12.ラムスの館(3)会談
メリッサに案内され、カズキは部屋に通された。
後ろからメイド娘2人に加え、あのハイエルフ女剣士も付いてきている。
それも剛剣を【高速剣レベル25】の魔剣に持ち替えているではないか。
いつでも後ろから斬りかかろうという算段か?
部屋に入ると、メリッサは主人を紹介してくれた。
「カズキ様、わが主人ラムス様でございます」
そう広くもない部屋の奥に、赤毛の鬼女が座っていた。
彼女の前には、【抜刀紋レベル30】に【重装甲レベル27】の甲冑を身につけた巨躯の鬼族が2人、僕を睨みつけている。
部屋が狭く感じるのは、この2人が大きすぎるためだ。
物々しい布陣だ。
完全に臨戦態勢で待ち構えている。
凄く警戒されている雰囲気だ。【アーク・ドラゴン紋】か右手のレベル120がバレているのだろうか?
しかし、鬼女ラムスは穏やかな笑みを浮かべ、軽やかに話しかけてきた。
「お呼びだてして申し訳ない。もう呪いは消えたと報告は受けています」
「あっ、えっ、あのっ・・・ご迷惑をお掛けしたようで・・・あ、ありがとう」
僕は思わずペコリと頭を下げた。
鬼族や剣士に囲まれ身の危険を感じてはいたが、勇者時代のレベル上げで敵に囲まれることにはなれていた。
館の主人ラムスは妖艶な雰囲気の大人の美女だ。
【竜眼】の解析では【鬼族】で【賢者紋レベル32】に【鉄壁レベル33】のリングを装備している。
合計レベル60越え。この異世界で言うところの最高位、Sランクだ。只者ではないだろう。
「呪いに苦しむ者に出会えば助けよ。それが我が国の教えです。お気になさらずに」
そう言ってラムスは微笑むと、椅子を勧めてくれた。
ラムスの大きな机の前に置かれた椅子に座ると、お茶とケーキが出された。
周りを3人の剣士に取り囲まれ、かなり居心地が悪い。
居心地は悪いがケーキが気になった。
このケーキ・・・リリに食べさせたら喜ぶだろうな・・・
「どうぞ、お召し上がりください」
ケーキをガン見する僕に、ラムスは優しい口調で勧めてくれた。
僕はケーキには手を付けずお茶に手を伸ばし、ラムスに視線を向けた。
警護が殺気立っているギャップか、ラムスの穏やかな微笑みに好感が持てる。
しかし、この美人鬼族は、奴隷商人の親玉かもしれないのだ。
「カズキ殿、ご出身はどちらでございますか?」
ラムスは偉ぶるでもなく穏やかな貌で尋ねてきた。
「日本という国で育ちました。ここ3年はペイの国で暮らしています」
「ニホンで、ございますか・・・」
ラムスは「日本」と聞いても、あまり表情が変わらない。
日本がどこにあるのかと、尋ねもしなかった。
この連中、僕が元勇者だということを知っているのか?
「いや、しかし、あの呪いを打ち消すとは、カズキ殿の力には驚かされました」
「僕の力というより、リリに助けられたのだと思います」
「リリとは? あの呪われた娘でございますか?」
「ええ、そうですが?・・・」
「そうなのですか・・・」
ラムスとメリッサが顔を見合わせた。
リリの事も尋ねなければならないが、手の内を探る会話がしばらく続いた。
話の流れから察すると、呪いが消えた僕を監禁しておく必要は無いらしい。
強面な部下たちに取り囲まれているが、いつでも館を出て行っていいとラムスは言った。助けた報酬を要求する様子もない。
ラムスと話していると、単純に優しい綺麗なお姉さんに見えてきた。
ペイの王女にしてもそうだが、僕は美女に弱いようだ。
出て行っていいと言われ、僕は少しホッとした。
町に行けばギルドもあるだろう。冒険者になりレベル上げをしながら金を稼げば、リリの呪いを解くことも無理ではないだろうと思案を巡らせた。
僕は視線を窓に向けた。闇の中に町の灯りが見える。
夜なのかと今頃気づいた。すぐにでもあの闇からリリを解放したいと気が焦る。
「では明日の朝、リリと一緒に出て行きますので」
そう言った刹那、ラムスが血相を変え立ち上がった。
「そっ、それはなりませんっ!」
そう叫ぶように言ったのはメリッサだ。
美女2人が凄い形相で僕を睨んでいる。
「あの娘は呪い付きです。外に出す訳にはまいりませんっ!」
そう声を荒げたメリッサは、リリと呪いの事を説明してくれた。
曰く
・呪い付きは、飛び火の危険があるので隔離監禁される決まりである。
・監禁された呪い付きは、その呪いが解かれるか死すまで外に出られない。
・管理が出来ない呪い付きは、民の安全のため処刑されることになる。
・呪い付きの処理処分は、領主・軍・ギルド長が、これを定める。
