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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第21章 空飛ぶ航空母艦
22/70

静香とマリーヌがDARPAで成功裏にプレゼンを行い、アメリカ政府と空飛ぶミニカーの契約を締結。雉原夫妻は岡山の未来高原都市へ移住を決意します。

 

 静香は家に帰ると、スーツケースをリビングに放り投げて、ソファーに腰を下ろしました。メモに書き留めた番号を手に取り、一度深呼吸をし、電話を掛けました。しかし、怖くなって途中で切りました。決意しなおして、再度電話をかけました。

「もしもし、マリーヌ、元気?」

 期待と不安が交互に押し寄せ、心臓が飛び出しそうになっていました。

「ひょっとして静香?」

 電話越しの声は紛れもない懐かしいマリーヌでした。

「まさか、本当に静香なの?」

「そうよ、私よ!」

 静香の顔にしぜんと笑みが浮かびました。

「よくこの番号で見つけたわね。静香から連絡が来るなんて夢みたい。どうしてたの?」

「ずっと連絡しようと思って探したのよ。マリーヌ、岡山にいるんでしょ?」

「ええ、今年の春から引っ越したの。未来高原都市ってところよ」

「わたし嫌われてる?」

「嫌ってないわ。連絡しなくてごめんなさい。いろいろあったものだから」

「それで安心したわ。お願いがあるんだけど、今度会ってくれない」

 電話を切ると、静香は嬉しさが胸に溢れ、

「今日はすき焼きにするわ!」

 と弾んだ声で家族に言いました。

 子供たちの歓声が聞こえてきました。

 約束した日に、静香は未来高原都市へ車を飛ばしました。ランチを予約したレストランに早めに到着して、その玄関でマリーヌを待ちました。30分くらいすると、マリーヌが現われました。

「マリーヌ!」

 静香は手を振って、彼女の名前を呼びました。

「静香!」

 会うとすぐハグをしました。

 料理が進む中で、彼女から日本に移住したいきさつを聞きました。離婚した事、日本の文化に興味を持った事、両親が他界した事、中でも未来高原都市に来たのは、未来高校に新しくインタースクールが出来て、娘をそこに入れたかった事、この街で英会話教室を立ち上げた事などを聞きました。静香も結婚して、川本静香から雉原静香に名前が変わったことを言いました。

「英会話の教師になったんだ。どんな感じ?」

「日本人は英会話に興味を持っているけど、なかなかものにならないわ」

「学生のレベルはどう?」

「まるっきりだめね」

 マリーヌは両手を広げて、ダメ出しをしました。

「でも、面白いわ。中には伸びる生徒もいるわ」

「それは楽しみね。マリーヌ、実はあなたに頼みたい事があるの」

「私に出来る事なら」

「DARPA でのあなたの経験を買いたいの」

「でも勤めていたのはずいぶん前の話よ」

「そうだ。キャロラインがよろしく言っていたわ」

「キャロライン、懐かしいわ。元気にしていた? でもなぜ静香が彼女を知っているの?」

「マリーヌを探しにDARPA まで行ったの」


 雉原一郎は、静香が帰宅すると、

「朗報だ! アメリカ大使館で了解が取れた。空飛ぶミニカーに飛びついてきた。アメリカ政府に紹介するそうだ」

 と狂喜して言いました。

 彼は、静香がマリーヌの事で飛びまわっているあいだ、何度かアメリカ大使館に行って、交渉を行っていました。大使にミニカーを見せたら、すぐに話に乗って来ました。空想ではなくて、実物を見せられ、その実現性に紹介する価値を感じてくれたからでした。雉原一郎も留学していただけに英語がペラペラで、アメリカ政府との交渉はうまくやってくれました。

