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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第44章 胎動
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修理されたハト時計「時子」の登場とともに、地域活性化やL4自動運転など未来的ビジョンが議論される。個人の成長と新たな愛の芽生えが交錯し、物語に温かみと希望が加わる。

 

 シズカは、修理されたハト時計の屋根に止まって、会話していました。

 その会話は、私にも聞こえました。

 アンナ・マリノフスキさんから頂いたハト時計は、彼女の曽祖父が3番目に作ったものでした。このハト時計の裏に彫られた003の製造番号がそれを示していました。

 001は、橋田みつゑさんの家にあります。このハト時計は、橋田さんの実家の別荘に飾られていたもので、作られてから100年を経て付喪神となり、「時太」という名前が与えられました。

「私にも名前がもらえた」

 このハト時計は、001の時太と製造された日は大差なく、付喪神となっていました。

「どんな名前?」

「私の名前は『時子』というの」

「おめでとう。時子さんなんだね。まるくん、ハト時計の名前は時子さんだって」

「という事は女性なんだ。時太の妹だね」

 私は、時子がなにか使命があって、ペレシュ城に貰われたのではないかと思いました。

「ふん。スズメに名前があるくらいだから、ハト時計に名前があっても珍しくない」

 ナマイキが斜な言い方をしました。

「凛!」

 私が呼ぶと、どこからともなく、「ハイ、まるくん」と声が返って来ました。

 凜は、式神たちを使って、ペレシュ城のあちこちにマイクを着けて私やみんなの声を聞き取り、スピーカーを使って話しかけていました。そればかりでなく、用事があると私の携帯に電話を掛けたり、時計やiPadに呼びかけたりしました。それらの機器がどこに仕掛けているのか、私にはさっぱり分かりませんでした。

 Bランクの地下には、巨大なサーバーのほかに、日本のスーパーコンピューター、富嶽よりも高性能のスパコンも設置されていました。凜はこれらの施設を管理、使用していました。その陰にはハクシキの存在もありました。ハクシキが新たな思考とプログラミングをしているのは明らかでした。その地下の一室には、凛とハクシキの提案で、ロボットの研究もされていました。

「凛。今日の予定はどうなっている?」

「今日は、お昼からスチュアート理事長とジョン先生が来るよ」

「それなら、午前中に凜の子供を散歩させようかな」

「よろしく、まるくん」

「子供も大きくなったね。見せようか?」

「いつも見てるよ。危ないことをしたら、式神に言って気を付けさせてる」

「カメラで見てるんだ」

「そうだよ。あちこちにカメラを着けている」

「悪い事は出来ないな」

「安心して。部屋の中までは着けてない。プライバシーは尊重しているよ」

 私は、3匹の子犬を庭に出してやりました。子犬たちは、芝生の上を走り始めました。ふと私は、彼らに名前がない事に気がつきました。

「凜。子供たちに名前をつけるのを忘れていた」

「それならとっくにつけているよ。萌々香ちゃんがつけてくれた」

「知らなかった。なんていう名前?」

「男の子はユウキ。あとの女の子は、フジとモモだよ。リボンを着けているからまるくんでも区別はつくよ。ユウキが青色、フジは赤紫、モモはピンクだよ」

「萌々香らしいね」

「萌々香ちゃんは、リボンがなくても区別が出来るみたいだよ。名前を呼んでみて。もう自分の名前は分かってるよ」

 私は、子犬の名前を呼びました。

「ユウキ」

 青いリボンをつけた子犬がやって来ました。

「フジ、モモ」

 赤紫のリボンの子犬が来て、そのあとをピンクのリボンの子犬がやって来ました。

「言葉は話せるのかな?」

「もう話せるよ。幼児言葉だけど」

「まるくん」

 青いリボンのユウキが私にむかって喋りました。

「ユウキは賢いね」

 そう言うと、

「まるくん、まるくん」

 とフジとモモが私の名前を連呼しました。

「凛と出会った頃を思い出すね」

 私は、短かった凜との生活を思い出しました。凜を初めて抱いたとき、まさか彼女の子供を手にするとは思ってもみませんでした。予想もしない自分の人生が不思議に感じられました。

 肌寒くなってきたので、私は子犬たちの足を洗ってキッチンに戻しました。

「あら、お外で遊んでいたの? よかったわね」

 和歌子さんが楽しそうに言いました。

「この子たちの名前を和歌子さんは知っている?」

「もちろん知ってます。ユウキにフジにモモです。まるくんは知らなかったのですか?」

「白鬼も知っていた?」

「はい、知ってました」

「知らなかったのは私だけか」

 私はなんだか時代に取り残されたような感じがしました。いくら忙しかったとは言え、こんな事も知らなかったのかと思うと情けなくなりました。こうして人間は時代に取り残され、認知症へと歩むのかと恐ろしくもなりました。


