44話 大賢者の決意
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
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44話
「ほぅ? まだ回復できるとはな、だが焼け石に水であろう。さて、どうやって殺そうか……」
聖魔王は、余裕の表情でアスカ達のむごい殺しかたを思案していた。
(聖剣が効かない……どうしたら良いの!?)
アスカは、聖剣の絶大な威力に自信があり、それが封じられた事で、そのショックは大きく明らかに動揺していた。
「…………」
一方、ルドルフは、黙って冷静に周囲を見渡した。
すると、ライデンは、ダメージが大きく立っているのがやっとで、エリスは火傷と凍傷が一番酷く、まだうずくまっていた。
ミツキは、傷は浅いものの、ほぼ魔力は尽きていて、威力のある魔法はうてなかった。
ルドルフ自身は、ダメージはそこそこだが、やはり魔力はほとんど尽きていた。
(劣勢……いや、敗勢……じゃな……)
ルドルフは、冷静に戦況判断をすると、そういう結論に至った。
(ならば……退却しかあるまい……だが、相手は魔王……いや聖魔王か……逃げるには……!)
ルドルフは、一度天をあおぐと、フッと笑った。
「……ミツキよ」
そして、ルドルフは涼しげな目でミツキの目を見て声をかけた。
「な、なぁに? おじいちゃん……」
ミツキは、ルドルフの見たことも無い表情に、意図を掴みかねて戸惑った。
「アスカ殿を頼むぞ……これからは、お前がアスカ殿達のブレーンとなるのじゃ……」
「えっ!? お、おじいちゃん……」
ルドルフは、優しい表情で語りかけ、祖父として、孫娘を思いやる気持ちに満ち溢れていた。
ミツキは、祖父の意図を汲み取り、嫌と言いかけて、言葉を飲み込み、静かに目を閉じた。
閉じたまぶたの奥には、涙が溢れてきた。
ルドルフは、ミツキの表情を見て一度頷くと、ミツキに背を向け、今度はアスカに声をかけた。
「アスカ殿」
ルドルフは、ミツキの時と変わらず、優しく声をかけた。
「ル、ルドルフ様?」
アスカは、動揺していて、頭の中が真っ白だった。
「逃げよ……神の鳥を呼ぶのじゃ」
「そ、そんな事をしたら、神の鳥が、魔王にやられてしまいます……」
「大丈夫じゃ。儂が食い止める」
「え!? い、いくらルドルフ様でも……」
「最強の魔法を使う。もっとも、これを使うと儂も死んでしまうがの……ホッホッホ」
ルドルフは、これから自分が死ぬというのに微笑すら浮かべていた。
「だ、ダメです! ル、ルドルフ様……」
アスカは、ルドルフの言葉を聞き、動転しながら止めた。
目には、みるみるうちに涙が溢れた。
「ダメなのは、ここで全滅することじゃよ」
ルドルフは、微笑したまま、優しく諭すように言った。
「そ、そうですが……」
「アスカ……おじいちゃんの言うとおりにしましょう……」
ミツキは、目を瞑ったまま、静かにアスカに言った。
その閉じたまぶたからは、止めどなく涙が溢れ、頬を伝い落ちていた。
「ミツキ……分かりました」
アスカは、ミツキの表情と言葉、そして、ルドルフの覚悟を感じ、承知した。
「さて、もう時間がない。ここは儂に任せよ。そして脱出し、力を蓄え、もう一度聖魔王に挑むのじゃ」
「はい……」
「うん……」
ルドルフは、死地に向かうとは思えないほど、優しく穏やかな表情で語りかけた。
「エリスちゃん、アスカ殿を守っておくれ」
「はい……」
「ライデン、儂に代わり皆を守ってくれ」
「分かった」
「ミツキ……」
「うん?」
ミツキは、心中は身を引き裂かれそうなほど辛く悲しかったが、涙を拭って無理に笑ってみせた。
「お前には、厳しく接してきたが……もう一人前の賢者じゃ。必ずアスカ殿達を助けられる。自信を持つのじゃ」
「うん……ありがとう……」
ミツキは、笑顔を見せたが、涙が溢れて止まらなかった。
「アスカ殿」
「ル、ルドルフ様……」
アスカは、泣いても動揺してもいけないと思ったが、思えば思うほど、心に反して声が震え、涙が止まらなかった。