 さっそく静香は、マリーヌにDARPA の仕事を説明するために、弁護士事務所に招きました。新幹線でやって来たマリーヌを駅まで迎えに行きました。

「DARPA で私はどんな仕事をすればいいの?」

「説明するより、実際にある物を見てもらいたいの。説明しても理解できないと思う」

「百聞は一見に如かず、ね」

「子供は大丈夫?」

「ベビーシッターを雇ったわ。信頼できる大学生だから心配しないで」

 事務所で、静香はマリーヌに、

「驚いて腰を抜かさないでね」

 と言って、ミニカーを見せました。

 静香がテーブルに置いたミニカーのスイッチを入れると、徐々に浮いて行きました。

「えっ! なにこれ、えっ、えっ、えっ」

 マリーヌは、身を乗り出して、顔を近づけてまじまじと見ていました。

「お、マイガッツ!!」

 触ろうとすると、

「マリーヌ! 触らないで! 壊れたら代替品がない!」

「ソーリー。これってすごい事だよね」

「すごいどころか、世界が変わるわ。劇的にね。これをアメリカ政府に売り込むのを手伝って欲しいの。もちろん謝礼はするわ」

「静香の選択は正解よ。何人か知人がいるわ」

「アメリカ大使が紹介してくれるらしい。主人が了解を取ってくれた」

「ますますやりやすくなったわ。任せてくれる。腕が鳴るわ」

「マリーヌは英会話の教師より、この仕事のほうが似合っているんじゃない」

「私もそう思う。ワクワクするわ」

 その夜、静香は一郎とまるくんを呼んで食事をしました。

「こちらが空飛ぶミニカーを制作したまるくんです」

 静香は、マリーヌにまるくんを紹介しました。

「制作したのは私じゃないけどね。みんなが作ってくれた」

「それでも素晴らしいわ。革命的な製品ですね。夢がありますわ」

「はい、夢があります。私にも夢があります。このミニカーで夢を実現しようと考えています。でも、そんな事は重要ではありません。このミニカーが完成ではないのです。世界平和のために急ぐ必要があります」

「世界平和のため?」

「そうです。このミニカーはプロローグに過ぎません。発展させるにはアメリカ政府の力が必要です」

「そんなに重大な事なの? 私は世界平和のために働くの?」

「私たちも世界平和に貢献するのですか?」

 雉原一郎がまるくんに聞きました。

「そうです。詳しい事は申せませんが、世界平和のためです。だから一刻も早くアメリカに売り込んで貰いたいのです」

「もし、だけど。アメリカ政府に売れない場合は、民間でもいいの?」

 マリーヌが聞きました。

「民間ではダメです。それだと世界平和になりません」

「了解! まるくんを信じてアメリカに行くわ」

「そうと決まったら、さっそく明日から段取りに入るわ」


 マリーヌの子供はベビーシッターに任せ、雉原夫妻の子供は母親が住みこむ事で段取りが着きました。静香は、アメリカの日本大使の紹介状を手にし、マリーヌとアメリカのワシントンに向かいました。

 移動中の飛行機で、マリーヌは、

「正直に言うけど、英会話教室はぎりぎりなの。静香からの話が来て、嬉しかったわ」

 と告白した。

「生徒は少ないの?」

「そうだね、東京都と違って、田舎だから絶対数が少ないからね」

「このまるくんの案件で、儲けましょう」

「うん、成功させようね」

 静香は、マリーヌとハイタッチしました。

 ワシントンのDARPA に着くと、ふたりはホテルでプレゼンの確認をしました。マリーヌの提案で、確認すべき人物も選びました。

「ハイ、キャロライン、久しぶりね。お元気だった?」

「ハーイ、マリーヌ。サンクス。あなたは?」

「元気よ。さっそくだけど、売り込みたい案件があるんだけど、大使からの紹介状もあるわ」

「提案書とかある?」

「それはないわ。トップシークレットになると思うわ。それで大使に紹介状を書いてもらった。関係の人をリストアップしてみたけど、見てくれない?」

「このリストにあるこの人とこの人は移動になったわ。半分はいないわね」

「オーケイ。政府関係者、軍関係者、大統領は無理にしても大統領顧問は呼びたいわ」

「よっぽど重要なのね」

「そうよ。アメリカのため、世界平和のためよ」

「リストアップしてあげるわ」

「この軍関係者は私から連絡する。政府関係者に知り合いはいないかしら」

「それなら格好の人がいるわ。役職は低いけど信頼できるわ。その人を通してなんとかなるかもしれない」

「あとは空軍の技術関係者も呼ぼうかしら」

 キャロラインは、リストアップしながら、

「10人前後になるかな。ねえ、私も呼んでくれない? 何か知らないけど、世紀の瞬間に立ち会いたいわ」

 とマリーヌに言いました。


 プレゼンの日は、1週間後に決まりました。

 そのあいだ、静香とマリーヌはプレゼンの予行練習に励みました。チェックリストを念入りに作成して、さらに忘れ物がないか確認しました。

「なにがなんでも、この案件は成功させるわ」

 静香がそう言うと、マリーヌは、

「私もこのプレゼンで人生が変わるような気がするわ」

 と決意を露にしました。

 当日、静香とマリーヌはグータッチをして、ペンタゴンのプレゼン会場に入りました。

 アメリカの各部門の高官たちが居並ぶ中、静香は気後れしそうになりましたが、マリーヌの堂々とした態度に勇気づけられました。キャロラインは、記録係として隅の机に座っていました。

「グッド・アフタヌーン! ジェントルメン!」

 プレゼンはアメリカ人のマリーヌに任せました。

「まず、みなさんに見ていただきたい物があります。静香、ミニカーを出して」

「えっ!」

 ミニカーは最後に見せる予定だったのでは、とマリーヌの顔を見ました。マリーヌは、静香に目で合図しました。静香は前に出て、ミニカーを手のひらに乗せてスイッチを入れ、ゆっくりと手を離しました。ミニカーは空中に浮かびました。

