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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第32章 ハト時計の目覚め
33/70

ハト時計「時太」と橋田みつゑとの感動的な再会を通じて、過去の記憶と現在の幸福が交錯する物語。黍団子を囲む日常の温かさの中で、時の流れが織りなす絆が描かれる章。

 

 ペレシュ城に雷が落ちて火事になったとき、私はまるくんの名前を叫び続けました。

 私の声がまるくんに届かなくても、私は呼び続けるしかありませんでした。凄まじい雷の音に負けないように私は声を張り上げました。私にはほかに手立てがなかったからでした。

 キッチンに火の手が回って来ました。

 私は、この業火に焼かれるのかと諦めかけたとき、まるくんが現われました。私は必死に呼びかけました。

「まるくん、まるくん」

 その声は、まるくんに届いているようでしたが、ハト時計の私が叫んでいるとは思いつかなかったようです。

「まるくん、ハト時計だよ」

 と言うと、まるくんは気がついてくれて、私を壁から外してくれました。

 逃げる途中で、真っ赤に燃えた大きな柱が崩れて来て、まるくんは避けたのですが、その破片が飛んできて火傷をしてしまいました。

 ペレシュ城が燃え落ちるのを私は見ていました。

「金閣寺が燃えている」

 と、まるくんがつぶやきました。

 燃え盛るペレシュ城がこのときほど美しいと感じたことはありません。悲惨な目にあっているのに、美しいと感じるのは不謹慎だと思うのですが、その妖しさは言いようがありませんでした。

 東屋で避難した私は、まるくんや萌々香、凜がみたペレシュ城の幻影を見ました。そのとき私は、ペレシュ城は永遠なのだと思いました。

 それから私は、未来高校の理事長室に飾られました。

 昼間も、生徒のいない夜も、私は時を刻み続ける事になりました。


 深夜、私は静かに時を刻んでいました。

 夜10時から翌5時まで、私の中に居るハトも眠っていて、私は時だけを刻んでいました。

 真っ暗な理事長室に光が現われて、その中にヒミコ様の姿がありました。

「時が満たされました。あなたに名前を授ける時がやって来ました」

「私に名前が頂けるのですか?」

「あなたを『時の伝道者』として、『時太』という名前を授けます。この物語を見守り、伝えてください」

 私は、生まれてから、100年が経過したのだと思いました。

 付喪神になる事が出来たのです。

 ヒミコ様と話して、彼女の心配を聞くことが出来ました。このままだと、2050年には世界が破滅する事だけは確実でした。その危機を避けるために働き、その心配をすこしでもやわらげることが、私の課せられた使命だと感じました。そればかりでなく、私は「時の伝道者」として、記憶し、記録しようと思いました。

 夜はこんこんと更けていき、時間が塵のように積もっていました。

 夜があけるまでの時間を、ヒミコ様と私は何時間も語り合いました。付喪神になった私は、人間では分からないものが急に見えてくるようになりました。

 たとえば死、たとえば生、たとえば運命、たとえば予言、これらは人間には分からない事でした。ヒミコ様はこれらの事を丁寧に教えてくれました。


 時間はいつも一定のリズムで刻んでいくのに、振り返ってみると、過去は一瞬の閃光のように思うのはなぜなのでしょう。

 私はドイツの黒い森を思い浮かべてました。

 そこで何年ものあいだ、ドイツトウヒの木として育ち、立っていました。

 私のふるさと、シュヴァルツヴァルト地方でした。その思いを私は、ある少女に呼びかけました。私がドイツで日本人に買われ、芦屋の別荘に飾られたとき、やさしく見つめてくれた少女の事でした。

