモーヌが再び頭を下げた。


「とても貴重な薬草ばかりで、鑑定に時間が掛かっています。今少し、お時間頂けますでしょうか?」

「ああ、そうなんだ」

 僕は内心凄くホッとしていた。

 雑草じゃなかったんだ。

 【竜眼】やっぱスゲー!


「どれくらい? 2.30分くらい?」

「い、いえ、それが、かなり特殊な薬草ばかりのようで・・・鑑定魔具がエラーの連発で・・・」

「そ、そうなんだ・・・」

 鑑定装置が【雑草】と鑑定しなかっただけ、ラッキーだったと思った僕は、何気に頭に浮かんだ疑問を口にした。


「ん? 【女神の雫】とか普通にポーションの原料じゃなかったかな?」

 つたない知識と【竜眼】のデータに紐付けられた情報を、適当に言ってみた。


「えっ! 【女神の雫】が含まれているのですか? あれはS級最上位ポーションを造る為の特別な薬草ですっ!」

 クールビューティーの驚きの表情に、僕の方が驚かされた。

 S級ポーションが貴重なことくらい僕も知っている。ただ、元勇者だった僕は日常的にそれを使っていた。レベル上げの戦いで、死にかけたり大怪我をしては、S級ポーションの世話になったものだ。


 そんなに貴重な物だったのかと思っていると、リリの顔が思い浮かんだ。

 リリの血を吸った包帯は、S級ポーションの何十倍も凄いはずだ。そうやって考えると、リリの凄さは頭抜けていることに今更ながら気づかされた。

 今も、僕のポケットにはリリの包帯が忍ばせてあった。何かあったときの用心に持ってきていた。


「じゃあ、1時間くらい待つことになるのかな?」

 僕の問にシモーヌは美貌を曇らせた。


「それは何ともお答えしかねます。【女神の雫】意外の薬草も、私どもの【真実の鏡】では鑑定不可能と出てしまいました」

「えっ! じゃあ、どうするの?」

「ハイレベル薬草辞典という書物で確認することになります。手間取ってしまって申し訳ありません」

「ああ・・・時間掛かりそうだね・・・」

 僕は遠い目でシモーヌを見た。飛び切りの美人で強くてクールなお姉さんだと、少し敷居の高い印象だったが、僕の中で確実に好感度が上昇していた。少し駄目なお姉さんだと思うと、話しやすくなった気さえしてくる。


「そ、それでですねっ。他の薬草の情報もいただければ助かります・・・」

 シモーヌは、かなり言いにくそうにモジモジしながら言った。

 

