16.ギルド登録
【冒険者ギルド】
魔物討伐を主たる目的とした冒険者の組合である。
国によって違いはあるが、基本的に軍は他国や内乱から国を護る組織であり、魔物から人々を護る組織が冒険者ギルドになる。
災厄級魔物の討伐は、ギルドに軍に騎士団などが投入され総力戦となるが、平時における魔物退治の主役は冒険者の仕事だ。
冒険者ギルドは魔物に苦しむ人々から依頼を受け、冒険者たちにクエストという形で討伐を割り振っていく。
冒険者はギルドに登録することでクエストを受けられるようになり、その報酬で生計を立てている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
・・・ペイの冒険者ギルドとは雰囲気が違うなぁ・・・
町の中心に建つ冒険者ギルドは、重厚な雰囲気の立派な建物だった。
入り口を前に、急に緊張してきた。
ペイで勇者をやっていたときは、全てを王女に管理され暮らしていた。そして、元の世界で、カズキはインドア派の学生だったのだ。
この世界の一般常識も乏しく、どちらかと言えば内向的で人見知りな彼だが、それでもリリの事を思うと身体は動いていた。
ギルド内に足を踏み入れると、すぐにカウンターのエルフ嬢と目が合った。
「こんにちは。見かけないお顔ですね。冒険者志望の方ですか?」
「えっ、う、うん・・・そ、そう、です・・・」
緊張で口が回らない。
この世界に来て魔物退治には慣れたが、対人スキルはダメダメなままだ。
特に若い女子と一対一だとフリーズしてしまう。
自分でも分かっているが、苦手なものは苦手なのだ。
【エルフ】【鑑定眼レベル10】【真実の石レベル8】と竜眼にデータが流れた。
「こんな御時世に冒険者を目指すなんて、立派な心がけですね」
明るい笑顔の、とても人当たりの良さそうなエルフ嬢だ。
何が「立派な心がけ」なんだ?と突っ込みたいが、口には出せない。
「私の名前はメルル。それでは少し確認させてください」
「えっ、あっ、そ、そうなの?・・・」
彼女の笑顔に見とれた僕は、手招きされるまま前に進んでいた。
「右手を見せてください」
「・・・・・」
メルルと名乗った受付嬢は、見た目10代半ばに見えた。彼女は僕の名も聞かぬまま右手の甲を確認すると、顔を上げ微笑んだ。
「使用武具も鑑定させてくださいね」
「こ、これ・・・」
言われるまま唯一の武器を手放した。
剣を渡し、すぐヤバいと思ったが身体は動かなかった。
メルルは僕の右手と【雷撃剣】を、その【鑑定眼】でガン見し始めた。
ギルドのドアをくぐって、ものの数分しかたってないというのに、僕はまな板の上の鯉状態だ。
僕の値踏みが始まると、近くにいた冒険者たちがニヤニヤした顔で寄ってきた。
なぜ笑われてるか分からず戸惑っていると、メルルが暗い声をもらした。
「あ、ああぁぁぁ・・・剣はこれだけですか?」
「うん。この雷撃剣だけ・・・だけどぉ・・・」
「レベル3の剣だけ・・です・か・・・紋もありませんし・・・」
メルルの笑顔が消え、少し表情を硬くし貌をあげた。
「そ、そうだ。お名前を伺っていませんでしたね」
「そ、そうだったね。僕はカズキ」
何か気の利いたセリフを続けたかったが、何を話していいか分からない。
2.3秒間が空き、メルルが視線を外した。
「カズキさんには、まだ、ちょっと、冒険者登録は早いかもです・・・」
視線を外したメルルの目が死んでいる。
「え、えええっ・・・」
メルルの言葉に、僕は情けない声を吐いてしまった。
完全に想定外だ。
僕は誰でもギルドに入れると思っていた。ペイの国で聞いていたギルドのシステムは、完全歩合制なので誰でも冒険者登録は可能だと教えられていたのだ。
「あの・・・もう少し、その・・・レベルを上げてから来てください。合計のレベルが最低で5はないと冒険者審査は難しいです。できればレベル10あれば・・・」
申し訳無さそうな顔で、メルルは【雷撃剣】を返してくれた。
「紋無しでビリビリレベル3だとよぉ」
「度胸だけはAランクだなぁ」
背後からの「ギャハハ!」とあざ笑う声にムカついていると、ひときわ大きな声が浴びせられた。
「おいおい! レベル3のゴミが冒険者になろうなんて、とんだ大馬鹿野郎がいたもんだぜぇっ!」
「や、やめてください。そんな酷い言い方、ギルド内での揉め事は禁止です」
メルルは僕の後ろで騒ぐ冒険者に注意してくれた。
しかし、全く効果がないみたいだ。
「ここはなぁっ! 貴様のようなゴミが来ていい場所じゃないんだよっ!」
怒声に振り向くと、【豪腕紋レベル8】【マジック紋レベル9】【剣士紋レベル10】の紋と低レベル魔具を装備した3・40代と思われるオジサンが3人、醜悪な顔で後ろに立っていた。
2人は合計レベル20以下、1人は合計レベル20だ。EランクとDランク冒険者ということだ。
人を見下す視線がウザイ。力を持たぬ人間はゴミたと言わんばかりだ。
・・・何だ? この面倒臭い連中は?・・・
これが冒険者気質というか、ギゴの国民性なのだろうか?