 ふるさとの黒い森の風景、匂い、陽射しを思い描きながら少女に呼びかけました。

 花の季節には、エーデルワイスやハイビスカス、ヒマワリが咲き、ワタリガラスやツグミが私の枝で羽根を休め、秋になると松ぼっくりを目当てにリスがやって来ました。

 夏の暑い日差し、秋の厳しい霜、懐かしいそれらの日々を私は少女に伝えました。

 ドイツや芦屋で過ごした日々、京都の弘法市でガラクタのように扱われた日々、これらが一瞬の出来事としてありありと思い出されました。

 ペレシュ城が焼けて、まるくんは1週間ほど、顔の火傷の治療のため入院していましたが、退院すると再建にむけて熱意を注ぎました。

 理事長室でまるくんは、かつてここに立っていた城を思い描きながら、設計図を見つめていました。

 だが、私には見えていました。かつての城、今の工事現場、そして未来の完成した城が、時の波のなかで重なり合っていました。

 まるくんは未来を築こうとしていましたが、私にはペレシュ城がすでに存在していました。

 半年後にペレシュ城は再建されました。

 まるくんは、ペレシュ城を外見はほぼ同じにして、内部の一部を作り変えました。

 2階にAランクとして、バストイレ付の寝室を15室、3階に5室の計20室を作りました。3階の東にVIPルーム、西に準VIPルームは変わりません。

 20人くらいが入れる男女別々の大浴場も作りました。男性はまるくんしかいないので、洗濯室のとなりにバストイレを作って、彼はそこを利用していました。

 屋根裏の東角にまるくんの部屋が2室ありました。ひとつはベッドルームで、もうひとつは衣裳部屋でした。まるくんは、この屋根裏部屋か、キッチンに居ました。

 私は、ふたたびキッチンの壁に掛けられ、時を刻むことになりました。

 朝になると、スズメのシズカがハト時計である私の屋根に止まって来ます。彼女は、朝5時になると、キッチンにやって来て屋根に止まり、私とあいさつを交わします。

「おはよう、時太」

「おはよう、シズカ」

 付喪神になって、私はシズカやナマイキと話せるようになりました。

「今日は雨だね。まるくんは散歩に行くかな?」

「小降りになったから行くかもしれない」

 そのうちに凜も起きて来て、まるくんもやって来ました。

「まるくん、今日は雨だよ」

 シズカに言われて、まるくんは勝手口の戸を開けてみました。

「小降りだね。いまのうちに散歩に言って来よう」

 まるくんは、大急ぎで、ナマイキとシズカに餌をあげ、レインコートを着て凜と散歩に出かけました。

 私は、ナマイキとシズカが餌を食べる様子を眺めていました。

「私たちも運動しなくては」

 ナマイキが羽根をバタバタさせて言いました。

「ナマイキさんはいつも元気だね」

「そうでもないよ。餌を探し回らなくていいから運動不足なんだ。お腹が出て来たかもしれない。あなたはいいわね。運動不足にならないし、お腹がすく事もない」

「運動不足にもならないし、お腹がすくこともありません。でもそれが私にとって幸福なのか不幸なのか分かりません」

「哲学的な事が好きなんだ」

「お腹がすくのは生きている証だと思います。私にとってそれは羨ましい事です」

「あまり深く考えない事だね。いまが幸せならそれでいいじゃない」

 まるくんと凜が散歩から帰って来ました。まるくんが、凜の足を洗ってやると、彼女はしばらく走り回ります。すぐにまるくんは、朝食の用意をしました。ペレシュ城が再建されても、朝食はまるくんの担当でした。パン食がメインで、目玉焼きやウィンナー、サラダを作りました。

 私は、7時の時を告げました。ハトが出て来て、7回鳴きました。

「凛! みんなを起こしてきて!」

 凜は一目散に駆けて、屋根裏部屋に行き、みんなを起こしてきます。

 ペレシュ城には、桜花と萌々香、明菜と若菜の双子、沙織、アマンディーヌとジャクリーンが住むようになっていました。つまりバスケットボール部の全員が寝泊まりするようになりました。

 ペレシュ城では、いちばん騒がしい時間帯になりました。

「明菜の髪に寝癖がついてる」

 アマンディーヌが言うと、

「若菜も寝癖がついてる。やっぱり双子だね」

「いいの。寝癖くらい気にしない」

「パンが焼けてる。これ誰の?」

 明菜がトースターをみて言いました。

「わたしの」

 朝の時間帯では、パンは各自で焼くことになっていました。トースターは3台に増やしたのですが、瞬間的に取り合いになります。

 人間たちは朝の忙しさに追われていました。トースターが次々とパンを焼き、誰が何を食べるかの小さな戦争が起こりました。

 私にとってこの光景は何度目だろう? 朝の時間は、いつも変わらず繰り返されるのに、彼らにとっては一度きりの貴重な瞬間らしい。私だけが、明日もこの光景が起こるのを知っていました。