・・・何だ。この態度の変化は?・・・


 Fランクのゴミ冒険者に質問する自分に恥じているのか何なのか・・・

「強壮剤系と風土病の薬草があったと思うよ」

 僕は少し偉そうに言っていた。

「その情報を元に調べますね」

 シモーヌのしゃべりが、何気に可愛くなっている。

 はにかむ笑顔に惚れそうだ。


 時間が出来たので、他の用件を済ませることにした。

「僕、待ち時間を利用して買い物に行ってくるね。一時間くらいで戻るから」

 そうシモーヌに言い残しソファーから立ち上がったところで、人影が動いた。


「こんにちわっ! 初めましてっす!」

 ギルドを出ようとした僕の前に、笑顔の元気少女が飛び出してきた。

 小柄で赤毛のショートヘアが似合う女の子は、目の前でニカッと笑った。


「自分っ、ギルメンのラスタって言います。初めましてっす!」

 その明るさに圧倒され、僕は言葉が出てこなかった。


・・・な、なに?・・・


 僕の反応など構わず少女はしゃべる。

「新人さんでしょ? ラスタはEランクっす。あたいのパーティー、メンバー絶賛募集中っすよ。一緒に冒険しましょっ!」

 可愛く小首を傾げたラスタと名乗った少女は、馴れ馴れしく腕に触れてきた。

 美少女のスキンシップは歓迎だが、ギルドメンバー同士の交流はこんな感じなのかと困惑する。ギルド受付を訪れた際に出くわしたオヤジたちとは態度が違いすぎる。


「えーっと、名前聞いてもいいっすか?」

「あ、ああっ、カズキだ」

「カズキさんっすか。低レベルは低レベル同士で助け合うっす」

 ラスタと名乗った少女は、かなり小柄で童顔だ。

 こんな子供が冒険者Eランクなのかと思っていたら、彼女の頭の上に【竜眼】のデータが表示された。


・・・ええええっ!・・・


 データの内容にドン引きした。

【隠遁レベル8】【隠密剣レベル20】『補足事項 追跡者』


・・・追跡者・・・追跡者って事は、あいつかっ!・・・


 なんとラスタは、ラムスの館を出たところから尾行していた奴だった。

 素性が分かり、僕の気持ちは一瞬で萎えた。

 まともに相手をするだけ無駄だと頭を切り換える。


「なあ、ラスタ」

「なんっすか? 一緒に薬草狩り行くっすか?」

「いや、この辺でパン屋と雑貨屋と武器屋はないかな?」

「それなら案内するっすよ」

「そうか、いいのか?」

「大丈夫っす。ラスタ暇っすから」

 ニッとラスタは屈託無い顔で笑った。

 ガキにしか見えないがスパイだと思うと、見る目が違ってしまう。

 

 ラスタとギルドを出ようとしたところで、奥から美少女が声を掛けてきた。

「ちょっと、ラスター」

 その声にラスタは大きく手を振って僕を見上げた。

「ごめんなさいっす。メンバーが呼んでるっす」

 ラスタは近所のパン屋と雑貨屋の場所を早口で説明し、駆けていった。


・・・暇じゃなかったのかよ・・・


 【追跡者】とフラグの立ったラスタの後ろ姿を見つつ、僕はギルドを出た。

 町の中は徐々に人が増え活気づいている。

 雰囲気というか規模は、かなり活気に満ちた町みたいだ。

 焼きたてパンの香りを嗅ぎつつ、外からパン屋を凝視する。美味しそうなパンをチェックだけすると、開店したばかりの雑貨屋へ向かった。


 雑貨屋に入り必要な物を探す。

 うーん、これはかなり困難な闘いになりそうな予感がする。

 店員は若い女性が2人だけで、客は僕1人だ。

 買いたい物は、リリの衣服や靴など幼女用の物ばかりだ。

 店員に幼女用の肌着くださいとか、言えない・・・ハズい。


 自力で探してカウンターに持っていこうと試みるが、幼女用肌着がどこにあるか分からない。そもそも下着は雑貨屋に売ってないのか? また靴も見当たらない。

 聞いた方が早いが人と話すのが苦手な僕に、このミッションは敷居が高かった。

 店内を3周したところで、僕はあきらめた。

 このミッションは適当な理由をつけメリッサにでも頼むことにした。

 最初からそうすれば良かったが、衣服や靴を揃える理由は、館から脱出する場合に備えてのことなので、館の人間には頼みづらかった。


「これ下さい」

 店内を3周して買ったのは、飴をひとつ。



 それから、数件隣の武器屋へ行った。

 初老の爺さんが店番をするそこは、雑多な武器武具とポーションが揃っていた。小さな店にしては、なかなかのセンスだ。


「おい。見ねえ顔だな」

 爺さんは不機嫌そうに僕を見た。

 やたらと目付きが鋭い爺さんだ。

「今日、ギルドに登録したんだ。よろしく」

「へん! 何をよろしくするんだ」

 爺さんは吐き捨てるように言った。

 客と思われてないようだ。

 偏屈そうな爺さんだが、気にせず店内を見渡してみる。


 うーん。【竜眼】反応しないな?


