表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

8話 正しいやり方

「人を集めるやり方なら、少しは知ってる」




水島がぼそっと言う。


「お前は黙ってろ」


「でも早乙女さんの感覚は正しい」

「お前の“初動を作る”は、たぶんかなり危ない」


俺は紙を机に置いた。


「危ねぇのは分かってる」

「だが、いい作品作って置いときゃ勝手に売れるほど、世の中甘くねぇんだろ」


「そうだけど」


「なら、最初に人を動かす必要がある」

「だったら、動かし方を知ってる奴が動かす」

「単純な話だ」


水島は腕を組み、俺を見た。


「それで?」

「具体的には」


「今のところ二つ」


指を二本立てる。


「一つ。夜の店の女や客に回して、口コミを作る」

「二つ。俺の知ってる連中に“面白ぇもんがある”って言わせる」


早乙女が盛大に嫌そうな顔をした。


「うわぁ……」

「最悪だ」


「何でだ」


「何でって、そんなので読まれたくないですよ!」

「私の漫画、そういう“撒き餌”みたいに扱われるんですか!?」


「撒き餌じゃねぇ。初動だ」


「言い換えても一緒です!」


水島は黙っていたが、目だけは冷たかった。


「お前、それをやった瞬間」

「作品の価値じゃなく、“お前の顔”で売れたことになるぞ」


その言い方は少しだけ腹に刺さった。


「最初は何でもそうだろ」

「どんな商売も、最初は知ってる奴に回す」


「そうじゃない」


水島は、机の上のネームを指先で軽く叩いた。


「この作品は、“終わりかけた男のどうしようもなさ”が芯だ」

「そこに、夜の店だのヤクザのつながりだのを前面に出したら、読まれ方が変わる」


「変わる?」


「変わるよ」

「“いい話かもしれない漫画”じゃなく、“ヤクザが回してるヤバい漫画”になる」


早乙女がぶんぶん頷く。


「そう! それです!」

「私が描いてるのは“そういう消費”じゃないんですよ!」


「消費されなきゃ金にならねぇだろ」


「うっ……」


言い返せなくなって、早乙女が詰まる。

そこへ水島が静かに続けた。


「売れるためには消費されるしかない」

「でも、どう消費されるかは選べる」

「最初の読まれ方は、その後の作品の顔になる」


俺は黙った。


それは、少し分かる気がした。


同じ金でも、どこから来た金かで匂いが違う。

同じ噂でも、誰が流したかで品が変わる。

最初に付いた顔は、そう簡単には剥がれねぇ。


だが。


「じゃあどうする」


俺は水島を見た。


「綺麗事で売れるなら最初から苦労してねぇ」

「SNSでバズる友達がいるわけでもねぇ」

「固定ファンもいねぇ」

「広告打つ金もねぇ」

「お前の言う“ちゃんとした初動”ってのは、どこにある」


水島は少しだけ考えた。

早乙女も黙る。


その沈黙が、逆に答えを物語っていた。


ねぇんだ。

そんな都合のいいもんは。


だったら――。


「結局、使えるもん使うしかねぇだろ」


「だからって裏を使うな」


水島の声が少しだけ低くなる。


「お前、最初にそこを使ったら、後で必ず同じやり方に引っ張られる」

「数字が落ちたら、またもっと刺激の強い場所に撒く」

「もっと危ない客に寄せる」

「もっと露悪的な売り方を覚える」


「……」


「作品を守る気があるなら、最初の一歩でそれをやるな」


その言葉に、少しだけ部屋が静まった。


早乙女も、水島も、本気だった。

売る気がないわけじゃない。

ただ、“どう売るか”に線を引こうとしている。


俺はその線を、どこか馬鹿みてぇだと思いながらも、同時に少しだけ羨ましくも感じた。


そんな線、俺の世界にはとっくに無かったからだ。


「じゃあ聞くが」


俺は机に身を乗り出した。


「お前らの言う、作品を汚さない売り方って何だ」


今度は、早乙女が先に口を開いた。


「刺さる人に届けばいいんです」

「数じゃなくて」


「その刺さる人は、どこにいる」


「それは……」


「探しに行かなきゃ、見つからねぇだろ」


早乙女が黙る。


水島が代わりに答えた。


「探しに行く」

「でも、客層は選ぶ」


「どうやってだ」


「作品と近い温度の場所へ投げる」


その言い方が少し気になった。


「例えば?」


水島は少し考え、それから早乙女の本棚を見た。


「まず、同ジャンルで今売れてる連中の感想欄を漁る」

「どういう言葉で刺さってるかを見る」

「次に、その読者がどこにいるかを探す」

「SNSでもレビューでもブログでも何でもいい」

「作品の“傷”に反応する場所へ投げる」


「地味だな」


「地味でいい」

