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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第22章 ペレシュ城
23/70

静香とマリーヌがDARPAで成功裏にプレゼンを行い、アメリカ政府と空飛ぶミニカーの契約を締結。雉原夫妻は岡山の未来高原都市へ移住を決意します。

 

 私は移住を計画し、実行しました。

 もし、私に莫大なお金があったら、と夢見る事がありました。

 そのお金で広大な土地を買い、門から1㎞くらい離れたところにお城や宮殿のような住居を建て、庭には芝生を敷き詰めて、掃除する人や庭を管理する人を雇って、私は誰にも会わず、好きな事をして暮らせたら、と空想することがありました。

 その候補地として、北海道や東北などの過疎地を、グーグルマップで探すのがひそかな楽しみになっていました。ネットで限界集落を検索しては、YouTubeなどで街の実態をひとつずつ調べゆくと、時間はあっという間に過ぎて行きました。繁華街を用もないのにぶらぶらしたり、夜の飲み屋街を愛されないと分かっているのに水商売の女性を求めてうろついたりするより、充実した時間を感じる事が出来ました。なによりこの楽しみは、お金が掛からないのです。

 過疎地などを調べていくうちに、YouTubeが勝手にトラッキングして、「限界ニュータウン」という情報を私に提供してきました。おそらく「限界集落」から「限界ニュータウン」へと情報が流れたのだと思いました。それは高度成長期やバブル期に、造成された「○○ニュータウン」と呼ばれる団地が主でした。その造成地を購入したのは30代40代の人たちで、子供たちは進学や就職で家を出て戻らず、残された両親が一気に高齢化し、限界ニュータウンになったものでした。

 YouTubeは、「限界ニュータウン」から「失敗ニュータウン」へとトラッキングしました。

 それは岡山県の未来高原都市でした。

 未来高原都市は、1970年ごろに3万人が住める理想都市として計画されましたが、思うように分譲地が売れず、多くの空き地が残されました。1997年バブルの崩壊とともに計画を取りやめ、未来都市の造成は中断されました。岡山市や倉敷市から距離があるために、ベッドタウンにもなれず、人口も2千人が住んだだけで、あきらかな政治判断のミスでした。

 この状況を見て、私はその土地に可能性と魅力を感じました。なによりもこの辺りの地盤は、地下に巨大な岩盤があって、日本では珍しい地震の少ない地域でした。

 長いあいだ私は、この広大な土地に、お城や宮殿の建設に妄想していました。

 アメリカ政府から巨額の資金が入ると、凜やナマイキ、シズカも連れて私は未来高原都市へ行きました。

「草がボウボウだよ。これだと走れない」

 凜は、残念そうに言いました。

 雑草で覆われ、野良生えの樹木が太った豚のように勢いよく育っていました。造成されてから数10年間、手続かずのままでいたので、雑草は私の背丈よりも高くなっていました。整備された造成地が一面のジャングルとなっていました。

「大丈夫だよ。ブルドーザーで一気に草をとっていく。あっという間だ」

「タヌキやキツネが出そうだ」

 そう言ったナマイキに、

「シカやイノシシも出るぞ。ここに大きな家を建てるんだ!」

 と私は言い返しました。

 その家は私の中では決まっていました。

 それは、ペレシュ城を真似した住居でした。

 ルーマニアのシナイアにあるペレシュ城は、1875年から39年もの歳月をかけて造営され、1914年に完成しました。私は、ローズ・マクアイヴァー主演のクリスマス・プリンセスという映画の舞台になった事で知り、お金があれば、こういうところに住みたいという憧れがありました。

「凛、ナマイキ、シズカ。引っ越しするよ」

「どこに?」

 凜が心配そうに聞きました。

「ここだ! ここにペレシュ城を建てるんだ!」

「今のところじゃダメなの? 面倒くさいから移転したくないわ」

 ナマイキがため息をつきながら言いました。

「そう言うな。ペレシュ城みたいな家に住むのが夢だったんだ。それにナマイキやシズカは引越しの手伝をする事もないだろ。身体を移動させるだけだろ」

「それが面倒なのよ。人間って、どうしていい家とか、大きな家とか、立派な家とかに住みたがるんだろうね。スズメの私からは考えられない。寝るところがあればいいじゃない」

