未来高校の生徒たちが英語学習やバスケットボールに取り組み、成長していきます。特に、英語学習の成果やバスケットボールの地区大会での活躍が中心に描かれ、彼らの努力し成長して行きます。
たくさんの本が棚に並べられている。
日本文学、外国文学、歴史書、科学、地理など、この地域では圧倒的な数量で、歴代の芥川賞、直木賞なども揃えているし、数学、化学、物理、英語などの参考書も並べていた。
今日も、綾部という女生徒が、英語の参考書を借りていた。彼女は落ちこぼれてこの高校に入学した。1学期に赤点を取ったのがきっかけで勉強を始め、私はそのプロセツをずっと見守ってきた。最近、彼女は英検4級に合格して、やる気満々になっているのを私は知っていた。
ジョンとアマンディーヌが,キャサリン・クラークが働いているカフェにやってきた。
「キャサリン、ワシントンで会って以来だね」
「ハイ、ジョン。元気にしていた?」
「もちろん元気だ。今日はお願いがあって来た。おっと、コーヒーとホットドッグを頼むよ。アマンディーヌは?」
「私は、ホットドッグとジュースがいいわ」
「私に? お願い?」
「というか娘さんに、だけどね。娘さんに未来高校に編入して欲しいんだ。それでバスケをやらせたいんだ」
「未来高校には編入する事になっているわ。インタースクールのほうにね。娘は日本語が話せないからね」
「そうなんだ! ラッキーだね」
「でも、娘のジャクリーンがバスケをやるかどうか保証しないわ」
宮部さんがカフェにやって来た。
「ハイ、キャサリン」
「ハイ、葉月! Can I help you?」
「Could I want a hot dog and orange juice, please?(ホットドッグとオレンジジュースが欲しいわ)」
「I got. Can you wait a second? (わかったわ、少し待って?)」
「ハイ、葉月。数学の勉強は進んでいる?」
「アマンディーヌ! お陰で進んでいるわ。今日は英語の勉強してるけどね」
宮部さんは、簡単な英会話ができるほどに上達していました。
「How is your English learning going?(あなたの英語学習はどうですか?)」
ジョン先生が、宮部さんに聞きました。
「It's going well, thank you. I've been making steady progress. (順調です、ありがとう。私は着実に進歩しています)」
宮部さんは、現在完了進行形も理解しているようです。
「Good! 君もバスケをやらないかい?」
「私は東大合格部ですよ。先生が勧めてくれたのを忘れました?」
「そうだったね。忘れていた。クラブは楽しい?」
「とっても楽しいわ。進めてくれた事を感謝してます」
「君の英語は素晴らしいよ。もっともっと上達するといいね」
「サンクス」
私は、ジャクリーン・クラークが編入する事を、インタ―スクールの校舎に伝えました。
「今度編入するみたいだね」
「図書館では、もうその情報が入っているんだね」
「キャサリンの娘だそうだ。今日カフェで、ジョンとアマンディーヌがバスケに勧誘しようとしていた」
「なるほど、それで情報が入ったのか」
「綾部葉月という女生徒もやって来て、簡単な英語を話していた」
「その女生徒は普通科だよね。信じられないくらい上達したね。そのうちインタ―スクールに欲しいくらいだ」
その女生徒は、週明けの月曜日にやって来た。
すぐにアマンディーヌは、彼女をバスケに誘った。
「私が? バスケを? 遊びでしかやったことないわ」
「大丈夫よ。あなたなら出来るわ。私たちは背の高い人が欲しいの。身長は何センチ?」
「185㎝よ」
「私は182㎝。私より高いわ」
「バスケが背の高い人に有利なスポーツだっていうのは理解してるわ。でもドリブルとか、シュートとかは私は上手くないんだけど」
「みんなバスケを始めたばかりよ。私も高校から本格的にやったの」
「マムから聞いていたわ。バスケも面白そうね」
I don't know if I can play basketball. But maybe I'll give it a try. (バスケットボールができるかわからないけど、もしかしたらやってみるかもしれない。)
その会話を、バスケットボール館に伝えた。
放課後になって、アマンディーヌとジャクリーンがやって来た。
「今日から新しいメンバーが増えるわ。彼女はジャクリーンよ」
コーチのジョン先生もやって来て、練習が始まった。ジャクリーンは遊びでバスケをやっていた程度だと言ったが、メンバーと遜色ないくらいにうまかった。
