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いつか、世界最速の探索者  作者: 描き手


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6/17

6.




 夏休み初日。

 今日は久しぶりに探索に専念する日だ。


 装備も最近の探索で着用しているほぼ防具無しの紙装甲とは違い、パーティに所属していた時に使用してた本格的なものを着ている。



 朝4時という早過ぎる時間に起きてしまったが、目が冴えて仕方なかったので、「夏休み始まったし、初日の今日は混む。だからこそ、早い時間帯から行く必要がある!」などと、謎な言い訳を心の内でしてから、第一階層。


 早朝という事もあり、いつもならあり得ないくらいに閑散としていた。

 放課後の時間帯、平日なら我が校の一年生が、パーティの動き・連携の確認やスキルの威力調整等をして鍛錬に励んでいたり、うちの学生じゃなくても探索者としてビギナー感溢れる人たちが装備の手入れをしていたりする。土日・祝日だとしてもいつも来ている時間帯なら、こんなに人が居ないなんて事は滅多にないため少々不気味に感じてしまう。



 しかし、だからと言って自分がやる事自体は結局変わらない。ダンジョンに入って直ぐに全力ダッシュを開始する。人目がない分周りの迷惑など一切気にせずに気持ちは軽く走り出せた気がする。

 行き慣れた第一〜第七階層は最短距離で突破。

 続く第八〜第十三階層は、初めて来た場所という事もあって慣れないていないため、マッピングをしながらも遭遇した魔物とはほぼ戦わずに只管疾走し続ける。


 十三〜十六階層に関しては、そこそこ大規模な水場があってそこを泳いで行くのが最短距離であるという情報は得ていたけれど、そこには当たり前の如く水棲生物が泳ぎ回っている為そこの探索に関しては断念し、他の経路を手当たり次第にマッピングしながら走った。

 湿地帯となっている地形では比較的足場がしっかりしている場所でも、七階層までと比較して足が取られ易くて走る速度は減速し、且つ身体を無理矢理動かすような格好になってしまった。その影響で体力が想像以上に削られた為、それを口実として治癒効果のあるというダンジョン特有な泉の中で一番浅かった所に立ち寄って、身体を寝そべるように浸かって数分休んだ。

 引き返した際に遠目から周辺の様子を伺って、魔物等が珍しく一匹も居なかった事も回復の泉を使用した理由の一つだ。



 そして、十七階層。

 ここからは、回復役か或いはポーションが必須となって来るエリア。

 十六階層から十七階層に続く通路を降りた先の空気は、前階層までの湿り気を帯びたものから一変し、どちらかと言えばカラッとした空気となり、そこそこ過ごし易い気候だ。

 夏場真っ盛りな今の関東では、ジメジメとした肌に張り付くような気持ち悪い湿気が酷く、気温もエアコンが家になければ命に関わるのではないかと思ってしまう程に殺人的に暑い。だから若干肌寒く感じる位、18〜21℃付近の温度帯を維持してくれる階層というのは、走り続けている身としては体感丁度良くてありがたい。


 そこに毒がなければ、の話ではあるけれど。



 水気が肌に纏わり付いてくるような感覚や皮膚がひりつくような感覚等も今の所ない為実感が沸いていないが、事前に集めた情報によると、この階層以降の一定階層では毒がフィールド中に漂っているらしい。

 おまけに、出て来る魔物の大半は有毒という徹底したコンセプトの階層群だ。


 そのせいなのか、現在うちのクラスにいるトップパーティもここで苦戦しているらしく、最高到達回数は18階層と聞いている。

 ちなみに、特選クラスでは26階層に到達したようである。これは、テレビや雑誌・広告などで自称専門家が監修するような情報により、社会通年的に植え付けられる一般的感覚によると、「その階層まで余裕を持って行けるパーティなら、ダンジョンにおける素材採集に依る収入が安定し、探索者としては一人前」という段階で、そんなイメージがなんとなく自分にも着いて回っていたから、正直、その噂を聞きつけた時は羨ましいと感じた。



 話は戻して、現在居る十七階層。

 出会う魔物はカラフルで発見がし易い。


 しかしながら、道の端に点在するほんのり蛍光色に光を発する小さなキノコや苔に照らされた、洞窟のような道にはどうしても狭い空間が生じていて、魔物と遭遇した場合は戦闘を避けられない物理的に面倒な空間が点在する。

 勿論、引き返して別の道を進む選択肢もあるけど、毒が常時散布されているような階層で、出来るだけロスタイムをせずにマッピングしたかったため、今日遭遇してしまった魔物とは即戦闘に入らなければならなかった。


 


 さて、異常に発達した傘裏が脈動し、ヒダが盛り上がるように波打って気持ち悪い巨大キノコが今目の前に居る。

 運悪く狭い場所で魔物に遭遇してしまったようだ。

 この階層で何度か既に遠目からは見ていた背丈の高いキノコの魔物。

 

 その姿が、地面脇に群生している小さな光るキノコに怪しく照らされて、黄色や紫の斑点が鮮やかに明滅して見える。

 自身が発光しているようには見えないのにも関わらず。

 傘の下地は皮膚に薬剤を塗りたくって無理矢理脱色したみたいな、一定範囲が際立って見える感じのどこか不自然で奇妙な白色。

 当たり前だけど、顔みたいなものはなく、傘が辛うじて顔面と言えなくもない…のか?