 昼過ぎに、スチュアート理事長とジョン先生がペレシュ城にやって来ました。

 私は、ふたりを書斎に通し、ソファに座らせました。

「学校のほうはどうですか?」

「すごく順調です。高校は入学願書が100名を越えました」

「100名を? それはすごいね」

 Pink Fairy High Schoolの全校生徒数は、108名でした。内訳は、1年36名、2年32名、3年29名、インターナショナルが11名でした。

「3年生29名が卒業しても、来年度は180名くらいになりそうです。インターナショナルも増えるかもしれません」

「教師とかの受け入れ態勢は充分ですか?」

「今のところ、教師の雇用は問題ありません。寮のほうもまだ余裕があります。でもその次の年度は足りなくなります。校舎のほうは建築時に1000人の生徒数を想定していたので問題はないですが、寮のほうはそこまでのキャパはありません」

 ジョン先生が将来の不安を提示しました。

「資金は充分なのですか? どこまで言っていいのか、甘えていいのか分かりません」

「空飛ぶプリウスの特許料がアメリカ政府に売れました。資金的には余裕があります」

 私は、当座の資金には余裕がありましたが、ランニングコストという面では不安がなくもありませんでした。ペレシュ城Bの地下のコンピューターやサーバーだけでも150億円くらいの維持費が予想されました。高校や病院も赤字でした。その維持費を私は、膨大な資金を投資で活用して稼いでいました。

「寮やその他の付帯設備の増設に取り掛かって下さい。現在のペレシュ城の外観を損ねないようにお願いします」

「分かりました。さっそく設計士と相談します。今回はジョンの功績が大きかったので感謝しています。駅伝とバスケの優勝が大きかったと思います。とくにバスケ部の駅伝の優勝はインパクトがありました」

「功績はぼくだけじゃないです。テレビのドキュメントの影響が甚大でした。それに私の無理を聞いてくれた選手のお陰です。無理をさせたかもしれません」

 白鬼が、「コーヒーが入りました」と言って入って来ました。

 彼女は、カップを各自の前に置き、ポットのコーヒーを注ぎました。その様子をみんなが眺めていました。

 スチュアートは、コーヒーが入ると、

「サンクス」

 と白鬼に礼を言いました。

「You're welcome! (どう致しまして)」

 白鬼は英語で応え、スチュアートに笑いかけました。

「これからの戦略として、スポーツ部長を設けて、ジョンにやってもらおうと考えています」

「ぼくに? でもバスケのヘッドコーチをやってる」

「兼任してもらえないか。君が適任なんだ」

「OK! やれるところまでやってみるよ」

「女子野球はうまく行きそう?」

「希望者は増えています。素人もいるみたいで実際に入部するかどうか疑問です」

「オープンキャンパスとかもいいのでは?」

「もちろん、それも考えています。実際に高校を見れば、入学したくなると思います。それだけ魅力のある学校だと思います。なによりも公立高校並みの授業料です。インターナショナルのほうは交換留学生を考えています」

「希望者を全員入学させてもいいけど、レベルに差がある場合はどうする?」

 私は、スチュアートに問いました。

「一応、入学テストをして、能力別にクラス分けをしようと考えてます。それによってカリキュラムも教科書も変えて行こうと思ってます」

「中学生のほうは?」

「かなり反響はよくなっています。授業料の無償化が効いています。現在、200名を超える志願者がいます」

「たいへんだな。200名を超えると、初年度として対応ができますか?」

「やるしかないですね。寮のほうも300人分のスペースを確保しています」


「まるくん、正次さんが来たよ」

 凜が、橋田正次さんの訪問を告げました。

「書斎にお通しして」

「わかった。白鬼に伝える」

 しばらくして、白鬼に伴われて、橋田正次さんが入って来ました。

 私は、ふたりに彼を紹介しました。

「正次さんには、Pink Fairy NPO法人のスポーツパーク部門を担当してもらっているんです。こちらはPink Fairy High Schoolのスチュアート理事長とジョン先生です」

 彼らはお互いに握手を交わしました。

「スポーツパークの稼働率はどうですか?」

「ドームは少年野球やイベントで稼働率が上がりました。高野連にも県予選が数試合ほど組み込まれました。但し、無償がほとんどです。みんなアマチュアで金銭的に苦労しているから仕方ありません」

