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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第34章 鬼っ子の紫鬼
35/70

紫鬼が萌々香との友情を通じて成長し、邪鬼の不穏な動きが物語の緊張感を高める中、まるくんは街を守るための行動に出ます。街全体が活気づき、未来への希望と使命感が描かれる章です。

 

 紫鬼は、小学校6年に編入しました。

 当初、勉強の遅れから、3年くらいから始めてはどうかという案がありましたが、警護という事もあって、萌々香と同じクラスを強く要望しました。

 学校から帰って来ると、紫鬼は猛勉強をしました。彼女は、その日の宿題をキッチンに持って来て、まるくんに教わっていました。萌々香もキッチンで宿題をするようになりました。

 読み書きは、ある程度できていたので、算数などの複雑な計算や考え方を、まるくんは必死に教えました。

「分数の計算って、どうだっけ?」

 まず、まるくんが教科書を見ながら、勉強を思い出して、紫鬼に教えました。

 夕食後に入浴を済ませると、今度は桜花が紫鬼の勉強を1時間くらい見ました。萌々香のむかしの教科書を広げて、ひとつひとつ勉強していきました。

 夏休みになると、萌々香と紫鬼は、毎日のようにPink Fairyハイスクールの図書館に通って猛勉強していました。いつもやって来る女子高生とハチマキをした男子高校生とも顔なじみになるほどでした。彼らの名前も覚えてしまい、宮部葉月と石丸だと分かりました。

 みんなが勉強しているので、萌々香と紫鬼も感化されて、どんどん進んでいきました。

 お昼時になると、彼ら4人は、図書館のカフェテリアに行って、食事をしました。カフェテリアでは、キャサリン・クラークに英語で注文しました。

「Excuse me, could I get a juice and a hot dog, please? (すみません、ジュースとホットドッグをお願いできますか?)」

