13.ラムスの館(4)新たな力
テーブルに3つの【紋】と4本の【魔剣】が並べられた。
【正剣士紋 上限レベル20】
【重戦士紋 上限レベル20】
【攻防の紋 上限レベル20】
全ての紋を僕は知っていた。ペイの軍隊でも標準的に使われていた紋だ。しかし、紋の内容より上限レベル20というのが問題だ。
勇者紋レベル80まで行った僕には、上限20の紋は悩ましい選択肢だ。
それに、右手の意味不レベル120がどうなるかも分からない。
紋の選択をスルーし、並べられた魔剣に視線を移す。
【高速剣レベル20】
【炎の剣レベル20】
【鋼鉄の剣レベル20】
【雷撃剣レベル3】
最初に勧められた3本の剣は、剣士が使う物だ。やはり、彼女たちは僕が元勇者だと知った上で対応しているように思えた。だが、1本だけ変な剣が混じっている。
手に取ると3本の剣はどれもレベル20を【竜眼】は示した。レベル140になってない。
・・・レベル120乗ってないし・・・
密かな期待を裏切られ、僕は凹んだ。
冒険者として生きていくなら、魔剣20に紋20の合計レベル40は十分過ぎる力だ。最大値レベル40まで行けばBランクになる。Bランクは一流の証しと言って良いだろう。
しかし、特別な目的がある僕には、右手のレベル120は何としても使いたい。
リリに掛けられている呪いが強力である以上、僕はそれ以上の力を持たなければ彼女を救えないだろう。
呪いレベル50・60代を何とかするには、強大な力が必要だ。
祈るような気持ちで、今度は魔剣を左手に持ち替える。すると・・・
・・・マジかよ。えーっ! 何それ・・・
左目竜眼の表示がエラーになった。
『互換性無し』と表示されている。
ということは、レベル20の威力も発揮しないということなのか?
これは、結果として最悪だ。
魔剣の力を使って左手【アークドラゴン紋】のレベル上げをしたいというのに、これでは魔剣の意味が無い。
カエルさんとの会話から凄い力を引き継いだと思っていたが、もしかしたら左手も使い物にならないかもしれない。
途方に暮れつつ残り2本を左手で掴んだが、結果は同じだった。
気持ちが追い詰められてしまう。
レベル20の魔剣だけでは、Dランクの冒険者だ。
その程度の力で何が出来るだろう。
やはり紋を使うべきなのか?
ここにある紋を装備し、魔剣を使って紋のレベル上げに力を注ぎ金を貯める。そして、貯めた資金で高レベル紋を購入し、さらにレベル上げに励む・・・それが現実的な選択だが・・・
どれだけ時間が掛かるんだ・・・それは、途方もない時間のはずだ。
後ろ盾のない今の僕では、確実に数年単位という期間が必要だろう。
その途方もない間、リリは顔から血を流し続けるのか?
そんなの絶対に駄目だ・・・
鬱になる思考を打ち消すように頭を振り、僕は残りの魔剣に視線を向けた。
・・・女性の護身用かな?・・・
残りの一本【雷撃剣レベル3】ショートソードに手を伸ばす。
期待していなかったが、手に取った刹那、僕の心臓は止まりそうになった。
!!! ビ、ビンゴっ!・・・
レベル3の雷撃剣を握ると、【竜眼】に【雷撃剣レベル123】と表示された。
意味不の右手レベル120に雷撃剣のレベル3が乗ったのだ。
完全に意味不明だが、合計レベル123は凄い。
問題は本当に使えるかどうかだ。
この感覚は・・・
僕は右手に持ったショートソードに見入ってしまった。感触としては行けそうだ。勇者の剣より手にしっくりくる。
「それって、通称ビリビリ剣ですよ」
「そ、そうなんだ・・・」
顔を上げると、メリッサが困惑した表情で僕を見ていた。
「それ、レベル3です。他の剣をお選びください。他はレベル20です」
そう言ってメリッサは【鋼鉄の剣レベル20】を勧めたが、僕はスルーした。
翡翠眼を持つ彼女でも、レベル123と表示された右手を読み取れないのだ。
「通常、角うさぎなどの下級魔物を追い込むときに使います。ショートソードとしては使えますが、レベル3なので魔法攻撃で魔物を倒すことは出来ません。角うさぎも、ビリビリに驚くだけです。殺すことはおろか気絶させることもできません。剣として使えば角うさぎ程度は殺せるかと・・・」
