3.
結局その後、どこのパーティにも入れなかった。
内申点の為に宿題を提出期限ギリギリでありながら遅れずに提出するのを頑張ったり、小テストの為に少し勉強したり、普通の高校と同じような授業にプラスして魔物学や情報・技術・美術といった選択科目の中から選んだ魔力工学などを少しだけ齧りつつ、体育といった授業がない代わりに週に2回の実習授業。
週5回の授業日の内、週3で7時間目まであって、他の高校より長い時間座学をやらされるのは気に食わなかったが、実習では大体早く帰る事が出来るため、この時間割はそんなに嫌いではなかった。
「それでは、今日もいつも通りだが、各自警戒は怠らないように。実習開始!」
我先にと急ぐパーティと、道具の確認をもう一度してから挑む慎重派のパーティの間のタイミングで、後ろめたい気持ちと不安が全開なのをポーカーフェイスで隠しながらトボトボとダンジョンにソロで潜って行く。
最早見慣れたダンジョンの入り口。
そこから暫くダンジョン内を進み、天井からスライムが落ちてこないか、足元にも居ないかを全体を視界に納めるようにぼんやりと見つつ、歩く。
ほぼ最短距離で移動しているため、スライムを避けながら30分程度で二階層に着く。
雰囲気は、一回層とほぼ変わらないが、出てくる魔物がスライムだけでなくゴブリンも混じって来て、奥の方に行くと2〜3匹で集団行動をとるゴブリン達がいる為、細い道や見渡しの悪い場所では注意が必要だ。
……ソロだから俺にはあまり関係ないけど。
広域型の洞窟ダンジョンであるため、反響であちこちから戦闘音が聞こえながらも他の班員や一般探索者に会う事は稀である。
狭い一本道で二匹ほど単体で歩いているゴブリンを剣で突きを放ち、刺すように仕留める。
今持っている剣は学校の備品であるため、壊してしまわないようなるべく丁寧に扱う。
特に、天井が低い場所では無闇矢鱈に上へ振り上げてぶつけないように気をつけ、コンパクトに剣を扱う。
「うーん、やっぱり剣術とかのスキルも生えて来ないし、剣は向いてないのかな?」
現状「最大速度常態可」の効果で、少し剣を動かしたその瞬間の動きを自分が出せる最大速度に変換して突きをしたり、袈裟斬りにしたりしているせいなのか、周囲のクラスメイトが続々と何らかのスキルを発現させている中、俺は先月のスキルチェックで何も生えていなかった。
つまり、1年ダンジョンを経験していながら、初期装備・初期スキルの状態で止まっている。
しかし、テスト前等以外はダンジョンへ通っていたため、流石にステータス的な要素は進歩していた。
と、言ってもゲームのようにパワーの数値が〇〇上がったとか、「スピードやスタミナが上昇した」みたいなアナウンスやファンファーレが頭に響く訳ではなかったが、明らかに常人離れし始めているのは肌で感じられていた。
「そろそろ走るか…」
三階層
ここまで来れば、他のクラスメイトと鉢合わせる事などほぼない。
広さの測定を国や自治体か、将又個人の与太話か忘れたけど、誰かがやっている記事を見かけたら記憶がある。
どれくらいとかイメージし易く説明してくれていた気はしていながら具体的な内容は記憶の彼方だ。
けど、一番重要な情報だけは強く印象に残っていて、曰く「この階層以降から、マッピング能力を会得した者でないと冗談抜きで遭難する」らしい。
これは、学校の授業でも注意事項として何度も口酸っぱく言われる事実である。
なにしろ過去に三階層で行方不明になり、結局その後偶然教員の救助が間に合って、一歩間違えれば大惨事になる所だったという事例があるらしい。
どうやら、うちの学生ではないらしいけども。
だからこそ、授業で教えられるマッピングが最低限合格出来ないと、三階層以降に潜っては行けないという決まりも存在する。
勿論、俺も合格した。
命に関わるから、他の学生同様真剣に取り組んだ。
もっとも、うちの近くのダンジョンがそうなだけで、マッピングが全く出来なくてももっと奥の階層まで潜れるダンジョンもあるらしい。
閑話休題
既にマッピングを自力で完了させ、且つ何度も来ている為身体にも染み付いている階層を只管に全力で駆ける。
休みなく、常に全力で走り続ける。
俺がこのダンジョンに潜ってから、脚の速さは勿論向上しているが、それが最も伸びた能力かと言われると実は違う。
この1年間、一番成長を感じられるのは持久力だった。
ダンジョンに潜れるようになってから、つまり実習が始まった最初の週末。
俺は、自分がどれだけスキルを使用していられるのかを確かめる為に、ダンジョンに足を運んでいた。
学校に実習場があるため、そちらで検証を行なっても良かったのだが、早くダンジョンという場所に慣れたかったために、一石二鳥だと思い寮から態々20分程歩いた。
危険の比較的少ない一回層の、それも入り口付近で教員がいないという不安に駆られながら走ってみた。
スキルは問題なく使用出来た、というか無意識でも走ろうとした瞬間に自動的に発動した。
ここで、自身のスキルに対して少し誤解があったのが発覚した。
俺のスキル「最大速度常態可」は、走っている最中の速度を一定に保つスキルではなかった。
どちらかと言うと、無意識でも早く動こうとした瞬間にスキルの効果が現れて、「スキル発動時、全ての動作が自身のマックススピード」になる。
他のスキルと比較して、非常に地味ではあるけれども、加速要らずで初速から最大速度という物理法則や生物的行動を無視している、まさに「スキル」といった仕上がりだった。
しかし、「スキル」の弱点というものの一部も理解出来た。
これは当たり前の話だろうけど、人間、走れば疲れるのだ。
要するに、体力平均以下の俺がこのスキルを使用出来る最大時間は良くて10秒といった所。
勿論、息を整えて休憩をすればまたすぐに走れるようにはなる。
しかしながら同じ10秒走る場合、魔物から逃げるにしても何にしても速い方がより距離を稼げる。
これに気付いた時、ネットのスキル一覧サイトの一番辛辣な説明文が頭にフラッシュバックした。
「スキル「韋駄天」、それどころかスキル「速度向上」の下位互換」と。
ああ、なるほど。
確かにこれはそうなのかも知れない。
加速要らずになるだけで、100m走でもすれば足の速い常人と然程変わらないのが簡単に明らかになってしまうだろう。スピードを落とさずに走り続けられるだけ。徒競走とかなら便利かもしれないが、これではダンジョンでスキルを使用する意味が薄れてしまう。
でも、そんな弱音を言ったところでどうしようもなかった。
スキルオーブを買えるほど裕福なら今の学校に通ってなどいない。命を張らなくても生きて行けると言う選択肢は今の自分にとって高嶺の花だから。
ならば、新たなスキルを得る可能性向上の為にもダンジョンの奥の方へ潜るしかない。
結局のところ今あるスキルで何とかするしかないから。
そんな世知辛い現実に直面したこの日から、俺はほぼ毎日ダンジョンに潜っている。
実習がない放課後も、青春の一欠片かもしれない土日も費やして。