 10年後、20年後、この食卓を囲む顔ぶれはどう変わるのだろう? それを見届けることができるのは、私だけでした。

 桜花がトースターからパンを取り出すと、明菜がパンを焼き始めました。

「若菜はパンを焼かないの?」

「このままで食べる」

 若菜は、生の食パンにバターを塗りました。

 まるくんは、リンゴを向いて八つ切りにして、小皿に分けていました。分けると同時に、みんながフルーツの小皿を取っていきました。

「フルーツが出来たよ。みんな取りに来て」

「萌々香、私のも取って」

「萌々香、私も」

 双子がそう言うと、萌々香はフルーツの小皿をテーブルに持ってきました。

 ジャクリーンは、食パンを4枚食べました。牛乳も大きなグラスで2杯飲みます。彼女だけ、目玉焼きは3つにしています。ほかの人は2つです。

「今日は雨だから、早めに出て」

 まるくんがみんなに言いました。

 普段は自転車で通学しているのですが、雨の日は歩いていきました。それで10分くらいで学校に着きました。

「雨なの?」

 沙織が勝手口を開けてみました。

「忘れ物した。取りにいかなくちゃ」

 明菜は急いで屋根裏部屋に行きました。

 食べ終わると、みんな自分の食器をシンクに片付けます。洗うのはまるくんの役目でした。

「明菜! 遅れるよ!」

 まるくんが忘れ物を取りに行った明菜に叫びました。

 玄関で、まるくんは凜やシズカと一緒にみんなを見送ります。ナマイキはキッチンでくつろいでいます。ペレシュ城に静けさが訪れました。

 私は、8時を告げました。

 まるくんが全員の洗濯に取り掛かりました。今日は、自分のを含めて8人分のシーツを洗濯しています。広い物干し場には、透明なアクリルの屋根が設えていて、今日のような雨でも問題ありません。


 時は過ぎゆくもの。

 人間にとって、時とはそういうものでしょう。でも私は、1枚1枚タオルを畳むように、時を記憶していました。記憶を辿るとき、私はそのタオルを、本を読むように捲っていけばよかったのです。

 京都の古物商の店と、東寺のあいだを、私は何度、往復したか知れません。

 戦後の焼け野原では、私のようなハト時計を持つ人はいませんでした。ハト時計は、人間の生活にとって必需品ではありませんでした。

 東寺の弘法市に並べられても、私はいつも売れ残りました。

 私は深いため息をつきながら、シュヴァルツヴァルトの黒い森を想い描いていました。それを想うと、私は瞑想の底に沈むことが出来ました。

 蘆屋の別荘に居ました。

 少女がやさしく微笑んでいました。そのやさしさを私は忘れる事が出来ませんでした。私は声を絞り出して、祈り続けました。

 私が芦屋の別荘を離れてから、彼女はどう過ごしたのでしょうか、幸せに過ごしたのでしょうか、苦しい事があったのでしょうか、この祈りが届くのでしょうか。私は、記憶のタオルを捲っては、少女との思い出に浸りました。


 まるくんが洗濯を終わったころ、和歌子がやって来ました。

「お昼にしましょうか」

「今日の献立は?」

「うどんを買ってきました。シイタケと蒲鉾が余っていたから」

 和歌子は、手際よく、うどんを作っていきました。

 完成間直になって、

「ネギを切り忘れた」

 と急いで、冷蔵庫からネギを取り出して切りました。

「いつも何か忘れるね。この前は塩焼きの魚に塩を振るのを忘れてたね」

「忘れないようにと思っても、いつも忘れるんです」

 出来上がったうどんを、まるくんは和歌子と一緒に食べました。

 食後の片付けも終わって、まるくんは自分で淹れたコーヒーを持って、専用の喫煙所でタバコを吸っていました。和歌子は、ポリ袋からなにやら取り出して、テーブルに並べ始めました。