僕が【鋼鉄の剣】に見向きもしないので、メリッサはショートソードがいかに使えない剣かということを説明してくれたが、僕は完全に上の空だった。
「そ、そうなんですか・・・」
このレベル123が数字通りなら、リリの呪いを何とかする手立てに辿り着けるかもしれない。凹んでいた気持ちが一転してハイテンションになっていく。
・・・スキルとかあるのかな?・・・
そう思考した刹那、ビリビリ剣の上にズラリとデータが浮き上がった。
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【雷撃剣】スキル
・雷撃剣レベル150 【メガフラッシュ】全長1000キロに及ぶ巨大な雷撃攻撃が可能。長距離大規模攻撃および都市殲滅攻撃が可能。※レベル不足で使用不可
・雷撃剣レベル120 【雷の爆縮】半径10キロ四方を強力な爆雷で焼き尽くす。
・雷撃剣レベル100 【スーパーフラッシュ】 大規模殲滅爆雷攻撃。レベル50の雷撃攻撃を半径5キロ以内に存在する標的1000個に対し同時攻撃できる。
・雷撃剣レベル80 【超電磁砲】 要塞攻撃・城塞都市攻撃用
・雷撃剣レベル70 【電磁シールド オート】 自動防御システム 同程度レベルの攻撃を自動防御。
・雷撃剣レベル60 【シールド】 高電磁防御シールド 前面展開シールドによりレベル100までの攻撃から防御 100なら1度 90なら数回防御可能
・雷撃剣レベル50 【電磁砲】 大型魔獣攻撃・攻城
・雷撃剣レベル40 【雷雲】 広範囲に雷撃の雨を降らせる。
・雷撃剣レベル30 【雷撃の雨】 複数同時雷撃攻撃
・雷撃剣レベル20 【雷撃】 単発の雷撃
・雷撃剣レベル10 【電気ショッカー】
・雷撃剣レベル5 【閃光】
・雷撃剣レベル1 【発電】
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・・・これ、マジか?・・・
剣のスキルというより【竜眼】の機能に驚かされる。【勇者の剣】を使っていた時、剣にどんなスキルがあるかは伝承に頼っていた。だが、この【竜眼】があれば全てのスキルを確認することができるみたいだ。
このビリビリ剣は、威力的にも【勇者の剣】を越えているように思えた。
【勇者の剣】が対魔物に特化された剣だとしても、この【雷撃剣】のレベル100以上の攻撃スキルは異常だ。
こうなると推測だが、【勇者の剣】にも知られてないスキルが存在したかもしれない。
剣を左手に持ち替えると、データは消えてしまった。
そして、浮き出したデータはエラー『互換性無し』だ。
左手で使えない雷撃剣に再びガッカリしつつ、僕は剣を右手に持ち替えた。
そして、勇者の剣を使っていた要領で、スキル発動を試みる。
・・・【スーパーフラッシュ】発動準備・・・
剣を少し強めに握りつつ心で念じると、左目にデータが走り始めた。
『スーパーフラッシュ攻撃準備。ターゲット選別中・・・』
驚いたことに、僕の思念に答え【竜眼】に文字が浮かび上がった。
【勇者の剣】でスキルを使う場合、スキル発動を念じて手に伝わる振動で何となく剣を振っていたのだが、【竜眼】があればスキルの空振りなんて恥ずかしい事態は回避できそうだ。
部屋にいるラムスたちの頭上に、ターゲットロックという文字が浮かび赤く点滅した。そして、屋敷下層に居る標的が次々とロックされていく。
・・・これ、行けそうだな・・・
レベル50の雷撃攻撃、その不意打ちを食らえば、Sランクレベルのラムスたちを含め、屋敷に居る全ての人間を一瞬で抹殺することができるだろう。
ショートソードに見入る僕の横から、甲高い女の声が響いた。
「ちょっとっ! 何をしてるのですかっ!」
メリッサが声を荒げた。スキル発動準備に気づいたのだろう。
だが、僕は彼女の声を無視し心で念じた。
・・・シールドオート・・・