「憧れだったんだ。まさか実現するとは思わなかったけど」

「しょうがないわね。シズカはどうなの?」

「私はどこでもいいわ」

「きっと気に入るよ。この奥には森とか自然が手つかずのままなんだ。計画が頓挫したから、そのままになっている」

「森とかあるんだ。だったら思いっきり走れる」

 凜は小躍りして言いました。

「ペレシュ城だけでない! ここに商業施設、スポーツ施設、遊園地、病院を建てるんだ! このプロジェクトには多額の資金が必要だ。アメリカ政府からの資金をうまく活用すれば、すべてを実現できる」

 私は財務管理の専門家と相談し、資金の運用計画を立てた。

「ペレシュ城の建設にはまずこの金額を投じ、次に商業施設の整備に資金を投入する。プロジェクトごとに必要な資金を確保し、計画的に進めていこう。」

 財務管理者と詳細な資金計画を立て、プロジェクトの進行状況に応じて資金を管理しました。

 猿投さんには、部品代240万円と技術料の100万円を支払い、雉原弁護士にはアメリカ政府との契約金額の3パーセントを顧問料として支払いました。マリーヌにも活動費・顧問料を支払いました。


 莫大な資金をもとに広大な空き地を安く買い占めました。谷川が中央に流れる、まだ造成していない手つかずの土地を買い、地元の業者に私の計画を話しました。

 もともと私は、若い頃に山登りしていて、山の中腹にあるログハウスとかに憧れました。

 ボタボタと落ちる汗を拭いもせず、ひたすらと歩き続けて、ふと見ると、山の中腹のログハウスがアルプスにいるような錯覚を与えました。そこはもう日本ではありません。団地や商店街とは違った普段見られない世界が、私の日々の生活の重苦しさから解放してくれました。生きていくことの義務から来る辛さ、人間関係、正義、やるせなさ、それらの腐った日常を、異世界のアルプスにひとつずつ捨てていくことが出来ました。私はひたすら歩くことで、何も悩みのない人間になることが出来ました。

 長いあいだ私は、ログハウスを建てる事を夢に見ていました。

 日本の住宅では見られない石造りの家、ポスト&ビームなどの日本の住宅では一般的でないものに強い憧れがありました。それがペレシュ城を見た事で、その夢が変わっていき、この建設を夢想し始めました。

 未来高原都市で、売りに出されている中古の一戸建てをすべて買い取りました。私は、その一軒に仮住まいすることにしました。

 それから間もなく、引越し屋が来て、荷物を梱包し、トラックに積み込みました。

「ご主人、洋服が多いけど、電気製品は少ないですね」

 引越し屋は、驚いて言いいました。

「洋服が多いけど、これでも買い控えているんだ。電気製品は出来るだけ持たない事にしてる。テレビは見ないしね」

 ペレシュ城の建設予定地に出来るだけ近い一軒家に荷物を入れ、必要なものだけを梱包から解きました。ここから毎日、ペレシュ城の建設現場に通い、進み具合を観察しました。朝の散歩も、凜を連れてペレシュ城まで歩きました。

 160の部屋は要らないし、39年もの歳月を掛ける気もありません。外観はペレシュ城に似せても、塔や無駄な彫刻、装飾は一切、排除しました。荘厳で華麗さを持ち合わせながら、梁や柱など太く大きく、武骨でワイルドな感じを持たせるようにしました。

「ハーフティンバーって分かりますか? ペレシュ城はその様式で建てられています」

 設計士が、私にたずねました。

「分かります。ペレシュ城の事を色々と調べたことがあります」

 その当時の、中世ヨーロッパでは、ハーフティンバー様式という住居が建てられていました。ハーフティンバー(Half-timber)のHalf(半分)とは、建物の柱が露出して「半分見えている」いることで、木骨が外部に露出しているためという意味合いです。Timberとは木材の事です。柱や梁、垂木などが木材で作られ、それらが半分露出していることが特徴でした。

