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【完結】モブに転生したはずですが?  作者: 佐倉穂波


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25/55

24 聞き込み

 翌朝から、ラズベルトは動き始めた。


 まず学生時代の顔見知りを訪ねて回った。

 学園の同期、かつて世話になった教師、王都で商いをしている知人……表向きは「久しぶりの挨拶」として訪ね、雑談の中でそれとなく話を引き出していく。

 聞きたいのは二つだ。

 捕らえられたエルハルトの現状と、最近の神殿の動きについて。


 しかし、エルハルトについての情報は、どこに行っても得られなかった。

(おかしい)

 神殿の聖騎士が辺境の侯爵家まで出向いて連行したのだ。多少は噂になっていてもいいはずだった。しかし、誰もエルハルトの名前すら知らない様子だった。

(意図的に、隠されている?)

 ラズベルトにはそう思えた。神殿が情報を封じているのかもしれない。それはつまり、神殿がこの件を表沙汰にしたくない理由があるということだ。


 神殿の動きについては、いくつかの話が集まり始めた。

 昼過ぎに訪ねた、かつて商学を教わった教師がこんなことを言っていた。

「最近、王都の商人仲間の間でも妙な話が出ていてね。神殿が特定の商人と独自に取引をしているらしいんだが、その品目が宗教用品じゃないというんだ」

「品目というのは、何ですか」

「武具や食糧の類らしい。大量に、しかも隣国向けに」

(神殿が、隣国に武具と食糧を……)

 表向きの布教活動とは、明らかに話が合わない。


 そして夕方近く、友人の一人と話していたとき、何気ない一言が引っかかった。

「そういえば、キャロル様が神殿に行かれるのを見たよ」

「神殿に?」

「ああ。一人で神殿に入って行くのを見たんだ。まあ、礼拝にでも行ったんじゃないかな?」

「一人? アレクシス殿下は一緒じゃなかったんだ」

「そういえば、一緒じゃなかったな。一人だったよ」

 友人は特に気にした様子もなく、話題を変えた。


(キャロルさんが、一人で神殿に)

 礼拝であれば、特段おかしい話ではない。しかし何かが引っかかった。

 王太子の婚約者ともなれば、神殿に行くにしても供を連れるのが普通だ。それを一人でふらりと、というのは不自然ではないか。神殿と王宮の間で揉め事があるという噂と、キャロルが神殿に出入りしているという話が、頭の中で妙に重なった。

(キャロルさんと、神殿……)

 今はまだ繋がらない。しかし、頭の片隅に留めておくことにした。


***


 夜、二人は屋敷の小さな居間に集まり、それぞれが得た情報を共有した。


 ラズベルトが話した後、レティシアが口を開いた。

「兄の書斎で、隣国とこの国の外交記録を調べていました」

「何かわかりましたか」

「神殿と隣国の間に、表に出ない金の動きがあります。宗教的な交流とは考えにくい規模ですわ。それに、隣国はここ数年、この国の農地に強い関心を示していて、外交の場でたびたび土地の割譲を求めては拒否されていますわ」

「……神殿と隣国が、繋がっている」

「おそらく」

 ラズベルトは、昼間引っかかったことを思い出した。

「神殿が隣国向けに武具と食糧を流しているという話も聞きました。布教活動の名目で。そしてもう一つ……キャロルさんが一人で神殿に出入りしているという話を聞きました」

「キャロルさんが?」

「ええ。友人は礼拝だろうと言っていましたが、王太子の婚約者が供もなく一人で、というのは不自然な気がして」

 レティシアが、少し考える顔をした。

「キャロルさんの出身は、隣国ですわ」

「……え?」

「学園に入る前、隣国の貴族の家に身を寄せていたと聞いたことがあります。出身がどこかは、あまり知られていないようですが」

 ラズベルトは、テーブルの上に手を置いた。

(キャロルさんは隣国の出身。神殿と隣国は繋がっている。キャロルさんは神殿に出入りしている)

「……キャロルさんが、今回の件に関わっているのかもしれません」

「私もそう思います」

 レティシアの声は静かだったが、確信めいた響きがあった。

「ただ、どう関わっているのかがまだわかりません」

「隣国は魔術に力を入れていると聞いたことがあります。神殿との取引も、魔術が絡んでいるかもしれないですわ」

(魔術……そういえば)

「……学生時代の友人に、魔術に詳しい男がいます。魔道具作りが趣味で、隣国の魔術についても研究していたはずです。あいつに聞いてみれば、何かわかるかもしれない」

「その方に、連絡は取れますか?」

「手紙を出せば、たぶん応じてくれると思います」

「でしたら、早めに連絡を取った方が良いですわ」

「そうですね」

 ラズベルトは頷いた。


 テーブルの上に、二人分の紅茶が置かれていた。

 管理人の老婦人が気を利かせて持ってきてくれたものだ。すっかり冷めてしまっていたが、ラズベルトはそのままカップを手に取った。

「……レティシアさん、今日一日、ありがとうございました」

「わたくしは書斎で調べていただけですわ」

「それが助かるんですよ」

 レティシアは少し目を伏せてから、自分のカップを手に取った。

「……早くエルハルト様を助けられると良いですね」

「はい」

 ラズベルトは窓の外の夜を見た。

 まだ何も解決していない。しかし、今日一日で確かに前に進んだ気がした。

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