 白鬼が追加のコーヒーを持って来ました。

 橋田正次さんに差し出すと、

「ほかの方は、お変わりは如何ですか?」

 と勧めました。

「お願いします」

 とスチュアートがカップを白鬼の前に置きました。

「さんくす」

 スチュアートそう言うと、

「You're welcome! (どう致しまして)」

 白鬼は、また言いました。

「英語は話せるの?」

「ぜんぜん、いま勉強しています。話せるようになりたいですわ」

「それなら、教えますよ」

「ぜひ、よろしくお願いします」

 スチュアートは、この会話が本気なのかどうなのか分かりませんでした。日本に来てから、このような会話のやり取りで苦労をしました。

 ある人から、「遊びにおいで」と言われて、本気にして遊びに行ったら、あからさまに嫌な顔をされ、すぐに退出した記憶がありました。

 白鬼の「よろしくお願いします」は、挨拶のようなもので本気にしてはいけないと自重しました。

「ほかの施設は?」

「バスケットアリーナも卓球の地区大会の試合が行われただけです。これもアマチュアだから無償です」

「アイスリンクとかは?」

「一般に使用させているフリーのリンクは、使用料が500円、靴の貸し出しが500円で運営しています。カーリングがPink Fairy High Schoolの女子チームが3レーンを常時使用しています。岡山市や倉敷市から、非定期で大学チームとかが使用しています」

「赤字は覚悟しているけど、彼らが未来高原都市にやって来ることで街が活性化すると思うんだ」

「彼らがお金を落としていくという事ですね」

 スチュアート理事長が付け足すように言いました。

「アマチュアや学生だから、大してお金は落とさないと思う。活性化すればそれでいい。地域のGDPを上げようと思えば、人を動かすことだと思う。人が動けばGDPは上がる。都会では微々たる動きかもしれないけど、人口の少ないこの街ではその効果は大きくなる」

「そのためにも街に魅力がないといけませんね。そうだ。今度Pink Fairy Townのホールでコンサートをするんですよ」

「なんのコンサートですか? ポップ系ですか?」

「いえ、クラシックコンサートです。バイオリニストの高井凛々子さんを呼んで、岡山交響楽団と共演させます。チケット代は一律で2000円を予定しています」

「曲目はなんだろう?」

「メンデルスゾーンのバイオリンコンチェルトだと言っていました」

「いいね。バイオリンコンチェルトの中では一番好きだ」

「高井凛々子さんの発案です。田舎だと、どうしてもクラシック音楽文化が低いので馴染みのある曲にしたいと言ってくれました」

「ほかのバイオリンコンチェルトは知らなくても、この曲は知っているという人は多いね。高井凛々子さんってバルトークか何かで入賞したんだろ。ギャラは高くない?」

「はい、高いですね。それでも田舎のコンサートという事で格安で演奏してもらえることになりました。ホールの席がぜんぶ埋まるとほぼトントンになります」

「それはぜひいかなくては。凜! 予定に入れていてくれ」

「まるくん、わかったよ。調べてあとで教えるね」

「頼むよ。ところで女子野球はどうなっている?」

「岡山や広島、四国を中心にしたルビーリーグというのがあって、そこも誘致に成功しました。リーグ戦をドームで行います。このリーグは、高校、大学、社会人が参加できます。Pink Fairy High Schoolで女子野球が出来たら参加させてもらえるように根回しをしています」

「バスケットアリーナがまだ本格的な動きになっていないんだね」

「そうですね。地区のバスケットの試合が行われる程度です」

「Pink Fairy High Schoolのバスケの卒業生で、プロチームを作ろうと思っているんだ。今のメンバーはそれぞれ夢があるから高校を卒業したらバスケをやめるだろうけど、彼女らによって、いい後輩が続くと思うんだ。その後輩たちがプロになるかもしれない」

「将来的な戦略があるのですね」

 ジョン先生が分析しました。

「戦略というほどじゃないけどね。長期的ビジョンかな。活性化のためのね。バスケットアリーナが本格的に動くのはそれからだね」

「遊園地のほうはどうなってる?」

「いい感じになっています。激しいアトラクションがないので、小さいお子さんを持った家族連れが増えています。芝生スペースや、東屋、休憩所などをたくさん設けているので、そこで弁当を食べる家族が増えました。生活防衛をしているんでしょうね。彼らのために、休憩所やトイレでは、ベビールームを増設しています」

