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いつか、世界最速の探索者  作者: 描き手


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16.




 ゴブリンの集落に突っ込んでから暫く期間が空いて、自分の出来上がったペースを保ちながら進める探索は、遅々としつつも順調ではある。


 最近は、金属に近い体皮を持ち、一般成人男性の胸くらいのサイズはある、頑丈なデカいアリを相手にしている。


 拳が蟻の腹部を叩いてひしゃげさせ、デカいアリから甲高い金属味のある音が鳴った。

 衝撃により生じた亀裂から、ツンとした臭いの液体が噴出して皮膚にかかる。

 当たった箇所から一瞬だけ白煙が昇り、皮膚が微かにヒリついたので、視線を表皮に向けると患部が赤く染まっていた。

 

 最近武器を使用していない自分にはあまり関係ないけど、武器を劣化させる一因となる腹部への攻撃は、探索者の常識としては、推奨されていないことを思い出した。

 命を預ける道具を脆くしてしまうので、一部の探索者からは忌避される魔物として知られている。

 

 加えて、たとえアリが一匹しか居なくても、戦闘時に腹部を傷つけて、或いは酸を放出させる隙を与えると、放出された蟻酸に寄って集まって来るなど、あくまでも集団として生きる習性を奴らは持っているため、戦闘に時間を掛けてしまうと、大体のケースで強制的な集団戦に突入し、まだ階層に慣れてない探索者がやられる主な要因になる厄介さ。

 さらに、生き残ったとしても体力が削られた状態では探索がままならなくなり、且つ、持ち帰るには体のサイズがデカすぎて、金属のような皮膚以外はそんなに価値にならないから、必然と持ち帰れる価値ある素材が減って、畢竟、徒労を強いて探索者の儲けを減らすという徹底ぶり。

 

 とは言え、俺個人としては、そう悪い相手でもなかった。

 もちろん、素材採集の為や生活のために稼ぐ必要がある時に出て来ると邪魔ではあるものの、常時走っている状態を維持していれば逃げ切れないという事もない。

 

 それに、硬い相手との戦闘訓練と考えると、実は以外と都合の相手でもある。

 皮膚は硬く、どうやって連携を取っているのかは謎だけど集団戦が上手く、自分で探しに行かなくてもどんどんおかわりが向こうから自動的にやって来る。


 魔物について学校で習った際に、アリとの戦闘では出来る限り頭部を狙うのが鉄則となっているのは教えられて知ってはいるのだが、敵の増援を期待している身としては、むしろ頭部よりも比較的柔らかい腹部を積極的に狙って行きたい。

 特に、出来るだけ少ない打撃で仕留めたい群れとの戦闘においては。

 元々集団戦をする予定だし、何より確実に仕留められる方が自分の生存可能性を上げるから。

 


 そうして、偶にアリを殴りながら探索を続けて、気づけば季節は秋になっていた。


 1年目の冬頃に魔力を知覚出来るようになってから、それまで苦戦していたのが嘘のように順調だった。

 スムーズに進み過ぎたせいか、もうすぐで1年経つというのに、探索者2年目の記憶はかなり薄く、上手く行ってるのに何故か不安を感じるという妙な気分を覚える今日この頃だった。

 充実していたのは確かなはずだけど…



 と、考えていたのがダンジョンに伝わったのか、それとも神が試練でも与えようとしたのか、ある階層で全く進めなくなってしまった。


 ――32層


 28〜31層位で出現するゴーレムらしき岩や金属で構成された、出来の悪い人形、一見すると芸術のセンスがない奴には通じない街中のモニュメントみたいな魔物を、約1年で扱いに慣れてきた魔力の操作による身体強化のゴリ押しで気持ちよく粉砕してから様子見で訪れた階層。

 


 息辛さを31階層と32階層を繋ぐ連絡通路のような場所で感じ初め、ふと頭がボーッとして力が抜けて、倒れた衝撃で意識を取り戻した。

 直後、意識がハッキリして感覚が戻った事により、込み上げるような気持ち悪さと苦しさが、胃を締め付ける。

 


 (酸…欠……か)


 徐々に戻りつつある身体の制御を最大限に利用して、側から見ると無様としか言いようのない四つん這いになった状態で、尻を突き出すように後ろに下がって行く。

 写真でも撮られたら自己嫌悪に陥るかもしれない状態で必死な顔して後ろへ。31階層へ。

 本人としては見た目を気にしている場合じゃなかった。

 ダンジョンに潜り続けてもうすぐ5年。

 培った経験から組み立てられた本能に近い直感が、今頭を上げたら今度は死ぬかも知れないと警報が鳴っていたから。



 31階層に無事戻れた安堵から、大きく息を何度も吸い、乱れた呼吸を整える。


 32階層はサウナのような空間だった。


 31階層までも気温は高く、暑くて辟易してくるような階層ではあるけど、不快なだけで呼吸には支障ない。

 対して、32階層はまるで高温を保っているサウナで、実際酸素も薄いのだと思う。

 ある一定ラインを超えた瞬間に息が出来なくなった。

 酸素が身体に、脳に行き渡らなかった事で、身体を動かせないのは勿論、思考する事さえ出来なくなった。


 久しぶりに死を感じた。


 それも、魔物との戦闘などではなく、ダンジョンという環境、自然による圧倒的な力によって。

 死にかけたが、結果として運良く生きて戻って来れたため感じられるダンジョンに対する思い出された恐怖を、暫く31階層で噛み締める。


「訓練が、必要か」


 ソロのせいか多くなった独り言を呟いて、身体が無事に動く事を確認して今日は帰る事にした。


 新たな環境にどう対処して行くかを考えながら、いつも通りにダンジョン内を走り抜けた。

 

 

 

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