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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第28章 未来高校⑴
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未来高校の新しい理事長、まるくんが、ペレシュ城を模した校舎や寮などの新しい学習環境を導入し、生徒たちのモチベーションの向上を目指す。生徒の綾部さんが、個別指導で成績を向上させる。

 

 私は10年前に出来て、未来高校と名付けられました。

 最近、経営者が替わって、古い校舎が壊されて、私は新しく建て替えられました。外観は新しい理事長の好みで、ペレシュ城を模しています。これは理事長の戦略と好みでした。生徒が学校へ行きたいと思わせる環境作りを行い、まず校舎を普通とは違うものにしました。

「こんな学校で勉強できるの?」、「おとぎ話みたい」

 とくに女子生徒の評判は芳しいものでした。

 未来高校では、新しい試みを行っていました。

 基本的に全寮制にして、それもペレシュ城を真似て作りました。全個室にして、3畳のスペースにロフトのベッド、箪笥と机、エアコンを装備しました。寮費は無料で、食費は2/3を補助しました。近在の生徒は自宅通学を許可しましたが、希望があれば入寮させました。

 体育館もペレシュ城のデザインで新築されました。さらにバスケットボール専用の建物、バスケットボール館もペレシュ城を真似て建てられました。遠くから見ると、中世のお城のようでした。

 以前の教師がそのまま在籍しましたが、新しい教師も入って来ました。

 そのひとりのジョン・ブラッドリーは、アメリカからやって来た先生で、インタースクールで数学を教える傍ら、バスケットボールのコーチもしました。

 彼は放課後になると、バスケットボール館で活躍しました。

 不思議な事に、ジョンとチームメイトは英語で話していました。ジョンは、日本語が話せなくて、バイリンガルのアマンディーヌの助けを借りていました。そのうちにメンバーは、英語を勉強して、ジョンと会話をするようになりました。

「アジャスト、クイックリイ!(素早く、アジャストして)」

 バスケットボール館では、こんな会話が飛び交っていました。


 新しい理事長は、まるくんという人でした。

 彼は、いろいろなプロジェクトチームを作りました。たとえば、「生徒増員チーム」とか、「落ちこぼれ撲滅チーム」とか、「英会話上達チーム」とかありました。

 落ちこぼれ撲滅チームは、「東大合格部」というクラブを作りました。

 東大合格を目指すだけでなく、落ちこぼれの生徒たちの個人指導も行いました。彼らは運動場を2周して運動不足を補い、レベル別に個人指導をしました。それによって、落ちこぼれ撲滅チームは解散して、東大合格部チームになりました。

 綾部さんという女生徒が、「東大合格部」に入部しました。

 彼女は、中学時代にアニメに凝っていて、受験勉強を真面目にしませんでした。公立高校に落ちて、レベルの低い私立の未来高校に入学しました。

 私は、こんな学校にくるはずでなかった。

 後悔するばかりだったのが、校舎が建て替わり、制服も可愛いブレザーを支給され、ほかの高校に行った同級生から羨ましがられるようになって、私の考えがすこし変わって来ました。

 勉強についていけず、授業中はノートにアニメを描いて過ごしていたのが、夏休みに学校の図書館に行って、2学期の予習をした事がきっかけになりました。1学期に欠点を取って、このままだと落第が目の前に迫って来ました。いくらなんでも落第だけは避けなければなりませんでした。もし、落第すれば、恥ずかしくてこの高校にも居られず、街を歩く事も出来ないと思いました。

 学校の図書館は、夏休みでも開いていて、地域にも開放されていました。学校のとなりに病院が新設されていて、そこの入院患者や看護師さんが本を借りに来たり、1階のカフェで休憩したりしていました。

 私は数学と英語を重点的に勉強しました。

 2教科とも、1学期の授業ではなにを勉強していたのか記憶にないほど苦手でした。

 数学の問題を解くのに、私は図書館にある参考書や数学の本を見て当たりました。それでもその問題が解けないときがあり、悩んでいると、ジョン先生が声を掛けてくれました。

「Are you studying math?(数学の勉強をしてるの?)」

 私は何を言っているのか分かりませんでした。そばにいた背の高いインタースクールの女学生が、「数学の勉強をしてるの? と聞いたのよ」と通訳してくれました。私は「イエス」と言って、「問題が解けないの」と続けました。

