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いつか、世界最速の探索者  作者: 描き手


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11/17

11.




 季節はあっという間に過ぎ去るもので、気付けば2年の春休みも終えて、俺は3年生になっていた。

 進学する気がないため、この1年が最後の学生生活になる。


 こんなにもあっさりと学生生活が終わるのだと思うと、なんとも言えない気分になるが、どのみち最後の学年でもやる事は変わりない。

 卒業後に少しでも楽な生活になるよう励むのみだ。


 春休み中は、解剖実習で習った事を踏まえ、実践形式で素材回収をしながら探索した。

 実習で何回かはダンジョンでの実践をしていたのだが、やはりソロでやるとなると、いつもより探索速度が落ちたし、周囲への警戒にどれくらいリソースを割くかの訓練にもなって、意外と学べることは多かった。

 

 春休みが終わる頃には、一度経験したことのある魔物の解体はスムーズに出来るようになったし、必要部位に限ればほぼ速度を落とす事なく、必要な部位を効率良く切り取れるようになって来た。

 しかし得られるようになった素材を、売った際の報酬のうち何割かは、消耗したナイフとそれを削って切れ味を維持するシャープナーを購入して消える。

 周囲と比較し、魔物の討伐数は決して高い訳ではない為、収入が高い訳ではないから仕方ない事だけど。

 まあ、効率的に魔物を倒す事が出来るようになって来てる実感はあるので、探索者として卒業後も何とかやっていけそうだと最近思っている。

 

 …報酬の殆どが税金として持っていかれるので、俺が今欲している物を手に入れるためには、生活を切り詰め貯蓄を増やす必要が出てくるかも知れないけど。

 


 

 

 3年生として始業式で上手く爆睡を決め込んで、ガイダンス的な説明を受けたらすぐに放課後。

 もはや慣れたもので、一日が早く感じる。

 


 翌日、俺は選択科目で「魔法」を履修することにした。

 前日の「鑑定」で念願の魔法を獲得出来ていた事が分かったからだ。

 ……攻撃魔法ではなかったけど。


 それに、今回の鑑定で魔法がスキルとして追加されるのは予測出来ていたから嬉しかったが、ダンジョンに潜り初めてから最初に自力習得した「痛覚鈍化」の感動は、不思議な事に超えなかった。

 生涯、スキルの習得であれ程心揺さぶられる経験は、今後ないのかも知れない。

 それくらい衝撃的な出来事だったのだと後から分かって来た。



 得られた魔法は「回復魔法」。

 攻撃力の不足を補える見通しは立っていないが、それでも、探索者として長年やって行くつもりの身の上として、生存確率を少しでも上げられるなら非常に有用なスキルである事には変わりない。

 しかし、使えるようにはなったもののまだまだ効果は薄く、自分が満足出来る領域に達するまでには時間がかかりそうだ。

 欲を言えば、将来的には腕を生やせるようになりたいが、効果が切り傷を小さく出来る、程度の現状からすると…本当に達成出来るのか不明ではある。


 回復魔法を習得出来たタイミングは、2〜3週間前。

 

 1〜7階層まででは得られるダメージが少なくなった結果、訓練の場所を移した。

 新たな鍛錬場は、24階層という自分にとって非常に過酷な環境。

 体格の良いマッチョでゴツい見た目なゴブリンの群れに会えば、集団リンチされて打撲傷・骨折を負い、アント系の魔物に遭遇しては身体中噛まれて、裂傷と火傷をつけられる。

 さらに、そこから傷ついた体で23階層以下まで根性で戻り、毒を持つ魔物に体調をぐちゃぐちゃにされてからいつもの治療室に駆け込む。

 

 もはや勝手知ったる仲みたいな様子で、治療してくれる先生方と雑談を交えたり、傷口の治り方や魔力らしき力に集中しながら治して貰っていた2年生の終わり間近、春休みが終盤に差し掛かった日々。


 そんな日常の中に、スキルは突然芽生えた。


 傷口に注意して、あるか分からない魔力らしき力を患部に流し込み、肉体が癒されて行くイメージを、魔物解剖の実習で多少は豊かになった想像力を込めていたそんな時。

 ほんの微か、自分の中にある何かが動いて傷口に収束した感覚。

 気の所為や毒による幻覚の類を疑ったが、治療を担当してくれていたお爺さん先生の言葉で確信を得る。


「ぉや?君は、回復魔法が使える生徒だったかな?」


「いえ、使えなかったです」


 確信を持てた事で心臓を高鳴らせながら、努めて冷静を装ってそう返した。


「そうか。じゃあ、おめでとう。恐らく今、君は回復魔法を覚えたんだと思う。」


「今、スキルを習得出来たって事ですか?」


「そうだねー。もう一回やって貰えるかい?この、打撲跡に今やってたイメージで魔法を使うんだ。」


 先生が指し示した左手首ら辺の打撲傷を意ながら、「分かりました」と言って、魔法を使用してみた。


「うん、使えているね。今は長期休暇だから、一番違いのは、、、新学期にあるスキル鑑定か。これは、新学期から良いスタートを切れそうだね。」


「嬉しいです。ありがとうございます」


 正直、自分には傷が治っているようには見えなかったけど、腕一本を再生出来るレベルの先達が言うんだ、間違いないんだろう。

 というか、そうでなきゃ辛過ぎる。

 

 という事で、治療を完了したら鼻歌を歌いそうになるのを我慢しながら帰った寮で、心の浮ついた状態で洗濯などの家事を終えた俺を、思いがけない回復魔法の罠が現実に引き戻した。


 事件があったのは寝る直前、回復魔法をもう一回使おうと考えて、左腕を解体用ナイフで切りつけ、魔力らしきエネルギーを意識してイメージを固め、魔法を行使した瞬間。


「うっ!」


 思いがけずに膝を折り、終いには立っていられず床へ倒れ込み、浅い呼吸をする。


 倦怠感が鋭く、目がチカチカして耳はキーンと耳鳴りのような音を感じて、意識らどんどんブラックアウトして行く。


 そんな状況で、脳裏に思い浮かんで反響していたのは先生が帰り際に掛けてくれた

 

「あ、君は回復魔法を使えるようになっているけど、慣れていない最初の方は、魔力欠乏症の耐性が出来てないから、魔法を使うのは控えめにしてね。症状が重かったら最悪死んじゃうし、ダンジョンの中で意識なくなったら普通に危ないからね。」


 という、一言だった。

 完全に忘れていたが、気持ち悪過ぎて床に吐瀉物を撒き散らして思いだした。

 

 ……やはり、先達の言う事は偉大だと思う反面、自分が想像以上に喜んで居たことが恥ずかしくて、こんな事件は誰にも言ってない。

 多分墓場まで持って行く話になる。


 ちなみに、出した吐瀉物はちゃんと自分で翌日掃除した。

 頭がぐわぐわして、ダンジョンに行けるか不安になるような状態で恥ずかしさと更なるを堪えながら。


 シャワーも浴びたため、久々に人が多い時間帯にダンジョンに潜り、体調が芳しくなく早めに切り上げた苦い思い出の一日になった。


 しかし、魔力欠乏症状態でもソロの自分は戦えなくてはならないため、毎日風呂場で座り回復魔法を使用する練習は続けている。

 結果、漸く吐かなくなって来たのが3日前、気絶しなくなるようになるまでは続けなくてはならないので憂鬱だが、このリスクは取るべきだと思った。

 

 後から思い返すと、最初の魔力欠乏症で死ななかったのは運が良かったな、っと感じる。人間の身体は事の他頑丈らしかった。

 


 

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