一番年長と思われた【剣士紋レベル10】のオジサンが、僕の胸元に手を伸ばしてきた。【ソード レベル10】を装備し合計レベル20なので、こいつが3人の中でリーダー格なのだろう。
「おらっ! とっとと出て行け、ゴミがあぁぁぁっ!」
・・・マジか・・・
伸びてきた手をかわすと、僕を捕まえそこなったオジサンはバランスを崩しコケそうになった。そして、さらに激怒し叫び始めた。
「ゴミの分際で、本物の冒険者に楯突こうってのかぁっ!」
口だけは良く動くが、身体の切れは完全にオジサンだ。
・・・朝から酔っ払ってるのかな?・・・
右手の意味不レベル120が無ければマジでドン引きする場面だが、【雷撃剣レベル123】が使える今の僕には余裕があった。
それに、三年も魔物を殺すだけの日々を過ごしてきたのだ。合計レベル20程度の相手に負ける気はしない。たとえ素手でもだ。
しかし、最初からトラブルというのも面倒だ。そこで、メリッサの紹介状を使うことにした。
オジサンたちを無視し、メルルに告げた。
「すみません。シモーヌさんという方に取り次いでいただけますか? 紹介状を持参しています」
「えっ! シモーヌさんのお客様なんですか?」
メルルが驚きの表情を浮かべたが、それ以上の反応を示したのは難癖を付けてきたオジサンたちだった。
「はぁっ!?」
「お、おい、ヤバいぞっ! やめとけっ!」
「チッ!」
舌打ちしたオジサンは、顔を真っ赤にして僕を睨んでいる。
オジサンからすると、僕はレベル3のザコなのだ。弱い人間にはとことん強く出るタイプの人間らしい。
・・・面倒臭いなぁ・・・
僕の中に暗い感情が浮き上がりそうになったところで、別のオジサンが僕に片手を上げ謝ってきた。
「あ、あんた、すまなかったな・・・」
そう言ったオジサンは、仲間2人の背中を押してその場を離れていった。
オジサンたちを目で追いつつ、懐から紹介状を取り出す。
「これ、メリッサからの紹介状です」
「めぇっ、メリッサ様あぁぁぁっ!」
メルルの悲鳴のような声がギルド内に響き渡った。受け取った紹介状の裏を確認すると、彼女は血相を変え走り出した。
美人が台無しだ。
・・・何なんだ?・・・
大声を上げたメルルの反応と一悶着あったことで、ギルド内全員の視線が僕に向けられている。超居心地が悪い。
カウンターの一番奥まで駆けていったメルルは、遠目にも精悍なブロンド美人に紹介状を手渡した。あれがシモーヌだろう。
少し離れているが【竜眼】はシモーヌのデータを読み取った。
【ハーフエルフ】【正騎士紋レベル28】と表示されたところで、警告が流れた。
シモーヌと思われる女性の左手、なぜか左手だけに甲冑を着けている。そして、その甲冑にフラグが立った。
【バジリスクの呪い】が、彼女の甲冑に包まれた左手に表示された。
石化しているのだ。
石化には幾つかの種類がある。
一般的なのはコカトリスの石化で、次に多いのは人による石化魔法だ。
この二つは、ポーション系解術薬を使えば石化を解除できる。
カズキも異世界に召喚された最初の年、コカトリスの石化で危うく両足を失いそうになったことがある。
しかし、バジリスクの石化は、簡単には解除できないと聞かされていた。そもそも、バジリスク自体が超強力な魔物な上、出現頻度もレアで研究が難しいらしい。
知る限りバジリスクの呪いを受けた者は、その呪いの源であるバジリスクが死なない限り石化が解けないらしい。
そして、この手の魔物の寿命は長い。300年とか500年は普通に生きる。
だから、バジリスクの呪いを受けた者は、自分でバジリスクを倒すしか石化を解術することはできないのだそうだ。
バジリスクの強さはドラゴンやドレイクに次ぐほどだ。【正騎士紋レベル28】程度では勝ち目は皆無だろう。
その結果として、彼女の左手は石化してしまったのだろう。
カズキもバジリスクを討伐したことがあった。【勇者レベル30】で【勇者の剣レベル50】を装備して何とか倒すことができた。合計レベル80でも苦戦したのだ。
実際、その時、一緒に戦った合計レベル50代の近衛騎士の半分は石化した。
何とかバジリスクを倒したことで近衛騎士たちの石化も解呪できたが、討伐に失敗していればカズキ他全員が石になっていたかもしれない。
あの甲冑で石化した手を隠しているのか?
