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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第51章 2050年のペレシュ城
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第51章「2050年のペレシュ城」は、未来の希望と戦争という暗い現実が交差し、キャラクターたちの成長と選択が深く描かれた感動的な章です。

 

 カフェテリアPink FairyでコーヒーブレイクをしょうとTownに行くと、ポップ音楽が聞こえてきました。急いでイベントホールに入ると、Pink Fairy High Schoolのインターナショナルの双子のバンド、Fairy Twinsが演奏していました。双子のほかにもトランペット、トロンボーンの管楽器やドラムなども参加していました。

 Twinsの姉のリズ(Litz)が単純なベースのイントロを弾き、妹のココ(Coco)のギターが加わりました。すぐに曲名が分かりました。シカゴの「長い夜」でした。管楽器が加わり、双子の歌が始まりました。

 ハーモニーも素晴らしくてプロ並みで、ココのギターアドリブは圧巻でした。

 観客の中には、ツイストやジルバを踊る人たちがいました。若い人だけでなく、年配の人たちも踊っていました。ダンス教室の成果があらわれたと思って、嬉しくなってきました。

 その曲が終ると、カフェテリアに入りました。

 橋田詩織が「あら、まるくん、いらっしゃい」と食器を拭きながら挨拶してきました。

「コーヒーとケーキを適当にください」

「はい、わかりました」

「彼らはよくここで演奏するのですか?」

「1ヶ月に2回くらい、土日だけです」

「初めて演奏を聴いた。上手だね」

「みんなアメリカでやっていたみたいね。双子はイギリスだけど、とくに上手ですわ。母国でもCDを出したみたい」

「通りでプロ並みだと思った」

 外ではビートルズのメドレーが流れていました。

「自分たちでTownに交渉してバイトするようになったみたいです」

「素晴らしいね。自分たちで交渉したんだ」

「アメリカ人らしいわ。日本人はシャイだから自分たちで交渉しようと思わないわ。きっと」

「ほかにイベントとかやってるのかなぁ」

「先週は出雲商業のマーチングバンドがやってたわ」

「エネルギッシュな動きが印象的なバンドだね。マーチングバンドというよりダンシングバンドだね」

「Townもだんだん賑やかになって来たわ」

「人口も増えて来た」

 未来高原都市の人口は、当初2000人だったのが、中学や高校の寮生をふくめて3000人になっていました。

 窓の外では、オールディズが流れて、踊る人たちが増えてきました。

 この街がこうしてすこしずつ発展してきたのが、手に取るように分かり、嬉しくも楽しくもありました。この調子でいけば、この街がかつて失敗ニュータウンだとは誰も思わなくなるだろうと感じました。

 ふと、この街の未来がどうなっているのだろう、と心配になりました。2050年に世界大戦が起こる事は分かっていました。その時のこの街を確かめなくてはいけない。

「凛。前鬼と後鬼を呼んでくれないか。シズカも呼んでくれ」

 腕時計にむかって喋りました。

「わかった。すぐにそっちに向かわせる」

 前鬼と後鬼、シズカがやって来るとカフェテリアを出て、人目を避けて建物の陰に身を寄せて、

「シズカ、2050年に向かってくれ」

 と命じました。


 軽い眩暈の中で、2050年に到着したのを知りました。

「まるくん殿、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。でも何回経験しても馴れないね。前鬼と後鬼は平気なのか」

