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17.薬草採取とぬか喜び


 ギルドを後にして街の外へ向かう。

 昼には館に戻るので急がねばならない。


 早足で歩き始めると、すぐに左目が反応した。

『追跡者を再捕捉』 

 振り向いたが追跡者は建物の影に隠れていて姿は確認できない。

 しかし、そのデータから、ラムスの館から跡を付けてきている奴に間違いない。

 戻ってきたようだ。

 

 城壁を抜け橋を渡り、近くの林へ向かう。追跡者は一定の距離を保ち追ってくる。

 かなりウザい。

 勇者紋の附属スキル隠遁でもあれば簡単にまけるのだが、今の僕には身を隠す術《すべ》はない。


・・・さて、薬草探しだが・・・

 魔物を倒すことだけに集中してきた僕に、薬草を見つけるスキルは無い。一般的な薬草の名前さえ、僕は知らないのだ。


 だが、林の手前にある草むらに、左目【竜眼】が反応した。


・・・予想通りで、マジラッキー!・・・


 右目にはただの草にしか見えないが、左目には『薬草』と表示された草が、あちこちに生えていた。

 何て便利なんだこの【竜眼】

 一番近くにある薬草に手を伸ばすと、薬草の名前に効用まで表示してくれた。


【女神の雫】『S級ポーションの素材』と表示された。

 いきなりかよ・・・薬草取り尽くされてるんじゃないのか?


 城塞都市から近い林の為か、薬草採取と思われる人間が何人も居た。

 皆、下を向いて薬草を探しているが、採れている雰囲気は皆無だ。

 そんな中、僕だけは【竜眼】のフラグに直進しては薬草を摘み取るという、超簡単な作業を繰り返した。

 

 S級ポーションの素材からS級強壮剤に風土病の薬草まで、わずか30分ほどで袋一杯になった。

 一般的な薬草が皆無だったので、普通の薬草は採取され尽くしているのだろう。


・・・さて、この薬草が金になるかだな?・・・


 顔を上げ周囲を見回す。離れた林の奧にも、薬草の在処を示す赤いフラグが幾つもあった。

 【竜眼】が機能する限り、薬草採取には苦労しないように思える。今日採取した薬草が思惑通り換金できればの話だが。


 ギルドに戻ろう。そう思い視線を城壁へと向ける。丘の上にラムスの館が見える。

 館を見ながら地下に置いてきたリリのことを考える。するとリリとカエルさんのフラグが館下部に浮かび上がった。

 よく分からないが、左目はどんどん性能が上がっている気がする。それに比べ【アークドラゴン紋】を宿した左手はサッパリだ。

 再度左手を【竜眼】で見たが何の変化もなかった。


【アークドラゴン紋】のレベルを上げてどうなるという、漠然とした疑問もあった。右手のレベル120が使えるのだから、この右手を使って何かが出来ればと昨日から考えているが、妙案は浮かんでいなかった。


 町へ戻るため歩き始めたところで、ふと思った。

・・・呪いに効く薬草とかないのかな?・・・


 すると、それまで左目にポツポツと赤く点滅していた薬草のフラグが、一瞬で全て消えてしまった。

 ようするに呪いに効く薬草が周囲に無いということだろう。

 都合よくは行かないなと思いつつ、立ち止まり周囲を見回した。

「えっ!」

 視界の端、林の奥にフラグが立っていた。

「マジかよっ!」

 無意識に走り出していた。リリの呪いを解く薬草があった。そう思った。

 最短距離で駆ける。藪を突き抜け顔や手足に棘植物が絡みつき肌が引き裂かれたが、そんなことで足は止まらなかった。


「これだっ!」

 フラグの立った植物に手を伸ばす。見た目、多肉植物に似ている。小さなアロエといった感じだ。


 一瞬、どう扱うべきか迷っていると【竜眼】に情報が流れた。


【バジリスクの尻尾】『効用・バジリスクの呪いによる石化作用の緩和 (最大92%)』『石化解術効果無し』


 リリの呪いとは無関係だと分かり、ガクッと力が抜けた。

 そう都合よくは行かないということだ。

 リリに使えないなら扱いを迷うこともない。無造作に引き抜き袋へ押し込んだ。


「呪いに効く薬草・・・呪いに効く薬草・・・」

 呪文でも唱えるように、ブツブツ呟きながら周囲を再び見渡したが【竜眼】に反応はなかった。


 そこで少し閃いた。

 呪いに関連する薬草が存在するなら、薬屋に行けばリリの呪いを治せる薬草なり薬もあるかもしれない。

 ラムスの言葉を信じていない訳ではないが、確認する必要はあるだろう。また、何らかの情報も薬屋なら得られるかもしれない。

 この異世界における薬屋は、武器屋と同義語になる。

 僕は早々に薬草採取を切り上げ、ギルドに戻ることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



 ギメルの町は川沿いに堅固な城壁を配した半城塞都市だ。

 ギルドでの説明によれば、川から数キロ離れると魔物の棲む樹海になるそうだ。

 来た道を戻り橋を渡り門にさしかかると、警護兵士と目が合った。

 出る時はチェックもなかったが、町に入る者には目を光らせているのだ。


「お前、見ない顔だな? ん? ギルドの冒険者か?」

【兵士紋レベル5】に【軍刀レベル5】を装備した兵士が僕を睨む。

「えっ、ええ、そうです。今日ギルド登録したばかりで・・・」

「どこの人間だ? こんな時期にヨソ者を入れるなどギルドの奴らは」


 兵士は、ギルド受付嬢メルルと同じような事を言った。「こんなご時世」とか「こんな時期」って、何かのシーズンなのだろうか?