 厳密に言うと、置かれている武器や武具にポーションのランクまで、【竜眼】は全て読み取ってくれた。

 だが、凄い反応を示す物は無い。

 やはりビリビリ剣と同じで、右手で持ってみないとレベル120に同期するか確認出来ないみたいだ。


 面倒だ。

 そう思いつつ、立てかけられた剣に杖に槍を無造作に右手で掴んでいく。


【ソード・レベル5】【杖・レベル5】【魔剣・レベル6】【火剣・レベル6】

 値段の安い剣は、それなりにショボい剣だ。

 無造作に置かれた剣や杖を全て握ったが、掘り出し物は見当たらなかった。

 試しに左手【アークドラゴン紋】で数本握ってみたが、エラーしか出ない。

 壁にかかる剣を見せてと目で訴えたが、爺さんは「フン」と鼻息を荒くしただけで無視された。相手にされてないようだ。

「そこの剣と槍を見たいかなぁ?」

 壁を指差し言葉を絞り出すと、爺さんは「チッ」と舌打ちを繰り出してきた。

 前の世界で、やたら舌打ちする同級生がいたが、そいつ以来のリアルな舌打ちはマジ気分が悪い。

「予算いくらだ? 金貯めて出直した方がよくないか?」

 首から下げたFランクカードを見て、爺さんは意地の悪い笑みを浮かべた。

「俺、一応客なんだけど・・・」

「ふん、買う気があるなら金を見せてみろ」

 露骨な要求に僕は呆れてしまった。

 この異世界の商習慣に詳しくないが、まあ、低ランク冒険者に対する扱いは、こんなものなのかもしれない。


 確かに、壁に掛かるレベル20の武具を使えば、ランクが一気にDランクに跳ね上がる。Fランクが、そんな大金を持ってるはずがないというのは当然なのだろう。

 だが、使えそうな武器は必要だ。

 魔物を狩って左手のレベル上げにチャレンジしなければならない。

 その為にも、予備の武器が欲しかった。

 また、違う思惑もある。

 右手レベル120が使える杖が欲しかった。

 出来れば浄化スキル付きが欲しい。

 手に入れられれば、リリの呪いも浄化できるのではないだろうか。


「ほら金貨。あと、ギルドに【女神の雫】とか買取を依頼してるから予算は増える」

 手持ちの金貨を取り出し、買取依頼中だと伝えると爺さんの顔がゆがんだ。


「はぁ? お前は馬鹿だろ」

「じ、爺さん、流石に失礼だぞ」

「何を言う。【女神の雫】はS級ポーションの材料じゃ。Aランク薬師でも年に1度採ってこれるかどうかの激レア素材なのじゃ。お前なんぞに・・・ん?」

 爺さんは僕を値踏みするというか、小馬鹿にするような視線で見ていたが、腰のショートソードに目を止めた。


「おまえ、その剣、どこで手に入れた? 物の価値とか理解しとるのか?」

「やはり、この剣は凄い剣なのか?」

「ん? 凄いと言えば凄いが、剣としては凄くないぞ」

「はぁ? 意味不なんだけど・・・」

「若い奴は物を知らんからな」

「教えてよ、爺さん」

「その剣はな、言わば骨董的な価値が・・・」

 爺さんが僕に手を広げ突きだしてきた。

 剣を見せろと言いたいようだ。

 渡すのを躊躇《ちゅうちょ》したが、情報は欲しい。

 爺さんに【雷撃剣】を渡した。


「これはの、俗に言うところの【始まりの剣】の・・・」

「の?」

 何だか凄そうな名前ではないか。

「【始まりの剣】の複製品だ」

「えーっ。偽物かよ・・・」

 力が抜けた。


「馬鹿じゃな、お前は」

「知らない人間に、バカバカ言うなよジジイ」

「ふぉふぉふぉっ」

 ジジイ呼ばわりされた爺さんは、なぜか上機嫌だ。

「うーむ。こんな剣を持つくらいだからな・・・【女神の雫】の話しも本当なのか・・・おい小僧」

「ん? 何だ。ジジイ」

「【女神の雫】は、まだ採れそうなのか?」

「ああ、似たのがあったような気がするから、まあ・・・多少は採れるだろう」

 とりあえず適当に返事をした。