「ホッホッホ……儂はこんな優しく美しい王女様に思われて幸せじゃのう」
「ル、ルドルフ様……わ、わたしは……」
ルドルフは、変わらず優しい表情で語りかけた。
アスカは、ルドルフの優しい気持ちが伝わり、言葉に詰まり、自分の無力さに震えた。
「アスカ殿、その優しい気持ち忘れないでおくれ。そして、お主ならば必ず世の中を救うことが出来る。自分を信じるのじゃ」
「はい……!!」
アスカは、ルドルフの最後の言葉を深く胸に刻み、涙を拭って力強く返事をした。
「意外と殺しかたは思い付かぬものだな……ひとまず5人とも生け捕りにし、じっくりと殺しかたを考えるとするか……」
「そうはいかぬな」
ルドルフは、聖魔王の前に立った。
「ほぅ? どうするのだ?」
「こうするんじゃ!」
ルドルフは、両手を広げ、全身から光線が放たれた。
聖魔王は、正面から光線を浴びた。
「ぐおっ! な、なんだこの魔法は……!?」
「エレメンタルノヴァ……全生命力を放出し、敵をうつ魔法じゃ!」
(まぁ、貴様を倒すにはいたらぬじゃろうがな……)
「なにっ!? そ、そんな魔法が……」
「知らぬじゃろうなぁっ! 儂のオリジナル魔法じゃからな!」
自己犠牲……力が支配する、弱肉強食の世界の頂点に立つ、聖魔王にとってそんな考えは全く無く、ありえない考えだった。
「神の鳥よ……!」
アスカは、悲しい思いを振りきるように羽をかざした。
神の鳥はすぐにやってきて、アスカ達の前に降り立った。
アスカ達は、急いで神の鳥の背に乗った。
「ぬ……奴等め……逃げる気か……! 逃がさんぞ!!」
「そうはさせぬわぁっ!!」
ルドルフは、聖魔王に向けて一段と激しい光線を浴びせた。
「ぐおうっ……!!!」
聖魔王は、全身に電撃が走り、悶え苦しんだ。
「ルドルフ様……! 神の鳥よ! 飛んで!!」
アスカは、ルドルフの最後の勇姿を目に焼き付け、神の鳥に飛ぶように促した。
神の鳥は、大きく翼を広げ一気に舞い上がった。
「大賢者様……」
エリスは、次第に遠ざかっていくルドルフの姿を見て、ガルーダとの戦いでアスカを救ってもらった時の事を思い出していた。
「大賢者様……今度こそアスカ様は、私がお守りします……」
エリスは、決意を新たにすると共に、ルドルフとの別れに涙を流していた。
「ルドルフ殿……」
ライデンは、ピラミッドでルドルフに命を救われた事を思い出していた。
「貴殿に救われた命……絶対に無駄にはしない……!」
ライデンは、かたく決心し、ルドルフの最後の姿に誓った。
「ルドルフ様……」
アスカは、力が及ばない無念さ、仲間を犠牲にする辛さ、仲間との今生の別れの悲しさ……など、様々な感情が沸き上がり、涙が止まらなかった。
「私は、必ず帰ってきます……! 聖魔王を倒す方法を身につけて……!」
アスカは、血が滲むほど唇を強く噛み締め、新たな決意を固めた。
「お、おじいちゃん……!」
ミツキは、これまで気丈に振る舞っていたが、いよいよ本当の最後の別れが迫り、声が震え、次々と溢れてくる涙が止まらなかった。
幼き頃の思い出、魔法を教わり師としての思い出、祖父と孫娘の生活の思い出、この旅での思い出など、様々な思い出が浮かんでは消えた。
そして、最後の優しく穏やかな祖父の姿をもう一度思い出した。
「おじいちゃーんっ!!! さよなら……」
ミツキは、感情の全てを吐き出すかのように大きな声で叫んだ。
大粒の涙が溢れて止まらず、悲しくて仕方なかったが、眼差しは、仲間達と聖魔王を必ず倒すと、決意を秘めた強いものだった。
ルドルフは、ミツキの声が遠くで聞こえ、微笑を浮かべた。
「アスカ! エリス! ライデン! ミツキ! 必ずこやつを倒せ!! 平和な世の中を掴みとるのじゃ!!!」
ルドルフは叫び、最後の力を振り絞り、一段と光線が激しくなった。
「ぐおおおおっ!!!」
聖魔王は、全身に電流が走り、激痛で大きくのけ反り、悶え苦しんだ。
神の鳥は、一気に魔王の城から離れ、凄まじい早さで飛び去った。
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