-3.〔回収:経験値異常獲得〕③
*
亘平はいざという時のために、事前に天使と打ち合わせをしていた。
が。
「なんだ、てっきり不意打ちするのかと思ったわ」
新たにできたクレーターの縁で、亘平に背中を向けたまま、破壊神が言う。
不意打ち――、当初はその予定だった。
しかし。
「気づいてましたよね?」
率直な理由を、亘平は口にする。
「まぁな。で、――なにソレ?」
亘平が手に持っている青白い球状の物へ目線をやり、破壊神は問う。
「……なんでも、経験値とやらを吸い出す物だそうです」
「なるほど、そういうコトな。ところでアンタ、歳いくつ?」
「二十六です」
「マジかよ。……えっと、――お名前をお聞きしても、よいのでしょうか……?」
意外にも、破壊神は結構な体育会系だった。
…
「――じゃあ、亘平さんはあの天使と一緒にチートを回収し回ってるんスか、凄いっスね」
「イヤそれほど凄くは……」
事実として、実際の回収はほとんど天使が行う。
亘平の普段の役回りは概ね天使の相談役で――。
「じゃあ、ソレで回収しないんスか?」
破壊神の指が球を差す。
その衝撃波で、若干亘平の衣類や髪が揺れ動いた……。
「いっつもこうなんスよね……。強くなりすぎて、下手に動くとなんでもかんでも壊しちゃうんス。だからクソも室内じゃできなくて、基本野グソっス」
まさか。と、亘平は雪原の穴凹の方を見、思った。が、あえて口にはしなかった。
「来た間無しは良かったんスけどね。いろいろと楽しかったし……仲間も沢山いて、でも、今は下手に近づくこともできないから、月に一度だけの楽しみってコトで近隣から踊り子を呼んでるんスよ」
「……なるほど」
「だから、この力を回収してくれるのはマジで助かるっス。……でも、せっかくここまで強くなっても試す相手がいないって、マジ、クソゲーって思いませんか?」
「クソゲー……」
「思いますよね。いやぁホント、ドラゴンとか四大魔王とかを倒してた時はマジでテンション爆上がりしまくってたのに……こんなのってないですよ。結局全部倒しちゃったから、もう対等に戦える、敵すら、この世界にはいないんス……」
そう述べる破壊神の表情は、誰が見ても、物悲しく。
――普段の亘平なら、そんなコトをする気も。立場でもない。
が。
「……あの」
「はい?」
「もし、よかったら……」
亘平はらしからぬコトを言う。自分でも、そう思うほどに。
…
亘平の提案は、さして破壊神の悩みを解決する程の内容でもなかった。
けれども破壊神は二つ返事で承諾する。
そうして、雪原に引かれた丸い円の中で、破壊神と亘平の戦いが幕を開ける。
線の外――二人を見守るのはなんとか自立できるまでに回復した天使、とリリーララ。
彼女は亘平に言われたとおり、開戦の合図を発した。
「はっけよい、のこったー!」
次の瞬間には真正面から破壊神と亘平の肉体がブツかる。
次いで呆気なく、亘平は勝ちを収めた。
亘平の体当たりで雪原に背中から倒れ込む破壊神、大の字になって、空を仰ぐ。
それを見て、亘平は申し訳なく思った。
されど破壊神の顔はすがすがしく――晴れ渡っている。
「いやぁー、なんか、敗けるってイイっスね……、ひさしぶりだわ」
「……スミマセン。こんなコトくらいしか思いつかなくて」
「いやいいっスよ。ジブン、満足してますから。それに、これからは室内でクソして石じゃないベッドでも寝れるんスよ。最高じゃないですか」
と、そこに、二人の決着を見定めた天使がやって来る。
「終わったのなら帰るぞ、コウヘイ」
「……ああ。そうだな」
スッと破壊神が上体を起こす。
「もう行くんスか? なんなら城で、宴とかできるっスよ」
破壊神の申し入れ、天使は全く興味が無さそうにし、亘平はありがたくも――。
「スミマセン。明日も仕事があるので」
――丁重に、お断りした。
▽
亘平は物事を深く考え込む性格の反面で、何事にも――こだわりがない。
別れ際、寂しげにするリリーララや居てほしそうにする破壊神の様子を見ても特に気にはならない。
帰還すれば平然と眠り――朝、顔を洗いに洗面台へと行く。
戻ってきたらダイニングテーブルで朝食を食べて、登庁する。
自宅は一般的な賃貸マンションで。部屋は、生活感がなく物の少ないシンプルなレイアウト。
物珍しいその光景を見つつ、天使は亘平に言った。
「またいつものコンビニでいいのか?」
「いいよ」
――ただ。
今回はさすがに温かい飲み物にしよう。と亘平は思った。
△
季節が秋になって、衣替えを始める人も増えていく中、亘平は年に二回しか替わらない。
つまり暑いか寒いかだ。
「今回の報酬だ、遠慮なく受け取るがいい」
夜間、事前に正面出入口の端で待機していた亘平は天使から缶コーヒーを受け取る。
天使は既にホストの様なスーツ姿に戻っており、いつも通り、レジ袋も片手に提げている。
「臨時報酬を出してもいいそうだが、――どうする?」
「必要ない」
一切悩む素振りすらも見せず、亘平は即答した。
「そうか。では、――次回も変わらずだ」
と言って、天使は亘平と別れ。
しばらくして亘平も帰路につく。その道のりで、印象に残ったコトを考える。
結論として、「魔法って便利なんだなぁ……」だった。
*
此度も無事にチートを回収することに成功した。
一度は全ての経験値を収集した対象に、本来の、過剰分を除いた量を返還。
世界の秩序は守られ、崩壊の危険性をも回避したこととなる。
したがって解決すべき問題点は一つ、――あの人間だ。
欲が深くないのは良い事だが……。皆無というのは、いただけない。
アレは本当に、人間なのか?
――今しばらく様子を窺う必要がある。
※ ※ ※
数日後――、職場での休憩中、亘平はこんな話を耳にした。
「課金アイテムが攻略に影響するって萎えるだろ」
「そうか? 嫌なら買わなければいいだけじゃ?」
「それはそうだけど……。あるってのが、もう萎えてくるだろ」
「なんでだよ、楽しみ方は人それぞれってもんだろ……」
「なら課金しなくても手に入るようにしてくれ」
「だから……俺に言うなよ」
今回も、内容は特に興味のない話だったが、記憶には残る。
――そうか、今夜か。
…
帰ると、自宅で天使が待っていた。
「さっそくだが、よいか?」
「顔だけ洗わせてほしい」
ただ少しだけ今夜の天使は焦っている様に、亘平からは見えた。
亘平の顔を見て、天使は言う。
「今回の対象は“ネットスーパー”だ」
「……ネットスーパー? 異世界へは行かないのか?」
「いや行く。ネットスーパーとは、現代のネットスーパーに異世界からアクセスできるチート能力だ」
そして、亘平がピンとこない顔をしたので――。
「――コウヘイ、きみはネットスーパーを知らないのか?」
どちらかというと天使が知っているほうがと亘平は思った、が。
「ネットは知ってる。じゃなくて……、どうしてソレが、回収する対象になるんだ?」
「うむ。詳しいコトは後で話す。先に転移するぞ」
そう言って、天使は亘平にいつも通りの翼が生えた背中を向けてくる。
「分かった」
亘平が天使の肩に、右手をのせる。
次の瞬間、亘平の意識は身体の感覚ごと浮き上がって――消えた。
今夜もまた二人の回収任務が、はじまる。




