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ディナータイム

 ふと目を覚ますと、木立の隙間から眩い夕陽の光がウロの中に入って来ます。

 どうやら雨も上がり、今日も一日が終わろうとしているようです。

 ようやく夕陽の光に目が慣れてきたところで、おもむろに体を起こし、辺りを見渡すと、ミカさんがドッグフードの前に立ち、熱視線を送っています。

 あららのら、ヨダレも口から滝のように滴っておりますねぇ。

「よかったら、一緒に食べ…」

「いいのっ!!」

 わたしが話し始めた矢先に、間髪入れず切り替えしてくる彼女。

「勿論、大丈夫で…」

「やったぁ~~!!」

 わたしの了承を遮り、嬉しそうに飛びかかってくる彼女。

 あの~、先程から迸るヨダレで、大変な事になっているのですが…主にわたしの顔面一帯が。


 わたしはドッグフードの袋に付いているチャックを開き、二人のベッドの傍に袋の中身を撒いていきます。

 もう、目がキラキラ状態の彼女は、目は当社比1.8倍の輝きを放ち、今にもドッグフードに飛びかかろうといわんばかりの体勢です。


「もう少しお待ちくださいね。」

 そう言って焦らしながら、わたしはビーフジャーキー様の準備にも取りかかります。

 作業中、彼女の方に視線を向けると、三角マナコの非常に怖い顔でこちらを睨んでいます。

 ようやっとの思いでビーフジャーキー様を取り出し、広げられたドッグフードの上に二切れずつお乗せすれば、ディナーの準備は整います。


 さぁ、各イヌゲートに入りまして、待ったの解除を待っています…。

 今!

 待ったが解除されましたぁ!!


「いただきまぁ…。」

 わたしが食事の挨拶をしようとする矢先、食事の挨拶をすっ飛ばし、彼女は夕食にがっつき始め…。

 まぁ、凄まじい食べっぷりですね、これは五分と持つのでしょうか?

 彼女の爽快な食事っぷりに少々腰が引けながらも、わたしはわたしの夕食を堪能することにしました。


 さて、食事中ではあるのですが、わたしの頭にはある疑問がもたげかかってきておりました。

 よくよく考えてみたのですが…。

 わたし()()()()()()()()()()()?ようなのです。

 ワンワンという吠え声が聞こえているのは当然なのですが、副音声で人の言葉も聴こえてくるのです。

 ご丁寧に、ミカさんはハイティーンのお嬢さんを思わせる声色で会話をしてきます。


「海外映画の副音声放送みたいなモノかな?」

「???」

「ああ、いやいや、気にしないで下さい。」

「???」

 わたしのつぶやきに首を傾げながら、それでもお食事にご執心中の彼女。


 はてさて、彼女には、わたしの声なり言葉なりは、どのように聞こえているのでしょうか?

 食事前の「待て!」にしても、今の他愛無い会話にしても、なんだか人間同士が遜色なく会話しているように、意思疎通は出来ているようにも思えてしまうのです。

 吠えているだけで、意思疎通が出来ている事を考えると、どうやら()()は通じているとは思うのですが…元人間としては、その辺りのご都合主義が、非常に気になってしかたがありません。


 さて、一頻りディナーを楽しんだ後、ポツポツと語り始めるミカさん。

「私ね…元は、牧羊犬だったの。

 でもね、私の働いていた牧場が無くなって、私はここに放たれて…。」


 彼女は、視線を落とし、泣きそうな顔になっています。

 流行病の影響で酪農家や家畜の世話をしていた農家さんが困窮に追いやられた話は伺ったことがあります。

 しかし、牧場が閉鎖されるとなると、穏やかではありません。

 あるいは、彼女が暮らしていた牧場は観光農場で、流行病の影響による観光客減少が影響したのかもしれません。


「私ね、狩りとか得意じゃなかったの。

 だから、土を掘り返して白い幼虫を取ってみたり、草原の奥を流れる川に行って、うちあがった魚を食べてみたり…。」

 彼女の瞳からは、涙の雫が地面に落ちていきます。

 わたしは、黙って彼女の話を聞いていました。


「でも、今日のご飯は美味しかった!

 昔の悪い思い出を忘れさせてくれるくらいに…とっても。」

 そう言って、彼女は笑顔でわたしの方に顔を向けてくれました。

 その顔には、真新しい涙のスジが残っています。


「それは、何よりでした。

 暫くは、美味しいごはんを食べましょう。」

「うん。」

 わたしの返答に、満面の笑みで答えてくれるミカさん。

 さてさて、二匹で食べていくとなると、手持ちの食料では先々心配になってくるところもあります。


「あと、狩りの練習もしないと行けませんね。」

「坊やに期待しているわ♪」

 わたしの相談に、手堅い言葉で返してくれる彼女。

 どうやら、狩りをするのは、男の重要な役目のようであります…そこに()()()特典は付かないのです。


「が…頑張ります…」

 返答したわたしの額を幸せそうに舐め回すミカさん。

 女性の恐ろしさを身に染みて理解できた瞬間でした。

 …まぁ、狩りには興味がありますので、別に問題もないんですけどね。

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