『自動防御システム起動・・・』
竜眼に流れる情報に、僕は感嘆した。
レベル70のシールドが自動的に展開するかどうか、それは不明だ。しかし、本当に使えるなら、僕を取り囲む剣士3人の攻撃も防げるはずだ。
「どうしたのだ?」
「は、はい。マナの密度が急上昇し集束しています。こ、これは異常です。大規模スキルの発動ですっ!」
ラムスの問に早口で答えたメリッサが叫ぶように言った。
「お、おやめくださいっ! カズキ様っ!」
彼女の右手が僕の肩に触れようとした刹那、スパークが弾けた。
「ひっ!」
バチッ! という音と共にメリッサが悲鳴を上げ、その手が弾かれた。
シールドに触れたのだ。
僕の周囲に半透明のシールドが一瞬浮かんで消えた。シールドは機能している。
それから僕は視線を下に向けた。
リリを念じながら探索すると、【聖女レベル18】と【スカイドレイクの幼生】の表示を確認した。
見た感じだと、【スーパーフラッシュ】の標的にはなってないようだ。
一安心したところで僕は顔をあげた。メリッサの形相が凄い。ラムスや剣士達は状況が掴めず困惑した表情を浮かべているが、抜刀しようと身構えている。
メリッサが判断を誤り「殺して」と叫べば、僕はどうすればいいのだろう。
「はぁ・・・」
彼女たちと数秒睨み合った僕は、小さく溜息をついた。
彼女たちをどれほど信じていいか分からない。
しかし、協力者や味方は必要だ。特に幼いリリには絶対必要なのだ。
それに、館の人々全てが攻撃目標になっていた。僕が味方だと認識していない相手全てがターゲットになるみたいだ。
ターゲット表示は館の外にまで広がっていく。
この異世界に絶望したからといって、無関係な人々を皆殺しにする勇気は無い。
・・・【スーパーフラッシュ】攻撃準備を解除・・・
そう念じると、左目に『解除』の文字が流れ、メリッサたちの頭上に表示されたターゲットロックの赤い印が消えていった。
「ま、マナが・・・消えていきます・・・」
「私にも見えたぞ、マナの巨大な光が・・・」
呆然とした表情で、メリッサとラムスが僕の頭上を見上げている。
強力なスキルを使う場合、感知されやすいというのは承知していたが、これはバレバレということなのだろう。
ラムスとメリッサは愕然とした表情で僕を見ている。どうやら僕に対する評価は一変したようだ。
そして僕も、不確かではあるものの多少の自信を取り戻していた。
「ひとつ教えて欲しいんだけど?」
「答えられる話でしたら」
少し強気で問い掛けた僕に、ラムスは真顔で答えた。先ほどまでの大人の余裕が消えている。
「君たちはリリをどうするつもりなんだ?」
僕は【雷撃剣】の剣先を鬼女の顔に突きつけた。
僕の態度に、護衛の鬼人たちが吠えた。
「無礼者っ!」
青い角の鬼人が凄い形相で僕に迫ったが、ラムスは冷静に部下たちを制した。
「皆、下がれっ! 手を出すでない」
館の主人だけあり、ラムスの態度は堂々としている。
思うに、戦いが始まると後方に下がっていたどこかのお姫様とは格が違う。
「ひとつだけ確かなことは、私たちは彼女の味方だ。いま言えることは、それだけ、呪い解除の手立ても調査中だ」
鋭い眼光で美人鬼女に言われ、僕は完全に腰が引けてしまった。
元の世界でも、女子と言い争いをして勝てたためしはなかった。
「そ、そうなんだ・・・」
調子に乗って女性に剣先を向けたことを後悔し、僕は剣を下ろした。
気まずい沈黙が流れたが、僕は図々しく尋ねた。
「ここにヒーラーは居ないのかな?」
「おりますが?」
「リリの治療をしてもらいたい。費用が必要なら、僕がギルドで稼いでくる」
「ああ・・・・」
険しかったラムスの美貌に陰りが浮かんだ。
「あの娘の呪いに、治癒魔法は使えぬ」
「なぜ?」
「高位ヒーラーで傷は治せはする。しかし、治っても次の瞬間には、呪いで肌や目が裂け傷口が開いていくのだ。地獄の苦しみが再び襲う・・・そんな酷いことは・・・」
ラムスは美貌を歪め身体を震わせた。
彼女は治癒魔法をリリにほどこしたのだろう。
