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いつか、世界最速の探索者  作者: 描き手


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12/17

12.




 緑色の薄く、か細く拙いボケた光が、皮膚表面に浮かぶ青痣の上から包み込むように覆い、紫がかっていた色が青に変わり、やがて小さくなって消えていった。


 治療後、胃がゆっくりとかき混ぜられて、かつ軽く押し潰しているみたいな感覚が脳に信号として達して広がり、内容物が迫り上がって来るのを感じた。


 魔法の行使は一時取り止め、胃薬を飲む。

 顆粒が口中に広がり、顔を顰めたくなる不味さと引き換えに、胃に爽快感が齎される。

 水を飲むタイミングが悪かったせいで、後味が残り不快感は残ってるけど、込み上がりつつあった吐き気は何とか誤魔化す事に成功したようだ。


 とは言え、気持ち悪い事には変わりなく、走っているため揺れる頭、それにより生じる吐き気と、口から戻すのだけは何とか堪えようとする精神とで板挟みになりながらダンジョンを走る。


 

 最初は魔法を使うだけで気絶していた事から考えると、気休め程度だとしても一応は効果のある回復魔法を 、使用しながら走り続けることが出来るようになってはいるので、着実に進歩はしてはいるのだと思う。

 しかし、それでもまだ十分ではない。

 目標にすべき存在は既に知っているから。

 と言うか、毎日お世話になっている治療室の先生方が目標だ。


 ダンジョンで食っていく以上は必ず怪我をする。

 時には命を失うことだって珍しく無い。

 実際、安全に過剰な程配慮をしている我が校でも数年前に一人亡くなっている。

 今は先生達が居るが、そんな恵まれた環境に今後も居られる保証はないし、それどころか今後出会える可能性がほぼ無い確率の方が高い。


 そんな時、自分に出来る事は限られる。

 金がある奴なら高級ポーションをストックしておく。

 人徳がある人間なら優れた回復手段を持つ仲間を自分のパーティに引き入れる。

 そして、ソロであり晩年金欠が見込まれるビギナー寄りの俺に出来るのは、自分が持つ回復魔法の効能を少しでも上昇させること。


 だから、今は無茶が出来る時期。するべき期間。


 24層に生息する岩蜥蜴の攻撃を、走って的を絞らせないように立ち回りながら躱わす。

 奇襲により負った肩口の抉れた傷に、回復魔法を掛ける。


 当然、傷口に多少瘡蓋が出来る事によって血が止まった、程度の効果しか発揮してくれないが、それでも魔物の解体により以前と比較して明瞭となったイメージで肉体の再生をイメージする。

 魔力量はまだまだ少ない。

 よって、魔力切れになって体が重くなり、気持ち悪さで冷や汗が背中と頬を伝い、視界がぐわんぐわんに揺れるような錯覚など不調を訴える症状が出てくるが、それでも魔法を使おうとする。

 頭が割れそうな程の痛み、身体中をゴツゴツした岩で武装している蜥蜴を殴りつけたり蹴りを入れたりして、皮膚表面が剥がれ、肉が剥き出し、動くだけで細かく極小の針数千本に刺されるような疼痛。

 (青痣程度で魔力を使うんじゃなかった)

 遅い後悔が滲む。

 

 指の骨を粉砕骨折しながら思い切り蜥蜴の横っ面を殴り、それでも足らないと肘で搗ち上げた。

 踏ん張った影響か口の中から鉄の臭いを感じながら、蜥蜴が横転したのを確認すると、すぐさま岩のような体表には刺さらなかった愛用の剣をもう一度抜き、柔らかそうな喉元に向け、突き刺す。

 数秒或いは数十秒の間暴れていたが、やがて動きは緩慢になり、遂には動かなくなった。


 その場で気絶してしまいそうだったが、実際には目を覚ました場所はいつもの治療室。

 もはや本能で帰還して、早朝に治療室で目を覚ますと、寮の自室に戻ってシャワーを浴びて、少し睡眠を取る。

 支給品の運動服を毎日ダメにするから、変えの運動服を多めに申請注文してゴミ出しをする。

 ゴミ袋がこんなに血生臭いのも、支給品の服を申請している枚数も、多分自分が一番多いんじゃないかと思ってる。

 

 いつも通り登校して、授業と実習を熟し、一度寮に帰宅してからダンジョンに向かう。

 そして、気づけば治療室で朝を迎える。

 これが最近の日常になって来つつある。


 ある日、久々に自分の姿を見て小さな悲鳴を上げる人が居た。

 ダメージがマシだったから、偶々その声に気づけた。

 懐かしさを感じた。

 

 最近引っ越して来た人なのか、それとも会社の出張で付近まで来てた人なのか記憶がハッキリしてないけど、学校の提供するサービスとして、回復魔法を掛けてもらえると知ったあの日から、大怪我を負って帰っていた当初こそそんな人は居たが、もはや近隣住民は「またアイツか」みたいな顔をして気にしない。

 その視線は、主に探索者ではなく、不審者を見る実に冷たいもので、近づかないでおこうと距離が自然と出来る。

 

 今思えば、多分その頃から余計に同級生のパーティに誘われづらくなったんだと思う。

 気にしてなかったが、俺を見る目が近隣住民の放つ視線と同じくなった気がする。

 危ない奴を敢えて引き入れたいリーダーなんて何処にも居なかった。少なくとも自分は出会わなかった。


 流石に、ここまで身体中がボロボロになって帰ると、思い返せば偶に「生き急ぐな」的な苦言を言われたこともあった。

 治療室で酷い怪我をして来た学生を治療する先生方、痛みによりぎこちない動きで治療室に行く俺を見て心配する担任、毎日服をボロボロにして血だらけの布に変えて帰ってくるのを見た寮の管理人。


 ……結構迷惑掛けてきたのかも知れない。

 

 


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