「Which juice would you like?(ジュースはどれにしますか?)」

「What kinds of juices do you have? (どんな種類のジュースがありますか?)」

「We have orange juice and grape juice.(オレンジジュースとグレープジュースがあります)」

 紫鬼は、そのやり取りを聞いて、英語にも興味を持ち、自分でも真似をしてみました。

「どう言えばいいの?」

 宮部葉月が丁寧に教えました。

「オレンジジュースが欲しかったら、I want a cup of orange juice. (オレンジジュースをください)と言えばいいわ」

「アイ・ウォント・ア・カップ・オブ・オリンジ・ジュース」

「分かったわ。オレンジジュースね」

「ホットドッグもください」

 紫鬼は、英語が通じた喜びでいっぱいになりました。

「May I have your name?」

「なんて言ってるの?」

「名前を教えてって言ってるわ」

 萌々香が通訳してくれました。

「紫鬼です」

「紫鬼ちゃんね。キャサリンだよ。これからも仲良く英語の勉強をしようね」

 昼食後も図書館が閉まる夕方の5時まで勉強していました。「蛍の光」が館内に流れる中、萌々香と紫鬼は、歩いてペレシュ城まで帰りました。

 プラタナスに止まっていたカラスが、ふたりを見て鳴いていました。

「なんだかカラスが多いね」

 萌々香は、不気味な物を感じていました。

「大丈夫だよ、萌々香ちゃん。私がついているからね」

 紫鬼は、カラスたちが普通ではないと気がついていました。カラスたちは、彼女たちがペレシュ城に入るまでついて来ました。


 深夜、まるくんの部屋にヒミコ様が訪れました。

 まるくんは、パジャマに着替えて寝る寸前で、電灯を消したところでした。しばらくして薄明るくなって、ヒミコ様の姿が現われました。

 まるくんは、起きあがってヒミコ様をむかえました。

「私に御用ですか?」

「大事な事を伝えに来ました。あなたの研究が遅れているのは、この街に女性が少ないからです」

「女性が少ないから?」

「そうです。女性には『産む力』があります。研究を進めるには女性の力が必要です」

「いまでもずい分女性が多いのですが」

「まだ足りません。女性の力を結集させるのです。時間はありません。邪鬼が不穏な動きを見せています」

「分かりました。さっそく行動に移します」

 薄明るい光は消え、まるくんは就寝しました。

 あくる日に、まるくんは猿投弘美を訪ねました。

「まるくん、いらっしゃい。とつぜんどうしたのですか?」

「橋田さんのお祖母さんを未来高原都市に引き取りたいんだけど。話をしてもらえないかな?」

「お祖母ちゃんを? どうして?」

「必要なんだ。話だけでもして貰えるかな?」

「分かったわ。来るかどうか分からないけど、話をしてみるわ」

 猿投家を出たあと、まるくんはその足で雉原弁護士の事務所に赴き、

「和歌子さんの古民家の近くに、空き家があったね。そこを買収して欲しいんだけど」

 と雉原静香に依頼しました。

「けっこう広い空き家でしたね。そこも確か古民家です。誰か住むのですか?」

「橋田さんのお祖母さんを住まわせようと思うんだ」

「橋田みつゑさんですね」

 まるくんには、橋田みつゑが未来高原都市にやって来るという確信がありました。

「買い取って、リノベーションして欲しい。バリアフリーにして下さい。業者は猿投さんに一任します」

 1週間もしないうちに、橋田みつゑから電話がありました。

「私でも役に立つことがあるの?」

「はい、重要な仕事があります」

「いつ行けばいいですか?」

「一度、こっちへ来てもらえませんか?」

 橋田みつゑは、詩織と移住先の古民家を下見にやって来ました。リノベーションの工事に入っていて、設計士も呼んで説明させました。

「すべてバリアフリーにして、段差はなくすつもりです」

 設計士は、橋田みつゑに説明しました。

「ここに私ひとりが住むの? 広いわね」

「掃除がたいへんなら、掃除の業者を入れますよ」

 詩織は、内覧しながら、なにかを考えているようでした。

 料理人の和歌子の近くでしたので、彼女も呼びました。

「私の家より広いわ」

「敷地は和歌子さんのほうが広いね。畑がついているからね」

「私の庭には鶏がいるし」

「ついでに和歌子さんの家も行こう」

 まるくんは、橋田みつゑと詩織を和歌子の家に連れて行きました。

「この畑を、みつゑさんに管理していただきたいのです」

 ペレシュ城の住人が増えて、やや荒れ気味になっている畑を見ながら、まるくんは言いました。

「ここで出来た野菜を、ペレシュ城や、和歌子さん、みつゑさんで食べて行こうと考えています」

「野菜を作ればいいんだね。任せてください。何を作ろうかしら。ここだといろいろ出来るわ」

 みつゑは、畑を眺めて夢を広げていました。


 ペレシュ城に戻って来て、まるくんは和歌子の夕食の支度を手伝いました。

 橋田みつゑと詩織は、Aランクの部屋でくつろいでいました。

「お祖母ちゃん、この街に住める?」

「うん、なんだか生き甲斐が出て来た」

「あのね、わたし考えたんだけど、お祖母ちゃんと一緒にここに住もうかと考えてるの」

「おまえも住むのかい」

「お祖母ちゃん、ひとりだと心配だというのもあるけど、いい街だと思ったの。なんだかこの街に住めって、誰かに言われてるような気がするの」

「私に気を使ってる?」

「そんなに気を使ってないわ。この街でカフェを出してもいいかなと思った」

「詩織の好きにするといいよ」

 ふたりが風呂から上がると、まるくんから内線の電話で「食事の用意ができた」と言われ、キッチンに行きました。

 キッチンでは、みんなが揃って賑やかにしていました。

 みつゑは、キッチンに入るなり、ハト時計に目をやりました。

「また会えたね。元気にしてた? 私は元気だ。今度この街に住むよ」

「あなたが元気でいると、嬉しくなります。この街に住むなら、いつでも会えますね」

 そのみつゑとハト時計のやり取りを、萌々香と紫鬼が見ていました。

「あのお祖母さん、ハト時計と話せるみたい」

 萌々香が小さい声で、紫鬼に言いました。

「すごいね。ハト時計は付喪神になってる」

「なにそれ?」

「物が100年経つと、付喪神っていう神様になるんだ」

「それで話ができるんだね」

 詩織は、食事しながら、

「私もこの街に住もうかなと考えているんです」

 と、まるくんに言いました。

「それはいいね。ここでカフェでも開いたら?」

「はい、そうしようと思っているんです」

「やるつもりなら、Pink Fairy Townで出せるように手配するよ」

「ほんとですか? そういうのがあると助かります」

「いま、いい場所が空いているはずです」


 夏休みの猛勉強が功を奏して、紫鬼の学業は目覚ましい成果を見せました。

 紫鬼は、勉強のときに鬼の集中力を使いました。あまりにも勉強に集中していたので、萌々香が「紫鬼ちゃん、カフェでお昼にしない?」と誘っても、気がつかない事があるくらいでした。