彼女は、アマンディーヌからボールを受け取ると、鮮やかにシュートしてゴールし、ニコッとほほ笑んでチームメイトとハイタッチした。
「ジャクリーン、あなたのバスケはクールよ。やった事がないってほんとう?」
バスケットボール館では、英語が日常だった。ジャクリーンは英語で話しかけてきた沙織に驚いた。
「遊びと言っても、バスケは真剣だったわ。アイスクリームとか賭けていたから」
「それで初心者なんて、驚きだわ」
桜花が信じられない様子で言った。
「私より上手な子はたくさんいたわ。もっとも私はまだ小さかったけどね」
ジョン先生は、新しい考えをメンバーに伝えました。
「桜花と明菜、若菜でポイントガードをやるんだ。3人はボールを持ったものがポイントガードだ。それからこのバスケットチームでは日本語は禁止だ。ミーティングも英語でやる。日本人選手は勉強してくれ」
3人は、ジョン先生が得意だったコミカルなパス回しを伝授され、驚くことに彼女たちの能力はそれを上回った。ノールックパスは日常茶飯事で、メンバーは彼女たちから目を反らすとパスが受けられない程だった。
とくに3人は、「空気投げ」という技を開発した。
ボールを持って、目の前にディフェンスが立ち塞がると、フェイントやフェイク、クイックターンを繰り返して、相手がついて行けずに勝手に倒れ込んだ。3人は相手が倒れたすきに、ドライブしてゴールをした。アマンディーヌ、ジャクリーン、沙織は必ず倒された。
「ジョン先生が教えてくれたジャブステップを応用すれば、ディフェンスを交わすことができるんじゃない?」
明菜が、若菜と桜花に提案した。
「ジャブステップで右に行くと見せかけて、実は左に行く。でも左に行かないで本当は右に行く」
「つまり動作を素早くすることね」
桜花が言った。
「動作を素早くすれば、相手は元に戻れなくなる」
明菜は、ジャブステップしながら、実践で示した。
「私たちなら素早く動けるわ」
若菜は、明菜のジャブステップをさらに素早く動いてみせた。
彼女たちは、フェイク、ターンなど研究し、素早く動く練習をしました。それだけでなく、壁にむかってノールックの背中越しのビハインドパスも練習しました。
「アマンディーヌ、1対1の練習相手になってくれない?」
明菜は、アマンディーヌに対して、ジャブステップの練習の成果を試してみた。
その素早さにアマンディーヌはついていけずに倒れてしまった。
「ソーリー、倒れてしまったわ」
だが何度やっても、アマンディーヌは倒されてしまった。それが明菜だけでなく、若菜や桜花に対しても倒されてしまった。
「いったいどうなってるの?」
それを見ていた沙織が挑戦した。
やはり沙織も、何度やっても倒されてしまった。
「ヘイ、今度は私がやるわ」
ジャクリーンが、今度は挑戦したが、やはり倒されてしまった。
「なんてこった。筋を違えるところだったわ」
「完成だ! これを空気投げと呼ぶわ」
明菜は、両手をあげて喜びました。
その練習風景を、校舎、インタ―スクール、図書館、食堂まで、伝えていった。
「手を使わずに倒す『空気投げ』は面白い技だね」
校舎が興味深く言った。
「パスもすべてノールックが当たり前だった。もっとすごいのは後ろ向きでもシュートしてゴールさせたんだ」
「ゴールが見ないでもどこにあるか分かるんだね。私の知っている知識ではないね」
図書館は、本の知識では得られない事を言った。
「今度の大会では楽しみだね。生徒に栄養のあるものを付けさせないと、だね」
「そうそう、英検で全員が4級を合格したので、まるくんが英語上達チームにボーナスを出したらしい。森脇先生の英語の諺も、出版社からオファーが来て、増刷されて収入が増えた」
校舎が新しい情報を出しました。
「そうなると来年の税金がたいへんだね」
「東大合格部も今度の模試で、真ん中くらいまで順位が上がった。宮部さんも石丸君も、真ん中まで上がった」
「では、東大合格部のスタッフもボーナスがでるのは間違いないね」
「スチュアート先生が引越しするみたいだね」
図書館が言いました。
「安アパートだったからね。今度は一戸建てで、ペレシュ城みたいにハーフティンバーの家なんだ。学校法人の所有で、無料で借りたらしい。彼は特許料で奨学金を返済したらしいね」
インタ―スクールが付け加えました。
「まるくんは、校則を廃止したね。服装も自由、髪を染めても自由にした」
「先生から生活が派手になると反対された。でもまるくんは、生活が派手になったという事例はありますか、と反論した」
「髪を染めるなど、高校生らしくない、という反対意見もあったね。高校生らしいというのはどういう姿なのですか、と質問していた」
