13.
夏休みは一瞬で過ぎ去った。
毎日死なない目算ギリギリの綱渡り状態を自らに強いてたから、大きな誤りなく生きていられて良かった。
毎回探索終盤くらいの記憶は殆ど抜け落ちて残っていないけど、なんとか無事に帰還する事が出来ていた。
成果は上々で、回復魔法の効果水準が上がり、青痣程度しか治せなかったのが、今では打撲・軽度の切傷、骨折までしていると無理だけど、骨のヒビ程度なら治せるようになって来た。
魔力を酷使したのが効いたのか定かではないけど、魔力量も増えたように感じる。
少なくとも、魔法の使用出来る回数と、一度に継続して掛け続けられる時間は伸びた。
それに伴って、継続戦闘が段々出来るようになり、短期決戦狙いの単独の魔物だけでなく、これまで浅い階層以外では避けて来た、群れてる魔物にも挑戦出来るようになった。
また魔法以外にも、足を何度か負傷し、剣を杖として手に力を込めた事、酷い時には獣のように四つん這いの格好になりながら、ほぼ腕の力頼りで魔物から逃げた伸びた経験が影響したのか、腕の筋肉密度が上がっている感じがする。
腕が太くなった様子ではないから、筋肉量が増えたというよりも、純粋に引き締まった筋肉によりパワーが上がった、みたいな印象だ。
到達階層は、24階層だったのを27階層まで進ませる事が出来た。
階層を重ねる毎に広くなっていくダンジョンの性質上、細かい所までを網羅的にマッピング出来ていないことが考えられるが、それでも全体像は掴めているはずだ。
そのまま、冬休みが明けるまでギリギリの探索を続けた。
年末年始、学校は勿論休みで、学生の一部は帰省したり親戚に会いに行ったりして寮から人が減る。
毎年の光景に若干の淋しさを感じながらダンジョンに潜っていた。
ありがたい事に、治療室は年末だろうが年始で年が開けようが、24時間365日対応してくれる。
治療室が閉まるのは、大きな災害があった際、人命救助に割く人手が足りない時とかくらいだ。
その場合は、珍しく学校側からダンジョンの探索を控えるように告知されるらしいが、ここ数年そんなに大規模な被害が出た災害はなかった。
と言う事で、冬休みが明けて気づけばあと3ヶ月もすれば卒業して社会に出る事になる。
全然実感は湧かなかったが、それでもそろそろ探索者としての社会デビューに備えなければならない。
学校のように、何かを教えて貰える教育の場、大人達がこちらを気にかけて、時には導き、守ろうとしてくれる場所からの卒業。
資源は己が稼いで或いは探索して獲得したものだけになり、在学中に享受出来ていた支給品の物資は使えなくなる。パーティメンバーは元々居ないけど、教員達からの多大なサポートが消える。
責任は全て自分に帰属し、本当の意味で生きるも死ぬも自らによって原則決定され、そこに理不尽な社会やダンジョンの洗礼を浴びせられる。
正直言って不安しかない。
だから、早めに備えておこうと考えて、冬休み明けの授業があった日の放課後、24層で怪我をしないように、魔物と戦闘が起きないよう極力立ち回って、ほとんど無傷のまま寮に帰還した。
ダンジョンに持続的に潜り続けるための練習だ。
しかし、慣れとは怖いもので、1年程度継続してるくらいだったけど、治療室に行かない自分も、そもそも怪我をしなかったことにも、何とも言い難い謎の不快感を感じた。
焦りなのかも知れない。
自室に帰っても何処か落ち着かなくて、まるで自分の部屋じゃないかのように感じた。
挑戦していない、傷ついていない自分が不自然で気持ち悪かった。
そのため、徐々に怪我を抑えて行く方針に変えた。
挑戦の度合いを調整して行って、最終的には自分が治せる或いは多少オーバーするくらいのダメージを負う程度までになって、出来得る限り持続的に探索が可能な範囲へと持って行きたい。
そう考えると、3ヶ月程度という期間が短いような気もして来るから不思議だった。
そんな感じで、毎日少しずつ戦闘を回避し、ギリ今の自分には厳し目の魔物の群れと戦闘を行うことがないよう我慢して、日々が過ぎて行った。
予定ほど自分の悪い癖は抜けずに、怪我する頻度は減ったけれど、服を毎回だったのが二日に一回ボロ切れにする程度にしか改善出来ないまま卒業式を迎えてしまった。
晴れの舞台であるとは理解しているけど、気分は浮かばれなかった。
住居変更やその他もろもろの申請のため、小難しい書き方をした書類を多数捌いて、かつ税金の支払いや学生という便利だった身分の喪失など、面倒な事が多い割に得られるものがないこれからを考えると、憂鬱な気分になって来る。
友人が居れば、卒業による別れやパーティとしての今後どうするか、等の話に花が咲くのかも知れないが、ついぞそんな者が出来ることもなく、クラスメイトとの関係性はどれも浅いものばかり。
ここまで酷いと、寂しいとも何とも思わないというのが正直な所だったが、周りの感情の波に多少は感化されたのか、惨めというか虚しい気分に段々なって来た。
俺は、何か間違えたのか。
結局もやもやしたまま式は終わり、卒業証書を貰って無事卒業を許可された。
クラスメイトと特段話す用事もないので、担任に礼を言い、治療室に居た先生方にも礼を言って行く。
今日居なかった先生方には、後日、寮の管理人さんに礼を言うのと一緒にまた挨拶出来ればと考えている。
お金が無いので、土産も無いけど、たくさん迷惑も掛けた自覚があったし、礼を言っても罰は当たらないだろう。むしろ、言わないで出て行く方が罰当たりまである。
本当にお世話になった。
そして、住所の変更や短距離の引越しなど面倒な作業を終えた頃。
なんの感慨も無いまま、俺は専業の探索者になっていた。




