↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】モブに転生したはずですが?  作者: 佐倉穂波


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/55

【レティシア視点①】打ち明けられた秘密

 ラズベルトの様子がおかしいと気がついたのは、朝食の席だった。


 義兄エルハルトが聖騎士に捕縛されてから、ラズベルトは書庫に籠って調べ物をしていた。

(何がわかったのかしら)

 ヘルマン夫妻とラズベルトの間に流れる空気がぎこちないことも気になった。

 隣に座るレティシアの視線にも、たぶん気がついているだろうが、反応がない。

 ラズベルトが、こんな様子を見せるのは初めてだった。

(何があったのか聞くべきなのかしら……)

 けれど、どう声をかけるべきか。

 ラズベルトは、レティシアを婚約者として受け入れてくれているし、気にかけてくれている。一緒に過ごす時間も増えた。

(でも、私に聞かれたくないことかもしれない……)

 家族の問題にレティシアが首を突っ込んで良いものなのか。

 悩んでいるうちに、ラズベルトはほとんど食べないまま席を立ってしまった。

 しかし、ラズベルトが部屋を出てからも、彼の思い詰めたような顔が気になって仕方がない。


 しばらくして、使用人からラズベルトが庭に出たと聞き、レティシアは静かに席を立った。


***


 丘の手前に、ラズベルトの姿があった。

 膝を抱えて、遠くの山を見ていた。

 レティシアは近づいて、隣に腰を下ろした。

 結局、どう声をかけるべきか悩んだまま答えはでず、ただ隣に座っただけだったが、ラズベルトを一人にしておきたくなかった。

(どうしてかしら)

 自分でも、うまく説明できなかった。


 しばらくして、ラズベルトが小さな声で言った。

「……頭の中がぐちゃぐちゃで、今は上手く話せそうにないです」

「構いませんわ。話せるようになったときに、話してくださればいいのです」

 そう答えながら、レティシアは前を向いたまま、ラズベルトの横顔をそっと盗み見た。

 険しい顔をしていた。何かと戦っているような、あるいは何かに押し潰されそうな、そんな顔だった。

(私に、できることはあるかしら)

 レティシアは、遠くの山に目を戻した。

 風が、二人の間を通り過ぎた。


***


 翌々日の午後、ラズベルトから「少し時間をもらえますか」と声をかけられた。

 その顔を見た瞬間、レティシアは察した。

(話してくださるのね)

 胸の中に、静かな緊張が広がった。


 小さな応接間に移り、向かい合って座る。

 ラズベルトが一度深く息を吸って、話し始めた。


 神殿のこと。

 王妃殿下が身籠った双子のこと。

 十八年前の神託のこと。

 レティシアは黙って聞いていた。

 話が進むにつれて、ラズベルト様の声が少しずつ掠れていく。それに気づきながらも、口を挟まなかった。今は、最後まで聞くことが大事だと思った。


「……僕です」


 その一言が出たとき、レティシアは息を止めた。

 ラズベルトが、ヘルマン侯爵に預けられた王子。エルハルト様と身分を入れ替えて育てられた。

 神殿が捕らえたエルハルトは、ラズベルトの身代わり。


 頭の中で、ひとつひとつ整理していく。

 驚いていないわけがなかった。それでも、今この人が必要としているのは、動揺した顔ではないと思った。


「……それで、ずっと悩んでいたのですね」

 レティシアは、できるだけ穏やかな声で言った。

「私に話してくださって、ありがとうございます」

 ラズベルト様が顔を上げた。

「こんな話、聞かせてしまってすみません。巻き込みたくなかったんですが……」

「ラズベルト様」

 レティシアは、ラズベルトの言葉を遮った。

 そっと、その手に触れる。

「貴方が、王子でも、侯爵令息でも、私には関係ありませんわ」

「……レティシアさん」

「私にとって、貴方はラズベルト様です。それだけです」

 言いながら、レティシアは自分でも驚いていた。

 こんなにはっきりと、自分の気持ちを言葉にできるとは思っていなかった。

 でも、嘘は一つもなかった。


 ラズベルトが立ち上がった。

「……すみません。抱きしめても、良いですか」

 レティシアは、一瞬だけ息を呑んだ。

「……はい」

 気がついたら、答えていた。


 そっと、ラズベルトの腕が回された。

 力を込めすぎない、でも確かな抱擁だった。

 レティシアは、しばらく固まっていた。

(ど、どうすれば……)

 こういうとき、どうすれば良いのか、わからなかった。

 王太子との婚約中は、こんな場面は一度もなかった。手すら繋いだことがなかった。

 だから、どうすれば良いのか本当にわからなくて、レティシアはとにかく、おずおずと背中に手を伸ばした。指先だけ触れて、それからゆっくりと、手を回した。


「ありがとうございます」

 ラズベルトの声が、頭上から聞こえた。

 掠れていた。

(この人の力になりたい)

 レティシアは、少し力を込めた。

「……私で、良ければ」

「え?」

「これからのこと……一人で考えなくて、良いですわ」

 言葉にしてから、耳が熱くなった。

(我ながら、大胆なことを言ってしまったわ)

 でも、後悔はなかった。

 ラズベルトが「……はい」と小さく言った。

 それだけの返事だったが、声の色が少し変わっていた。

(少しだけでも、楽になってくれたかしら)

 そうであれば、良かった。


 窓の外の庭に、夕暮れの光がゆっくりと落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。