「若い家族持ちは、まだ年収が少ないからね。それはいい考えだね」

「スポーツパークを利用する人たちは、Townでの消費が増えているようです。食事や買い物客が増えました。これは実際にハンドカウンターで計測しました」

「相乗効果が出て来たという事だね」

「まるくんの経営戦略、タウン、パーク、遊園地の一体化が成功しましたね」

「褒められるほどの事じゃないですよ。当たり前のことです。経営戦略と言われれば、これからL4を実現しようと思っているんです」

「L4? なんですか?」

 橋田正次さんが尋ねました。

「L4は、レベル4自動運転を指します。この段階では、人間の関与がほとんど不要になります」

「自動車の自動運転なのですか?」

「そうです」

 スチュアート理事長とジョン先生も身を乗り出してきました。

 私は、3人に説明しました。

 自動運転は、イレギュラーが多い都会ではL5の完全自動運転は無理でした。車の運転は、瞬間的な人間の判断力や操作が必要とされていました。まだそこまでの文明は進化していません。

「極端な天候や未知の状況では、人間の介入が求められる場合もあります。そこでL4+ロボットを考えました。但し、ロボットが人間と同じくらいの瞬間的な判断力が必要です」

「たしかに交通事情が複雑で多様だから、自動運転はまだ実用性が低いと思ってます」

 スチュアート理事長が付け加えました。

「でも車の少ない田舎ではどうですか?」

「あっ、そうか。車が少ないから、自動運転の可能性があるんだ」

「そうです。交通量が少ないから、突発的な交通トラブルも起こる確率が低くなります」

「車も走ってない、人も歩いてない、極端にいえば、信号もないようなところこそ自動運転がやりやすいんですね」

「生活動線、たとえば町役場、病院、警察署、図書館、スーパーとかに直接バス停を作ってもいいと思います。さらに細かく言えば、コンビニにバス停を作ってもいいと思います。1時間に1本くらい走らせれば、けっこうな利用頻度になると思います。出来れば30分に1本くらいは巡回させたいですね」

「そうすると田舎の車社会からの脱皮ができますね」

「田舎こそL4+ロボットの公共交通機関が必要なのです」

「空飛ぶプリウスも、空飛ぶバス、あるいはミニバスの考えも出て来ますね」

「ロボットがバスを運転するのか、とんでもない世の中になりますね」

「ちょっと待ってください」

 橋田正次さんが話を遮りました。

「これって、ロボットが人間の仕事を奪う事になるのではないですか?」

「表面的にはそう考えられます。でもこれからの日本は人口がどんどん少なくなってきます。労働年齢は今よりも少なくなってきます。単純な巡回バスとかはロボットで対応しないといけなくなります」

「将棋や囲碁は、人間ではコンピューターに勝てなくなっていますね。ロボットのほうが安全運転とか普通にやってくれるでしょうね」

「ロボットにスピードを出したい、という欲求がないからですね」

「そうです。人間はスピードへの欲求とか、誰も見てないから信号無視しようとかの気持ちが起こります。ロボットにはそれがありません」

 スチュアート理事長は、

「いまコンパクトシティの構想が盛んですが、これだとその考えは必要なくなりますね」

 と現状の考えを否定しました。

「コンパクトシティの考え方はいい事ですが、先祖伝来の土地を捨てて街中に移住しようという考えは田舎にはありません。山奥の一軒家にバスを走らせる事は出来ませんが、連絡があればその近くまで走っているバスがスポット的に向かう事ができます」

「実は、」

 スチュアート理事長は、居住まいを正して言いました。

「新しい事案が私に起こっているのです。いま核融合発電の研究がさかんに行われているのです。それは今までの核分裂発電よりも格段に安全です。その核融合発電の研究に私の強磁性窒化鉄の研究が注目されて、新たな特許料が入りそうなのです」

「核融合発電で新たな特許料ですか」

「核融合発電は、核分裂発電よりも制御が簡単で安全性が高いのです。でもそれには強力な磁力が必要なのです。それで私の研究が注目されました。私はまるくんのような大きなスケールがなくても、この特許料で中学、高校の維持費くらいは充てようかと思っていました」

「それはぜひともお願いしたいです」

「まるくんもスチュアートもたいへんな事業をやってるなぁ。私はそれよりももっとスケールが小さいのですが、新しい事を始めます」

 みんなの目がジョン先生に注がれました。

「私はマリーヌにプロポーズしました」

 いっせいにどよめきが起こりました。

「やったね、ジョン。子供のころの想いが達成したね」

「えっ、スチュアートは知ってたの?」

「当たり前だよ。子供のころのジョンを見ていたら、すぐにわかった」

「という訳で、近々引越しをします。挙式が決まりましたら、みなさんにお伝えします」



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