午後の現場 ~前段階
そろそろ町内放送のスピーカーからお昼の音楽が流れ始める頃に、一台のクレーン付きの2tダンプが自宅の玄関前に横付けしてきます。
運転席から降り立つグレー迷彩の作業着を纏った大男。
(ロック!)
ロックとは、彼の巨体に付けられた高校時代の愛称で、本名はコウタロウで、ニックネームはコーチャンと呼ばれることもありました。
「ミッチャン、ロックが来たぜぇ~!」
ケンゴの声が響き
「了解ぃ~。
ケンちゃん、玄関の廃材搬出を手伝ってもらえるかなぁ。」
「了解!」
ミッチャンとサトルの掛け合いの声が聞こえた後、玄関先でロックを中心にサトルとケンゴが打ち合わせを始めます。
やがて、ダンプの荷台に積まれていたブルーシートをロックから受け取り、玄関から奥に向かうサトルとケンゴ。
ロックはクレーンを操り、クレーンの先端を玄関の方に下ろしていきます。
ダンプの裏側で行われる作業なので、こちらからは確認する術はありませんが、男性陣の「セーノーデェー!」という掛け声と、物が当たる音から、瓦礫の撤去を進められていることが想像できます。
やがて、お昼のチャイムが町内放送のスピーカーから流れると、4人の男がロックの乗ってきたダンプの周りに集まって来ます。
どうやら、お弁当の時間のようですね。
路肩に古畳を敷き、持参した重箱のようなお弁当をバックから取り出すと、『四人車座り』になって、お互いの弁当の中身を覗いては、楽しそうにご飯を食べる悪ゴロトリオプラスワンが居ます。
わたしが思わず吹き出していると、ケイコさんが不思議そうにわたしの顔を見てきます。
タブレットを取り出し、説明することにしましょう。
『あの悪ゴロトリオとロックはライバルだったんですよ、シマ喧嘩とかでね。』
「なるほど…。」
相槌を打って感心するケイコ。
『それが、今ではチームを組んで仕事をやってる。
何だか、とっても滑稽でね。』
「確か、奥様同志は仲が良かったみたいね。」
『ああ、四姫と書いてシキと呼ばれていた、女性達だよ。
普段から和気あいあいとしては居るんだけど、学校の美人コンテストでは、毎度四人が雌雄を決するんですよねぇ。』
「あらあら、それはよっぽど仲が良かったのね。」
ケイコさんがおどけてみせるので
『ああ、人様の恋路を絶賛応援してたら、悪い連中と恋仲に落ちるほどね♪』
ケイコさんは、ケラケラ笑っている。
さて、少し遅れてタケシ君も玄関から出てきたところでミッチャンに捕まります。
二言三言の会話が済むと、四人の中心に座らせられるタケシ君。
四人は持ち寄った弁当から、おにぎりやおかずのおすそ分けを始めます。
遠慮がちになっているタケシ君の肩を、ミッチャンが優しくポンポンと叩けば笑いが起こり、仲間に引き込まれていくタケシ君。
昼食を楽しむ若い男の子と古い男の子ドモ、車座りの連中は談笑しながら、すっかり仲良くなった模様で、小一時間も盛り上がっていました。
昼食が終わり、作業に戻る五人衆。
そうなのです、タケシ君もいつの間にかミッチャン達の仲間に入って、廃材処理をしています。
肩を叩き合って、お互いの士気を高め、気さくな笑顔で場を和ませ…。
午後三時前にはクレーンを使って廃材を積み込み始めるロック。
時を同じくして、4tダンプの荷台から部材を降ろし始めるミッチャンとタケシ君、部材を受け取り次々と屋内に入っていくサトルとケンゴ。
ロックは廃材の積み込みを終えると、ミッチャン達に合流。
サトルとケンゴは仕事を始めたのか、運搬作業から戻らなくなり、変わってロックとタケシ君が屋内に部材を運び込んでいきます。
部材の運び込みが終わると、挨拶を交わして2tダンプに乗り込むと出発するロック。
ダンプを見送った後、ミッチャンは屋内へ向かい、タケシ君は、こちらにやって来ます。
『お疲れ様ぁ。』
「お疲れ様でした。」
二人に迎え入れられ、ヘトヘトながらも笑顔のタケシ君。
玄関に積み上げてあった瓦礫は姿を消し、ミッチャンの4tトラックに積んであった機材が整然と積み上げられ…程なくして機材も消費されてしまった。
初日から本工事最大の山場であったはずの『耐震工事』も無事完了し、午後五時を迎える頃には役所の担当官の監査まで完了してしまいました。
これは、喫茶店の開店時期は相当な前倒しになってしまいそうです。
そして、はからずも高校時代の友人たちの元気そうな姿を見ることが出来、非常に満足でした。