「お前、出身はドコだ? どこの宿を使ってる?」

 立て続けの質問に、僕はあせってしまい上手く返事を返せなかった。

 問い詰める兵士に別の兵士も加わり、僕は簡単に追い詰められた。

「いやっ、あのっ・・・」

 自分でも情けないほど言葉が出てこない。そんな僕を見て、兵士たちは眉間にシワを寄せていく。


「こいつ怪しいな。ペイのスパイではないか?」

「えっ、えええっ・・・」

 僕は本気でドキッとしてしまった。【翡翠眼】のメリッサに、ペイから来たとだけは口外しないように言われていた。


「隊長、こいつ露骨に怪しいですっ!」

 兵士の1人が、門の前で商人と談笑していた大柄な男を呼んだ。


【重装甲紋レベル19】に【剛剣レベル20】の剣を持っている。この門の警備隊長といったところだろうか?


 ゴツく凄味のある髭の隊長さんも加わり、兵隊たちが僕を取り囲む。

「貴様っ、どこの出身だ?! 名前は?」

「えっと、名前はカズキ・・・出身は、が、ガーラムで・・・す・・・」

 僕はメリッサから教えられていた地名をしどろもどろに答えた。


「ガーラムだと?」

「ああ、あの辺境の」

「ふむ」


 兵士達の反応はそれぞれ微妙に違う。

 髭の隊長さんは穏やかな表情で僕を見てくれているが、他の2人は犯罪者を見る目で僕を睨んでいる。

 兵士の視線が腰の【雷撃剣】へと向けられた。


・・・ヤバいな・・・


 【雷撃剣】を奪われると、僕は何も出来なくなる。

 奪われるくらいなら戦うしかないが、先制攻撃をする度胸もなかった。

 昨夜は人を殺してもと思ったが、今ココで剣を抜けば大騒ぎになりそうだ。


 最悪の事態を回避するためシールドを使う。

 腰の【雷撃剣】に右手を乗せ、シールドオートを念じる。

『自動防御システムが起動しました・・・』

 左目にデータが流れる。


・・・やれやれだな・・・


 シールドの起動を確認し、緊張が少しだけやわらいだ。


「Fランク冒険者か・・・宿はどこを使ってる。兎亭かイサミ屋か・・・」

 首から下げた僕のギルド認識票を読みながら兵士が再び質問してきた。


「あ、あのっ、ラムスの館で・・・す・・・」

 兵士の質問に僕は素直に答えたのだが、速攻で怒声が浴びせられた。

「なっ、なにーっ!」

「貴様っ! ラムス様を呼び捨てにするとはっ!」

 兵士2人が鬼の形相に進化した。凄い怒りようだ。

 そして、それまで穏やかな笑みを浮かべていた髭の隊長から笑みが消え、鋭い眼差しが向けられた。


「なぁ、若いの。お前の言ったことに少しでも嘘があれば、ただでは済まぬぞ。我が主君を愚弄した罪、許さぬぞぉ!」

 髭の隊長さんも本気で怒っている。完全に地雷を踏んだらしい。

 うーん、ヤバいかもしれない。


「で、では、ギルドに行きましょう。受付のメルルに聞けば、誤解もとけるはずで、ですぅ・・・」

 その僕の提案に、隊長さんは険しい表情のまま、部下に命じた。

「行く必要などない。誰かギルドの受付を呼んでこいっ! いそげっ!」


 やり取りを少し離れた場所から見ていた兵士が、命令を受け走り出した。

 よく訓練された兵隊だ。

 そして、そのよく訓練された兵隊たちが、5人ほど増え僕を取り囲んだ。

 もしかしたら、絶体絶命かもしれない。

 もしくは惨劇の始まりか・・・


 ギルド受付嬢が来るまでの間、僕は最悪の場合をシミュレーションした。

 難癖をつけてきた兵士の言いなりになるつもりはない。

 【雷撃剣レベル123】を使ってこの場を切り抜け、館へ向かいリリを連れ脱出する。それしかない。


 そして、それを邪魔する者に容赦はしない。

 厳密には、手加減する余裕などないのだ。確実に敵対者は滅していく。

 僕は腹を決めた。

 この兵士達も攻撃してくるなら殺すだけだ。

 そう考えると、なぜか緊張感が消えていた。


 そして、僕は頭で念じた。

【電磁砲】スタンバイ・・・

 すぐに左目にデータが流れた。

『電磁砲発射準備・・・発射可』


 電磁砲は大型魔獣攻撃や城攻めに使う強力な魔導攻撃スキルだ。

 一撃で、ここの守備隊程度は全滅させられるだろう。それに被害は限定的だと思う。【スーパーフラッシュ】に比べれば・・・


 さて、どうなることか。


 髭の隊長さんは不機嫌な顔で僕を睨んでる。

 他の兵士たちはニヤニヤと小馬鹿にした目で、僕を見ている。

 Fランク冒険者がたった1人、ザコだと思うのも当然だ。


 しかし、そのザコに殺されると分かった瞬間、彼らは何を思うだろう。


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