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いつか、世界最速の探索者  作者: 描き手


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7/17

7.




 十六〜十三階層。

 回復の泉を毒消しの当てにして、マッピングしたスポットを巡るが、運悪く自分が見つけた全てのスポットに魔物が居た。


 手足の感覚が既になくなりつつある事、マッピングした際は殆ど戦闘をしなかったため敵の攻撃手段についての情報が不足している事、八階層までは湿地帯のようになっていて大幅に減速して走りづらく戦いにくい事の3つを理由にして、戦闘は断念。


 そんな感じで、出来得る限り戦闘は回避して帰還を選択。

 道中は回復魔法の解毒を少しでもマシになればと思い出し、イメージしながら疾走し続け、気づけばダンジョンの入り口に辿り着いていた。



 無意識に震える温度感覚どころか既に触覚すらも感じない手足を、「帰る」という意志だけで気合いを振り絞って只管に動かし、蒸し暑い季節にも関わらず、そんな外の暑さすら感じない不思議な感覚を体験しながら、いつもの保健室。


 自分がどうなっているかなんて意識が朦朧として考える事も出来ずに、ドアのノックすら忘れて入室し、兎に角空いているベッドに倒れ込む。

 何者かが何事か声を発して自らの鼓膜を震わせているのはなんとなく感じ取りながらも、意味を解する余裕がなくて、そのまま意識を少しずつ放り投げて行く。





 ……起きたのは15時過ぎ。



 意識を失う前まで感じていたあやふやな感覚はこの時点で綺麗さっぱり消え去っており、エアコンが効いた室内の空気と自らに掛けられた布団の重さ、自室にあるベッドよりも抵抗を感じるマットレスの反発と寝床の作り出す暖かさが身体を覆い、安心感が心を包む。



「あの、おはようございます。」


「ん?ああ、おはよう。」

 


 起きてからもしばらく横になっていたが、どこか居辛さみたいなのを感じて取り敢えず部屋に居た先生に挨拶するだけしてみた。

 

 今日の担当は30代くらいの男性のようだ。

 読んでいた本を閉じて、こちらに視線を合わせる。

 それから体感数分。実際には数秒の気不味い時間が流れる。お互いに言葉を探すようにただ目を合わせるだけ。


「……えっと、治療ありがとうございました。」


「…気にしなくて良い、それが私の仕事だ。」



 ………そして、再びの沈黙。



「……あ、じゃあこれで、失礼します。」


 その場の雰囲気によって、段々居た堪れなくなって来たので、取り敢えず寮に帰る事にした。


「失礼しましたー。」


 それだけもう一度言って、扉を開けるために先生に背中を向けたその時、思い出すかのように先生が言う。


「あー、解毒ポーションは買っておいた方が良い。それだけでも、帰還率は違う筈だ。」


「あっ、はい。そうします。失礼しましたー。」



 保健室から寮に戻ろうと数歩踏み出して、ふと、光が窓から差し込んで自分の影が伸びたのに目が留まった。

 ダンジョンから帰って来て、外がこんなにも明るいのは久しぶりだった。


 今日から夏休みではあるけれど、購買自体はまだ開いてる午後の時間帯。


 お金があまり無いため、普段購買に立ち寄る事なんてほぼないけど、今日は保健室の先生に言われた事もあって、学内の地図を確認して行ってみる。

 

 


 内装は、よくある学校の購買部。

 ただし、取り扱っている商品は特殊の一言。


 レジがある台の下は、ケーキ屋にある巨大なショーケースのようになっており、そこにケーキではないがここで購入可能な商品がズラリと並んでいる。

 一部は、商品そのものというよりもイメージ写真が貼り付けられたブックスタンドのようなものも陳列している。


 今日来た理由のお目当ての商品は、こちらから見て一番上の列の右手側にあるのを確認出来た。


 {解毒ポーション(弱)} 5000円(税込)

効能:麻痺毒・神経毒等対応


 シンプルな説明で、値段も役所や専門店で買うより結構リーズナブルに求められる。学生プライスの価格設定で可能な限り探索者含めここに居る人間に抵抗感無く買えるような心遣いを感じる。

 しかも、値段は確かに抑えらているが、何社かの大手から大量に仕入れる点、学校教育機関である事を理由にコストを抑えている点、国の補助がある点等から、専ら全て正規品を取り揃えているという。

 ポーションの(弱)ならば、所謂生産系スキルを獲得した先輩達の作品・商品も多いかも知れない。品質を保てている点から考えると、皆真面目に働いているということだろうか?

 まあ、例え卒業した先輩達にそうしなければならない理由があったとしても学生のうちはまだ知りたくない、とそう思った。


 思考を若干逸らしながらも、ポーション以外の商品も確認する。

 幸いにして、今の時間は丁度並んでいる人も居ないようだったから。


 カロリーバーやドライフルーツ、干し肉など保存食がドラッグストアよりも安かった事に少しだけ関心を持ちつつ、一番高額な商品が十万を超えるのは特殊とは言え仮にも学校としてどうなんだと思いながら、「いや、でも定価より断然安いからセーフか」なんて心の中であれこれ呟きながら数分はそうして見ていた。

 レジに居た人も見初めて暫くすると、接客臨戦モードから待機モードに移行して、遠くを見つめたり商品を並べたりとリラックスしている。


 それから、さらに数分が経って学生が一人入って来た事で、レジの人が接客モードに再び戻った。

 入って来た学生は、靴に入ってるストライプ、サイドカラーから多分一年生だと思われる。

 俺の後ろに並んだ為、邪魔をしては悪いと思って、さっさと注文する事にした。


「すいませーん。解毒ポーションの(弱)2つとHBのシャーペンの芯を1つ、それと、一番右側にあるシャーペン下さい。」


「はい!解毒ポーションの(弱)が、お二つとシャープペンの芯、それから、こちらのシャープペンでお間違えないですか?」


「はい。それでお願いします。」



 ポーション2本は正直痛手だけど仕方ない。1本で良いかとも思ったが、明日からもダンジョンに通い続けるから直ぐに使うと思って、不足の事態に備えて一応もう1本予備に買っておく。

 それから、ついでとばかりに筆記用具の補充も行っておく。使う時にないのは面倒に感じて嫌だし、何より多少安かったから。



「お支払い方法は?」


「モバイル決済でお願いします。」


「・・・はい!ありがとうございましたー。」


「ありがとうございます。」

 


 帰り際、並んでた下級生に軽く会釈だけして横を通り過ぎる。



 寮の入り口で「保健室で診断書貰い忘れた」と思って引き返そうとしたけど、「あっ、そもそも今日から夏休みだから要らないじゃん」と即座に考え直して、ただその場で謎に一回ターンしただけの変な人になりながら、そのまま自分の部屋に戻って明日の準備をする。

 ポーションをどこに仕舞うか問題に意外と時間を費やしたので、終わった時には丁度食堂が開く時間だった。


 その後は、時間帯が早い事以外はいつもと同じように過ごして、明日も早起きしようと心に決めて早めの就寝をする。

 保健室で結構寝た筈だから眠れないんじゃないかと少し不安だったけど、疲れていたのか特に問題なく眠れたので良かった。

 



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