 一緒に勉強していた萌々香も、うなぎ上りに成績が上がりました。彼女たちは、テストではほとんど100点満点を取りました。同じく一緒に勉強していた宮部葉月や石丸も、模擬テストで高順位を確保していました。

 宮部葉月は、森脇先生に、

「成績が上がったので、親がPink Fairy High Schoolを見学してみたいと言っているんです」

 と相談しました。

「ぜひ来ていただきたいわ。歓迎します」

「見学の許可が出た、と言っていいんですね」

「いいわよ。ホテルとか手配しているの?」

「さあ? 聞いてみないとわかりません」

「スチュアート先生に、ペレシュ城に泊まれないか聞いてみるといいわ」

 宮部葉月は、スチュアート先生のところに行って、尋ねました。

「両親が高校を見学したいと言っているんですが、森脇先生からペレシュ城に泊めてもらったらどうか、と提案して頂いたんです。泊められますか?」

「たぶん問題ないよ。理事長に連絡しておこう」

 宮部葉月の両親がやって来る日程が決まり、その当日、和歌子に聞きました。

「今日は3人分、夕食を追加って言っていたよね」

「聞いてますよ。そのつもりで作ってます」

「高校の生徒の両親なんだ。子供の成績が上がったので、高校を見学したいらしい」

「成績があがったんですね。よかったですね」

「このまま進めば、国立も受かるんじゃないかと言っていた。落ちこぼれだったんだよ」

「すごいじゃないですか」

 宮部葉月とその両親がペレシュ城に到着すると、まるくんは部屋に案内しました。

「いつも娘がお世話になっています」

「私はなにもしていません。先生たちが世話をしています。夕食は7時です。それまでゆっくりしていて下さい。お風呂を済ませるのもいいし、庭を散歩するのもいいですよ」

 彼らは、ペレシュ城の庭を散策しました。

「お父さん、わたしこの高校に入って良かったわ。なんだか人生をやり直しているような気がするの」

「それは良かった」

「中学で成績が下がって、地元のレベルの低い高校に行くのが恥ずかしくて、全寮制のPink Fairy High Schoolにしたけど、ほんとうにこの街に来てよかったわ」

