第五章 再び降り出した雪の中で
ニルスの身体は、クリスの腕の中で小刻みに震えていた。
束の間の青空は曇り、再び雪が静かに降り始めていた。
「ニルス、しっかりして……!」
クリスの声は震えていた。
ニルスは薄く目を開け、微笑もうとした。
「……ごめん。少し……疲れただけだよ」
その言葉は、あまりにも弱々しかった。
遠くから、雪を蹴る足音と、二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「クリス! ニルス!」
ベルントが周囲を見回しながら走っている。
二人の姿を見つけると、ベルントが駆け寄ってきた。
ベルントは、クリスが手にしている血に染まったハンカチを見た瞬間、表情を凍らせた。
「……医者を呼ぶ。すぐにだ」
◇ ◇ ◇
ニルスは家のベッドに寝かされ、医師が診察していた。
ニルスは眠っているように見えたが、その呼吸は浅く、細く、今にも消えそうだった。
すっかり暗くなった窓の外には、再び雪が本格的に降り始めていた。
クリスは椅子に座り、祈るように手を握りしめていた。そして、母の言葉を思い出し、震える声でつぶやいた。
「結核は、亡くなる前に、少しだけ元気になるって……私……何も気づかなくて……」
両目から涙があふれた。
ベルントは、クリスの隣に立ち、その肩にそっと手を添えた。そして、自らのハンカチをそっとクリスに差し出した。
◇ ◇ ◇
診察を終えた医師が、クリスとベルントの前に歩み寄り、静かに聴診器を外した。
そして、深く首を振った。
「……残念ですが」
その一言で、クリスの世界は音を失った。
クリスは目を閉じ、とめどなく涙を流した。
ベルントは、震えるクリスの細い体をそっと支えた。