「大人になったら好きなだけ染められるのだから、高校生のあいだは染めなくていい、という意見があったけど、まるくんは大人になったら簡単に染められない。企業では髪を染める事を許していないところもある。それにとくに男性は頭が禿げる。頭が禿げたら髪を染めようにも染められない」
「校歌も廃止にしたね。World in Union を校歌の替わりに歌わせる事にしたね」
「生徒は必死で、歌詞を覚えていた」
未来高校では、オンラインで生徒全員のアメリカへのビザなし留学の申請を行った。
まるくんは、生徒全員に約束した英検合格者の留学を果たすために、資金をやり繰りした。日程は1週間だった。そのために旅行会社や雉原弁護士事務所が活躍した。マリーヌはつてを頼って、出来る限り、ホストをしてくれそうな家庭を探し、全員が利用することが出来た。先生たちも全員がアメリカに行く事になった。
まるくんは、警備会社の警備員と、貸切バスに乗った生徒たちを見送った。出発のとき、まるくんはみんなに手を振った。みんな賑やかで楽しそうだった。
まるくんは、静かになった校舎で一抹の寂しさを感じた。その感情は、ずっとむかしに感じた懐かしいものだった。まるくんと警備会社の警備員は、生徒が留学しているあいだ、留守番をする事になっていた。
「まるくん、なんだか未来高校が素晴らしいことになったね」
「凛とここで留守番するとは思わなかった」
凜は、閑散とした校舎をシズカと走り回った。
その光景を見ながら、ナマイキが言いました。
「人間は学校で学べるからいいわ。私たちスズメには学校はない。まるくん、スズメの学校も作ったらどう? スズメのためになるわ」
寮の料理スタッフには、1週間の有給休暇を与え、清掃業者には生徒がいないあいだに全面的な清掃を依頼した。
マリーヌはアメリカに飛んで、ニューヨークのブルックリンの知り合いの家を訪ねては頼み込んだ。その一軒にアンナ・マリノフスキ(Anna Malinowski)の家があり、彼女は旧交を温めると共に生徒のホストファミリーも依頼した。アンナは快く引き受けて、近隣の人たちにもホストファミリーの引き受け手を勧めてくれた。
その生徒たちが帰国して、未来高校に通学してくると、にわか英語がはびこる事になった。
学校でも寮でも図書館でも、英語が飛び交うようになって、カフェのキャサリンは新たな悩みが出て来た。
「これでは日本語が勉強できないわ。みんな英語で話しかけてくる」
だがその顔は、残念そうではなかった。
まるくんは、校舎を地域の人々にも開放した。
無料で高齢者のための英会話教室を開き、お茶や饅頭などのほかに、希望者にはコーヒーとケーキも用意した。
町役場には、認知症予防のために、英会話教室を無料で開設する旨を伝えました。最初は、英語なんてと拒否する高齢者が多かったのですが、生徒を動員して、「お茶と饅頭を用意してます。お話の場にしませんか」と宣伝した。
そこでも英検の勉強を組み込み、最初の英検4級の受験では合格率67パーセントだった。これに刺激を受けたのか、孫世代の中学生の英検4級の受験が流行となり、未来高原都市の英検保有率は格段に上がった。未来高校の生徒も、ひとつ上の3級の合格者が増えていた。
キャサリン、ジョン、スチュアートたちが、Fairy Town を歩いていると、英語で話しかけられる事が多くなった。マリーヌやアマンディーヌもそうだった。みんなが彼らを英語の練習台にした。
マリーヌが未来高校の理事長室のまるくんに会いに来た。
「アンナ・マリノフスキ(Anna Malinowski)が、まるくんに会いたいそうなんです」
「ぼくに? でもぼくは外国には行かないよ」
「それは知っています。彼女が日本に来るそうです」
「それなら問題ないよ。ペレシュ城に泊めてあげよう」
その情報は、ペレシュ城まで届いていた。
「アメリカのお客さんが来るそうだ。マリーヌの実家があったところのご近所さんらしい」
「生徒が留学したとき、ホストファミリーを引き受けてくれたという家だね」
「マリーヌの話だと、まるくんに会いたくて日本に来るそうだ」
「そうなると歓迎しないといけないね」
アンナは、成田空港から乗り換えて岡山桃太郎空港に到着し、マリーヌが空港まで出迎えて、彼女をペレシュ城まで車で送った。
まるくんは、彼女を部屋に案内し、
「落ち着いたら、リビングでお茶でもしませんか」
と、誘った。
しばらくして彼女はリビングに現れてきた。
「お茶でいいですか?」
まるくんは、料理人の和歌子さんに、紅茶を淹れてくれるように頼んだ。
そのときハト時計が午後4時を告げました。
「ハト時計なんですね。懐かしいわ。私の曽祖父は、ポーランド人だったけど、ドイツで時計職人をしていたらしいわ。むかしは家にもハト時計があったわ。壊れてどうなったか分からなくなった」