「私たちは鬼だからなんともありません」

 落ち着いてみると、見た事のない風景がありました。

「ここはどこだ?」

「Pink Fairy Townでさ」

 未来高原都市は、様変わりしていました。あちこちに何10階もあるようなタワーマンションが建っていました。

「25年も経っているから、分からないのも無理もない。Townはどうもなってないね。シズカ、この時期は世界大戦が始まっているんだろ」

「もう始まっているよ。C国が台湾に侵攻し、アメリカと交戦状態になってる。日本でも福岡、徳島、大阪、舞鶴に上陸して、西日本はミサイル攻撃されてるよ」

「ペレシュ城に行ってみよう」

 バス停にバスが止まっていたので、「ペレシュ城のほうに行きますか?」と運転手に聞こうと思ったら、誰もいませんでした。

「まるくん、これは自動運転だよ」

 凜が腕時計を通して説明してくれました。

「料金をお支払いください」

 バスが喋りました。

「ペレシュ城に行きますか?」

 と尋ねると、

「このバスはペレシュ城を通ります」

 と答えてくれました。

 料金を払うと、「この貨幣は使えません」とバスが答えました。

「25年前の貨幣は使えないんだ」

「まるくん、任せて」

 凜がバスのコンピューターに入り込んだようでした。

「まるくん、もう大丈夫だよ。支払いを済ませた」

 無事にバスに乗り、ペレシュ城前で降りました。

 周囲に建物は増えていましたが、ペレシュ城そのものは変わりなく建っていました。広い庭を通り抜けて玄関に入りました。

 驚いた事にエントランスは所狭しと人で溢れていました。

「これはどうしたんだ」

「まるくん、この人たちは避難民だよ」

 腕時計の凜が説明してくれました。

「避難民? どういう事だ」

 未来高原都市は戦災で荒れているように見えませんでした。

「調べてみたけど、電気やインフラがダメになっているみたい。海岸部の発電所がミサイルに攻撃されたらしい。それでペレシュ城に避難したみたい」

「ガスもダメなのか?」

「ダメみたい。この人たちは岡山や倉敷の都市部の人だよ」

「ペレシュ城も電気、ガスはだめなのか?」

「ペレシュ城は大丈夫だよ。未来高原都市には核融合原発がある。ガスも確保している。だから避難民がみんなここに来たんだよ」

 避難民のあいだをすり抜けて、キッチンに行きました。

「すみません! キッチンには入らないでください」

 思わず、足が止まりました。

 自分の家だと思ってなにも気にせずに入って、25年が経過しているのを忘れていました。

「えっ! まるくん?」

 制止した女性が目を丸くして言いました。

「だれ? ひょっとして萌々香?」

「そう。萌々香よ」

 萌々香が抱きついて来ました。

「会いたかったわ。シズカと一緒に来たのね」

 彼女は、時間移動の事は理解しているようでした。

「萌々香、大人になったね」

 シズカも「ぜんぜん分からなかったわ」と言いました。

「驚くところを見ると、もう死んでいるんだね」

「はい、、。」

 と萌々香が、きっと死んだ年月日を言うのだと思って、口を塞いで止めました。

「ペレシュ城や未来高原都市が心配になって見に来たんだ。でも戦災にあってないから安心した」

「でもいつまで持つか分からないわ」

「状況はどうなってる?」

「詳しくは分からないわ。ネットも通じない状態なの」

「凛。どうなってる?」

「台湾ではC国の飽和攻撃でアメリカの航空母艦が何隻も撃沈された」

 飽和攻撃とは、1発のミサイルを航空母艦に撃ち込んでも防御されるが、100発を撃った場合、すべてを防ぐことは出来ずそのうちの何発かが命中してしまう、という戦術だった。

「それでアメリカは日本まで手がまわらなくなったのか」

「沖縄や岩国基地は奮闘したけど、大量のドローンによる飽和攻撃でやられてしまった」

「それで電力などのインフラも壊滅したのか。食糧はどうなってる?」

 改めて萌々香に聞きました。

「野菜やお米は田舎だから何とかなってるわ」

「だけどこれだけの人数を養うのはたいへんだろ」

「もちろん自治体の協力もしてもらってる。和歌子さんや白鬼さんも手伝ってくれてる」

「何人くらいが避難してるんだ?」

「ペレシュ城だけで500人くらいいる。ゲストルームとゲストハウスを含めてね。高校や中学にも避難民がいる。全体で1000人はいると思うわ。病院も怪我した人でいっぱいになってる」

