閑話 フィンへのお礼
アレクシスの魅了を解き、王宮に滞在していた時の話だ。
「フィンに、ちゃんとお礼をしたいんですよね」
ラズベルトはレティシアに話しかけた。
「そうですわね……これだけお世話になっていますもの」
「フィンがいなければ、手遅れになっていたと思いますしね」
魔道具の数々、王宮への伝手、屋敷に泊めてもらった数日間……フィンの助けがなければ、アレクシス王子の魅了を解くことは出来なかったし、エルハルトの救出も間に合わなかっただろう。
「フィンさんは……何を喜ぶでしょうか?」
「う~ん……」
「食べ物は?」
「食に関心は薄そうですね。食べれれば良いって学生時代に言っていました」
「でも、貴方の作った料理を食べているときのフィンさん、少し表情が、柔らかくなっていましたわ」
「え、本当ですか?」
「ええ」
それは、純粋に嬉しい。学生時代にあげたクッキーの箱が、フィンの部屋にあった気がしたのは、見間違いじゃなかったのかもしれない。
「でも、料理は泊まって居るときにしましたし……」
「確かにそうですわね……難しいですわね」
二人でしばらく考えた。
「……直接会いに行って、話すのが一番かもしれませんわ」
レティシアが言った。
「そうですね。領地に戻る前に顔を見に行って、また一緒にお茶でも飲めれば、それが一番かもしれない。あとは……」
「あとは?」
「領地に戻って新しい魔道具の材料になりそうなものを、送ろうかと。ヘルマン領でしか採れないハーブとか、珍しい鉱石とか」
「それは良い案だと思いますわ」
レティシアが、微笑んだ。
「フィンさんは、言葉は素っ気なくても……貴方のことを、とても気にかけてくださってましたもの。喜んで頂けると良いですね」
「そうですね」
ラズベルトは、照れくささを誤魔化すように頬を掻きながら笑った。
***
数日後、ヘルマン領への帰還の目処もたったため、ラズベルトはレティシアと共にフィンの屋敷を訪れた。
扉を叩くと、しばらくして扉が開いた。
フィンは、ラズベルトの顔を見て「……来たか」と言い、扉を大きく開けた。
「邪魔するよ」
「ああ」
屋敷の中は、相変わらず魔道具と設計図で溢れていた。しかし、前回来たときより少し片付いている気がした。
「少し片付いてる?」
「……気のせいだ」
フィンが、視線を逸らした。
(待っていてくれたのかな)
「……座れ」
「ありがとう」
三人でテーブルを囲んだ。
ラズベルトが持参した茶葉で紅茶を淹れ、レティシアが焼いてきたクッキーを並べる。
「レティシアさんと一緒に焼いたんだ」
「ほう」
フィンが、物珍しいものを見たようにクッキーを手に取り、一口食べた。
「……悪くない」
「ありがとうございます」
レティシアが、嬉しそうに微笑んだ。
フィンは、少し目を逸らしたが「ああ」と呟いた。
「フィン、今回のこと、本当にありがとう」
「別に……だだ……」
フィンが、眉間にシワを寄せ言い淀んだ。
「ただ?」
フィンは、少し間を置いてから言った。
「王宮の魔術師から、何度も勧誘が来ている」
「ああ……」
あの魔術師だろうか。魔道具の解析をしてくれた。
「断っているのか?」
「毎回断っている。しかし、しつこい」
「フィンの腕が認められたってことだけど……」
「迷惑だ。余計なことをしてくれた」
フィンが、ラズベルトを見た。
「お前のせいだ」
「……ごめん」
「謝っても遅い」
ふんっと横を向けるが、フィンの声に本気の怒りはなかった。
「オレは好きなように魔道具がを作りたい」
「出世欲とか、ないもんね」
「興味ない」
「フィンらしいけど、僕はフィンの実力が認められるのは嬉しいよ」
フィンは、少し黙った。
「……まあ、悪くない」
フィンの素直じゃない言い方に、ラズベルトとレティシアは顔を見合わせて微笑んだ。
「あ、そうだ。領地に帰ったら、ヘルマン領でしかない薬草とか鉱物を送るよ」
ラズベルトがそう言うと、フィンはバッと紙とペンを手に取り何やら書き始めた。
「ここに書いているものを送ってくれ!」
書き終えたフィンは、紙の隅々までびっしりと欲しい物が書かれた紙を、ラズベルトに押し付けてきた。
***
「また来るよ」
「……好きにしろ」
フィンは、ラズベルトとレティシアを交互に見た。
「お前たち、うまくやっているか」
「うん」
「そうか」
フィンは、それだけ言って、扉を閉めようとした。
「フィン、何か困ったことがあったら、知らせてね」
「気が向いたらな」
素っ気ない言葉と共に扉が閉まった。
ラズベルトは、その扉を少しの間見つめてから、レティシアを見た。
「照れてましたね」
「そうですわね」
二人は、顔を見合わせて笑った。