「これは蚤の市で手に入れたものです。古そうなのが良くて、若い時に買いました」
「ずいぶん立派なお屋敷ですね」
「こういう家に住むのが夢だったんです。すこし資金が出来たので建てました」
「あなたが高校を買収したり、商業施設やスポーツ施設を作ったりしたというのをマリーヌに聞いて、一度お会いしたいと思いました」
「それは光栄ですが、がっかりしませんでしたか?」
「はい、予想したよりも普通の人でした。もっと迫力のある人かと思いました」
「私は何も出来ない普通の人間です。周りの人が能力のある人ばかりなのです。たとえば、マリーヌのようにね」
「それは謙遜でしょ」
「いや、実際にボタン付けもできないんです。なにかお困りごとがあるのではないですか?」
「分かりますか? そうなんです。マリーヌの話を聞いて、私も余生を日本で過ごそうかと考えたのです。未来高校でなにかお手伝いできませんでしょうか?」
「ありますとも! でもあなたは何が得意ですか?」
「私はデザインや洋裁が得意です。若い頃はパタンナーとして活躍していました」
「では洋裁クラブを作ってみませんか? その顧問にお願いします。もちろん謝礼はお支払いします」
「謝礼は要りません。主人が残してくれた資産がすこしばかりあります。食べるには困りません」
「住むところはこちらで用意します。マリーヌの隣に家を確保します」
「サンクス、やっぱりあなたと会ってよかったわ。このままでは年老いていくばかりです。私はなにか新しい事を挑戦したかったのです。それからボタン付けは私に任せて」
彼女の決断は早く、1か月もしないうちに未来高原都市に移住してきた。
バスケットボールの地区大会の試合が行われたのは、夏が来ようとしていた時期だった。
1回戦で、未来高校は102対40の圧倒的な試合で勝利し、2回戦、3回戦、準決勝も勝利して決勝戦まで進んだ。
決勝戦の当日、貸切バスが未来高校へ入って来た。
まるくんが生徒全員で応援に行く事を計画し、会場の岡山市の体育館まで行くバスだった。Fairy Town でも一般のひとたちの貸切バスが出発していた。地区大会のバスケットボールの試合では珍しい約150人の応援団が会場を占めた。応援に来られない人のために、まるくんは撮影チームを組んで、Fairy Town の大型スクリーンに試合経過を放映した。
試合では、序盤から圧倒的な強さでリードした。
明菜や若菜、桜花は、必殺技の空気投げで相手を倒し続けて、ドライブで切り込んで得点した。センターでは、アマンディーヌとジャクリーンがリバウンドを取りまくり、攻撃ではポストプレイで得点をあげた。沙織は、得意の3ポイントシュートでゴールを連発した。彼女の3ポイントシュートの成功率は、驚異の70パーセントを越えるものだった。
3人制のポイントガードは、相手の目をくらませて、ボールがどこにあるのか分からない状態が続いた。ポイントガードの動きがコミカルで動きが速かったので、相手チームのディフェンスを掻きまわしていった。圧倒的な勝利で、決勝戦を制し、未来高校は初めてインターハイに出場することになった。
Fairy Town では、予想以上に盛り上がり、スーパーやテナントで急遽、3日間の安売りセールを行った。とつぜんの事だったので、事務局は街宣車を雇い、「今日から3日間、Fairy Town で安売りを行っています」と街中に走らせて宣伝した。
その試合のあと、明菜と若菜がペレシュ城に住むことになった。
「まるくん、いいでしょ。ペレシュ城に住みたい」
明菜と若菜は、足をバタバタさせて言った。こういう状態になると、この双子には何を言っても無駄だった。
「いいよ、但しふたりは同じ部屋だ」
まるくんは、余った屋根裏部屋を改造して、2段ベッドや机を入れた。屋根裏部屋がもうひとつ余っていて、ついでに改造したら、沙織もペレシュ城に住みたいと言ってきた。
アマンディーヌとジャクリーンも住みたいと言ってきたが、彼女たちは母ひとり娘ひとりの家庭環境だったので許可しなかった。その代り、彼女たちは頻繁に泊まりに来るようになった。
「まるくん、ますます賑やかになったね」
凜が楽しそうに言った。
「やかましいくらいだ」
「本当は嬉しい癖に」
まるくんは、彼女たちの洗濯までしてあげた。彼女たちは、まるくんに下着を洗わせても恥ずかしがる事はなかった。まるくんは、洗濯ものが誰の物か分からなかったので、ミシンで彼女たちのイニシャルを縫った。明菜とアマンディーヌが同じAだったので、アマンディーヌだけはAmにした。妹の萌々香まで合わせると、多いときで一気に7人分の洗濯物が増える事になった。




