9.
明日、夏休みが終わる。
ポーションは結局一つ使ってしまったが、それでも有意義な成果が得られたと思っている。
結局、到達出来た階層は二十四階層。
魔物と戦闘する事を徹底的に避けてここまで来たので、本当の実力と言えないかも知れないが、それでも卒業後を考えると、今のうちにここの階層まで到達した経験があるというのは大きい。
十八階層から先は、十七階層を突破した後では然程難易度に変化を感じなかった。
しかし、大きな変化を感じないと言っても毒の階層という厄介過ぎる性質のせいで障害となる事柄が多い気はした。我がクラスの最高到達階数がここら辺で伸びづらくなり、ペースが落ちていったのも今ならその理由を実感と共感を持ちながら理解出来る。
それに、厄介だったのは毒だけではない。
ソロで敵を避けるように進んだ俺のようなタイプではなく、通常ダンジョンに挑む際に組む数人のパーティの場合を考えると、探索十七階層以降の階層から二十三階層までは洞窟が只管続く環境になっており、奇襲など思いがけない攻撃は岩陰に潜んでいたトカゲのブレスや、足元不注意で毒胞子ミニキノコみたいなのを踏ん付けてしまう程度なものではあるけど、ここの魔物に効きそうな炎魔法を放てる魔法使いは、酸欠という嫌に現実的な可能性があるため使い所を考えなくてはいけなくて、剣なども長物は振りづらい狭さをしている空間では最悪の場合、自分の得物が上壁部に引っかかって敵に隙を晒してしまう可能性がある。
加えて、左右の道幅や上下の広さは本当にまちまちで規則性がなく、その場所を普段から住処としている魔物側からすれば狩りが捗るが、その狩りの獲物となる探索者側からすれば、環境に配慮しながらの戦闘になってしまう構造をしているため非常に戦いづらい。
何はともあれ、そんな厄介な階層群を抜けた先にやっとの思いで辿り着けた二十四階層ではあるけど、昨日ここに到達したばかりという事もあって、実はあまり探索出来ていない。
それに、明日から学校が始まってしまう為、暫くこの場には来れないだろうから、何か素材を採取出来たら将来の資金石になるかも知れないけど…聞いていた以上にこの階層は暑苦しく、まるで熱に包まれているかのような錯覚をした。
夏場である外の気温と変わらないかそれ以上の、肌に張り付いてくる熱気と湿度。
この空間では立っているだけで自発的に体が汗を放出し、その水分が服に染み込んでいくジトッとした気持ちの悪さ。
直前の階層が冷んやりとしているから、それも相まって余計に煩わしい暑さに辟易し、集中力が強制的に削られて行く。
どうやら、想像以上にここもまた二十三階層までと同様に厄介な階層らしい。
とは言え、ここの階層に二年生の時点で来れたという事実による達成感で、外にいる時に感じる気候の不快さと比較して幾分かマシに思えた。
別に気負っていたという程でもないと思い込んではいたけど、実際来てみると安堵感も多分に得ていた。
と、言う事で明日から久しぶりに学校があるから、ここ最近にしては早いけど寮に戻ることにした。
帰りは、いつも通り浅い階層で訓練して帰ったのだが、あまりその近辺で怪我を負う事もなくなってきた。
そのため、「そろそろ訓練の階層も引き上げるか」なんて考えながら保健室に向かって軽傷を治してもらう。
昨日ほどではないけど、今夜も良く眠れそうだった。
そうして、二年生の夏休みが明けた。
寮に住んでいて校舎が目に入る範囲に建っているせいなのか、久しぶりな感じもそこまでしない学校に登校し、ホームルームが終わった後に全校集会に1〜3年生が集う。
壇上に代わる代わる部活動の表彰や生活指導担当教員の挨拶やらで入れ替わり話をして、淡々と時間が緩やかに流れて行く。
3年生は気怠げな様子で夢の中へ旅立っているか、コソコソと聞こえないくらいの声で談笑していて話は恐らく誰も聞いていない。
対して、1年生はまだまだ肩の力が抜けきれていない印象で、眠そうではあるものの、しっかりと話を聞いている生徒が複数名居るようだ。
ちなみに、我が2年生の集団は、ちょうど過渡期といった感じで、3年生と1年生を足して二で割ったくらいの態度で、話を聞いているんだか聞いていないんだか分かりづらいあやふやな態度で、取り敢えず前の方は向いている人が多い。
そこで校長が壇上に上がる。
さすがは学校という一組織のトップを張っているだけのことはある。
開始僅か一分という短い時間で、3年生は全滅。
1年生も粘って耐えてはいるが、何人かは舟を漕ぎ始めた。
そこで自分も意識が持って行かれたため記憶が途切れているが、次に瞼が上がったのはギリギリ話が終わる直前。
3年生と2年生が全滅から徐々に生徒が意識を取り戻し始め、1年生も壊滅状態から回復し始めたくらいに目が覚めた。
満足げに話終えていた校長を見て、生徒の緊張を極限まで解す手腕は、まさに歴戦といった感じで脱帽だ。
敬意の念を、スピーチ後の一礼に込めながら頭を下げておいた。
校長の話って、魔法か何かかと勘違いしてしまうくらい眠いよね。
(閑話休題)
始業式が終わると、早速といった様子で、担任がクラスみんなを伴いダンジョンに来ていた。
もはや恒例となり馴染んで来た「鑑定」を行うために。
「次の人、入って良いって」
「わかった、ありがとう」
鑑定の時以外で、あまり話した事のないクラスメイトに呼ばれて鑑定室に入る。
鑑定士の職員も自分も違いに慣れた様相で鑑定を行い結果が出力された紙を受け取る。
そして、しっかり自分の名前が記載されているかだけ確認したら、スキル欄を流し見る。
いつもなら数秒で終わるのだが、今回はスキルが新しく生えていたので二度見。
最近は処分してもらっていた鑑定紙を持ち帰る旨を職員の人に伝える。
今日は全体ガイダンスみたいな感じで、本格的に座学や実習が始まるのは明日からになる。
そして放課後。
早めに自室へ戻り、いつもならダンジョンに即向かう所だが、今日は向かう前に鑑定用紙をもう一度見る。
新しく得られたスキル名は「自然治癒促進」
サイトの情報によると、ざっくり言って「怪我の治りが速くなる」という効果があるらしい。
怪我と治癒を繰り返す過程で得られたのだろうか?
ともあれ、将来を考えるととてもありがたいスキルであることに変わりはない。
素直に嬉しい。
一通り調べたので、ダンジョンに割ける時間は減ってしまったけど、それでも日課となっているダンジョンには潜ってから一日を終える。