 ジョン先生は、問題を見るとすらすらと解いてくれました。

「あっ」

 私は思わず、声に出してしまいました。

 そんな簡単な方法があったのか、と目から鱗が落ちるのを感じました。

 ジョン先生がなにか言っていました。それを女学生が通訳してくれました。

「独学で勉強するのはたいへんだよ。『東大合格部』があるから入部するといいよ」

「でも私は東大なんて無理だわ」

 女生徒がジョン先生に通訳してくれました。

「東大に合格するだけが目的ではない。遅れた勉強を取り戻すことや、塾のかわりだと思ってくれてもいいクラブなんだよ」

「リアリイ?」

 私は思わず英語で応えました。

「本当だ。考えてみるといいよ」

 ジョン先生と女生徒が立ち去って、しばらくして男性の先生がやってきました。

「ぼくは『東大合格部』の顧問をしている高橋というものです。ブラッドリー先生に聞いてきた。独りで勉強をしているそうだね」

「はい、1学期欠点だったので、汚名返上しようと思って、2学期の勉強をしています」

「独学でも勉強は出来るけど、時間が掛かるよ。教えてもらう人がいると時間の短縮になるんだ。勉強する気があるのなら、『東大合格部』にはいらないかい?」

「どんなクラブなのか、様子をみてからでいいですか?」

 案内されて行ったクラブは、みんなジャージで静かに勉強していました。中にはハチマキをしている男子生徒もいました。

 私は、その雰囲気に感化されて、ここで勉強してみようと入部しました。入部の条件は、ジャージに着替える事でした。

「ジャージに着替える事で勉強スイッチが入るんだ。ハチマキもいいね。勉強すると運動不足になるから、グランドを2周することが義務だ」

 ハチマキをしていた男子生徒は、石丸君と言った。更衣室でジャージに着替えて、私が部室にやって来ると、彼は分厚い英単語の本を開いていた。

「この英単語を100週やるんだ。まだ36週目だけどね」

「36週もやってるの? もう覚えたんじゃない?」

「50週くらいで、なんとなく覚えたかな、という感じらしい」

「そんなに勉強するんだ」

「東大合格部に入らなかったら勉強なんかしてなかった。勉強がぜんぜん分からなくなっていた。ぼくは世間で言うところの落ちこぼれだ」

「私は2学期で赤点を取りたくなくて、勉強する気になった」

「それが君のプロジェクトなんだね。それがきっかけで勉強するようになるといいね」

「プロジェクトってどういう事なの?」

「まずテストでいい点数が取れるプロジェクトだ。たとえば、得意なところ部分や、苦手な部分を洗い出したりして自分を知る事だと思った。得意と苦手を知る事で、勉強が出来ないというレベルから一段階上がったことになる」

「まず洗い出しから始めるという事なの?」

「違うね。まず目標を立てて、戦略を考えるんだ。そのためにはプロジェクトに名前を着ける。全国模試で上位10パーセント以内に入るとかね。はっきり言うけど、ぼくは下のほうの5パーセントだよ」

「全国模試なんて、私には関係ないわ」

「模試とか考えないほうがいい。ぼくの今のプロジェクトは、『英単語100周』だよ。それを始めてから、ひまがあると英単語の本を開いて覚えるようになった」

「私の場合だと、『2学期の数学の赤点返上』という事かしら」

「そんなのだめだ。『2学期の数学満点』にしたほうがいい」

「満点なんて取れない」

「取れるよ。時間はたっぷりある。夏休みのあいだに予習して、テストに出て来そうな問題を予想したりするんだ。楽しそうじゃないか」

「石丸君はそこまで考えられるのに、なぜ公立に行かなかったの?」

「中学のとき、女の子のケツばかり追いかけて、勉強が手に着かなかった。落ちこぼれて地元の高校に行きづらくなって、この高校に入ったんだ」

「私も同じだわ。地元の高校だと、それだけでみんなにレベルが分かってしまうのが恥ずかしかった」

「みんな同じだ。だから恥ずかしがることはないよ。ぼくは色々なプロジェクトを立ち上げているけど、特別進学コースに入るのもそのひとつだよ」

 未来高校では、進学コースの中でも、優秀な生徒は特別進学コースに入っていました。私は進学コースの再開をうろうろしていました。

 私は、石丸君の真似をして、「2学期数学テスト満点」、「2学期英語テスト満点」のプロジェクトを立ち上げました。

 その日、英語を勉強していて、どうしても気になる事がありました。私は、当てにしてなかったのですが、女性で、英語の森脇先生に尋ねてみました。

「I have a pen. と I have the pen. はどう違うのですか?」

「いい質問だわ。中学ではこの違いは教えないけど、とても重要です」

 森脇先生は、紙に書いて説明してくれました。

「the は、特定のという意味があります。固有名詞の前に付ける事が多いです。たとえば、The United States of America です。これは固有名詞だから、The が付いています。でも、America には、the は付きません。これは、United、States が普通名詞なのに、United States of America となると、普通名詞ではありませんよ、という意味で、The が付きます」