 胴体も傘の大部分と同様に白色であるが、こちらは乳白色からアイボリーホワイトといったようなクリームっぽい色に近い。

 足元には樹木の根が広がっている様を想起させる触手がデコボコした地面に接しており、うねらせながら移動して来る。

 姿勢は安定しているが、その歩みは遅くてこちらに到達するまで時間がかかることが予測出来た。目は無さそうだけど、何らかの方法でこちらを知覚しているのだろうか?

 待っていても仕方ないので、先に攻撃を仕掛ける事にした。

 


 まずは、小手調べ。

 

 剣による刺突。


 最近は使わなくなったけど、明らかに毒を持っていそうな相手を相手にするので、昨日までとは階層も全然違う事もあって兎に角リーチを稼ぎたかった。


 勢いは落とさずに走り、体重を乗せて放った剣は重みと密度を感じながらもしっかり刺さった。

 縦方向に突き立てた剣を横や斜めに動かすのは難しそうだったので、取り敢えず縦に、傘がある上の方は嫌な予感がしたので触手がウネウネしている地面方向に力を込めて斬る。そこから、抜いた剣で今度は下から斜めに振り上げるようにして横方向に再び剣を振るう。


 だが、力が足りないのか将又技術が足りていなかったせいか、剣は敵の胴体に2センチ程の浅い傷を残して止まってしまった。

 ならばと、次は斜め上から振り下ろすように剣を振るったが、これも同じように頑丈な皮膚?に弾かれる。

 そして、ここまで手こずれば動きの遅い相手にも攻撃を許してしまう。


 上から振り下ろした剣が弾かれた直後、目の前のキノコが傘裏の襞を膨らませる。

 それに合わせて、後ろに下がろうとして足を動かそうとしたけど、気付かぬうちに伸びていた足元の触手が両脚に絡みつき、行動が阻害される。

 予想外の事に、一瞬大勢を崩しかけて盛大に転けそうになったが、なんとか倒れないように踏ん張る。


 しかしその一瞬の動作が遅れた事で、キノコの傘裏が膨張後一気に収縮。

 その際に出てきた大量に辺りを飛散する何かを目の前で喰らってしまった。

 

 恐らく胞子。

 

 目の前で吹きかけらるなんてこれまた想定外過ぎて、それに加えて、直前まで転けないよう体勢を維持するのに必死で、口元を覆う余裕もなく普通に息を吸った。

 走り続けていた事も相まって、運動による深い呼吸に伴いそこそこの量を肺に吸い込んでしまっていた。


 ――撤退だ。


 剣を目の前の敵に初撃と同じように縦方向へ差し込んで、傘がある方向に振り上げる。

 傘の部分で止まってしまったが、ノコギリのように押して引いてを繰り返して無理矢理両断。

 傘部分から、また大量の何かが飛び散るが、今度は呼吸を浅くして出来るだけ吸い込まないように口を引き締める。

 なんなら、少しだけ息を吐き出して摂取量を最小限に努める。


 そして崩れるようにして倒れ込むキノコを尻目に、脚元の触手を剣で薙ぎ払いながら踵を返す。

 感覚が鈍くなり始めた手を微かに振るわせながら剣を鞘に納めてダッシュ。


 進んで来た道を記憶に従って走り引き返し、道中に居た大きなキノコに貫手。

 引き返す事による不安・自身の見込みの甘さから生まれた現状への後悔とイライラをぶつけながら、そのまま両手で広げるようにみっちりした繊維質の身体を一気に開き裂く。

 それでは飽き足らず、開かれた胴体から手を入れて片手を傘部分に押し上げるようにして固定、足元の触手は踏みつけて抑え込み、自分の体勢が安定したら上下に勢いを付けて一気に押し広げ、歪な縦割りにして動けなくした。

 

 キノコの傘を触る瞬間から、呼吸は浅めにしながらも胞子を吸ってしまう量を出来るだけ少なくするために、使わなかった方の手を口元に覆わせる。


 それを繰り返すこと3回。

 初めて訪れた十七階層からの離脱に成功。


 


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