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いつか、世界最速の探索者  作者: 描き手


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4/17

4.




「痛っ!」


 今まで怪我を負わずに来てしまった事により痛みに耐性がなく、思わず声を出しながら斜め後ろから攻撃して来た武装ゴブリンの首を剣で突き刺し、剣を抜く力をそのままに、続けてもう一体の首を掻き切り、残ったゴブリンの錆びれた剣による大振りな一振りを躱して懐に走り寄り、首元目掛けて剣を振り抜く。

 紫色の返り血を俺に掛けながら、最後の武装ゴブリンが倒れ込んだ。

 

 ゴブリンが、起き上がり襲って来ない事を確認してから、一匹一匹丁寧に計五匹の心臓を突き刺して確実に殺す。



 ダンジョンと言っても、ゲームのように倒せば死体が消える訳ではない。

 そのため、生きているか死んでいるのかの判断が難しく、生きていた場合に後ろから強襲なんてされた時には、俺のようなソロ探索者的には致命傷になってしまう可能性がある。

 よって、そんな事が絶対に起きないように惨いかも知れないけど、心臓を貫く事にしている。



「ああ、結構出血が酷いな…今日は帰るか。」


 いつもなら、余裕があれば討伐報告の練習の為に死体から魔石を抜き取るのだが、自力で回復する手段をスキルどころかポーションすら持っていないため、今日は撤退を優先した。



 現在の階層は第六階層、武装したゴブリンや人型の犬みたいな容貌の武装コボルトが5〜6匹集団行動で襲ってくる。そんな階層。


 2年生になって、早くも3ヶ月が過ぎた。

 

 学生達の探索は本格化し、うちのクラスで最高10階層。近々11階層の探索を開始する予定らしい。

 また、風の噂によると、特選クラスでは既に15階層へ到達したらしい。

 

 徐々に周囲と差が出来て若干気持ちが急いてしまうが、学校で日頃から「探索で焦りは禁物だ」と口酸っぱく言われている為、そう感じた瞬間に深呼吸して落ち着く事にしている。



 六階層から走ること2時間程度、ようやく地上に戻って来れた。

「大分速く走れるようになったな」と心で密かに嬉しく思いながら、帰り道は軽く走る。

 それでも、一年生の初期の全力と同程度は速度が出るのだから、階層は全然深いところまで潜れていないけれども自分の成長をハッキリ感じられる。


 まずは、保健室に行かないとな。


 そう思いながら学校に到着して、玄関でバッタリ担任の先生に会った。


「おお、白瀬。今日もダンジョンか?精が出るな。」


 探索者らしい恰好の汚れた俺を見て、ダンジョン帰りだと分かったらしい。


「はい、行って来ました。」


「お?……これはまた結構やられたな。ちゃんと保健室で回復魔法でも掛けて貰えよ。」


「はい。あれ?先生、回復魔法って保健室で掛けて貰えるんですか?」


「ん?当たり前だろう。お前はうちの学生だからな。古傷とかは無理だが、それくらいの傷ならすぐに治して貰えると思うぞ。最悪、腕一本失っても再生させられる腕利きの先生も居るらしいしな。」


「え?そうなんですか。」


「ああ、だから怪我をしたら遠慮せずに診てもらえ。ただし、だからと言って油断はするなよ。治癒師が優秀でも、死んだら取り返しがつかないからな。」


「分かりました。ありがとうございます。」



 先生と別れた俺は、内心「マジかぁ」と思っていた。

 回復系の魔法は、ダンジョン内外問わず需要が非常にに高く、色んなレベルの人が居るが、うちで治療出来るというのも知らなかったけど、それ以上に腕を再生出来るレベルの人を雇っているという事実にびっくりした。



 と、言うのも腕含め一部の欠損部位を再生出来る程の実力者は、世界的に見ても間違いなくヒーラーとして上位層であるという証明だからだ。

 それ程の能力を持つなら、あちこちから引っ張りだこで一生食うに困らないどころか、上手く行けば巨万の富を稼ぐ事も比較的容易に叶うだろう。

 それ程の能力を持ってる人がうちの学校の保健室に居るとは...想像出来なかった。


 確かに、うちの学校は国立の高校だけど、一回の治療で幾ら飛ぶか分からない位の回復魔法使いを常駐させ、尚且つ学生ならば保健室に行けば無料で治療して貰えるとは。どれだけ太っ腹なんだろう。

 まさかそこまで国が力を入れていたとは。

 スタンピードだっけ?魔物災害防止の一環だから、設備投資的な考えで予算が潤沢に組まれてるんだろうか?