「基礎と1階部分はすべてコンクリートにして下さい。とくに1階部分は半地下にして自然石で周囲を積み重ねて、実質は地下室にして、ここにボイラー室とかを作って下さい」

「なるほど、1階が基礎と地下室を兼ねて、インフラをそこに集中させるのですね」

「エレベーターも設置して、すべてバリアフリーにして下さい」

 私は、設計者に注文しました。

「家具はすべて備え付けで、特注にしてください」

「指定の業者はいますか?」

「とくにありません。出来たら地元の業者にしてください」

 リビングとキッチン、食堂には薪ストーブを置きました。キッチンには食卓と別に小さな机にPCを置き、ネットワークを構築して書斎と寝室のPCと同期させました。

 こうして3階建ての南向きのペレシュ城は完成しました。

 ペレシュ城の内部は、まるで異次元の世界にいるかのように感じられました。20畳のエントランスに入ると、ステンドグラスからの光が魔法のように落ち込んで、私は予期しない出来栄えに息を呑みました。そこにスタインウェイのフルコンサートのピアノを置きました。

 1階には、そのほかに30畳のリビング、10畳の書斎、キッチン、食堂、風呂、トイレはリビングの近くと書斎の近くの2カ所に作りました。2階は寝室が10室、各バストイレ付きで、東端に自分用の寝室を作りました。この寝室はバスとトイレがあり、1階の書斎と階段で繋がっていました。書斎から直接自分の寝室に行けるようにしました。書斎には小さなグランドピアノを置きました。3階は東にVIPルーム、西に準VIPルームを作りました。

 私はアメリカ政府からの月々のお金などを利用して、ペレシュ城の庭を整備しました。

 谷川に沿って、軽自動車が走れるくらいの石畳の小さな道を作りました。まわりの雑草も刈って、すっきりとさせました。その道を、凜との朝の散歩道にしました。

「まるくん、この道はすてきだね」

「でも、何かが足りないんだ」

「私は好きだよ。せせらぎが聞こえてくるしね」

「そうだ、楓を植えよう。楓は大きくなるから、この道が秋になると真っ赤になる。それからこの道の上に用水路を作って、その傍にも道を作ろう。谷川の水を水車で3段階くらいに分けて少しずつ上に揚げ、ペレシュ城の庭に小さな川を作ろう。水車小屋には休憩室やトイレも作ろう」

「夏になると水遊びが出来るようにして」

「それもいいね」

 土木関係者に、谷川の水を2連の水車で用水路に揚げて、それを3段階に分けてペレシュ城の土地まで水位を揚げました。その用水路の水を庭まで引き込みます。それぞれの用水路の脇に小道を作り、楓の並木を作り、休憩所を設けました。

 庭師と相談して、ペレシュ城では西洋にみられるような平面的な庭ではなく、立体的で、小さな滝や池も作り、水遊びが出来る水辺を作りました。洋風の中にも和風が感じられるような庭にしました。道とかも砂利などは置かず、敷石もフラットにしてつや消しにし、車椅子でどこでも行けるようにしました。雑草だらけだった土地は全面芝生をひき、その中に和洋折衷の庭が浮かぶようにしました。

「この道沿いには桜を植えよう。いや岡山だから、桃を植えよう。桜並木はどこでもあるけど、桃並木ってきっと珍しいだろうな」

 私は、自分の夢がどんどん膨らむのを感じました。

 このようにして、まるくんは資金の使い道を明確にし、ペレシュ城の完成や他のプロジェクトの成功を確実にしていった。

 まるくんは、アメリカ政府に「空飛ぶミニカー」を売り込んで得た莫大な資金を慎重に管理することに決めた。彼はまず、ペレシュ城の建設費用を確保し、その後、Fairy Townやスポーツ施設、総合病院などのプロジェクトに必要な資金を計画的に分配した。


 現在の未来高原都市の商業施設を買い取り、ペレシュ城が感じられる物に立て替え、Fairy Town という名前にしました。石造りの2階建ての街並みを作り、その上を巨大なドームを作り、強化ガラスを嵌め込んで採光しました。2階部分も通路を作り、そこには1階と別のテナントが入れるようにしました。入り口には、大型のスクリーンがあって、ニュースやイベントなどを放映しました。