「病院もいっぱいなんだ」

「桜花姉さんと、明菜さん、若菜さん、沙織さんが病院に泊まり込みで行ってる」

「手伝いに行ってるんだね」

「桜花姉さんは獣医だから手伝いだけど、ほかの3人は医者になった」

「ペレシュ城も役立っているんだ」

「まるくんに先見の明があったってことね」

「こんなの先見の明じゃない」


 ペレシュ城で萌々香の自転車を借りて、Pink Fairy Hospitalに行きました。

 軽傷の患者がエントランスの床にも寝かされてる状態で、混雑ぶりがひと目で分かりました。受付らしいところで名前を言い、桜花を呼んでもらいました。

 しばらく待っていると、桜花が走って来ました。

「まるくん!」

 シズカが桜花のほうに飛んで行きました。

 桜花を強く抱きしめると、

「また会えるとは思わなかったわ」

 と涙ぐみました。

「たいへんな状況だね」

「いまは落ち着いているけど、寝る暇も食べる暇もなかった」

「こんな状態にならないように、帰ってから頑張るからね」

「まるくん、歴史を変えて!」

 桜花は、すべてが分かっているように感じました。

「分かってる。それから言わないでも分かると思うけど、もう二度と来ないからね」

「でも会えてよかった。まるくん、ありがとう。幸せな人生を与えてくれて」

「獣医になるとは思わなかった」

「ある日とつぜん、動物を話せるようになったの。これはまるくんの意思だと思って獣医になった」

「もう会えないと思うけど、元気で暮らすんだよ」

「明菜や若菜も呼んで来ようか?」

「いや、会わないほうがいい。会わずに過去に戻る。ジャクリーンとアマンディーヌはどうしてる?」

「ジャクリーンは高校の先生になった。バスケのコーチをしてる。アマンディーヌは弁護士になった。日本とアメリカの弁護士資格を持ってる」

「みんな立派になって嬉しいよ。では必ず日本を平和にするからね」

「来てくれてありがとう」


 戦争という事を除けば、みんなが幸せになっているのを嬉しく思いました。

 自転車に乗り、Pink Fairy High Schoolのそばを通ってみました。体育館のほうを見ると、洗濯物がそこかしこに干されていました。

 校庭では、イベントのようなものが行われていました。しばらく見ていると、そのうちに音楽が流れ始めました。それは聞いた事もない新しい感覚の音楽でした。きっと2050年に流行っている音楽だと思いました。

 よく見ると演奏者のギターとベースは、Fairy Twinsのリズとココでした。うしろのトランペットやトロンボーンは、きっとインターナショナルの卒業生だと思いました。

 ペレシュ城に戻って、萌々香と会うと、疑問に思っていたことを聞きました。

「ヒミコ様に会った?」

 萌々香は軽くうなずきました。

「やっぱり萌々香が『鬼道』の継承者になったんだ。もともとは君の父親の上野譲自衛隊員が『鬼道』の継承者だった」

「はい、中学のときにヒミコ様にお会いしました。そのときに決断しなかったので、こんな戦争になり、こんな目に合っています。もし過去に戻ったら、必ずヒミコ様の命に従うように『私』に言ってください」

「その時、逃げたんだね」

「そうです。まだ中学生だったから怖かったんです」

「それって邪鬼退治だね」

「中学生だし、女の子だし、邪鬼退治なんて出来ないと思って逃げたんです」

「大丈夫だ。萌々香には助けてくれる人間がたくさんいる」

「いまなら分かります。雉原君や猿投君、凜がそうだったんだと分かります。その時は誰にも相談できなかったんです。まるくんはほとんど放任主義だったから相談も出来なかった。その時が来たら、過去の『私』に強く接してください」

「わかった。君は『鬼道』の継承者だからね。性根を据えて対応しよう」

 前鬼と後鬼がキッチンにやって来ました。

「なんだか自分に会うのは変な気分だ」

「確かに変な気分だ」

 過去の前鬼と、未来の前鬼は同じことを言いました。

「未来の前鬼に言っておきたい事がある」

「へい、なんでしょう」

「このペレシュ城を守って欲しい。いや、中学、高校、病院、未来高原都市を守って欲しい。C国が侵入してきても一歩も退かないで欲しい」

「任せてください。大牛蟹や乙牛蟹もいます。ふたりは病院を守っています。酒呑童子やカラス天狗様にも応援を頼もうと思っています」

「よろしくお願いします」

 頭を下げて彼らにお願いをしました。

「ひとつ聞いてもいいですか?」

 過去の後鬼が、未来の後鬼にたずねました。

「なんでしょう」

「紫鬼の姿が見えないのですが、なにかあったのでしょうか?」

「紫鬼はペレシュ城にはいません。彼女は人間になって結婚しました。それでペレシュ城を出ました」

「人間になって結婚したのですか? 誰と?」

 未来の後鬼がその名前を言おうとしたとき、「ダメ!」と萌々香が制しました。

「言ってはダメ! どうせ分かる事だし、いま言ってしまうと楽しみがなくなるわ」

「そうだね。言わないほうが、楽しみが増えるね」

 過去の後鬼は、すこし残念そうに言いました。

「そうなんだ。紫鬼は人間になったんだ。どんな女の子になるのか楽しみだ」

 今度は過去の前鬼が嬉しそうに言いました。

 萌々香に別れの挨拶をすると、

「過去のペレシュ城に戻してくれ」

 とシズカに頼みました。

 軽い眩暈のあと、ペレシュ城に戻ったことを知りました。

 エントランスは、閑散として、誰も居ませんでした。キッチンには和歌子さんと白鬼が居て、彼女たちの未来がどうなっているのか聞きそびれたのを残念に思いました。

「和歌子さん、白鬼、君たちの未来が幸せだといいね」

「なに言っているんですか。今でも充分幸せです」

 和歌子さんは嬉しそうに言いました。


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