【竜眼】のデータで得た答えと同じだ。
「では、順序として呪いを解除し、それから治癒魔法で回復させればいいのかな?」
「おそらくは・・・そうだが、呪いの解呪は一筋縄では行かぬ。こちらでも色々と調べているのだが・・・」
ラムス程の者でも、呪いの解呪は簡単ではないのだ。
ラムスに加え、メリッサも事細かにリリの呪いに対する疑問に答えてくれた。
彼女たちのリリに対する情報の多さを知り、僕はラムスを信じるに足る人物だと確認することが出来た。
それから、僕とラムスは再度の交渉をした。
強力なスキルを使えることが伝わったことで、彼女たちの態度も一変していた。
合意し確認した大まかな内容は以下の通りだ。
一、僕はリリと館に残る。ラムスはリリの援助を続ける。
一、リリの扱いは両者の話し合いで決める。
一、館内での攻撃スキル使用は認められない。
一、リリの呪いに関する情報はシェアする。
呆れたことに、僕が強力なスキルを使えると分かっても、鬼女ラムスの興味はリリにだけ向けられているのは確かだった。
ラムスがリリの味方であるなら頼もしいが、聖女の力を利用しようとしている悪者なら少し厄介だ。
僕は早速明日から町のギルドに行くことにした。ギルド登録の手配はメリッサがしてくれることになった。
部屋を後にするところで何か必要な物はと尋ねられ、バケツ一杯の湯とテーブルに残ったケーキを持って帰りたいと頼んだ。
ケーキをリリに食べさせたいと言ったところで、ラムスの美貌にようやく笑みが戻った。そして、鬼女の微笑みを前に、僕も彼女を多少信じられる気がしていた。
用意された湯とケーキを持って地下へと戻る。
来た時と同じように、メリッサが一緒だ。彼女は、まだ話したいことが色々とあったようだ。
ラムスに対する無礼だけは二度としないように何度も言われ、メリッサは幾つかの忠告もしてくれた。
その中で一番念を押されたのは、ペイの国から来たという事を決して口外してはならないということだった。
その理由を尋ねたが、そのうち分かるとしか彼女は言わなかった。
地下通路まで降りたところで、立ち止まったメリッサが険しい顔で聞いてきた。
「ひとつ教えて頂けますか? あの時、何のスキルを使おうとしていたのですか?」
「ああ、あれ・・・雷撃系スキルの【スーパー・フラッシュ】かな」
「すぅ・・・スーパーフラッシュぅぅぅっ!!!」
何気に言った僕の言葉に、メリッサが甲高い声を上げた。
「そ、それって、大規模殲滅魔法ですよ、ね? 超高レベルスキルですよ・・・ほとんど伝説レベルのスキルですが・・・」
「えっ、そ、そうなのかな?」
僕は少しとぼけてみた。
レベル100のスキルである。そんなもの、実際に使えば大惨事間違いなしだ。
「あの部屋に居た全員を殺す気だったのですか?」
「まあ・・・屋敷の人間全員?かな」
「は、はあぁぁぁぁっ!?」
「冗談ですよ・・・」
「その力は・・・勇者の力なのですか?」
険しい顔でメリッサが詰め寄る。
・・・やはり元勇者だとバレてるのか・・・
「僕は、もう勇者なんかじゃないよ・・・」
メリッサに右手を突き出した。
僕の右手をマジマジと見詰めたメリッサは、顔を上げ疑惑の視線を向けてくる。
「ならば、あの力は、な、なに? 個別スキルですか?」
「ま、まぁ、そんなところかな・・・」
思わず口から適当な言葉が出た。
【紋】や魔具意外にも、そんなのがあったなと今更ながら思い出す。
だが、右手の力は個別スキルとは別物だろう。
やはり分からない事が多すぎる。
「覚えていてください。ゴミのように捨てられていた貴男を拾ったのは、ギゴの国の人間です」
語気を強めたメリッサが僕を睨む。
【スーパー・フラッシュ】で館の人間全員が殺されそうになったという事実に、怒りが収まらないようだ。
「ごめん。本当に危害を加える気は無かったんだ。ただ、リリに対する君たちの態度というか接し方が許せなくて・・・それに・・・いや、ごめん・・・」
これ以上争いの種を増やさないよう、僕は素直に頭を下げた。