 石造りの街中の中ほどに、小さなトンネルの路地がありました。そこを抜けると、イタリアのフィレンツェのシニョリーア広場を真似してメリーゴーランドを作りました。周囲の景観もイタリアのように石造りにしています。その広場の周りにはカフェやケーキ屋などを配置し、カフェなどを作りました。この部分の上には、ここだけステンドグラスを儲けて、色鮮やかな色彩が広場に落ち込むようにしました。床や人々に色彩がぼんやりと浮かんで妖精の国に居るような錯覚を与えました。

 Fairy Town の奥に食料品などを扱うスーパーをテナントに入れました。スーパーやテナントには、家賃を5年間無料にしました。5年後に家賃を見直すという契約を交わし、段階的に引き上げるようにしました。

 私が一番重要だと思ったのは、駐車場でした。

 こういう商業施設は駐車場までかなり歩くのが常でした。各テナントの裏側に駐車場を整備しました。とくにスーパーの裏側には500台くらいの駐車場を作り、エレベーターも完備しました。これで重い買い物袋を持って歩く距離を減らしました。

 商業施設 Fairy Townのうらに遊園地を作りました。遊園地には怖い物や、スリルのあるアトラクションは置きません。小さな子どもでも安心して乗れます。スリラー館の替わりにアニメが飛び出すようなからくりのある建物を作りました。

 その遊園地の奥に、スポーツ施設、総合体育館、野球ドーム、バスケットボール体育館、アイスホッケー場、スピードリンク、フィギュアスケートリンク、テニスコートなどを建てました。スポーツ施設に行くには、遊園地を必ず通らなければなりません。スポーツ施設を利用するのか、遊園地を利用するのか、ここにやって来る人たちの目的を曖昧にさせる事を考えました。スポーツや遊園地が目的ではなく、Fairy Town に行く事を目的にさせました。そしてそれらは格安で利用できるようにしました。


 私はもっとも重要な部分に着手しました。

 この街には、病院がなかったので、総合病院を作りました。4階建ての鉄筋コンクリート造りで、外観はあえてペレシュ城に似せました。通院する病人、入院患者がホテルや別荘に通ったり、泊まったりした錯覚を期待しました。

 医師や看護師、事務員などは、ゆとりのある人員を揃えました。各地から募集して、2DKのアパートのような寮を整備しました。このアパートもペレシュ城を模して建てました。妻帯者には、未来高原都市の空き地に石造りのお洒落な社宅を建てました。それらの数が増えると、日本の街ではないような街並みになりました。

「どこかのヨーロッパの街みたい」

 この街に移住した医療関係者は口々にそう言いました。

 こうした街は、やがて「妖精の住む街」と呼ばれるようになり、人々が買い物や遊び、スポーツなどで訪れ始めました。


 そのFairy Town の大型スクリーンに、未来高校が経営破綻したことが報じられました。その高校は、未来高原都市に新たに作られた私立の高校でした。

 インタースクールなどを開講して、生徒を増やすことを考えたりしましたが、思うようにいかず、母体の学校法人が不渡りを出して経営が破綻しました。県や町などが奔走しましたが、銀行や他の学校法人の支援は受けられませんでした。

 町長と3人の町会議員がペレシュ城にやって来ました。

 私は政治家と会うのは避けていました。出来るだけ政治には介入したくなかったのです。だが何のためにやって来たのかは想像できていました。

 町長や町会議員たちは、エントランスに入ると、建物のあちこちに目をやっていました。

「ここは普通の住居だよな。ホテルと違うよな」

「ああ、すごいよな」

「こんな広い家にひとりで住んでいるんだろ。淋しくないのかな?」

 人見知りしない凜は、

「まるくん、知らない人が4人も来たよ。初めてだよ」

 と喜んでいました。

 彼らは書斎に入って来ると、

「ここにもピアノがある。音楽家なのか?」

「さあ? 詳しい事は知らない」

「いったい、なにをやってこんなに稼いでるんだ」

 と彼らは詮索していました。

 私が書斎に入ると、町長が話し始めました。

「本日、伺ったのは他でもありません。未来高校が破綻したことはご存じでしょうか?」

「知っています。偶然、Fairy Town の大型スクリーンでニュースが流れているのを見ました」

「今日はその事でお願いにあがりました」

 町長や数人の町会議員が私のほうを見つめていました。その視線が痛いほどでした。

「未来高校への支援をお願いできないでしょうか、という事なんですが」

「それは無理です。学校などを経営した事がありません」

 彼らの本気度を、私は図っていました。私は、政治家は利権政治しかしていないと思っていました。仮に今ここで、支援を承諾すれば、このメンバーの手柄になる事も考えられ、「俺が支援を成功させた」と吹聴するだろうと思われました。私はそれが嫌でたまりませんでした。