「初動ってのは、派手に燃やすことじゃない」

「最初の十人に、ちゃんと好きだと言わせることだ」


早乙女が、ぽつりと呟いた。


「最初の十人……」


「一万人じゃない」

「十人」

「でも、その十人が本当に好きなら、二十人になる」

「雑にばら撒いて百人拾うより、よっぽど強い」


その物言いは、どこか意外だった。


もっと数字だけを見る男かと思っていた。

だが水島は、数字の前に“濃さ”を見ているらしい。


「真壁」


「あ?」


「お前のやり方を全部否定するつもりはない」


水島は正面から俺を見た。


「客を動かす嗅覚は、お前の武器だ」

「でも、最初の客の質を間違えるな」


「質、か」


「そう」

「何を面白がる人間に見つかるかで、その作品の今後はかなり決まる」


早乙女が小さく頷く。


「……それは分かるかも」

「私、前に一回だけ、変なバズり方したことあるんです」

「ネタ画像みたいに切り取られて、全然違う楽しみ方されて」

「数字は伸びたけど、すごく嫌で」


「だろ」


水島が言う。


「数字が伸びることと、作品が正しく届くことは同じじゃない」


俺は背もたれに寄りかかり、天井を見た。


面倒くせぇ。

本当に面倒くせぇ話だ。


売れりゃいい、じゃ終わらねぇ。

誰に、どう、どんな顔で届くかまで考えなきゃならない。


表の商売ってのは、つくづく厄介だ。


だが――。


「分かった」


俺が言うと、二人がこっちを見る。


「最初から夜に撒くのはやめる」


早乙女の顔が少し明るくなる。


「ほんとですか」


「その代わり、別の形で使う」


水島が眉をひそめた。


「別の形?」


「夜の連中は、口コミそのものには使わねぇ」

「だが“どんな言葉なら人が止まるか”は知ってる」

「客を呼ぶ文句、興味を引く見せ方、欲しがらせる順番」

「そういう感覚だけ、俺が拾ってくる」


水島が少し黙る。


「……悪くない」


早乙女が驚いた顔をする。


「え、いいんですか?」


「作品そのものを安く撒かないなら、参考にはなる」

「客商売の導線設計って意味では、確かに近いものがある」


俺は鼻で笑った。


「ようやく分かってきたか」


「最初から分かってる」

「お前が最悪な方向に使いそうだから止めただけだ」


「感じ悪ぃな」


「今さらだろ」


その時、早乙女の画面に通知が出た。


「……あ」


「何だ」


「前作の感想です」

「販売再開されたの気づいた人が、もう書いてる」


早乙女がそれを開く。

俺も、水島も、自然と身を乗り出した。


短い感想だった。


“これ、痛いくらい分かる。

かっこよくない男たちが、かっこつけたまま寄りかかってるのがいい”


部屋が静まる。


早乙女が、小さく息を吐いた。


「……こういうの、嬉しいんですよね」


その声は、少しだけ震えていた。


俺はその感想を、もう一度見た。


かっこよくない男たちが、かっこつけたまま寄りかかってる。


それは、早乙女の漫画のことだった。

だが同時に、俺たちのことでもあった。


水島がぼそりと言う。


「こういう感想を書ける人間に、新作を最初に届ける」

「方向は間違ってない」


早乙女が画面を見たまま、ぽつりと呟く。


「じゃあ……探します?」

「こういう人たち」


「探す」


俺は即答した。


「お前の作品を、本当に欲しがる奴を」

「夜の連中じゃなく、レビューで笑うだけの野次馬でもなく」

「ちゃんと刺さる奴を探す」


そう言った時、自分でも少しだけ不思議だった。


数だけ拾うなら、もっと簡単なやり方がいくらでもある。

だが今、口から出たのはそっちじゃなかった。


水島が俺を見た。

少しだけ、値踏みするような目だった。


「……変わるの早いな」


「うるせぇ」


「いい傾向だ」


「褒めてんのか」


「今はな」


部屋の空気が、ほんの少しだけやわらぐ。


ネームの直しが終わり

ペン入れを行い60ページ程の原稿が完成したのは

3週間後の事だった

読んでいただいてありがとうございます!


真壁はルールの穴を突く方法を提示しますが水島はそれに反対します。

短期的ならともかく長期的に見ると作品を殺してしまうからです。

まあ、一番しんどいのが見て貰えず何のコメントももらえない事なんですがね。

今は凄まじい速度で作品が更新されて数も多いので良い作品を作っても見て貰えるとは限りません

ファンを大事にする方向で間違いはないかと思います。


読み終わりましたら上の☆マークを五つ分頂けますと幸いです。

リアクション、レビュー、感想、ブックマークよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