第六章 雪の葬列
それから数日後。
雪の降る墓地を、黒い喪服の列が静かに進んでいった。
クリスは涙をこらえながら歩き、ベルントはその隣で彼女を支えていた。
そこへ、一人の使者が近づき、ベルントに二通の手紙を差し出した。
「アーベル氏宛の返書です。アーベル氏からあなたが代理人に指定されていました。それと、これはアーベル氏からあなたへの親書です。遅れてしまい、申し訳ありません……」
ベルントは礼を言い、列から少し離れて封を切った。
一通目を読んだ瞬間、彼の顔に微笑みが浮かんだ。
だが、二通目を開いたとき、その表情は曇り、胸の奥に重いものが落ちてきたような気がした。
ベルントは、クリスのもとへ戻り、一通目の手紙を差し出した。
「アカデミーからだよ……」
クリスは震える指で文面を開き、ゆっくりと読み上げた。
「『我々には評価できないほどの大論文である……』」
その言葉は、ニルスの棺に向けた祝福のようだった。
クリスは濡れた目のまま、満面の笑みを浮かべた。
「……ニルス、見てる?」
クリスは、ニルスの棺に近づき、手紙をいっぱいに広げ、涙を流していた。それは悲しみだけでなく嬉しさも混じってのものだろうと、ベルントは思った。
ベルントは、そんなクリスの様子にほんの少し口元を緩ませた。
そして、コートの上から胸の内ポケットに触れた。そこには、二通目の親書……ニルスが死の直前に書いた、最後の手紙がしまわれていた。
ベルントは、その文面を心の中で思い返した。
『親愛なるベルント・ホルンボエ君へ。
もし僕が先に逝ったなら、クリスを頼む。
彼女は、美人ではないかもしれない。
しかし君も知る通り、本当に優しく、素晴らしい女性だ……』
ベルントは、棺に語りかけるクリスを見つめ、静かにうなずいた。
『ベルント君。
僕が……そんな素晴らしい女性の婚約者だった男が、決してつまらない人物でなかったことを、君の口から伝えて欲しい……』
ベルントは、内ポケットの上に手を添え、小さく呟いた。
「……ニルス。お前の最後の手紙、確かに受け取った」
雪が静かに降り続き、ニルスの棺を薄く、白く覆っていった。