「そこを何とかお願い出来ませんか?」

「支援すると言っても、お金を出せ、という事でしょ。私は、お金は持っていませんよ。そんな私が学校を支援する事なんて出来ないでしょ」

 これは本当の事でした。私はお金を持っていませんでした。アメリカからの資金は、ペレシュ城の建設資金以外は、NPO法人を立ち上げて、すべてそこに集めていました。私の生活費は年金で細々と賄っていました。

 町長や町会議員たちは驚いた顔で私を見ました。

 ペレシュ城を作り、Fairy Town、スポーツ施設、病院を作り、派手に動き回っている私に、誰もが相当なお金を持っていると思うのは当たり前です。

「勘違いされているかもしれませんが、私は年金暮らしです」

「なんとかなりませんか? もう頼りになるのは、あなたしかいません。この町から高校が無くなるのは、町としても心苦しいのです」

「そう言われても無理な物は無理です。これ以上はお話ししても無駄だと思います。どうぞお引き取り下さい」

 彼らを帰すと、私は雉原弁護士に電話をしました。雉原夫妻は、私と一緒に未来高原都市に移住してくれました。

 雉原一郎が電話に出ると、

「未来高校が経営破綻したらしいね」

「そんなニュースが流れていましたね」

「いま町長や町会議員たちが来て、支援してくれと言ってきたけど、お金がないと言って断った」

「年金暮らしですからね」

 一郎は、笑いながら言った。NPO法人を立ち上げるとき、私は準備、書類の作成などを一郎にすべて任せていた。

「支援したいのだけど、政治家の手柄にしたくないんだ。それで一郎さんに直接、働きかけていただきたいんだ」

「分かりました。調べて対応しましょう」

「政治家はあいだに入れないでやってくれますか?」

「その辺は承知しています。それからお願いがあるのですが、ペレシュ城の谷川の道をジョギングしてもいいでしょうか?」

「ぜんぜん構いません」

 私は、断った政治家が諦めずに何度も依頼してきたときは、快く受ける気でいましたが、お金がないと聞いた彼らは2度とここへはやって来ないと思いました。

 一郎の仕事のお陰で私は、学校法人の借金を肩代わりする事で、未来高校の買収に成功しました。

 まず遅れていた教員や事務員の給料を払い、さっそく未来高校の校舎を、外観と内観をペレシュ城に似せて、新しく建て替える事にしました。校舎の敷地を増やして、全寮制の男子寮と女子寮を建てる事にました。ここも外観と内観を、ペレシュ城を真似て作りました。その工事はすぐに始まりました。

 授業料を公立高校並みに安くして、生徒は全寮制としまし、その代わり、寮費は無料で、食事代は3分の2を補助しました。各部屋は個室で、3畳くらいの広さに、ロフトのベッド、机、箪笥などを設置しました。

 生徒数はインタースクールを入れても、80人くらいしかいませんでした。私は、1000人くらいでも対応できる設備にしました。


 凜を芝生に出すと、走り回りました。

「見て見て、私の走り方、格好いいでしょ」

 すっかり大きくなった凜の走り方は迫力がありました。私も叶わないまでも、凛と競争しました。

 ナマイキも庭を自由に飛びまわっていました。シズカが芝生の上を歩いていました。

「どうした? 自由に飛べば?」

「まるくん、こんな大きな家を手に入れて、満足なの?」

「満足だよ。夢だったからね」

「まるくんは変わったわ。むかしの貧乏だったころのほうが楽しかったわ。ペレシュ城に取りつかれた魔物みたいに見えるわ」

「ぼくが魔物? 年金で生活してるし、贅沢はしてないと思うけど」

「こんなペレシュ城って、贅沢じゃない?」

「これはただの夢だ。贅沢しているつもりはない! アメリカからの資金のほとんどはNPO法人に入れている」

「それは使いきれないからでしょ」

「NPO法人に入れて、ペレシュ城やスポーツ施設、遊園地、Fairy Town, 病院、高校などの維持管理のために、株などを買って資産形成してるんだ。それらの施設は作るのは簡単だけど、維持管理がたいへんなんだ。赤字覚悟でやっているんだ」