「なら、今度ワシの所に持って来い。ギルドより高く買ってやるし、店の武具も試したい放題にしてやるわい」

「ああ、まあ、いいが・・・そうだな、今日の午後か明日には採ってくるよ」

「はぁ? そんな近場にあるのか?」

「ああ、すぐそこの林にあったけど」

「・・・・・」

「ん?」

「まあ、お主のホラ話を信じるのも一興じゃな」

 そう言いった爺さんは、口元に笑みを浮かべ【雷撃剣】を返してくれた。

「なあ、【女神の雫】って、そんなに貴重な薬草なのか?」

 爺さんは鼻で笑い、小馬鹿にした視線を再び向けてきた。

「馬鹿じゃの。ポーションの素材は高いんじゃ。そんなことも知らんのか?」

 知らないから聞いてるんだよ、ジジイ。

 いちいち腹の立つジジイだ。


「命は金で買えぬ。そういうことじゃ」

「ふーん」

 まあ、言われてみればもっともだ。

 勇者として利用価値があった頃、王女は湯水のごとくポーションを俺に使っていた。その為なのか、ポーションの価値を俺は理解してなかったのだ。


 知りたい事、尋ねたい事が色々ある。

 次に薬草を採ったらジジイに売ろう。

 そうすれば、もう少し色々情報を仕入れられるだろう。

「なぁ? 【始まりの剣】の本物は、買えたりしないのか?」

「はぁ? お前は、本当に馬鹿なのか?」

「お、おい・・・」

 さすがに腹立たしくなり、雷撃剣に手を添えた。少し脅してやろうと思ったが。

「やめておけ、ワシは強いぞ。お前など一捻りじゃ。だが、馬鹿馬鹿言ったワシも悪かった。許せ」

 ジジイの口調が少し変わった。

 強そうに見えないが・・・


 そう思案したところで、ようやく【竜眼】が爺さんに反応した。

 ただの武器屋の老主人と思っていたが、紋持ちだった。

【爆裂紋レベル32】という表示が浮かぶ。装備次第でSランクになれそうだ。

 そんな爺さんが、なぜ武器屋の店番なのだ?

「ワシに向かってくる気概は誉めてやる。だが、【始まりの剣】の事も知らず冒険者になろうなど、それは冒険者や魔法に対する冒涜じゃ」

「どういうことだ?」

 俺の問いに、ジジイは魔法の始まりを簡単に教えてくれた。


 ジジイの話しによれば


 太古の昔。魔物に狩られ餌でしかなかった人族は、エルフ族の王から一本の剣を授けられた。その剣は【始まりの剣】と呼ばれ、その剣を模造して造られた剣を元に、人族は多様な魔具を造り出すようになった。

 魔法紋にしても、元はと言えば【始まりの剣】を研究していた大魔道師が考案した物らしい。


 その説明に俺は小さく溜息をついた。

 少し気が抜けたと言っていいだろう。

 いや、落胆したと言えるかもしれない。

 ラムスの館で、たまたま俺の右手に同期する剣を見つけたが、どうも世の中にはこれ以上に都合のいい魔具は、そうザラに存在しないように思えたのだ。


 密かに思い浮かべていた予定では、右手レベル120で使える浄化系魔具を手に入れ、リリの呪いを取り除けばいいのではと考えていたのだ。

 その思惑に無理があると感じた俺は、武器屋を後にした。

 爺さんが高レベルの紋を持っていることが分かったのは、多少の収穫だった。

 年齢と経験から多少の情報は仕入れられるだろう。


 また、呪いを解除できる薬草について訪ねたが、爺さんの答えは簡単だった。

「薬草で解ける呪いなど、呪いのうちに入らぬわ」

 そう言って、爺さんは再び「馬鹿じゃの」と言って笑っていた。

 

 武器屋を出て人の多くなった大通りで立ち止まり、【アークドラゴン紋】の左手を見詰める。

 右手でリリを救えない可能性を見いだせないなら、左手を何とかするしかない。


「また、ゴブリン殺すのか・・・」

 そう呟き、パン屋へ足を向けた。

 


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