バジリスクの石化は呪いの代名詞だよな?
魔力の低い生物は、その呪われ石化に触れただけで石化してしまうと聞いていた。当然ながらレベルの低い人間も石化する厄介な呪いなのだ。
要するに、飛び火する典型的な呪いである。
僕の思考に【竜眼】が反応した。マジ便利な目だ。
『甲冑に魔素遮断機能を装備』と表示された。飛び火を防ぐ特殊な魔具ということだろう。
バジリスク相手では話にならなくても、【正騎士紋レベル28】というのは、それなりの実力者だろう。シモーヌの名前を聞いただけでオジサンたちが引いたのは、単純に実力の差が大きいということと、呪いの影響なのだろう。
また、紋にも格というかクラスのような物が存在する。
剣を使う紋でも、単なる【剣士紋】が最低位の紋なら、【正騎士紋】は最上位クラスの紋と言えるのだ。
合計レベル20のオジサンから見れば、レベル3の僕がゴミに見えたように、【正騎士紋レベル28】のシモーヌとオジサンたちでは格が違うのだ。
そんな【正騎士紋レベル28】がギルド受付嬢というのも妙なものだ。
やはり、石化の影響で騎士は廃業ということだろうか?
そんな考えを巡らせていると、引き締まった表情の美人受付嬢2人が僕の前まで来た。メルルの目も死んでない。
「お待たせ致しました。カズキ様」
ひどく緊張した顔でメルルが頭を下げ、シモーヌを紹介してくれた。
態度違いすぎだろと突っ込みたくなるが、初対面女子に突っ込む勇気はない。
「特別な客人なので粗相のないよう、メリッサ様から指示されております。あちらのカウンターで登録手続きさせていただきます」
シモーヌと名乗った美女は、クールな眼差しのままカウンター奧へ僕を案内した。
革張りの椅子に腰を下ろしローテーブル越しに向かい合う。
・・・ハーフエルフって、初めてだな・・・
耳がエルフとは違っている。パッと見は普通に人間だ。
書類の準備をするシモーヌに見入っていると、メルルが飲み物を持ってきてくれた。
「どうぞ」
メルルはグラスを前に置きながら、僕に視線を向けてきた。目が合うと、彼女は一歩下がり深々と頭を下げた。
「先ほどは大変失礼致しました。お許しください、カズキ様っ!」
「あ、ああ、大丈夫だよ。レベル制限があるって知らなかった僕が悪いから」
それにしても、メリッサの紹介状一つで、ゴミ扱いだったのが一転したのには驚かされた。
神妙な顔をしているとメルルも美人だ。ギルドの受付は見た目重視なのだろうか?
そんなことを考えていると、シモーヌが再度の測定をしたいと、見覚えのある魔具を取り出した。
ペイの国で毎日のようにお目に掛かった奴だ。レベル測定装置・・・
ゴブリンを殺してはレベルを計り、オークを殺してはレベルを計測した装置だ。
血と臓物にまみれた光景を思い出した。
トラウマどころではない記憶だ。
【真実の鏡】
『魔導スキャナー 魔具の一種。レベル30以下の紋や魔具を測定できる』
僕の左目には、そう表示された。
そして、シモーヌが僕のレベルを測定した結果を口にした。
「紋なしの【雷撃剣レベル3】ですね。これですと冒険者ランクFになりますが、装備はこのままでよろしいですか?」
事実をそのまま、テキパキと言われてしまった。
「そ、そうだね。低レベルでも冒険者登録可能なのかな?」
「通常はお断りするところですが、メリッサ様のご紹介ですから問題ありません」
「そ、そうなんだ・・・」
コネで入れてもらえたみたいで少し微妙だ。だが、冒険者になりたい訳でも、ギルドで仕事をしたいという訳でもない。単純にこれは手段の一つだ。
ここから、リリの呪いを解除する方法に辿り着かなければならない。
ギルドや冒険者という立場が役に立たなければ、辞めてしまえばいいだけだ。
Fランク冒険者に登録してもらうことになり、シモーヌは丁寧にギルドの仕組みや規則を説明してくれた。
綺麗なお姉さんに勉強を教えてもらってるみたいで、何だかモヤモヤして頭に入ってこない。
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一、ギルドに登録することで各種クエストを受けられるようになるが、魔物討伐に参加する義務も発生する。
一、各種クエスト・魔物討伐は冒険者ランクにより振り分けられる。
