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第二話 メイドになった暗殺者

TSとはトランスセクシュアルの略で、性転換と訳されます。性別が変わる作品がTSものと呼ばれ、この作品もそれに含まれます。

 あなたの見る場面は変わり、ヨーロッパ調の格調高いリビングの一室になった。先ほどあなたが眺めていた部屋よりも倍以上の広さがある。


 今は昼下がりで、大窓から見える庭園と青空がとても綺麗だ。


 リビングの中央にはテーブルがある。ティーカップとお皿に載ったお菓子があり、剣士と魔法使いが座っている。二人とも、十代の少女だった。


「――というのが、私達の()()めです」


 テーブルの横に立って昔話……つまりはあの時の暗殺者の話を二人の少女にしていたのは、長い黒髪のメイドだった。


「ってことは、あなた、おっさんだったのっ?」

 緑の髪の剣士が驚いて声を上げた。


「はい。あの後、紆余曲折(うよきょくせつ)あって、この美しい体を手に入れました」

 彼女……元暗殺者は、笑顔を絶やさない。


「すごいねぇ~、全然男の人だって分からなかったよぉ~」

 薄い茶髪を二本の三つ編みにした魔法使いが言う。


 ちなみに、剣士も魔法使いも今は私服姿であり、あなたから見れば彼女達が剣士と魔法使いだということは判別出来ないだろう。


 魔法使いの少女が言う通り、メイドの姿には、全く不審な点がない。むしろ完璧な外見だと、あなたも思うことだろう。


 黒いロングドレスに白いロングエプロンを合わせたヴィクトリアンメイド型で、黒髪には白いヘッドレストをつけている。背は高めで、年齢は十代後半に見えた。

 顔つきは紺色の瞳が大きい美少女そのものであり、肌の露出が少ないメイド服の胸部はそれなりに大きい。


「ホントに信じられない……。何か証拠はないの?」

 剣士はメイドをまじまじと眺めながら問う。


「証拠はないが、俺が男の暗殺者だったというのは本当だ。中級程度の実力だったがな」

 元暗殺者は敬語ではなく、当時の口調で喋った。


「……ごめん。男性役の女性役者にしか思えないよ」

 困ったように剣士は感想を述べた。

 元暗殺者は声も少女であり、脅しを()かせた低い声でさえ、愛らしさが含まれてしまう。


「信じて頂けなくても結構です。私は別に困りませんので」


「あのー、わたしからも質問いいですかぁ?」

 今度は魔法使いがメイドに問う。


「なんでしょう?」


「本当に元男の人なら、女の人の姿になって困ったりしないのぉ?」


「元々、私は男とか女ではなく、暗殺者として育てられ、生きて来ました。今は、あくまでも女の体を借りているような感覚で、困ることがあるとするならば、この体に相応(ふさわ)しい振る舞いを常に演じなければならないということですね」


 背筋を伸ばし、両手を前に重ねて立っている姿は、主人に忠実なメイドそのものだった。


「この姿になった頃は、この胸も重くて邪魔だと思っていましたが、今ではもう慣れました」

 わざとらしくメイドは胸部を上下に軽く揺らしてみた。男だったら、まず不可能な動作である。


「さっきの話ってさ、美少女もおっさんも公平に助けられるべきって話だったじゃん? あなたの話が事実だとしても、おっさんが巨乳の美少女になっちゃったら、やっぱりおっさんよりも美少女のほうが優遇されるってことになっちゃうんじゃない?」


 剣士が疑問を突くと、メイドが目をつぶり、祈るように両手を組んだ。


「私も、この姿を授かった際、ご主人様に同じようなことを申し上げました。するとご主人様は、おっさんよりも美少女のほうが読者受けがいいのは()らがないと、おっしゃっていました。例え神様でも、これは()じ曲げられないそうです」