 まるくんが戻って来て、

「どうしたの? なにをするつもり?」

「今から夕食後のデザートを作ります」

「なに?」

「出来てからのお楽しみ」

 和歌子は、そう言って、テーブルに、砂糖、黍もち粉、水あめ、片栗粉などを並べました。

「今日のスタッフです。こうやれば忘れ物をしなくて済みます」

「手伝おうか?」

「大丈夫です。一度、家で作ってみたからひとりでも出来ます」

「そうだ、言い忘れていた。今日はお客さんがあるんだ。ふたりやって来る」

「任せて下さい。どんなお客ですか? 男性? 女性?」

「女性ふたりだ。ひとりはたぶん年寄りだ。母子だと言っていたから」

「では和食がいいですね」

「そうだね。肉じゃがとかどう?」

「いいですね。食材を買ってきます」

 和歌子は、そう言って冷蔵庫を調べ始め、メモに書いていきました。

「食材は買って来るよ。デザートを作って」

 まるくんは、メモを手に取って買い出しに行き、戻ってきたころにはデザートが出来上がっていました。

「これは団子?」

「黍団子です。試食してみますか?」

「ぜひ食べてみたい」

 和歌子は小皿に黍団子を載せました。

 まるくんはそれを小さなフォークで食べました。

「まるくん、私にもちょうだい」

「凜はこんなもの食べるのか?」

 まるくんは、凜に黍団子をひとつあげました。するとナマイキやシズカもやって来ました。

「私にもちょうだい。黍はスズメの大好物よ」

 ナマイキとシズカには、細かくして黍団子をあげました。


 夕刻になって、猿投弘美さんに連れられて、そのふたりのお客が訪ねてきました。

「まるくん、私の実家の隣の橋田さん母子です。お母さんはみつゑさん。娘のほうは私の幼馴染みで詩織さんです」

 私は、その母子をどこかで見たような気になりました。

「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。どうしても母がペレシュ城を見たいと言うものですから」

「気になさらないで下さい。部屋に案内します」

 まるくんは、Aランクの部屋に案内しました。

「部屋にもバスがありますが、別棟に大きなお風呂があります。どちらでも構いません」

 しばらくして和歌子が、お湯の入ったポットと湯飲み、お茶菓子の黍団子を持って来ました。

「私が作った黍団子です。お口に合うかどうか」

「夕食は7時です。それまでお風呂に入ったほうがいいと思います。遅くなると子供たちが入って来ます。お風呂の場所は、一度キッチンに来て聞いてください。それでは何かあったら私に言って下さい」

 まるくんは出ていきましたが、猿投弘美さんは、橋田さん母子と積もる話があったようで、しばらく部屋に居ました。

「橋田のお祖母ちゃんがペレシュ城を知っているとは思わなかったわ」

「なぜなんだろうね。そんな声が聞こえてくるんだ。でもこんなに立派なお城だと思わなかった」

「まるくんが私財を投じたんです。高校や病院、スポーツ施設、商業施設を建てたんですよ」

「お金持ちなんだね」

「発明がヒットしたから」

「どんな発明?」

「まだ詳しくは知らないの。なにか発明したらしいわ」

「ここまでお金持ちじゃなかったけど、私も小さい頃は裕福だったんだよ」

 詩織さんの祖母、みつゑは、大阪の商家の生まれでした。

 羽振りのよかった実家でしたが、大恐慌、第二次世界大戦と激動のときにしだいに商売がうまくいかなくなって貧しい時を過ごしました。

「大阪の船場に大きな家があって使用人もたくさんいた。繊維問屋をしていた。芦屋にも別荘があったよ。その商売がダメになって貧乏になった」

「そうだったんですね。では農家に嫁いだのは?」

「私も家計を支えるために、職業婦人になって働いたんだよ。そこで主人と知り合ったら、GHQが農地改革をして、田舎に帰らないといけなくなって、仕方なく農業をすることになった」