「わかった、だから、America、Japan、France には、The が付かないんですね」

「そうです。それだけで固有名詞だからです。さらに詳しく説明しないといけません。あなたと私が話をしていて、テーブルの上にペンがあります、という場合、英語にできますか?」

「There is a pen on the table. ですか?」

「そうです。正解です。では、そのペンは赤色です、と英語に出来ますか?」

「A pen is red. ですか?」

「違います。The pen is red. です。これは、pen というものを最初に言うときは、1本だったら、a を使いますが、会話の中で2度目に出てくるときは、the を使います。これは、pen が机の上にあるのが、あなたも私も分かっているからです。机の上にあるpen は世界でたったひとつのpen なんです」

「そっか、机の上のpen は、もう固有名詞と言ってもいい状態なんですね」

「そうです、ここで私は諺を作りました。『1度目はa、2度目はthe』です」

「へぇぇ、『1度目はa、2度目はthe』なんだ。わかりやすい」

「もうひとつ諺を覚えないといけません。『Stop a taxi は世界中のタクシーを止める』です。これはジョークだと思ってください」

「よくわからないわ。ジョークが理解できない」

「Stop the taxi にしてみましょう。これは例えば今こっちに向かっているタクシーを止めて! とかの意味です。今こっちに向かっているタクシーは、世界中でたったひとつのtaxi なのです。走っていなくても、そこに止まっているtaxi もthe を使います。Stop a taxi だと、どのタクシーでもいいから止めて、という意味になります。だから世界中のタクシーを止めるになるのです」

「なるほど、どのタクシーでもいいので、世界中のタクシーになるのね。初めてジョークが理解できたわ」

「the については、もうひとつあるわ。それは楽器の場合です。バイオリンを演奏するは、英語にできますか?」

「I play the violin. です。あっ、ここにもthe がある」

「そうです。楽器を演奏するとき、必ずthe が付きます。これは楽器がどこでも持ち運びして、たいてい個人の特別な愛用品だからです。だから固有名詞になって、the が付きます。ピアノやオルガンは持ち運びできませんが、この流れで、the が用いられます」

「私は今まで、the は『その』とかで訳していたけど、なんだか違うような気がしていました」

「the は、日本語だと『その』としか訳すしかありません。でも日本語の『この、あの、その、どの』の『その』ではありません。むつかしく言うと指示代名詞ではありません」

「the ってこんな意味だったんだ。こんなに奥深いとは思わなかった」

 私は、この説明で、あやふやだったthe というものが理解できました。私は、この英語の「なぜ」がたくさんあって、英語が好きになれない理由になりました。私は、日本の英語教育が「端折った英語教育」だと感じました。いま森脇先生が教えてくれた事を、中学の時に知っていたら、私はもっと楽しく英語が勉強できたと思いました。

 森脇先生は、いろいろな諺を教えてくれて、英語がとても分かりやすくなりました。私は、英語を勉強してみようと思いました。


 理事長のまるくんは、日本の英語普及率に危機感を抱いていました。英語上達チームというプロジェクトを作ったのもその意味がありました。英語が共通語になろうとしているときに、現状の日本では英会話のできる人間が少なくて、世界から取り残されるのではないかと危惧していました。

「せめて英会話くらいが出来る日本人を増やしたいんだ」

 まるくんは、英語上達チームに言いました。

「ビジネス英会話が出来る人を望んでいるんじゃない。道案内が出来る日本人を増やしたいんだ」

「それなら、英会話という教科を作ったらどうでしょうか?」

「英語ではなくて、英会話という教科ですか?」

「残念ながら、当校はレベルが高いという訳ではありません。国立大学を目指している特別進学コースの生徒はまだいいのですが、ほかの普通科、家政科は中学レベルの英語も分かっていません。それなら英語学を教えるよりは、英会話を教えたほうがいいのではないでしょうか」