 保健室に着いたので、スライド式の扉を2回コンコンとノックする。

 表面の滑らかな樹脂面を通り室内に響く音に反応して、「はい、どうぞ」と落ち着いた男性の声が遠くから聞こえた。

「失礼します」と言ってから扉を開け、学校の保健室としてはやや広い、ベッドが沢山ある部屋の奥で、椅子から今立ち上がったばかりと言った様子の好々爺と目線が合う。

 取り敢えず、机の手前側にも丸椅子が置いてあったので、少し遠いがそこまで歩く。


「怪我はそこだけかな?他に痛むとか常態異常になっていそうとか何かあるかい?」


 高齢の治癒師の養護教諭から2m程度離れている距離から穏やかな笑みで話しかけられたので、歩きながら「この怪我の痛みだけです。傷が出来たのは大分前なのでもしかしたらバイ菌とか入ってるかもしれません。」と、自分が思いつくことだけ言って椅子の前に立つ。


「まぁ、座って。その位の怪我ならすぐに治せるけど、もう治してしまって良い?それとも何か話して行くかい?」


「ああ、いえ。可能ならすぐに治療して欲しいです。あっ、それと一つ聞きたいんですけど、この治療って無料ですか?回復魔法って、結構お金掛かると聞いてたので気になって……。」


「ハハハ、確かに治療には高額な代価が要求されるケースはあるけど、少なくとも君が学生のうちは保健室で治療する場合、全部学校持ちだから安心して。」


「なるほど。すいません、確認だけしたくて。ありがとうございます。治療お願いします。」


「じゃあ、治療を始めるね。」


 俺の傷口に、そっと手が添えるようにして翳される。

 老いによりシワシワになった優しそうな手から、暖かな薄黄緑色の淡い光の粒子が傷口に注がれ、皮膚に広がるようにして浸透したかと思うと、段々傷口に熱が帯びる感覚がして来る。

 魔法というのは凄い。

 傷口がどんどん塞がって最終的には跡が全く残っておらず、本当に怪我をしたのか不思議に思う位に元通りだ。


「はい。これで治療は終わり。どこか変な所はないかい?」


「いえ……全く問題ないです。ありがとうございます。」


 身体を捻りながら傷があった場所を動かしたり手で触ったりしてみるが、先程まで感じていたドクドクする痛みも全く感じない。

 

「じゃあ、また気になる事があったら来なさい。出来るだけ早めにね。」


「はい、また来ます。」


「ハハハ、ダンジョンから出られなくなるほど大きな怪我をしないようにだけ気をつけてね。」


「あっ、気をつけます。失礼しましたー。」


 

 少しだけ緊張したけど、優しそうなお爺さんといった感じで悪くなかった。

 これなら、ダンジョンで多少無理しても大丈夫そうだ。

 いっその事暫くは身体を鍛える事に重点を置いたダンジョン探索に専念しても良いかも知れない。


 なんせ、金銭的なコスト無しで怪我をしまくれるのは今だけなんだ。

 ダンジョンでは行った行動の分だけステータス的な何かが伸びるとされている。

 授業でもそう習ったし、これに関しては自分の身体で検証が済んでいて、既にスタミナだけならプロのスポーツ選手に遜色ないと勝手に思っている。


 肉体的な頑強さを得る為には、盾役のように敵の攻撃を喰らい続けて傷付き、癒す。これが最も効率が良いのではないだろうか?

 スライムの酸とかだって、一階層にいる程度の奴なら死ぬ程強い液体ではないんだ。

 これで慣れておけば、いざ自分の意識外で酸によるダメージを受けた時も大怪我のリスクを抑えられるかも知れない。


 これは、チャンスなんだ。


 学校卒業後に、少しでもソロで長く活躍出来るようにするためには今頑張るしかない。周りと差がつき始めている現在、何かしらの手は打っておきたかった。後で後悔をしたくなかったし。

 後々死亡する確率を少しでも下げられるなら、今、痛みを受け入れよう。

 全ては自分の将来の為に。

 



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