 メイドは剣士の横に行き、(かが)んで彼女の右手を取り、自らの胸部に押しつけた。


醜悪(しゅうあく)な男だった頃の私がこのようなことをしたら、きっと貴女は恐怖で震え上がると思いますよ? 当時の顔をお見せ出来ないのが残念です」


 あなたから見てもそれほど大きくない胸部の剣士は、メイドの柔らかいそれに触れさせられ、顔を赤くしていた。


「美しい少女の姿のほうが、このように相手を油断させられるので、元暗殺者としては気に入っていますね」


 笑顔を強めた後、メイドは剣士の手を離し、後ろの立ち位置に戻った。


「あのさっ、あたし達にそんな秘密をバラしちゃっても良かったの?」

 恥ずかしさをごまかすように剣士は尋ねた。


「貴女がたはご主人様のご友人ですからね。信じて頂けたようで何よりです。楽しい作り話だったでしょう?」


「「えっ、作り話?」」

 二人の少女の声が重なった。


「その答えはお二人に(ゆだ)ねますよ、お嬢様がた」


 メイドは笑顔を崩さない。


 自分は暗殺者ではなく役者にでもなっていれば、もっと上を目指せたかもしれないなと、元暗殺者はふと思った。


「なぁ、ちょっといいか?」

 ドアのほうから、背中ぐらいまでの黒髪を後ろで左右に束ねた少女が顔を出す。彼女はメイドに向かって声をかけていた。


「あっ、はい、ご主人様。今行きます」

 そう言葉を返し、メイドは二人の客人に軽く頭を下げた。


「すみません。席を離れますが、どうぞごゆっくりしていって下さい」


 メイドは彼女達に背を向け、主人のもとに向かおうとした。ドアを通過しようとした時――、メイドの頭部に光の矢が迫った。


 メイドは振り向きもせず右手で防御し、光の矢は消滅する。


 ようやくメイドは振り向いた。矢の飛んで来た客人達のほうを。


「なんのつもりだ?」


 かつて転移者に放ったのと同じ言葉だ。


 メイドの姿は一瞬で消え、現れた時には立っていた魔法使いの少女を背後から拘束し、彼女の首に相棒の短剣(スティレット)の刃を向けていた。


 剣士は魔法の矢を放った魔法使いに驚き、直後の迅速なメイドの動きにも驚いた。


「ご、ごめんなさい……っ。わたし、一時期、暗殺者が出て来る恋愛ものにはまってて、本当に背後から攻撃されても大丈夫なのかやってみたくて……」


「あんたそんなに非常識だったのっ! あたし知らなかった!」

 剣士はさらに驚いた。


 言い訳に納得し、メイドは(おど)しを解いた。ついでに魔法使いの背中で潰れていた胸部も離す。


「すみませんでした、お客様。本気ではないのは分かっていましたが、つい拘束をしてしまいました」


 魔法使いの正面に回って、メイドは頭を下げる。


「メイドさんは全然悪くないよぉ、わたしがひどいことをしたんだから……。でも、優秀な暗殺者さんだったってことは、はっきりしたよ」


「うん、すごく手際が良かったね」

 剣士も魔法使いに同調する。


「お()めに預かり光栄です」


「……なぁ、まだなのか?」

 ドアから再び黒髪の少女が顔を出す。不満げな視線をメイドに向けている。


「すみません、ご主人様。お客様に攻撃されたので、その対応をしていました」


「何っ?」

 動揺する顔を浮かべた少女は、すぐに行動を起こす。テーブルに座る客人達に怖い顔で詰め寄った。


「またお前かっ! なんでお前はいつもそういうことするんだ!」


 少女は剣士のほうに怒鳴った。


「違うっ! あたしじゃない! こっち! この子がやったの!」

 あらぬ疑いをかけられた剣士が即応する。


「んっ? そうなのか?」


「わたしなの、ごめんなさい……」


「ならしょうがない」

「ちょっと待って! なんであたしとそこまで対応に差が出るのよっ! ヒドいっ!」


「いや、お前なら平気でやると前々から思ってた」

「あたしの信頼性がゼロだった!」


「まあそんなことはどうでもいい、早く来てくれ」

「どうでもいいで済まされた!」


 少女に手を引っ張られ、メイドは部屋から退場する。


 残ったのは、緑髪りょくはつの剣士と三つ編みの魔法使い。それに飲みかけのミルクティーとお菓子。


「……もう、すっごく気分悪い。お菓子はおいしいけどさ」

 食べながら剣士は不満を口にする。


 パンの一種であるスコーンに、チョコレートウエハースに、オーツ麦入りのビスケットなど。これらは家の(ぬし)である少女の手作りだったりする。


「ごめんね、わたしのせいで……。でも、あの二人、普段からすっごく仲がいいよねっ」

 両手をぱんっとつけて、魔法使いは話を()らす。


「まぁ、それはそうだね。作り話じゃなくて本当に元おっさんなら、男と女で、いいカップルなんじゃないの? 年の差はありそうだけど」


 剣士は、ひたすらお菓子を食べ続けた。


 お皿の上が空になるのは、時間の問題だろう。

最後まで読んで頂き、どうもありがとうございます。

第二話、楽しんで頂けたでしょうか?

次回は最終回となります。最後までおつき合い頂ければ、ありがたいです。


もし良かったら、作者の別作品、『サキュリバーズ!』や『ホラチョコ! ~チョコミント好きな女子高生の恐怖体験談~』などもよろしくお願いします。

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