「そんな話、初めて聞いたわ」

「貧乏だったからね。貧乏が恥ずかしかったんだ。でも農家で頑張るしかないと思って辛い事も我慢したんだ」

「たいへんな人生だったんですね」

「あの頃はみんなたいへんだった。それまで戦争で勝つと言ってたのが、急に戦争は悪い事だと言い始めたから混乱した。お国のためにと言っていたのが、急に民主主義になって個人が大事だとなって、みんなが自分勝手にやり始めた」

 猿投弘美さんは、まるくんに挨拶してペレシュ城を出ました。

 私は7時を告げました。

 橋田親子は、もうキッチンのテーブルに座っていました。子供たちもテーブルに座り始めました。

 和歌子とまるくんが肉じゃがをよそおい、各人がそれを取っていきました。和歌子が橋田母子にご飯や肉じゃが、野菜サラダをテーブルに配膳し、まるくんは刺身をテーブルに出しました。

 私は、その母子から目が離せませんでした。ずっとふたりの様子を見ていました。

「彼女たちは、バスケットボール部の子たちです。私の子供がふたり居ます」

 まるくんは、桜花と小学生の萌々香を紹介しました。

「でも、みんな私の子供です。差別はしていません」

 食卓は、英語と日本語が飛び交っていました。

「みんな英語が分かるんですね」

 橋田詩織が聞きました。

「コーチがアメリカ人だし、チームメイトにふたりアメリカ人がいるから、英語でしゃべるようになったんです」

 と、そばに居た沙織が説明しました。

 食事が終わると、各人が食器を片付けました。

 橋田詩織さんが片付けようとすると、

「どうぞ、座ってください。ペレシュ城では、お客さんには手伝わせないのがルールです」

 と和歌子が制しました。

「みんな、今日のデザートは黍団子だよ」

 まるくんが大皿に山盛りの黍団子を出しました。

 和歌子が橋田母子に黍団子をよそってあげました。各人が勝手に黍団子を取り始めました。

「これは和歌子さんの手作りだよ」

 まるくんがみんなに教えました。

「すごいね、和歌子さん、こんなのも出来るんだ」

 明菜が驚いて言いました。

 ジャクリーンは、黍団子をフォークに挿したまま、眺めまわし、恐る恐る食べ始めました。

「How does it taste?(味はどう?)」

 若菜が聞きました。

「Good!」

 ジャクリーンは親指を立てて返事をしました。

 凜が吠えました。

「凜も食べるの?」

 萌々香が凜に黍団子をあげました。

「ナマイキとシズカにもあげて」

 まるくんが萌々香に頼みました。萌々香は黍団子を小さく切って、ナマイキとシズカにあげました。

「明菜! 取り過ぎじゃない? 太るよ」

 アマンディーヌが言うと、

「いいの! 彼氏が居ないから太ってもいいの」

 と言い返しました。

「橋田さん、もっと食べませんか?」

「いえいえ、もうお腹がいっぱいです」

 橋田みつゑさんは、そう言うと急に立ち上がり、ハト時計のほうに向かって歩きました。

「お祖母ちゃん、どうしたの?」

 みつゑさんは、私を見詰めていました。私はありったけの声で叫びました。

「みつゑちゃん!」

 みんながみつゑさんのほうを見ると、そこには少女の姿がありました。

「このハト時計の裏を見せてもらえますか?」

「いいですよ」

 まるくんは、椅子を持って来てその上に上がり、私を壁から外しました。

「やっぱりだわ。裏に001が彫ってある。これは私が芦屋の別荘に居たときのハト時計だわ。だから私はここに来たのね。あなたが私をここに呼んだのね」

 私は、感激のあまり声が出ませんでした。ただ涙が流れるだけでした。

「文字盤が濡れているわ」

 みつゑさんは、近くのティッシュを取って、私をやさしく拭いてくれました。

「いまは幸せですか?」

 私は、聞きたかった事を聞きました。

「ええ、幸せです。あなたに会えたから」

 私も幸せな気持ちになりました。


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