・目を潰された女児は、王都から運ばれてきた呪い付きで何者かは不明である。
・この館に運ばれてきた直後、解呪を試みたものの失敗した。
・地下に運ばれて数日後、突如出現した強力な魔物が女児から離れなくなった。
・館の警護総出で魔物退治を試みたものの、その強力な魔力に対抗できなかった。
・それから2ヶ月ほど、食事と包帯だけを運ぶ日々が続き、カズキが運ばれてきた。
・そして、死にかけていたカズキは、突如として息を吹き返し今ここにいる。
一通りの説明を聞き、僕は小さく溜息をついた。
さて、困ったな・・・
彼女たちの言い分も理解できるが、慌て様から見てリリの存在自体に色々隠された何かがあるのだろう。
そもそも、幼女に複数の呪いを背負わせた時点で、リリがただの女の子でなことは容易に想像できる。
そして、よそ者の元呪われ人に、詳しい実情を簡単に教えてくれるはずもないということだ。
リリを地の底から救い出せないとなり、僕の気持ちは萎えた。
ならば、僕もこの屋敷地下に居座るしかない。
リリの側に居て、力を蓄えてから行動を起こすしかないだろう。
考え込んでいた僕にメリッサが質問してきた。
「カズキ様にお尋ねしたいのですが、あの魔物には襲われませんでしたか?」
そう尋ねられ思い当たるのはアレしかいない。
「ああ、カエルさん?」
「えっ! あれはカエルなのですか?」
翡翠眼のメリッサが目を丸くして驚いた。
君にはあれがカエルに見えるのか?と突っ込みたかったが、とりあえずスルーして会話を続ける。
「リリが、そう呼んでるだけです。アレ、かなり凶暴な魔物ですよね」
「強さは承知しています。アレを何とかしたいのですが・・・」
メリッサは僕に相談しているのだろうか?
「手を出すのはやめた方がいい。そもそもアレが何なのか理解してないでしょ?」
「カズキ様は、アレが何だか知っているのですか?」
やっぱり、カエルさんの正体に気づいてないのか・・・しかし、スカイドレイクの幼生とか言ったら、パニックになるよな・・・
「あれは、超強力な魔物の幼生だと思うけど・・・」
「な、何の幼生ですか?・・・」
「推測ですが、おそらく・・・ドレイクてす」
僕は少しだけ嘘をついた。
ドレイクには違いない。しかし、ただのドレイクとスカイドレイクでは、強さが桁違いだ。もっとも、スカイドレイクの目撃情報が皆無である以上、実際の強さも想像の域を出ないのだ。
「やはり、その類いでしたか・・・」
メリッサが溜息をつくと、ラムスや警護の鬼族たちも顔を見合わせた。
強さに納得がいったということだろう。
Sランクの術者や剣士が束になったとしても、ドラゴンやドレイククラスには太刀打ちできないのだ。
ドレイクやドラゴンクラスを討伐するには、それなりの討伐軍を編成し挑むことになる。
メリッサたちからするとカエルさんは厄介者らしいが、僕からするとリリを守ってくれる良い奴だ。
彼女たちの話しを軽く聞き流し、僕は情報収集に励んだ。
そもそも、ギゴの国のイメージは僕の中で凄く悪かった。
それは、ペイの王女や側近が、周辺国の非道な行いを常日頃から僕に吹き込んでいたからだ。
そして、その極悪非道蛮族国家の一つがギゴの国だった。
だが、ペイの国王女がクソだと判明し、ギゴの国に対する見方も修正する必要があるようだ。
それから僕は、短い時間で色々な情報を手に入れた。
しかし、それは、僕が無知な異世界人だったからだろう。それまでの僕は、魔物を倒しレベルを上げるという、ただそれだけに気持ちを集中してきたのだ。
魔物を退治しレベルが一つ上がるたび、ペイの王女は喜び祝福のキスを僕にしてくれた。
衣食住それら全てはペイの王家に管理され、僕は何も考えず3年もの間レベル上げだけをしてきたのだ。
それから僕は、身の振り方をラムスたちに伝えた。
端的に言えば、しばらく屋敷地下に居候させてくれと頼んだのだ。
「あの地下に残りたいと言われるのですか?」
「そう、昼間は冒険者として金を稼ぎに行きます。そして、リリの呪いを解除する手立てを探したい」
「それは・・・構いませんが・・・」
鬼女ラムスは少し小首を傾げた。
紋も武器も無い僕が冒険者になっても、金は稼げないと言いたいのだろう。
「カズキ殿も大きな呪いを受けたほどのお方、援助は惜しみません」
そう言ったラムスが、その美しい貌を小さく動かすと、それまで少し離れた場所で待機していた猫耳娘たちが、複数の魔剣と紋を持ってきた。
紋も魔剣も普通に購入しようとすれば大金が必要だ。それを援助してくれるというのは、それなりに裏がありそうだ。