「葉月がそう言ってくれて、父さんも嬉しい。娘をひとりでよその土地にやるのは心配だったけど、全寮制だというのでしぶしぶ了承したんだ」

「わたし国立大学にいけるように頑張るわ」

「洗濯とかちゃんとやってる? 母さんはそれが心配なんだよ」

 母親が問いただしました。

「心配ないよ。無料のランドリーがある」

「なにか欲しいものとかあるのか?」

 父親が聞くと、

「今の小遣いで充分。欲しいものはそれで足りてる」

 と葉月は言いました。

 彼らは、庭の東屋に入り、ベンチに腰掛けました。

「すごい家だね。西洋のお城みたいだ」

「ここはルーマニアのペレシュ城を真似したと聞いたわ。このお城は一度燃えたんだよ」

「燃えて、立て直したのか?」

「そうだよ」

「お金があるんだね」

「でも、ここはNPO法人だって言ってたわ。高校と同じ法人だって」

「個人の所有ではないんだ」

「そうらしいわ。さっきの理事長が無料で借りているらしいわ」

「無料ならいいね。税金対策かな?」

「聞いた話だけど、理事長は財産を持たない主義なんだって言ってたわ。家族の生活費はNPO法人から出しているけど、本人は年金暮らしだって言ってる」

「家族ってそんなに多くないだろ」

「養子縁組の娘が3人だけど、バスケット部の生徒が5人ペレシュ城に住んでいる」

 そのとき、カラスがけたたましく鳴きました。

 数10羽のカラスが戦っているようでした。

「縄張り争いだろ」

 父親が言いました。

「カラスって縄張り争いをするんだ」

「勝手に入って来ると、ほかのカラスを攻撃するんだ」

「でも激しいわ」

「そうだね。あんなに激しいのは見た事がないね」

「そろそろ部屋にもどりましようか? 食事の前にお風呂に入りたいわ」

「女性だけ大浴場があるって、言ってたわ。父さんは部屋のバスね」

 夕食では、英語が飛び交っていました。アマンディーヌやジャクリーンが居たので、分からないでもありませんでしたが、宮部葉月や両親は小学生の萌々香や紫鬼までが英語で話しているのを見て驚きました。

「日本語でいいですよ。バスケット部のコーチがアメリカ人なので、英語が馴れているんです」

「そうなんですか。驚きました」

 父親は面食らったように言いました。

「今日は驚くことがいっぱいです。さっき庭でカラスの戦いがありました」

 葉月は、恐ろしいものを見たように言いました。

「おそらく、縄張り争いでしょうね。でもあんなに数が多いのは初めて見ました」

 父親のその話で、萌々香と紫鬼が見合わせました。

「きっと邪鬼の手下だよ」

 紫鬼が小さな声で、萌々香に言いました。

 萌々香は、ゆっくりとうなずきました。


 お風呂からあがって、まるくんが部屋でくつろいでいると、萌々香が凜の寝床を持ってやって来ました。

「凜がまるくんと寝たいんだって」

「どうかしたのかな?」

 萌々香のうしろにいた凜が、

「まるくんが淋しくないか心配になったんだよ」

「いつも独りだったから馴れてる」

「そう言わないで、私が相手してあげる」

「では私は部屋に戻るね」

 萌々香が出ると、凜はまるくんに言いました。

「まるくん、今からヒミコ様や役行者様、カラス天狗様が来られるよ」

 電灯が消え、部屋が薄明かりになりました。

 ヒミコ様の姿が現われ、続いて役行者様、カラス天狗様が現われました。

「まるくん、今日はみんなに来てもらいました」

「特別な御用ですか?」

「邪鬼の動きが激しくなりました。まるくん殿の研究を急いでください」

「拙者たちが邪鬼の動きを抑えて時間稼ぎをする」

 役行者様が言いました。

「そのあいだに研究を完成させるんだ」

 カラス天狗様は、強い口調で畳みかけました。

「それから凜に子供が産まれます。この子供たちはまるくんに取って大切な従者になります」

 カラス天狗様は窓に近づいていき、開けました。すると1羽のカラスが飛び込んで来ました。

「このカラスは拙者の手下だ」

「勘太と言いやす」

「勘太って、あのヤマト大国で会ったカラス?」

「旦那が会ったのは、あっしの先祖でやんす。あっしは378代目の勘太でやんす」

「前鬼や後鬼のほかに式神たちも今よりも増やして、ペレシュ城のまわりに潜ませておく」

 役行者様が続けて言いました。

「まるくん殿の研究が完成するのを、邪鬼たちは恐れているのです。あなたの研究で世界が救われ、邪鬼の目論見が狂うのです。それを念頭にまるくん殿は動いてください」

「それでは任せたぞ」

 カラス天狗様と役行者様の姿が消えていき、続いてヒミコ様の姿も消えました。

「旦那、窓を開けておくんなさい」

 窓を開けると、カラスの勘太も飛び去って行きました。

「たいへんな事になりそうだね」

 まるくんは、凜に言いました。

「まるくん、私からも言っておく事があるよ」

「そうだ、凜は子供が産まれるんだよね。気がつかなかった」

「それもだけど、まるくん、私は子供を産んだあと死ぬよ」

「えっ、凜は死ぬの? まだ若いのに」

「これは決まっている事なんだよ。ペットショップでまるくんに買われる前から決まっていたんだよ。それが私の使命なんだ。だから少しでもまるくんと一緒に居たいんだ」

 普段の萌々香と紫鬼は、学校が終わると、図書館で勉強していました。クラスメートの雉原翔太と猿投紘一が女の子に負けたくない、と彼女たちの勉強方法を真似するようになりました。それが、一種の流行となり、図書館は小学生で席の取り合いとなる日が増えました。


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