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探求者も剣をとる  作者: コラ・コーカ
第3章 スタット街脱出劇
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重要物資の正体

 ここで悠長に話している暇はないのかも知れない。

 でもイヴさんに関する手がかりはいくらでも欲しいところだ。

 そのためには、あの屋敷で起こった事を話していくべきだろう。


「僕は昨日、ある人の依頼であの幽霊屋敷の調査に向かったんです。単なる噂話の真偽を確かめるために出向いただけなんですが」


「噂話?私は最近のスタット街の事情には詳しくないのだけど、なんて言われていたの?」


「そこはさして重要な話ではありません。怪しい人がいるとか、幽霊が出るだとか、そんな七不思議的なジョークだと、僕もそう思う程度の話です」


 女性が拐われている、その部分に関しては濁しておく必要がある。

 僕の考えではその点だけはおそらく……

 いや、今は置いておこう。


「でも、そんなジョークの正体を律儀に確かめようとしたのね?」


「まあ僕は、そういうのを稼ぎ口にしてるものでして」


「ふーん……」


 ちょっと怪しまれたか?

 だが怯むわけにはいかない。


「その人の話では、騎士団が一度調査したらしいんですが、異常がなかったと言っていたようなんです」


「それでも疑念は拭いきれなかった……と」


「ここからは、実際に訪れた時の話です。屋敷のホールである人物に遭遇しました」


「ある人物……」


「僕と同じくらいの少女です。その子は初対面の僕に助けを求めてきました。そして続け様に6人の男達に襲われたんです」


「なるほど……その集団はその少女を狙っていた。いえ、状況から鑑みるにその子は囚われていて、逃げ出してきたといったところかしら?」


 話が早い。

 必要最低限だと思っていた説明すら省く事ができるのは、時間的余裕のない今とてもありがたい事だった。


「ご明察です。僕は紆余曲折を経てその子をその屋敷から連れ出しました」


「男達の集団には対処できたのね。うん、なかなかやるじゃない」


 とお褒めの言葉は頂戴できたが、彼女もその表情はほとんど変わっていない。

 気持ち笑みを浮かべていた気がしなくもない程度だった。


「いえいえ、それほどでも」


 ほぼキリュウのお陰だという事ももちろん伏せておく。

 これで少しでも、僕ができる奴だという印象を与えられればそれに越した事はない。


「そして翌日の今日。見ての通り僕達はなぜか騎士団に追われている。理由はある場所である重要物資を強奪した疑い」


「ーー待って、つまりあなたが言いたい事って」


 もともと僕が何か言いたいことにはおおよその察しが付いていたのだろう。


「あなたが護衛する重要物資の正体が、僕と同じくらいの少女だったとしたら、どうしますか?」


 そうだ、イヴさんは騎士団の重要機密物資として扱われ、秘密裏にさらに別の場所に連れて行かれるはずだったのだ。

 現状ではなんのためかは分からない。

 目の前の女騎士にすらその正体が伝わる事はなかったかもしれない。


「ーー確認したいのだけど、その男達が騎士団に繋がるという手がかりはある?」


 手がかり……

 根拠は?という聞き方をしないあたり僕の話を全て疑っているわけではないのかもしれない。

 彼女は単に本当に確認したいのだけなのだ。

 だとすれば素直に提示してあげたい。


 手がかり……僕が覚えている中で何かあっただろうか。

 当初より騎士団みたいだったいう印象を持っていたが、そんなもの当事者以外にとってはアテになるものではない。

 だとすれば、あれはどうだろう。


「カモン隊長、その集団を指揮していた人物が、確かそう呼ばれていました」


 これを聞いて彼女は大きく溜息をつく。

 心当たりがあるらしい。


「どうやら、私はまた汚れ仕事を投げられたみたいね。あのクソジジイどうしてやろうかしら……」


「どうやらお気に召す情報だったみたいで」


「ええ、確かに私が合うはずの人物よ。まさか、人身の輸送に加担させられそうになっていた、とは思わなかったけど」


「どうやら騎士団っていうのは僕が思っていた以上に胡散臭い組織みたいですね」


「ええ、否定しないわ。むしろ私も同意見だもの。ーーあなた、名前は?」


「おや、名乗るのならそちらからというのが筋では?」


「あら、おかしな事を言うのね。私の名前くらいもう知っているでしょう?」


 もちろん覚えているとも、ニーナ・ホリーロック中尉殿。

 ちぇ、名乗る事は避けられないか。


「ーーロットン・グラスバレー。探偵です」


「そう、その屋敷の調査を依頼した人物は?」


「それは答えられません。守秘義務というものがあるので」


 そう、フランさんの事だけは教えるわけにはいかなかった。

 ニーナさんはフランさんの事を既に目撃しているし。


「そう」


 そう言って、彼女はどういうわけか再び剣を抜き僕に向けるのだった。


「それは……一体どういうつもりですか?」


「勘違いしないで、私だって悪事に手を貸すつもりはないわ。でもこれだけの騒ぎになってしまった以上、あなたをここで逃すわけにもいかないの」


 確かに大騒ぎしていたからか、スタット街の住人の人達は辺りから姿を消していた。

 あれだけの騎士団が大声で駆けずり回っていれば何事かと野次馬達が出てきそうなものだが、逆に揃いも揃って身の危険を感じて建物に引きこもってしまう事もある。

 今回は後者らしい。

 事態を解決するには騒ぎの原因として吊し上げる存在が必要となる。


「吊し上げか見せしめにでもされるのかい?僕は」


 ニーナさんは話はわかるみたいだが、そもそも僕たちは敵対関係の立ち位置にあるという事を忘れてはならなかった。

 その事に気づくと、僕の言動から自然に敬語が取り除かれていた。


「そこまで悪いように扱うつもりはないわよ。せいぜいもう少し詳しい話を聞かせてもらう程度。ただロットンくん、あなたからは私と同じ匂いがするから、さっきの話も嘘を言ってないだけで、いろいろ隠しているでしょう?」


 図星だった。

 まあそのくらいなら分かるものだろう。


「それに、ここ最近どうも私の事が気に入らない人達が、上に何人もいるものだから動きづらくて。おまけにこんなよく分からない仕事まで回ってくるものだから、このままでは私の部下に申し訳がたたないわ」


 なるほど、彼女は騎士団の中で、いわゆる出る杭という奴なのだろう。

 それを打ち治めたい上層の人間はたくさんいるはずだ。


「あなた一人を取り逃すだけでも、私の信用には大打撃。分かってくれとは言わないけど、抵抗せずに来てくれるなら歓迎するわ」


「行くわけないじゃないか。待たせてる人がいるんだ。」


 抵抗の意思を告げると、ニーナさんはいよいよ本格的に剣を構える。

 僕も不本意ながら腰のレイピアに手をかける。


「そう、残念……悪くーー思わないで!!」


 こうして戦闘の火蓋は斬られた。

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