↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

-2.〔回収:経験値異常獲得〕②

 窪んだ破壊の痕跡を縫うように歩き続けて、亘平・天使そしてリリーララの三名は、そびえ立つ古城のたもとへと辿り着く。

 雪景色の中で佇むその城は、見上げれば、歴史の重みと冷たい空気を纏う石造りの外観で。

 ――いかにも厄介な相手が待ち構えていそうな雰囲気を漂わせている。

 亘平は、建物の全容を把握しようと視線を巡らせ。

 半ば案内役となっていたリリーララは、緊張の面持ちで上を向いていた。

 が。

 ふと二人が前方を向くと、すでに天使は開いていた城門の隙間から中へと入りかかっていた。

 観光名所を巡るわけでもないのだから、当然といえば当然だが。それにしても、情緒や警戒心というものが全く感じられない、と亘平は思う。

 次いでため息を吐き、亘平は歩き出した。

 その結果、おずおずと様子を窺っていたリリーララも亘平に続く形となり、三人はそのまま城の深部へと足を踏み入れることとなったのだ。


  …


「――よく来たな。で、そこの二人はいったい何者だ?」


 破壊神の声が、底冷えのする王座の間に反響し三人の耳に入る。

 その問いかけに対し、リリーララが、緊張に身を縮こまらせながらも懸命に声を張り上げた。


「こ、こちらのお二人は……ちぃと、というものを回収しに来られた方々だそうです!」


 彼女のたどたどしい説明を受けた破壊神は、激昂するでもなく、納得したように深く頷く。


「だろうと思ったわ。おもいっきり背中に翼が生えてるしな」


 その発言に、リリーララは目を見張る。が彼女の視点では、天使の姿は少し肌の露出が多い女性の騎士としか映っておらず、背中の翼などは全く認識ができない。

 更には状況も呑み込めず戸惑うリリーララをよそに、天使が一歩――前へと進み出る。


「理解がはやくて助かる。さっそく神から授かったものを返してもらえるか?」


 そして一触即発、の空気が漂うかと思いきや、「ああいいよ」と、破壊神が拍子抜けするほどすんなりと承諾の意を示す。

 ただその直後に、破壊神の口元が不敵な形に歪み。


「だが返す前にやりたいことがあるんだ」

「何だ?」


 即座に天使が問い返す。

 そうして破壊神が意気揚々とその内容を語ろうとした、まさにその矢先。


「待った。その前に――、何で、裸なんだ?」


 ずっと事態を俯瞰し見守っていた亘平が、極めてフラットな声で唐突に会話へと割って入る。

 そんな一言によって、これから始まろうとしていた展開は一旦――腰を折られるのだった。


  ※


 成長系チート――経験値異常獲得、通称――レベルアップブースト。

 雑魚を倒しただけでも通常以上の莫大な経験値が入り、非常識な速度でレベル上限に到達する、ザ・定番のチート能力。

 だがその力が行き着く結末は、必ず、孤独である。


  ※


 吐く息も白く。広い王座の間でリリーララによる、たどたどしくも熱心な舞が終わる。


「ご苦労だった。オマエはもう下がっていいぞ」


 その一連の踊りを、最後まで見届けた破壊神は満足げに彼女へ労いの言葉をかけた。

 言われた通り、深く一礼をしたリリーララは、安堵と緊張が入り交じった足取りで破壊神の前からそそくさと下がっていく。

 そして。

 破壊神の鋭い眼差しが、亘平と天使の方へと向けられる。


「待たせたな」


 その言葉を聞き、天使は再び破壊神の正面へ――進み出る。

 天使の動きに合わせ、亘平も、その隣へと足を踏み出し。

 二人は横に並んで会話の場についた。

 すぐさま天使が、淡々とした飾り気のない口調で問いかける。


「で、話の続きだ。やりたいこととはなんだ?」


 対する破壊神はどこか清々しい笑みを口元に浮かべ、答えた。


「内容はいたってシンプルだ。オレに全力を出させてくれ、そうしたら、この能力は返してもいい」


 天使は至って冷静なまま聞き返す。


「勝敗は?」

「全力が出せるのなら、勝ち負けはどちらでもかまわない……」


 破壊神は憑き物が落ちたような晴れやかな表情で、そう言う。


「分かった」


 そうして、何の感情も無く、天使が受け入れた。

 その隣で、その言葉の裏にある切実さを静かに亘平は受け止めている……。

 しかしだ。

 どうしても、真っ裸で玉座に座るその姿が、揺ら揺らと目に付く。

 ふいに、破壊神の視線が天使の背後にある翼へと向けられた。


「もちろん飛べるよな?」


 すると天使は表情一つ変えることなく、羽根を軽く揺らしてみせる。


「伊達ではない」


 短く確かな自信を伴った天使の返答を、破壊神は聞き。

 それが、――開戦の合図となった。

 次の瞬間。

 何の予兆も、予備動作すら見えることなく――、破壊神の姿だけがブレた。

 ――ドゴォォォォンッツ!