「おお!」

 高官たちから一斉に歓声が起こりました。みんな身を乗り出して、中には立ち上がる人もいました。ざわめきは収まることはありませんでした。

「お静かに! 驚くのは無理もありません。でもこれは手品ではありません。もちろんおもちゃでもありません」

「どういう仕組みになっているんだ」

 空軍技術者が質問しながら、スマホで撮影していました。

「いまから説明します。これは地磁気を利用して空中に浮かんでいます。簡単に言うと、リニアモーターカーの原理だと思っていただければいいかと思います」

「これは利点がたくさんあります。たとえば、、」

 マリーヌは続けて言いました。

 このミニカーが実際の自動車になった場合、燃料が要らない事が一番大きな利点だと説明しました。さらにタイヤの消耗、パンクもなくなると続けました。オイルなども必要がなくなりました。

「さらにこれが戦車だとどうでしょうか? 地雷なども踏むことはなくなります。自動車だけではありません。飛行機に応用することは可能です。広い空港は必要なくなります。日本からやって来た飛行機が直接、都市部への乗り入れが可能です。小型化してドローンなどにも応用ができます」

 高官たちは、マリーヌの説明に聞き入っていました。

「もちろんジェット機にする事も出来ます。理論上ではマッハ5までは可能ではないかと考えています。パイロットがその重力に耐えられるかは別問題です」

「でもミニカーだから浮いていられるんじゃないか? これが戦車だと50~70トンになる。そんな重量物を浮かせることが出来るのか」

「いいところを指摘して下さり、ありがとうございます。理論上は航空母艦も浮かせることが出来ます。ただ現在はまだそこまで出来ていません。いま研究中です」

「航空母艦が空を飛ぶのか? 現実的ではない。実現は不可能ではないか?」

「現実にするには資金が足りません。個人で航空母艦を作って、空を飛ばせるなど不可能です。それには潤沢な資金が必要です。もし空飛ぶ航空母艦が出来れば、燃料費は大幅に節減となります。さらにジェット戦闘機、軍用車両、政府公用車などの燃料費を考えれば、巨大な節約になります。これは試算していませんが、試算するまでもないでしょう」

「これが出来るとしたら、産業革命が起こるのではないか」

「そうです。新しい産業革命、つまり新産業革命が起こります」

「でもおもちゃにしても爆発的に売れるだろうね」

「たしかに空飛ぶミニカーでも世紀のヒット作品になるでしょう。それはアメリカ政府の自由です」

「アメリカ政府の自由?」

「そうです。この特許権をアメリカ政府に売ります。このミニカーの特許を個人が持てば、スパイに命を狙われかねません。さらに特許を取れば、このミニカーの存在が世界に知られてしまいます。そうするとコピー大国に真似をされてしまいます。極秘に進めたいのです」

「売りたいと言っていたが、金額はいくらになるんだ」

「契約は、手付金で1000億円、製作者が死ぬまで毎月100億円を受け取りたいということです。ただし製作者は70代の高齢者です。特許を取るかはアメリカ政府の自由です。『空飛ぶ航空母艦』の実現が可能になった時点で特許を取るように勧めます。さらに日本に於ける特許権は制作者にする事を望みます」

「高額だな」

「たしかに高額です。アメリカ政府がその特許をどこの国、どこの企業に売るかは自由です。それを考えれば安いと思います。もし空飛ぶ航空母艦が可能になればどうでしょう。タンカーや貨物船も空を飛ぶことになります。空を飛ばないにしても、水面から浮き上がるだけで、沈没や事故の防止になります。ひょっとするとパナマ運河も必要なくなるかもしれません」

「これはぜひアメリカ政府に欲しい。必ずそうなるように働きかける」

 空軍の技術担当者は、立ち上がって言いました。

「これでプレゼンは終了しますが、トップシークレットだというのをお忘れなく」

 プレゼンは大成功でした。

 高官たちが、マリーヌと静香に握手を求めてきました。マリーヌと静香はハグをして喜びました。キャロラインもハグしてくれました。

 ホテルに帰っても、静香は落ち着きませんでした。

「契約してくれるまで、油断できないわ」

 その契約は意外にも早くやって来ました。

 3日後にアメリカ政府から連絡があり、この案件に対してはDARPA で契約し、一括管理をするという事でした。DARPAは、静香とマリーヌを代理人として、ほとんど無条件で契約してくれました。

「キャロライン! 契約成立よ。あなたのお陰よ。今度ぜひ日本に来て。歓迎するわ」

「絶対に行くわ。そのときはご馳走してね」


 帰国後、まるくんに契約成立の報告をしました。

 アメリカ政府からの振込があると、雉原夫妻は、彼から契約金額の3パーセントを手数料に貰いました。静香は、その中から、マリーヌに手数料を払いました。

 雉原夫妻は、まるくんの要請で、岡山の未来高原都市への移住を決意しました。子供たちも転校させました。

 雉原一郎は、

「静香がいなかったら、ダメだったかもしれない」

 と奥さんに感謝していました。

「女性には産む力があるのよ」

 と、静香は言いました。


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