「そんな事は言ってないわ。ペレシュ城が贅沢だって言ってる」

「なになに喧嘩しているの?」

 凜が心配そうに聞きました。

「喧嘩ってほどじゃないわ。まるくんが贅沢になった、って言っただけ。こんな大きな家を建ててね」

「私は大きな家のほうが走り回れていいけど」

「凜もまるくんの贅沢病が移ったんじゃない?」

 シズカは、そう言って、飛んで行きました。

 たしかに3000万円もするスタインウェイのフルコンサートのピアノを入れたり、500万円もするタンノイやJBLのオーディオを置いたりしたのは贅沢かもしれなかった。それは若い時からの実現不可能な夢でもあった。

「贅沢と言えば贅沢かもしれない」

 私は、つぶやいてしまいました。


 私は書斎と階段で続いている寝室は使わなくなりました。広々とし過ぎて落ち着かなかったからです。屋根裏部屋を改装してベッドや衣装部屋を作り、普段はそこで生活するようになりました。1階のリビングから4階のベッドルームにゆくのに健康を意識して常に階段を使いました。凜の寝床や、ナマイキとシズカの巣も屋根裏部屋に移しました。

「これくらいの広さのほうが落ち着くわ」

 シズカが満足そうに言いました。

「シズカは貧乏根性があるのよ。わたしはどっちでもいいけどね」

 ナマイキは、シズカに言いました。

「でも、まるくんが身近に感じるね。走り回りたいときは1階にいくわ」

 私も貧乏根性があるのだと思った。贅沢をしても、それが馴染めない自分を感じていました。

「まるくん、せっかくお金が出来たんだから、そのジーンズなんとかならない?」

「これがお洒落だって、みんなが言ってくれるんだ」

「そうだけど、まともなジーンズがないじゃない。みんな穴が開いてる」

 ナマイキの言葉にも一理あると思いました。お金のあるうちに、何枚かジーンズを買おうと反省しました。ダメージ感のあるジーンズもいいけれど、それはただの貧乏根性かもしれないと思いました。

 青い海原を飛んでいました。海は太陽の光を受けてキラキラと輝いています。

 突然、真っ暗になりました。その中から男性の声が聞こえてきました。「まるくん、まるくん」と聞こえます。小さい光が現れて、それが大きくなり、その中から、自衛隊のフライトスーツを着た男性があらわれました。

「まるくん、まるくん!」

 と、私に向かって叫びました。

 私はその声で目覚めました。犬の凜も起きてきました。

「誰ですか?」

「私に覚えがありませんか?」

「上野航空2佐?」

「そうです。上野です。夢の中では死者は言葉が話せないのです。どうしてもあなたにお願いがあって、起こしました」

「お願いとはなんですか?」

「あなたはジーンズを買う気になっていますね」

「どうしてそれを知っているのですか?」

「私の『鬼道』の継承者はあなたです。あなたが何を考えているかは分かります。ジーンズを買うなら1週間後の日曜日に倉敷の児島に行って下さい。そこで娘に会って謝って下さい。お父さんがいなくなって、ゴメンと伝えて。それから姉に事故のことも謝って下さい」

「娘たちって、だれ?」

「時間がありません。私の姿はもうすぐ消えます。これだけが心残りだったのです」

「その娘たちと倉敷のどこで会うのですか?」

「それは、、、。そ。。」

 その声はかすれて聞こえなくなっていき、上野航空2佐の姿も薄れていきました。

「まるくん、これは重要だよ。私も娘たちと会う映像を見たよ」

「なぜ教えてくれなかったんだ」

「まるくんがペレシュ城に夢中になってたから、話すのをためらったんだよ」

「そうか」

 私は、自分の夢を追い過ぎたのだろうか、それとも魔物になったのだろうか。


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