↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】モブに転生したはずですが?  作者: 佐倉穂波


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/55

27 夜会

 夜会の当日の朝、フィンが屋敷を訪ねてきた。

 とても、珍しいことだった。

 引きこもりのフィンが自分から人を訪ねることは、ほとんどない。

 なので、ラズベルトは驚いて目を丸くした。

「……フィン? どうした、突然」

「渡したいものがある」

 フィンは前置きなしにそう言い、手に持った袋を差し出したため、ラズベルトは咄嗟に受け取った。

 中を確認すると、小さな魔道具が三つ入っていた。

「これは?」

「一つ目。会話の内容を離れた場所で拾える魔道具だ。片方を相手が持ち、もう片方を君が持つ。会場から離れた場所でも、向こうの声が聞こえる」

「二つ目は?」

「緊急時に音を出して知らせるもの。危険を感じたら使えと、相手に渡しておけ。一度しか使えない」

「これは?」

 ラズベルトが残った魔道具を手に取ると、フィンは少し間を置いた。

「魔力の変化を可視化するものだ。魅了の術がかかっていれば、対象者の周囲に暗い紫色の靄が見える。解除されれば、その靄が消える」

「……これは、いつ作ったんだ」

「昨日」

 昨日。つまり、ラズベルトが話をした翌日に作り上げたということだ。

「フィン、これはわざわざ——」

「興味があったから作っただけだ」

 フィンは遮るように言い、視線を逸らした。

「魅了の術の魔力がどう変化するか、前から気になっていた。データが取れれば、それで良い」

「……そうか」

 ラズベルトは、それ以上追及しなかった。

 フィンはこういう男だ。素直に「心配した」とは絶対に言わない。

「使い方は?」

「効果範囲は限られる。会場のすぐ外か、窓越しに見える位置でないと使えない」

「わかった」

 フィンは踵を返した。

「フィン」

「何」

「ありがとう」

 フィンは振り返らなかった。しかし、扉を出る前に短く言った。

「無事にデータを取ってこい」

 それだけ言って、行ってしまった。

 つまり、「無事に帰って来い」ということだろう。


***


 夕刻、屋敷が慌ただしくなった。

 レティシアが夜会の準備をしているのだ。


 ラズベルトは自分の部屋で、今夜の段取りを頭の中で整理していた。しかし、廊下を侍女たちが行き来する気配が聞こえてくると、どうにも落ち着かなかった。

(レティシアさん、今頃準備しているんだな)

 余計なことを考えるのをやめようと、もう一度魔道具に目を落とした。


 準備が整ったという知らせが来たのは、夜会の開始まで半刻というころだった。

 ラズベルトが居間に向かうと、クラウスが既に待っていた。そして、その隣にレティシアが立っていた。


 ラズベルトは、思わず足を止めた。


 濃紺のドレスを纏ったレティシアは、いつもと全く違う雰囲気だった。きめ細やかな白い肩が露わになり、丁寧に結い上げた金髪に細かな装飾が輝いている。

 ヘルマン家にいた頃のレティシアも美しかったが、今は息を呑むほどだった。

「……」

「ラズベルト様?」

 黙ったまま見ていると、レティシアが首を傾けた。

「あ、すみません。えっと……とても、綺麗です」

「……ありがとうございます」

 レティシアが、かすかに頬を染めた。

「ドレスの選択は正解でしたわ。貴方のおかげです」

 実はドレスのデザインについて相談され、ラズベルトの選んだものをレティシアは身につけてくれたのだ。

「似合うのはレティシアさんだから、です」

「……っ」

 レティシアが言葉に詰まり、頬がわずかに朱に染まった。

 横でクラウスが、静かに咳払いをした。

「……出発の時間だ」


 ラズベルトはレティシアに、フィンの魔道具のうち二つを渡した。声を拾う魔道具の片割れと、緊急時に音を出すものだ。

「何かあれば、これを使ってください」

「わかりましたわ」

 レティシアは魔道具を受け取り、ドレスの内側に収めた。

「……絶対に、無事で」

 ラズベルトが言うと、レティシアはまっすぐこちらを見た。

「ええ。貴方も」


***


 レティシアとクラウスを乗せた馬車が出発するのを見送ってから、ラズベルトは着替えた。

 クラウスが事前に手配してくれた、給仕の制服に似た格好だ。帽子を深めに被れば、顔はほとんど隠れる。

(これなら、会場の外壁沿いに立っていても不自然じゃない)

 夜会スタッフが控えるのは会場の外周だ。窓越しに中の様子が確認できる位置に立っていても、誰も気に留めない。


 王宮に着くと、夜会はすでに始まっていた。

 窓の明かりが眩しく、外まで音楽が漏れてくる。

 ラズベルトは外壁沿いに移動し、会場に面した窓の近くに陣取った。魔力を可視化する魔道具を手に持ち、声を拾う魔道具を耳に当てる。

 会場の中の音が、はっきりと聞こえてきた。

 やがて、入り口のあたりで人垣が動く気配がした。


 濃紺のドレスが見えた。


(レティシアさんが、入場した)


 クラウスに腕を預けたレティシアが、静かに会場の中へ進んでいく。会場のざわめきが、微かに変わった。

(行ってくれ、無事に)

 ラズベルトは魔道具を握り直し、その背中を見守った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。