「それなら、買い物の仕方、マクドナルドでの会話、ファミレスでの注文の仕方、場面場面での英会話なら楽しくなるかもしれません」

 先生たちは、いろいろな案を出してきました。

「英検を受けさせるというもいいかもしれません。最低でも3級、4級くらいは合格させたいですね」

「英検合格部というのも作ったらどうでしょうか?」

 それに対して、まるくんは反対しました。

「それだと一部の生徒だけになる。全生徒に英語を普及させたいんだ。英会話の教科を増やすこと、英検を受けさせること、この2案は賛成です」

「それから東大合格部の英語担当の森脇先生が面白い事をやっています。英語の文法などを諺にして教えているのです」

 さっそく森脇先生を呼んで説明させました。

「たとえば、『道具を使うときはwith』とか、『努力なしにwinは使えない』とかです」

「それは面白そうだね。すぐに本にしよう。それを生徒全員に配布しましょう。1000部くらい印刷して来年もそれを配布しよう。当然だが、著作権料は森脇先生に差し上げよう。大した金額にならないかもしれないけどね」

「それでは、英検は全員強制ということですね」

「受験料は学校から出します。それが無駄になるといけないので、英検を合格した者は、アメリカに留学させます。短期ですが、留学資金は学校で出します」

「そんなにお金を出して、資金は大丈夫なんですか?」

「資金の事は心配しないで下さい。この学校を買収するときから赤字は覚悟しています」


 プロジェクトチームは、進学コースと普通科コースの教科書のレベルを変えました。各担当教師は、カリキュラムの変更に時間を取られました。落ちこぼれの学生の根絶と共に、学校のレベルを上げる事にも取り組みました。

 場面英会話では、日本人学生との交流を図るためにインタ―スクールの生徒の協力を求めました。その第一弾として、道案内の英会話から始めました。

 駅はどこですか?は、Where is the station?

 まずは生徒たちにパターンを覚えさせ、正確な発音が出来るように努力させました。

 アマンディーヌは、

「Excuse me, could you tell me where the station is?(すみません、駅はどこですか?)」

 と、日本人学生に尋ねました。

「Go straight ahead, and you'll see the station on your left.(まっすぐ進んでください、左手に駅があります)」

 日本人生徒は、暗唱していたフレーズを答えました。

 英語の先生たちは、徹底的にフレーズを覚えさせて、筆記テストを実施しました。その成果はすぐに現れて、全員が90点以上、平均点は94点を上回りました。まるくんもその授業に生徒として参加して、テストを受け、100点を取りました。

 カフェでのシチュエーションでは、図書館で働いていたキャサリン・クラークが活躍しました。実際にホットドッグや飲み物を用意して、自分たちで作ったお金で買い物できるようにしました。

 キャサリンは、日本人生徒が来ると、

「Can I help you? (何か手伝えますか?)」

 と話しかけました。

 生徒は、暗唱していたフレーズで話しました。

「Excuse me, could I get a juice and a hot dog, please? (すみません、ジュースとホットドッグをお願いできますか?)」

「Which juice would you like?(ジュースはどれにしますか?)」

「What kinds of juices do you have? (どんな種類のジュースがありますか?)」

 会計のときに、

「How much is that? (それはいくらですか?)」

 などのフレーズを使いました。

 別の日には、ピザやハンバーグなども用意しました。

 このカリキュラムは、特別進学コース、進学コースの生徒は自由参加でしたが、評判を聞きつけて参加する生徒が増えました。

 生徒全員に、英検4級を受験させました。

 勉強には、先生のほかに雉原夫妻も応援してくれ、過去の問題集を徹底的に丸暗記させるほどやりました。その成果があって、全員が英検4級を合格しました。このレベルは中学1、2年なので、高校生なら合格するのは当然ですが、落ちこぼれの第一段階はクリアーできたと思いました。もっとも英検が合格したら、留学させるという報奨が生徒を奮い立たせたのは間違いありません。

「綾部さん、今度の英検4級は満点でしたね」

 図書館で勉強していると、森脇先生が話しかけてきました。

「あんな簡単な問題、100点を取っても嬉しくないわ」

 私はつまらなそうに応えました。

「それは、あなたが進歩している証拠です」

「今度は3級に挑戦します。出来たら1級まで頑張ります」

 私は、得意になって宣言しました。やれば出来るんだ、と私は思うようになってきました。


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