 鼓膜を劈くような轟音が王座の間に響き渡る。

 破壊神が座っていた玉座は原形をとどめず、粉々に砕けて、周囲の石畳ごと陥没し。

 その凄まじい衝撃波は上方向へと一直線に抜けて分厚い石造りの天井を、まるで薄いガラスか何かのように容易くぶち破って――破壊神は行く。

 たちまち瓦礫が雨のようにバラバラと降り注ぎ、ぽっかりと空いた穴からは、灰色の冬空と、雪原の冷たい風が吹き込む……。

 舞い散る粉塵の中で――、天使は隣に立つ亘平へと顔を向けた。


「ここで、しばらく待っていてくれ」


 亘平は短く応じる。と、天使は力強く床を蹴り、純白の翼を大きく羽ばたかせて髪を揺らす。

そのまま、真っ直ぐに昇り、破壊神が開けた天井の風穴を通って外に、空へと――飛び出していった。




 破壊神を追いかけて、天使が行った後、しばらく亘平は城内に居たが室内の寒さに堪え兼ね外へと出てきた。

 最初はじっとしているよりは良いと思い、動き出したのだが。

 意外にも風のない雪原のほうが多少なりとも陽光がある分で、温かかった。

 それにしても、と亘平は尋ねる。


「リリーララさんは寒くないんですか?」


 もとから大して厚着をしている感じでもなかった、が、今は衣装を替えて露出の多い踊り子の衣装を着ている。


「はい。わたしはこの地域の出身なので、耐寒の魔法は子供のときから使えます。コウヘイは使えないのですか?」

「……――魔法、が使えません」


 思わず、リリーララが驚愕の表情を見せる。


「……魔法が使えない? そんな」


 亘平にとっては、当たり前の事でも。

 今居る世界では、異常な存在となる。

 何故ならここは、――異世界だから。


  …


 自然な流れで、亘平とリリーララが見守る古城の上空。

 破壊神と天使の戦いは、文字通り、力を出し切るような激しい戦いが繰り広げられていた。

 破壊の神と呼ばれるほどに授かったチート能力で極めた肉体――から放たれる拳の一撃は、ただの空振りでも遠方の地形を変化させるほどの衝撃波を伴い。

 軽く蹴っただけでも、灰色の空を切り裂いた。

 いつしかサイコロステーキの様になった雲の隙間から、格子状に陽光が漏れ、神秘的にも見える光のシャワーを浴びながら二人の激突は繰り返される。

 なるべく、地上へ被害が及ばない配慮をしながらも。

 されども、破壊神だけが疑問を抱く。

 その疑いは互いの攻撃が交差する度に募り、ついには人の身で神と肩を並べる者の口から発せられた――。


「――オマエ、本当に天使か?」


 その不信は天使の意に介することではなかったが、戦況に鑑みて、聞き返すこととした。


「それは、何か意味のある質問なのか?」

「……いや。ブッチャケどうでもいい。ただ、一つ聞いてもいいか?」

「――なんだ」

「オマエ、今が全力か?」

「――……だとしたら?」


 そうか。と、見上げる破壊神の声が、寂しげに、上空高くへと……掻き消える。

 刹那。

 破壊神の姿は天使の視界から容易く消失し。

 見失った天使の、背後から――。


「準備体操、くらいにはなったわ」


 ――勝敗を決する最後の一撃が、叩きつけられた天使の翼を散らす。


  …


 雪原に新たなクレーターができあがる。

 その窪みの最も深い所で、天使は仰向けに横たわっていた。

 周囲には自らの羽根が四散し、指一本も、まともには動かせない。

 天使は己が敗北を理解したが同時に手心を加えられたことも受容する。

 間もなく、破壊神が穴の縁に降り立った際の衝撃で小さな凹みができた音を天使は聞く。


「やっぱ天使だったわ。生きてるもんな?」

「……かろうじてな」

「でもスゲェよ。大抵は喰らった瞬間に爆散するからな」

「――……で、どうなんだ?」

「んー、そうだな」


 その時、破壊神の背後から近づく人影が――天使の視界に入る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。