一、冒険者ランクは、その者の表面的な能力と活動実績を加味しギルドによって決定される。冒険者がランクアップを希望する場合、ギルドは審査し決定する。
一、冒険者カードは常に身に付け隠してはならない。
一、非常時の呼び出し等に応じない場合、制裁を科されギルドを除名される。
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そう、大ざっぱなギルド規則の説明を受けている間、僕はシモーヌの胸元や耳をチラ見してしまった。
女子は苦手だが女子に興味はある。微妙なお年頃なのだ。
女子との沈黙が怖い。
シモーヌの説明が一通り終わると、僕は速攻で疑問を投げかけた。
「少し聞きたいのだが、クエスト以外で活動しても構わないかな?」
「どういう意味でしょう?」
「例えば、薬草採取とか勝手にしても大丈夫かな?」
渡されたお絵かきレベルの地図を指し示しながら質問した。
「ああ、それは大丈夫です。採取した薬草をギルドにお持ちいただければ、相場で買い取りさせていただきます」
「では、ゴブリンやオーク退治も勝手にやっていいのかな?」
「えっ、ええぇ・・・カズキ様のレベルだとゴブリン退治はキツイかと・・・それに、この地のオークとは、古くからの盟約により争いは禁じられています。オークと戦うと罰せられますし、ゴブリンよりもかなり強いので・・・」
少し呆れた表情でシモーヌが僕を見詰めた。
美人に見詰められると居心地が悪い。それも少し哀れんだ視線なので尚更だ。
「ああ、そうなんですか。い、いい事を聞きました。ということはオークも人を襲わないのですね?」
「ええ、そうです。しかし、オークの領地には近づかないようにしてください。不可侵の約定がございますので」
「そ、そうなんだ・・・」
ギルドの規則を無視するつもりはないが、目的のためなら何でもする気だった。
まずはゴブリンから・・・そう考えただけで僕は鬱になる。
ため息が出てしまった。
会話が途切れたところで、シモーヌが尋ねてきた。
「カズキ様は薬草ハンターなのですか?」
「ああ、いえ・・・でも、手っ取り早くお金を稼ぎたいので・・・」
言った端から後悔するセリフを吐いてしまった。
「あ、ああ、そうですね・・・」
シモーヌの呆れたというか冷たい視線が痛い。
会話が再び途切れた。
合計レベル3が何を言ってるんだと、思われているのだろう。
女子とのコミュ能力が皆無な僕の視線は、つい彼女の左手に向けられた。
「気になりますか?」
「い、いえ、魔素遮断機能がある甲冑というのを初めて見たので・・・」
「こ、これが、何か分かるのですかっ!?」
ずっとクールだったシモーヌの表情か初めて驚きで崩れた。
「石化封じ込めの魔具ですよね? 飛び火と侵食防止ですか?」
左目に流れるデータを、そのまま棒読みにした。
「そ、その通りです・・・凄く博学なのですね。さすがはメリッサ様のお知り合いですね。本当に驚きました」
シモーヌの態度というか表情が変わってきた。少しは僕に興味が出たのだろう。
「これからどうされますか? チャレンジ出来そうなクエストを説明させましょうか? Fランク担当は、先ほど顔を合わせたメルルになります」
「ああ、いえ。近場で薬草を探してみます」
「ああ、でも、町の近くにある薬草は採り尽くされてます。薬草採取は、誰でも出来る手軽な小遣い稼ぎですから」
シモーヌの口調が少し柔らかくなっている。これも【竜眼】のお陰だ。自力で女子から好感を得られないというのが情けない。
ギルドランクを示す大きな木札の認識票を渡され、僕はギルド登録料銀貨3枚を払った。その金は活動費としてメリッサに用立ててもらった資金だ。
渡された木製の認識票には大きくFの文字が刻まれている。ギルド所属メンバーは、常に認識票を身につける必要があるそうだ。
僕は、認識票を首から下げつつ、シモーヌの左手に視線を向けた。彼女は左手の甲冑にCランク銅の認識票を着けていた。
Cランクでバジリスクと戦ったのか?
右手には【正騎士紋レベル28】がある。大抵の場合、紋のレベルと同程度の魔具を装備する。そう考えると、Aランク冒険者が妥当なところだろう。
そもそも、【正騎士紋】というのは、騎士が身に付ける紋のはずだが・・・
「何かお困りのことがありましたら、遠慮無く声をお掛けください」
「うん。ありがとう」
こうして、僕のギルド登録は完了した。




